どうぞ、お召し上がりください。魔物の国のお食事係の奮闘記

りんくま

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「サトシは、選ばれるだろうか?」

 レイブン卿は、上着を脱いで大きなキングサイズのベッドに横たわった。逞しく鍛え上げられた上半身。首元には、マギーに与えられた眷属の証である黒薔薇の印が咲き誇っていた。

 ベッドサイドの灯りを消し、マギーは黒いドレスの肩紐に指先をかける。ストンと足元にドレスが落ちて、一糸纏わぬ美しい裸体が月明かりに照らされた。

「それは、メルルが決めること……今は、私だけを見て」

 豊満な乳房を隠すこともなく、マギーはベッドの上に横たわるレイブンの上に跨った。ゴクリと喉を鳴らすレイブンをぷっくりと艶やかな唇を舐めるマギー。

 両手をレイブンの頬に添え指先でゆっくりと撫で下ろしていく。レイブンは、マギーの細い腰に大きな手のひらを添え、昂ぶる気持ちをマギーに伝える。

「可愛いレイブン。愛してるわ」

 レイブンの額に唇を落とすと、黒獅子の口から甘い吐息が漏れる。その様子を嬉しそうに微笑み、マギーはレイブンに一つ、二つとキスの雨を降らす。

 レイブンの両腕に力がこもり、催促をするようにマギーの肌に指先が食い込む。レイブンは、マギーから与えられる快楽に耐えられないと鼻を鳴らす。

 赤い舌を首元に付けた自分の印に這わせ、舐め上げると溜まらずレイブンは、背中を反らせ熱い吐息を吐いて喘ぎ悶えた。

 キラリとマギーの口元から覗く牙をレイブンの首筋に当てがうと、躊躇なくその牙をレイブンに埋め込んだ。レイブンは、マギーを強く抱きしめ、己の血液全て差し出す勢いでマギーの後頭部に己の手を添えた。


◆◇ ◆◇ ◆◇ ◆◇ ◆◇

「ハウ~……だいぶ、耐性がついてきたな」

 メルルに日課である吸血を終え、優しくメルルの頭を撫でる玲。

「キュイ!」

 メルルも撫でられるのが気持ち良いのか、玲の手に嬉しそうに頭を擦りつけた。

「今日は、お父さんとお母さんといっぱいお話しできたか?」
「キューイー」

 メルルは、お話しいっぱいしたよとで言うように、首を縦に振った。

「そうか、マギーさんたちも嬉しそうだったもんな。俺は、父さんも母さんもいないんだ。……元の世界に帰れたとしても会うことが出来ないんだ」
「キュゥ…」
「大丈夫だって。今は、メルルが俺の家族だと思ってるし、寂しくなんかないよ」

 優しく笑いかけてくれる玲だったが、少しだけ寂しそうな表情にメルルは、小さな両手を玲の腕に巻きつかせぎゅっと抱きしめた。

「キュイ」

 そのまま瞳を閉じて、モコモコでフワフワした頭をスリスリと擦り付けるメルルに、玲はそっと唇を近づけた。

「俺も大好きだよ」

 チュッとモコモコの頭にキスをした。ふんわりとお日様の匂いか鼻をくすぐる。

 ギィッと扉の開く音が聞こえた。玲達の私室の扉が開いたわけではない。

「チッ。もうそんな時間か」

 ほっこりと幸せの時間が、終わりを告げる音。玲達の隣の部屋を私室とするディアブロ夫婦の部屋の扉が開いたからだ。

「メルル、もうお休みの時間だ」

 腕に抱きつくメルルをそっと撫でると、ディアブロの部屋から一番遠い場所に置いているメルル用のバケットに、そっとメルルを下ろす。

「今日は、いっぱい頑張ったな。おやすみ」
「キュ…」

 ふっかりとしたバケットに敷き詰められたクッションの上で、メルルはゆっくり丸くなる。玲をじっと見つめ、小さく鳴いたメルルは、大きく口を開け、欠伸をした。

 玲は、トントンとバケットを軽く叩き、メルルが眠りにつくように鼻歌を歌う。

 ディアブロの部屋からギシリとベッドが軋む音が聞こえる。

 玲達が使っている私室は、以前レイブン卿とマギーの私室でもあった。恐らくレイブン卿も玲と同じように悩み苦悩したに違いない。

「お、俺だけであれば、壁を叩くなりして抗議するものを……メルルには、清らかな生活を送ってもらいたい」

 事が激しくなる前に、必死にメルルを寝かしつけようと励む玲、壁から響く隣室の雑音をメルルに気づかせないように、子守唄を口ずさみ、眠りを誘う。

「父上と母上は、理想の夫婦ですが、少し仲が良過ぎることもありまして……」

 この部屋を案内してくれた時、アレスが濁した言葉…夜な夜な繰り広げられる、ディアブロ夫婦の夜の営み。

 レイブン卿も葛藤したのだろう、最終的には、マギーに押し倒される結果で、理性が粉々に崩れ去ったと聞いている。

「昨晩は、お楽しみのようでしたね」

 翌日、ディアブロにそっと何処かのゲームの宿屋のオヤジのようなセリフを耳元で囁かれ、灰になったレイブン卿を置き去りにして過ぎ去ったと、マギーが楽しそうに教えてくれたのだった。

「レイブン卿とマギさんは、結ばれる運命だったとしても、悪趣味過ぎるだろうディアブロ!」

 メルルが、眠りについたのを確認して、玲は、ベッド脇に設置しているキャビネットの引き出しを開けた。

 引き出しの中から、二枚の布を小さく丸めると両耳奥にググッと押し込んだ。素早くベッドに潜り込み、両手で両耳を抑える。

 徐々に激しく軋むベッドが、壁にぶつかり玲の部屋をノックする。アーシェの艶やかな喘ぎ声とディアブロの攻め立てる荒い息が、玲の部屋へ響き渡る。

 デーモン族であるディアブロは、生気を養うためにパートナーであるアーシェを体を交える。ただ、何百年、何千年と長い時を共に生きるため、他者をも巻き込み愉悦する。ただそれだけの事で、快楽を覚える。

「アーシェ、サトシが君の乱れる姿を想像してますよ」
「あぁ……。ディアブロ…もっと」

 ディアブロに開発され尽くしたアーシェも聴かれていると想像して悦び体を震わせていた。



 





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