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バシャバシャバシャ、バシャバシャバシャ。
玲は、台所でアウズンブラ(牛の魔物)の乳を使ってある実験を試みていた。
本来ならペットボトルなどがあれば良かったのだが、残念ながらこの世界の文明は、そこまで発展しているわけではない。代用品を探していたら、普段から水筒として利用されている皮袋を与えてくれた。
バシャバシャバシャ、バシャバシャバシャ。
玲は、その皮袋に牛乳を入れ、しっかりと蓋を閉めると両手で持って、縦縦横横と無心に振り始めた。
「どうですか?代用品になりそうですか?」
「キュゥ?」
「どうかな?」
ぶつぶつと何か囁きながら、皮袋を振り続ける玲。バシャバシャと聞こえる牛乳が混ざる音に神経を集中させる。
玲が、闇雲に皮袋に牛乳を入れ、バシャバシャと降っているのには、訳があった。
相変わらずディアブロには、食糧認定のままなのだが、悪魔神官と言えども一度取り交わした約束は、守っていた。
玲と交わした誓約の一つである【操術】の指導だ。
メルルの成長と共に、操術を扱えるようになると言っていた通り、メルルによって所有紋を施されてから、玲に一つの変化が起きた。
その日は、アレスの趣味であるガーデニングの手伝いがてら、中庭の花壇の草むしりをしていた。
アレスに花の名前などを教えてもらいながら、木の柄のスコップを使って草をむしったり、枯れ葉を集めたりしていた。
「アレス、集めた雑草や落ち葉は、腐葉土にするのか?」
「ふようど?って何ですか?」
「腐葉土ってのは、肥料の事で………」
スコップで草むしりをしながら、説明が難しいなと玲は、少し考える。
スコップで集めたり葉っぱや落ち葉に土を被せ、スコップでグリグリと混ぜていく。
「こんな感じで、渇いた葉っぱや枯れた雑草を土に混ぜて、放置しておくんだ。すると、土の中の細菌が、雑草や草を腐らせて、栄養いっぱいの…………肥料?って、何これ」
腐葉土を説明するつもりで、イメージしやすく実演しながらアレスに説明していたのだが、スコップの柄からカランと落ちたスコップの先。玲が握っていたスコップの柄は、ぼろぼろと腐り、粉々に朽ちていった。
「サトシ……、あっという間にスコップの柄が腐りました」
「ギュー」
「言わなくても解っとる。俺も見た。でも何で?」
「元々古いスコップでしたから、腐ってたんでしょうか?」
アレスに渡されたスコップは、確かに使い込まれてはいたが、柄が朽ちるほどぼろぼろではなかった。
玲は、首を傾げながらスコップの先を拾ったが、特に何もおかしい点は、見つけられなかった。
「何だろうな……」
スコップの先を地面に置いて、玲は、先程スコップでほぐしていた土の塊に、両手を差し込んだ。スコップがないなら、手を使えば良い。単純にそう思っただけだった。
わしゃわしゃと両手で、土の塊を混ぜて混ぜて、混ぜ込んでいく。
「腐葉土ってのは、こうやって養分となる草や落ち葉、野菜屑とかも良いらしいんだけど、土と空気を混ぜていくことで、葉っぱとかが腐って、植物にとって良い土ができるんだ………熱!!」
玲が、腐葉土の説明をし終わると同時に、両手を土の塊から勢いよく引っこ抜く。
「アッツ、めっちゃ熱っい!アレス、水、水かけてくれ!」
両手をパタパタと振って慌ててアレスに差し出した。少量の水では埒が明かないと思ったアレスは、両手を合わせて手で器を作る。
手の器の中になみなみと湧き上がる水は、水道の蛇口をひねったかのように溢れ出した。
玲は、急いで両手を水につけて、ほっと一息ついた。
「だ、大丈夫ですか?」
「びっくりした!突然、土の中が熱くなったからさぁ」
先程、両手を差し込んでいた土の塊を見ると、メルルがそっと鼻先を近づけて、クンクンと臭いを嗅いでいた。
よく見れば、土の山からゆらゆらと湯だった空気が揺れていた。
「マジかよ…」
空気が、揺れて見える。それは、地上との温度差がある場合、発生する現象だ。いわゆる蜃気楼と同じ原理なのだが、今、ここで起きている理由は、ただ一つ。土の塊が、発酵して発熱しているからだ。
本来であれば、ゆっくりと熱を持ち、徐々に草や落ち葉が腐っていくはずなのだが、目の前には、あっという間に出来上がってしまった腐葉土があった。
「これは、サトシの操術ですか?」
「……わからん」
その後、アレスと共に、ディアブロの執務室へ駆け込み、事を説明した。
「ほう、それでサトシは、その時何をイメージしたのですか?」
「……腐葉土の説明かな」
ディアブロは、一本の細い木の棒を玲に手渡した。
「では、その棒が、腐るイメージをして見てください」
「腐る?………あ!」
玲が、【腐る】という言葉を発した途端、ポロポロと手に持っていた棒が、ボロボロに朽ちていく。
「これは……やはり……」
「何だよ、めっちゃくちゃ怖いんだけど?」
手にしていた棒を放り出した。棒が床に落ちた瞬間、バウンドする訳でもなく、粉々に木端微塵となる。
「ヒィ~、俺どうなってんの?」
「【腐敗】の操術ですね」
「【腐敗】?」
「闇と風の合成属性です。なかなかお目にかかれない、珍しい。これもメルル様のおかげでしょうか」
爽やかな笑顔で、悪魔神官は、微笑んだのだった。
玲は、台所でアウズンブラ(牛の魔物)の乳を使ってある実験を試みていた。
本来ならペットボトルなどがあれば良かったのだが、残念ながらこの世界の文明は、そこまで発展しているわけではない。代用品を探していたら、普段から水筒として利用されている皮袋を与えてくれた。
バシャバシャバシャ、バシャバシャバシャ。
玲は、その皮袋に牛乳を入れ、しっかりと蓋を閉めると両手で持って、縦縦横横と無心に振り始めた。
「どうですか?代用品になりそうですか?」
「キュゥ?」
「どうかな?」
ぶつぶつと何か囁きながら、皮袋を振り続ける玲。バシャバシャと聞こえる牛乳が混ざる音に神経を集中させる。
玲が、闇雲に皮袋に牛乳を入れ、バシャバシャと降っているのには、訳があった。
相変わらずディアブロには、食糧認定のままなのだが、悪魔神官と言えども一度取り交わした約束は、守っていた。
玲と交わした誓約の一つである【操術】の指導だ。
メルルの成長と共に、操術を扱えるようになると言っていた通り、メルルによって所有紋を施されてから、玲に一つの変化が起きた。
その日は、アレスの趣味であるガーデニングの手伝いがてら、中庭の花壇の草むしりをしていた。
アレスに花の名前などを教えてもらいながら、木の柄のスコップを使って草をむしったり、枯れ葉を集めたりしていた。
「アレス、集めた雑草や落ち葉は、腐葉土にするのか?」
「ふようど?って何ですか?」
「腐葉土ってのは、肥料の事で………」
スコップで草むしりをしながら、説明が難しいなと玲は、少し考える。
スコップで集めたり葉っぱや落ち葉に土を被せ、スコップでグリグリと混ぜていく。
「こんな感じで、渇いた葉っぱや枯れた雑草を土に混ぜて、放置しておくんだ。すると、土の中の細菌が、雑草や草を腐らせて、栄養いっぱいの…………肥料?って、何これ」
腐葉土を説明するつもりで、イメージしやすく実演しながらアレスに説明していたのだが、スコップの柄からカランと落ちたスコップの先。玲が握っていたスコップの柄は、ぼろぼろと腐り、粉々に朽ちていった。
「サトシ……、あっという間にスコップの柄が腐りました」
「ギュー」
「言わなくても解っとる。俺も見た。でも何で?」
「元々古いスコップでしたから、腐ってたんでしょうか?」
アレスに渡されたスコップは、確かに使い込まれてはいたが、柄が朽ちるほどぼろぼろではなかった。
玲は、首を傾げながらスコップの先を拾ったが、特に何もおかしい点は、見つけられなかった。
「何だろうな……」
スコップの先を地面に置いて、玲は、先程スコップでほぐしていた土の塊に、両手を差し込んだ。スコップがないなら、手を使えば良い。単純にそう思っただけだった。
わしゃわしゃと両手で、土の塊を混ぜて混ぜて、混ぜ込んでいく。
「腐葉土ってのは、こうやって養分となる草や落ち葉、野菜屑とかも良いらしいんだけど、土と空気を混ぜていくことで、葉っぱとかが腐って、植物にとって良い土ができるんだ………熱!!」
玲が、腐葉土の説明をし終わると同時に、両手を土の塊から勢いよく引っこ抜く。
「アッツ、めっちゃ熱っい!アレス、水、水かけてくれ!」
両手をパタパタと振って慌ててアレスに差し出した。少量の水では埒が明かないと思ったアレスは、両手を合わせて手で器を作る。
手の器の中になみなみと湧き上がる水は、水道の蛇口をひねったかのように溢れ出した。
玲は、急いで両手を水につけて、ほっと一息ついた。
「だ、大丈夫ですか?」
「びっくりした!突然、土の中が熱くなったからさぁ」
先程、両手を差し込んでいた土の塊を見ると、メルルがそっと鼻先を近づけて、クンクンと臭いを嗅いでいた。
よく見れば、土の山からゆらゆらと湯だった空気が揺れていた。
「マジかよ…」
空気が、揺れて見える。それは、地上との温度差がある場合、発生する現象だ。いわゆる蜃気楼と同じ原理なのだが、今、ここで起きている理由は、ただ一つ。土の塊が、発酵して発熱しているからだ。
本来であれば、ゆっくりと熱を持ち、徐々に草や落ち葉が腐っていくはずなのだが、目の前には、あっという間に出来上がってしまった腐葉土があった。
「これは、サトシの操術ですか?」
「……わからん」
その後、アレスと共に、ディアブロの執務室へ駆け込み、事を説明した。
「ほう、それでサトシは、その時何をイメージしたのですか?」
「……腐葉土の説明かな」
ディアブロは、一本の細い木の棒を玲に手渡した。
「では、その棒が、腐るイメージをして見てください」
「腐る?………あ!」
玲が、【腐る】という言葉を発した途端、ポロポロと手に持っていた棒が、ボロボロに朽ちていく。
「これは……やはり……」
「何だよ、めっちゃくちゃ怖いんだけど?」
手にしていた棒を放り出した。棒が床に落ちた瞬間、バウンドする訳でもなく、粉々に木端微塵となる。
「ヒィ~、俺どうなってんの?」
「【腐敗】の操術ですね」
「【腐敗】?」
「闇と風の合成属性です。なかなかお目にかかれない、珍しい。これもメルル様のおかげでしょうか」
爽やかな笑顔で、悪魔神官は、微笑んだのだった。
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