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ディアブロの執務室には、既にアレスも来ていた。先程の落ち込み具合から打って変わり、今はキラキラした瞳で玲を見つめてくる。
「アレス、もう大丈夫なのか?」
「心配させてすみません。俺は、もう迷いません。サトシを一生守り抜きます!」
「おおう……ありがと」
相変わらずの熱血ぶりを見せるアレスに、たじろぎながらお礼を言った玲。ディアブロは、クスクスと笑いながら、そんな二人を見守っている。
「それでは、役者が揃った事ですので、改めて説明をしますね」
ディアブロの執務室に設置されている二人掛けのソファーのアレスと並んで座った。正面には、ディアブロが座る。爽やかで誠実そうな笑顔を見せるが、何度もオモチャにされている玲からすれば、胡散臭い事この上なしだ。
「バンパイアは、人間からのみ吸血を行います。その事は、もう既に知っていますね」
玲は、既にメルルへ血液を与えている為、コクリと頷いた。
「ただし、無差別に吸血行為を行うわけではありません。最終的に、一人の人間を選び、生涯その人物からのみ血液をいただくことになります」
「え?最終的にって…どういうこと?」
「例えば、サトシは、苦手な方と一緒にいたいですか?」
「イヤですけど?」
「永遠に美味しくない食事を食べたいですか?」
「絶対にムリ!」
嫌な例えをするなと思いつつ、ディアブロの言いたいことが何となくわかった気がした。
「ようするに、お試し期間があるってこと?」
「その認識で、だいたい合っていますよ」
「だいたいって……やっぱりお前は、イヤミなヤツだ」
「仕方ありませんよ、食糧に選択の余地はありませんし、メルル様がお決めになる事ですから」
悪怯れる様子もなく、ディアブロは言い放った。確かに食事は、消費者が選ぶものだ。
「っておい、俺は野菜か果物かってぇの!」
唇を尖らせて文句を言うが、ディアブロは至極当然、何を当たり前の事を言っているのだとクスクスと笑った。
「おや、最初から、食糧って言ってましたよね」
確かに事あるごとに、食糧だと言われ続けていた玲。てっきり面白がって言われているものだと思っていた。
ぷりぷりと怒る玲に、メルルは、ギュッとしがみついた。玲は、メルルに対して怒っているわけではない。心配そうに見つめてくるメルルをそっと撫でた。
「メルル、大きな声を出してごめんな。お試し期間で、俺を選んでくれたんだろ?」
「キュキュッキュ!」
「あぁ、俺だってメルルを選ぶに決まってるだろ」
「キュー!」
お互いに抱きしめ合う玲とメルル。隣に座っているアレスは、改めて太りの絆が、より強固なものになっている事を実感していた。
「お二人は、お互いをわかり合っているのですね。……羨ましい」
「何を言ってんだ?俺は、お前ともわかり合いたいぞ?」
「俺ともですか?」
「そりゃ、そうさ。アレスは、いつも俺を助け、支えてくれているし、俺にとって、最も信頼のできる友だちだしさ」
ポリポリと頬を掻いて照れ笑いする玲。アレスは、自分の存在が、しっかりと玲の中に大きく存在している事を知り、胸が熱くなる。
「俺も、サトシのことを誰よりも、一番大事に思っています」
「アハッ!大袈裟だなぁ。でも、ありがと」
「サトシ……」
涙を流して喜ぶアレスに戸惑いながらも頭を撫でた。屈強な肉体を持つオーガという種族を慰めるという奇妙な構図。ディアブロは、この温度差の有る二人を生暖かく見つめていた。
「ほうほう、ふむふむ……カッコいいじゃんコレ!メルルが、噛みついた跡なんだろう?」
玲は、手鏡を持って自分の首筋につけられたメルルの所有紋をさまざまな角度から見て観察をしている。メルルも玲がマーキングをした事に嫌悪感を抱いていない事がわかり、ホッとして玲にしがみついた。
「食糧を吟味する期限は、一か月。その間に所有紋を刻むかどうかは、バンパイア次第です。期限が過ぎれば、次の食糧を探します」
「俺、後一週間しか期限なかったってことか?」
今でこそ、メルルに選ばれた証であるマーキングが刻まれているが、場合によっては選ばれなかった可能性もある。もし、選ばれなかったとしても、メルルたちと離れて暮らすという選択肢は、玲には考えられなかった。
「もし、俺が選ばれなかったらどう何の?」
「はい、賞味期限が切れるだけです」
「チッ!徹底した食糧扱いだな。で、その賞味期限が切れたら、俺は、どうなるの?」
「そんなの決まっているじゃないですか。賞味期限切れになった食糧は、廃棄処分ですよ」
「え!?」
カラカラと笑って言ってのけたディアブロ。玲は、廃棄処分と聞いて絶句した。
廃棄処分とは、不用なものを捨てる行為。確かにコンビニの弁当でも、賞味期限が切れたものは、店頭では売ることができない為、廃棄処分をする。某ファーストフード店の店の裏にあるゴミ置き場では、期限切れとして大量に捨てられたドーナツやパンを見たこともあった。
頭、手、首、脚、胴体を切り刻まれ、ドーナツやパンと同じように無造作にゴミ捨て場に廃棄された自分を想像して口を押さえ、体を縮こまらせた。
そうだ、ここは異世界。今までが平和だったことから忘れていた。そう思えば、ディアブロは、最初から徹底していたのだ。
玲は、食糧であると。
「アレス、もう大丈夫なのか?」
「心配させてすみません。俺は、もう迷いません。サトシを一生守り抜きます!」
「おおう……ありがと」
相変わらずの熱血ぶりを見せるアレスに、たじろぎながらお礼を言った玲。ディアブロは、クスクスと笑いながら、そんな二人を見守っている。
「それでは、役者が揃った事ですので、改めて説明をしますね」
ディアブロの執務室に設置されている二人掛けのソファーのアレスと並んで座った。正面には、ディアブロが座る。爽やかで誠実そうな笑顔を見せるが、何度もオモチャにされている玲からすれば、胡散臭い事この上なしだ。
「バンパイアは、人間からのみ吸血を行います。その事は、もう既に知っていますね」
玲は、既にメルルへ血液を与えている為、コクリと頷いた。
「ただし、無差別に吸血行為を行うわけではありません。最終的に、一人の人間を選び、生涯その人物からのみ血液をいただくことになります」
「え?最終的にって…どういうこと?」
「例えば、サトシは、苦手な方と一緒にいたいですか?」
「イヤですけど?」
「永遠に美味しくない食事を食べたいですか?」
「絶対にムリ!」
嫌な例えをするなと思いつつ、ディアブロの言いたいことが何となくわかった気がした。
「ようするに、お試し期間があるってこと?」
「その認識で、だいたい合っていますよ」
「だいたいって……やっぱりお前は、イヤミなヤツだ」
「仕方ありませんよ、食糧に選択の余地はありませんし、メルル様がお決めになる事ですから」
悪怯れる様子もなく、ディアブロは言い放った。確かに食事は、消費者が選ぶものだ。
「っておい、俺は野菜か果物かってぇの!」
唇を尖らせて文句を言うが、ディアブロは至極当然、何を当たり前の事を言っているのだとクスクスと笑った。
「おや、最初から、食糧って言ってましたよね」
確かに事あるごとに、食糧だと言われ続けていた玲。てっきり面白がって言われているものだと思っていた。
ぷりぷりと怒る玲に、メルルは、ギュッとしがみついた。玲は、メルルに対して怒っているわけではない。心配そうに見つめてくるメルルをそっと撫でた。
「メルル、大きな声を出してごめんな。お試し期間で、俺を選んでくれたんだろ?」
「キュキュッキュ!」
「あぁ、俺だってメルルを選ぶに決まってるだろ」
「キュー!」
お互いに抱きしめ合う玲とメルル。隣に座っているアレスは、改めて太りの絆が、より強固なものになっている事を実感していた。
「お二人は、お互いをわかり合っているのですね。……羨ましい」
「何を言ってんだ?俺は、お前ともわかり合いたいぞ?」
「俺ともですか?」
「そりゃ、そうさ。アレスは、いつも俺を助け、支えてくれているし、俺にとって、最も信頼のできる友だちだしさ」
ポリポリと頬を掻いて照れ笑いする玲。アレスは、自分の存在が、しっかりと玲の中に大きく存在している事を知り、胸が熱くなる。
「俺も、サトシのことを誰よりも、一番大事に思っています」
「アハッ!大袈裟だなぁ。でも、ありがと」
「サトシ……」
涙を流して喜ぶアレスに戸惑いながらも頭を撫でた。屈強な肉体を持つオーガという種族を慰めるという奇妙な構図。ディアブロは、この温度差の有る二人を生暖かく見つめていた。
「ほうほう、ふむふむ……カッコいいじゃんコレ!メルルが、噛みついた跡なんだろう?」
玲は、手鏡を持って自分の首筋につけられたメルルの所有紋をさまざまな角度から見て観察をしている。メルルも玲がマーキングをした事に嫌悪感を抱いていない事がわかり、ホッとして玲にしがみついた。
「食糧を吟味する期限は、一か月。その間に所有紋を刻むかどうかは、バンパイア次第です。期限が過ぎれば、次の食糧を探します」
「俺、後一週間しか期限なかったってことか?」
今でこそ、メルルに選ばれた証であるマーキングが刻まれているが、場合によっては選ばれなかった可能性もある。もし、選ばれなかったとしても、メルルたちと離れて暮らすという選択肢は、玲には考えられなかった。
「もし、俺が選ばれなかったらどう何の?」
「はい、賞味期限が切れるだけです」
「チッ!徹底した食糧扱いだな。で、その賞味期限が切れたら、俺は、どうなるの?」
「そんなの決まっているじゃないですか。賞味期限切れになった食糧は、廃棄処分ですよ」
「え!?」
カラカラと笑って言ってのけたディアブロ。玲は、廃棄処分と聞いて絶句した。
廃棄処分とは、不用なものを捨てる行為。確かにコンビニの弁当でも、賞味期限が切れたものは、店頭では売ることができない為、廃棄処分をする。某ファーストフード店の店の裏にあるゴミ置き場では、期限切れとして大量に捨てられたドーナツやパンを見たこともあった。
頭、手、首、脚、胴体を切り刻まれ、ドーナツやパンと同じように無造作にゴミ捨て場に廃棄された自分を想像して口を押さえ、体を縮こまらせた。
そうだ、ここは異世界。今までが平和だったことから忘れていた。そう思えば、ディアブロは、最初から徹底していたのだ。
玲は、食糧であると。
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