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「か、かっこいい!!」
漆黒の毛並み、頭部に聳える細く長い一本の角、その体は、サラブレッドよりも大きくて逞しい。
「俺の相棒でもあり、名は、オージンと言います」
「黒いユニコーン。撫でても大丈夫?」
「はい、どうぞ」
玲が、恐る恐る両手を広げ近づくと、オージンは、長い鼻先を玲に近づけすり寄ってきた。
「ブヒヒヒン」
「おぉ!オージン、お前人懐っこいな!」
わしゃわしゃと長い鼻先に抱きつくように撫でると、オージンは気持ち良さそうに目を細める。
「今日は、オージンに乗って、グリーンビレッジまで行きます。俺と相乗りになります」
「うん。俺、乗馬出来ないから助かる。オージンよろしくな!」
「ブヒヒヒヒン」
まるで任せとけと言わんばかりに、オージンは、嘶いた。
◆◇ ◆◇ ◆◇ ◆◇ ◆◇
本日行く目的地は、グリーンビレッジと呼ばれる、黒の神殿の管轄している農村だ。ヨーグルト製作が成功し、ディアブロからも高評価だった玲は、次の発酵食品の製作をする為に、農村の視察を願い出た。
「あぁ、このようぐるとは、体の隅々まで力が漲る、不思議な食べ物ですね」
「そうか?まぁ、俺たちの世界でも、ヨーグルトは、健康食品だったけどな」
「私たち、デーモン族は、他の者の生気を食す種族。恐らく、アウンズブラの母乳を変質させた事で、デーモン族が搾取可能な生気を纏うことができたのでしょう」
「母乳って、相変わらず嫌な言い方するな」
ヨーグルトを実食したディアブロは、台所に現れた時のように干涸びかけた状態から、水を得た魚のように活き活きと復活を遂げていた。
玲の唇を貪った時は、かろうじて一息つける程度にしか復活出来なかったのだが、ヨーグルトを食べた後は、いつも以上にうざくなる位元気になっていた。
「あながち、サトシのお食事係になるという夢は、嘘ではないのかもしれませんね」
「!!」
思い掛けず言われた、玲が一番欲しかった言葉だった。徹底した食糧という姿勢を崩さなかったディアブロが、玲を認めた瞬間でも合った。
「サトシ!どこか具合が悪いのですか?」
「いや……ただ、ディアブロの一言が嬉しくて……気が緩んじゃった」
突然、涙を流し始めた玲にアレスは、戸惑い見せるが、その涙は具合悪いのでもなく、身体が不調なわけでもなかった。
「俺、この世界で頑張れそう!」
「私も出来る限り、協力させていただきましょう」
ただ、ディアブロに認めて貰えたことが、嬉しかった。玲は、この世界で生きる意味を見出すことができたのだった。
そして、ディアブロの協力もあり、新たな食材を求め、グリーンビレッジへ視察することが決定された。
◆◇ ◆◇ ◆◇ ◆◇ ◆◇
オージンにアレスと二人で跨り、グリーンビレッジへ出発した。体格差がある為、側から見ると子供を乗せているように見えるのだが、アレスが大きすぎるだけで、玲は日本人男性の平均的な体格である。
大の大人を二人乗せても物ともしないオージンは、上機嫌な足取りで蹄を鳴らし駆けて行く。
初めて見る神殿の外の世界。道がアスファルトで舗装されているわけもなく、自動車や電車といった乗り物も見当たらない。移動は、馬などの魔獣を利用する事が多いらしい。
途中湖の畔などで、休憩を挟みつつ玲たちは、目的地であるグリーンビレッジへ向かった。
「メルル、飛ばされないようにしっかり懐に潜っておくんだぞ」
「キューイー!」
アレスの前に座る玲の胸元には、メルルが懐に潜ってしがみついている。白いモコモコの顔だけをひょっこり出して、気持ち良さそうに風を受けている。
「メルル様も初めての遠出で、嬉しそうですね」
「キュキュイ!」
グリーンビレッジまでは、ユニコーンの脚でも約一刻程度かかる。まだ見えぬ村に玲もメルルも想いを馳せるのだった。
「グリーンビレッジって、どんな処なんだ?」
「そうですね。緑の民と呼ばれる種族の村です。彼らの風貌からその集落を緑の村、グリーンビレッジといつしか呼ばれるようになりました」
「へぇ、緑の民かぁ……」
緑の民と聞き、玲は単純にエルフなどを想像したが、エルフとはまた違う種族らしい。
「因みに、エルフは、森の民と呼ばれるんですよ。あ、…村が見えてきました」
アレスが、指を差し示す方向を見ると、木の柵に囲まれた村の入り口が見えた。村の周りには、広大な畑が耕されている。畑には、顔こそは見えないが、野良作業に勤しむ村人たちが確認できた。背丈は、玲よりも少し小柄で、日除けのためか、麦わら帽子を被っている。
オージンもグリーンビレッジにまもなく到着するためか、ゆっくりとパカリ、パカリと進んでくれている。
「おー、アレスの旦那!いらっしゃい」
玲たちに気づき、村人の一人が声をかけてくれた。
「こんにちは。本日も精がでますね。ゴンゾウさんに挨拶をしたいのですが、どちらにいらっしゃいますか?」
「おう!こんにちは。村長なら、この時間は、集会場にいるぞ」
「ありがとうございます」
アレスが頭を下げるのに合わせ、玲も会釈をした。村人は、緑色の肌をした手を大きく振った。
「彼らが、緑の民と言われるゴブリン族ですよ」
「ゴ、ゴブリン?」
「えぇ、小柄で身体全体が緑色なのが特徴的な種族です。温和で気さくな方たちですよ」
グリーンビレッジ。その名の通り、緑色の体をしたゴブリン達が住まう村だった。
漆黒の毛並み、頭部に聳える細く長い一本の角、その体は、サラブレッドよりも大きくて逞しい。
「俺の相棒でもあり、名は、オージンと言います」
「黒いユニコーン。撫でても大丈夫?」
「はい、どうぞ」
玲が、恐る恐る両手を広げ近づくと、オージンは、長い鼻先を玲に近づけすり寄ってきた。
「ブヒヒヒン」
「おぉ!オージン、お前人懐っこいな!」
わしゃわしゃと長い鼻先に抱きつくように撫でると、オージンは気持ち良さそうに目を細める。
「今日は、オージンに乗って、グリーンビレッジまで行きます。俺と相乗りになります」
「うん。俺、乗馬出来ないから助かる。オージンよろしくな!」
「ブヒヒヒヒン」
まるで任せとけと言わんばかりに、オージンは、嘶いた。
◆◇ ◆◇ ◆◇ ◆◇ ◆◇
本日行く目的地は、グリーンビレッジと呼ばれる、黒の神殿の管轄している農村だ。ヨーグルト製作が成功し、ディアブロからも高評価だった玲は、次の発酵食品の製作をする為に、農村の視察を願い出た。
「あぁ、このようぐるとは、体の隅々まで力が漲る、不思議な食べ物ですね」
「そうか?まぁ、俺たちの世界でも、ヨーグルトは、健康食品だったけどな」
「私たち、デーモン族は、他の者の生気を食す種族。恐らく、アウンズブラの母乳を変質させた事で、デーモン族が搾取可能な生気を纏うことができたのでしょう」
「母乳って、相変わらず嫌な言い方するな」
ヨーグルトを実食したディアブロは、台所に現れた時のように干涸びかけた状態から、水を得た魚のように活き活きと復活を遂げていた。
玲の唇を貪った時は、かろうじて一息つける程度にしか復活出来なかったのだが、ヨーグルトを食べた後は、いつも以上にうざくなる位元気になっていた。
「あながち、サトシのお食事係になるという夢は、嘘ではないのかもしれませんね」
「!!」
思い掛けず言われた、玲が一番欲しかった言葉だった。徹底した食糧という姿勢を崩さなかったディアブロが、玲を認めた瞬間でも合った。
「サトシ!どこか具合が悪いのですか?」
「いや……ただ、ディアブロの一言が嬉しくて……気が緩んじゃった」
突然、涙を流し始めた玲にアレスは、戸惑い見せるが、その涙は具合悪いのでもなく、身体が不調なわけでもなかった。
「俺、この世界で頑張れそう!」
「私も出来る限り、協力させていただきましょう」
ただ、ディアブロに認めて貰えたことが、嬉しかった。玲は、この世界で生きる意味を見出すことができたのだった。
そして、ディアブロの協力もあり、新たな食材を求め、グリーンビレッジへ視察することが決定された。
◆◇ ◆◇ ◆◇ ◆◇ ◆◇
オージンにアレスと二人で跨り、グリーンビレッジへ出発した。体格差がある為、側から見ると子供を乗せているように見えるのだが、アレスが大きすぎるだけで、玲は日本人男性の平均的な体格である。
大の大人を二人乗せても物ともしないオージンは、上機嫌な足取りで蹄を鳴らし駆けて行く。
初めて見る神殿の外の世界。道がアスファルトで舗装されているわけもなく、自動車や電車といった乗り物も見当たらない。移動は、馬などの魔獣を利用する事が多いらしい。
途中湖の畔などで、休憩を挟みつつ玲たちは、目的地であるグリーンビレッジへ向かった。
「メルル、飛ばされないようにしっかり懐に潜っておくんだぞ」
「キューイー!」
アレスの前に座る玲の胸元には、メルルが懐に潜ってしがみついている。白いモコモコの顔だけをひょっこり出して、気持ち良さそうに風を受けている。
「メルル様も初めての遠出で、嬉しそうですね」
「キュキュイ!」
グリーンビレッジまでは、ユニコーンの脚でも約一刻程度かかる。まだ見えぬ村に玲もメルルも想いを馳せるのだった。
「グリーンビレッジって、どんな処なんだ?」
「そうですね。緑の民と呼ばれる種族の村です。彼らの風貌からその集落を緑の村、グリーンビレッジといつしか呼ばれるようになりました」
「へぇ、緑の民かぁ……」
緑の民と聞き、玲は単純にエルフなどを想像したが、エルフとはまた違う種族らしい。
「因みに、エルフは、森の民と呼ばれるんですよ。あ、…村が見えてきました」
アレスが、指を差し示す方向を見ると、木の柵に囲まれた村の入り口が見えた。村の周りには、広大な畑が耕されている。畑には、顔こそは見えないが、野良作業に勤しむ村人たちが確認できた。背丈は、玲よりも少し小柄で、日除けのためか、麦わら帽子を被っている。
オージンもグリーンビレッジにまもなく到着するためか、ゆっくりとパカリ、パカリと進んでくれている。
「おー、アレスの旦那!いらっしゃい」
玲たちに気づき、村人の一人が声をかけてくれた。
「こんにちは。本日も精がでますね。ゴンゾウさんに挨拶をしたいのですが、どちらにいらっしゃいますか?」
「おう!こんにちは。村長なら、この時間は、集会場にいるぞ」
「ありがとうございます」
アレスが頭を下げるのに合わせ、玲も会釈をした。村人は、緑色の肌をした手を大きく振った。
「彼らが、緑の民と言われるゴブリン族ですよ」
「ゴ、ゴブリン?」
「えぇ、小柄で身体全体が緑色なのが特徴的な種族です。温和で気さくな方たちですよ」
グリーンビレッジ。その名の通り、緑色の体をしたゴブリン達が住まう村だった。
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