18 / 59
18
しおりを挟む
玲は、持ってきたパンをスライスすると、石窯に並べていく。
「アレス、このパンをほんのりちょっと表面がカリカリってなるぐらいに焼いてくれるか?」
「もう、焼くのですか?食べる直前に焼くのが美味しいと思うんですが?」
「いいの、いいの。このパンは、今から作る料理の要になってもらうんだよ」
玲が、作ろうとしているのは、パン粉だ。豚肉の塊を見て、ラードを見つけ、玲の脳内は、じゅわっとカリカリに揚げたトンカツに占拠されていた。
ハンバーグを作った時、つなぎの代用品としてアーシェの焼いたお菓子もどき、ポムグラネイトを使った。焼き菓子ということもあり、小麦粉が有るのではとアーシェに確認し、玲は、小麦粉と出合うことができた。
小麦粉との出会いは、玲にとって料理の幅が広がるきっかけにもなった。バイトで培った知識を元に、天然酵母を作り、今回お土産で持ってきたパンを作ったのだった。
パンが軽く焼けると、卸金を使って、バケットにゴシゴシと削っていった。
「え?せっかく焼いたパンを削るんですか?」
「おうよ。コレ、パン粉っていうんだぜ」
パン粉が出来上がると、トンカツには欠かせないソースだ。ソースに使う野菜と果物は、トマト、玉ねぎ、セロリ、リンゴ、其々をアレスと手分けして微塵切りにしていく。
ほんの少し、水を足した鍋に材料をぶち込んで、お酢、砂糖、香辛料などを追加投入した後、火にかけてグツグツと煮込んでいく。くるくるとお玉を回し、微塵切りした野菜や果物でとろみもついて来た。
「アレス、こっちの鍋ごげないように混ぜながら、煮詰めてくれるか?」
「わかりまし………た?」
鍋の中身を見て、何か不思議そうな物を見るように首を傾げるアレス。玲自身、違和感を感じていたのは事実で、煮込んで10分も経たない内に、具材がトロトロに混ざり合い、焦茶色の酸味が薫るソースに化けていたからだ。
「まさか…ね」
「なんだよ。見た目がこんな色でもちゃんと美味いんだぞ」
「サトシを疑っているんじゃなくて……ちょっと」
アレスの含みのある言葉も気にはなるが、お玉を渡してソースの煮込みを任せることにする。
薄くスライスした豚肉を深底の鍋で炒め、小さめにカットした野菜も投入し小麦粉を絡めていく。豚の油と小麦粉がしっかり混ざった事を確認して、牛乳を注いでいく。小麦粉を溶かすようにお玉で混ぜつつ、具材が浸る程度に牛乳を入れた。
塩、胡椒、ガーリックパウダーやスパイシーな香辛料を適量振り入れて、味を整える。小麦粉が、良い感じにとろみを演出してくれる。
「こっちは、真っ白ですね」
「クリームシチューって言うんだけど、パンによく合うスープなんだ」
ソースの火を止めて、粗熱を取っている間、今度は、アレスにシチューの煮込みもお任せした。
メインディッシュのトンカツは、少し厚めに切り分ける。サクッと噛み切れるように、玲は丁寧に豚肉に刃を入れる。脂身も丸まったりしないように筋を等間隔で刃を入れ、仕上げに棒で肉の表面を叩いて伸ばす。豚肉の裏表に塩と胡椒を塗し、下拵えは完了した。
コンロの上に大きな中華鍋のような鍋を乗せると、ラードをたっぷりと鍋に入れた。
パン粉のバケットの他に、小麦粉、溶き卵のバケットを並べる。ラードは、熱で徐々に溶けてパチパチと音がなる。
パン粉を指で摘み、液体となったラードに入れると油の上で、パッと華が開く。玲は、手際よく、豚肉に小麦粉を塗し、卵を両面につけ、パン粉のバケットで豚肉を包むと、縦に持って熱して液体となったラードの鍋に豚肉を投入。
油の中で、弾けるトンカツ。パチパチ、ジュワジュワとパン粉が黄金色に揚げられていった。
皿に千切りキャベツを添えて、湯切りしたトンカツを並べ、小皿にソースと塩を取り分ける。辛子かマスタードも有ればベストだが、今日はこれで良し。アレスにお任せしたシチューも出来上がった。
「な、何ですかコレ!」
隣の部屋で待機していた猫耳メイドに料理が完成した事を伝え、台所に戻ってきた途端に、出来上がった料理を見ての第一声。クールビューティーかと思いきや、尻尾をタヌキのように膨らまし、トンカツとクリームシチューを見ての大絶叫。
「私、全然期待してなかったのに、人間風情が、短時間でこれだけの料理を作るなんて……。失敗して旦那様に泣きつけばいいのにと思ってたのに、悔しい」
清々しいほど悪意のある本音を聞かされ、カラ笑いするしか無い玲。去り際に蔑まれたのは、気のせいではなかった。
「旦那様からメルル様を奪ったと思ってて、面白くなかったんだけど、コレなら仕方ないのかもね」
「何だよ、その言い分。レイブン卿は、俺の事そう言う風に言ってんのか?」
「違うわよ!旦那様は、寂しそうにしてただけ!私が、勝手に………ごめんなさい」
「良いよ別に。レイブン卿って、けっこう慕われてんだ。あんなに厳ついのに」
強面の黒獅子であるレイブン卿が、従者にこんなにも慕われていたんだと知って、玲は、ほっこりとした気持ちになった。
「私は、ミーナン。ケットシー族よ」
「サトシ・レイブン。黒の神殿のお食事係で人間だ」
ミーナンと握手を交わす。アレスに続く、この世界での二人目の友達ができたのだった。
「アレス、このパンをほんのりちょっと表面がカリカリってなるぐらいに焼いてくれるか?」
「もう、焼くのですか?食べる直前に焼くのが美味しいと思うんですが?」
「いいの、いいの。このパンは、今から作る料理の要になってもらうんだよ」
玲が、作ろうとしているのは、パン粉だ。豚肉の塊を見て、ラードを見つけ、玲の脳内は、じゅわっとカリカリに揚げたトンカツに占拠されていた。
ハンバーグを作った時、つなぎの代用品としてアーシェの焼いたお菓子もどき、ポムグラネイトを使った。焼き菓子ということもあり、小麦粉が有るのではとアーシェに確認し、玲は、小麦粉と出合うことができた。
小麦粉との出会いは、玲にとって料理の幅が広がるきっかけにもなった。バイトで培った知識を元に、天然酵母を作り、今回お土産で持ってきたパンを作ったのだった。
パンが軽く焼けると、卸金を使って、バケットにゴシゴシと削っていった。
「え?せっかく焼いたパンを削るんですか?」
「おうよ。コレ、パン粉っていうんだぜ」
パン粉が出来上がると、トンカツには欠かせないソースだ。ソースに使う野菜と果物は、トマト、玉ねぎ、セロリ、リンゴ、其々をアレスと手分けして微塵切りにしていく。
ほんの少し、水を足した鍋に材料をぶち込んで、お酢、砂糖、香辛料などを追加投入した後、火にかけてグツグツと煮込んでいく。くるくるとお玉を回し、微塵切りした野菜や果物でとろみもついて来た。
「アレス、こっちの鍋ごげないように混ぜながら、煮詰めてくれるか?」
「わかりまし………た?」
鍋の中身を見て、何か不思議そうな物を見るように首を傾げるアレス。玲自身、違和感を感じていたのは事実で、煮込んで10分も経たない内に、具材がトロトロに混ざり合い、焦茶色の酸味が薫るソースに化けていたからだ。
「まさか…ね」
「なんだよ。見た目がこんな色でもちゃんと美味いんだぞ」
「サトシを疑っているんじゃなくて……ちょっと」
アレスの含みのある言葉も気にはなるが、お玉を渡してソースの煮込みを任せることにする。
薄くスライスした豚肉を深底の鍋で炒め、小さめにカットした野菜も投入し小麦粉を絡めていく。豚の油と小麦粉がしっかり混ざった事を確認して、牛乳を注いでいく。小麦粉を溶かすようにお玉で混ぜつつ、具材が浸る程度に牛乳を入れた。
塩、胡椒、ガーリックパウダーやスパイシーな香辛料を適量振り入れて、味を整える。小麦粉が、良い感じにとろみを演出してくれる。
「こっちは、真っ白ですね」
「クリームシチューって言うんだけど、パンによく合うスープなんだ」
ソースの火を止めて、粗熱を取っている間、今度は、アレスにシチューの煮込みもお任せした。
メインディッシュのトンカツは、少し厚めに切り分ける。サクッと噛み切れるように、玲は丁寧に豚肉に刃を入れる。脂身も丸まったりしないように筋を等間隔で刃を入れ、仕上げに棒で肉の表面を叩いて伸ばす。豚肉の裏表に塩と胡椒を塗し、下拵えは完了した。
コンロの上に大きな中華鍋のような鍋を乗せると、ラードをたっぷりと鍋に入れた。
パン粉のバケットの他に、小麦粉、溶き卵のバケットを並べる。ラードは、熱で徐々に溶けてパチパチと音がなる。
パン粉を指で摘み、液体となったラードに入れると油の上で、パッと華が開く。玲は、手際よく、豚肉に小麦粉を塗し、卵を両面につけ、パン粉のバケットで豚肉を包むと、縦に持って熱して液体となったラードの鍋に豚肉を投入。
油の中で、弾けるトンカツ。パチパチ、ジュワジュワとパン粉が黄金色に揚げられていった。
皿に千切りキャベツを添えて、湯切りしたトンカツを並べ、小皿にソースと塩を取り分ける。辛子かマスタードも有ればベストだが、今日はこれで良し。アレスにお任せしたシチューも出来上がった。
「な、何ですかコレ!」
隣の部屋で待機していた猫耳メイドに料理が完成した事を伝え、台所に戻ってきた途端に、出来上がった料理を見ての第一声。クールビューティーかと思いきや、尻尾をタヌキのように膨らまし、トンカツとクリームシチューを見ての大絶叫。
「私、全然期待してなかったのに、人間風情が、短時間でこれだけの料理を作るなんて……。失敗して旦那様に泣きつけばいいのにと思ってたのに、悔しい」
清々しいほど悪意のある本音を聞かされ、カラ笑いするしか無い玲。去り際に蔑まれたのは、気のせいではなかった。
「旦那様からメルル様を奪ったと思ってて、面白くなかったんだけど、コレなら仕方ないのかもね」
「何だよ、その言い分。レイブン卿は、俺の事そう言う風に言ってんのか?」
「違うわよ!旦那様は、寂しそうにしてただけ!私が、勝手に………ごめんなさい」
「良いよ別に。レイブン卿って、けっこう慕われてんだ。あんなに厳ついのに」
強面の黒獅子であるレイブン卿が、従者にこんなにも慕われていたんだと知って、玲は、ほっこりとした気持ちになった。
「私は、ミーナン。ケットシー族よ」
「サトシ・レイブン。黒の神殿のお食事係で人間だ」
ミーナンと握手を交わす。アレスに続く、この世界での二人目の友達ができたのだった。
0
お気に入りに追加
66
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

望んでいないのに転生してしまいました。
ナギサ コウガ
ファンタジー
長年病院に入院していた僕が気づいたら転生していました。
折角寝たきりから健康な体を貰ったんだから新しい人生を楽しみたい。
・・と、思っていたんだけど。
そう上手くはいかないもんだね。

Sランクパーティを引退したおっさんは故郷でスローライフがしたい。~王都に残した仲間が事あるごとに呼び出してくる~
味のないお茶
ファンタジー
Sランクパーティのリーダーだったベルフォードは、冒険者歴二十年のベテランだった。
しかし、加齢による衰えを感じていた彼は後人に愛弟子のエリックを指名し一年間見守っていた。
彼のリーダー能力に安心したベルフォードは、冒険者家業の引退を決意する。
故郷に帰ってゆっくりと日々を過しながら、剣術道場を開いて結婚相手を探そう。
そう考えていたベルフォードだったが、周りは彼をほっておいてはくれなかった。
これはスローライフがしたい凄腕のおっさんと、彼を慕う人達が織り成す物語。
治癒術師の非日常―辺境の治癒術師と異世界から来た魔術師による成長物語―
物部妖狐
ファンタジー
小さな村にある小さな丘の上に住む治癒術師
そんな彼が出会った一人の女性
日々を平穏に暮らしていたい彼の生活に起こる変化の物語。
小説家になろう様、カクヨム様、ノベルピア様へも投稿しています。
表紙画像はAIで作成した主人公です。
キャラクターイラストも、執筆用のイメージを作る為にAIで作成しています。
更新頻度:月、水、金更新予定、投稿までの間に『箱庭幻想譚』と『氷翼の天使』及び、【魔王様のやり直し】を読んで頂けると嬉しいです。
転生して貴族になったけど、与えられたのは瑕疵物件で有名な領地だった件
桜月雪兎
ファンタジー
神様のドジによって人生を終幕してしまった七瀬結希。
神様からお詫びとしていくつかのスキルを貰い、転生したのはなんと貴族の三男坊ユキルディス・フォン・アルフレッドだった。
しかし、家族とはあまり折り合いが良くなく、成人したらさっさと追い出された。
ユキルディスが唯一信頼している従者アルフォンス・グレイルのみを連れて、追い出された先は国内で有名な瑕疵物件であるユンゲート領だった。
ユキルディスはユキルディス・フォン・ユンゲートとして開拓から始まる物語だ。
愛すべき『蟲』と迷宮での日常
熟練紳士
ファンタジー
生まれ落ちた世界は、剣と魔法のファンタジー溢れる世界。だが、現実は非情で夢や希望など存在しないシビアな世界だった。そんな世界で第二の人生を楽しむ転生者レイアは、長い年月をかけて超一流の冒険者にまで上り詰める事に成功した。
冒険者として成功した影には、レイアの扱う魔法が大きく関係している。成功の秘訣は、世界でも4つしか確認されていない特別な属性の1つである『蟲』と冒険者である紳士淑女達との絆。そんな一流の紳士に仲間入りを果たしたレイアが迷宮と呼ばれるモンスターの巣窟で過ごす物語。

初めて入ったダンジョンに閉じ込められました。死にたくないので死ぬ気で修行したら常識外れの縮地とすべてを砕く正拳突きを覚えました
陽好
ファンタジー
ダンジョンの発生から50年、今ではダンジョンの難易度は9段階に設定されていて、最も難易度の低いダンジョンは「ノーマーク」と呼ばれ、簡単な試験に合格すれば誰でも入ることが出来るようになっていた。
東京に住む19才の男子学生『熾 火天(おき あぐに)』は大学の授業はそれほどなく、友人もほとんどおらず、趣味と呼べるような物もなく、自分の意思さえほとんどなかった。そんな青年は高校時代の友人からダンジョン探索に誘われ、遺跡探索許可を取得して探索に出ることになった。
青年の探索しに行ったダンジョンは「ノーマーク」の簡単なダンジョンだったが、それでもそこで採取できる鉱物や発掘物は仲介業者にそこそこの値段で買い取ってもらえた。
彼らが順調に探索を進めていると、ほとんどの生物が駆逐されたはずのその遺跡の奥から青年の2倍はあろうかという大きさの真っ白な動物が現れた。
彼を誘った高校時代の友人達は火天をおいて一目散に逃げてしまったが、彼は一足遅れてしまった。火天が扉にたどり着くと、ちょうど火天をおいていった奴らが扉を閉めるところだった。
無情にも扉は火天の目の前で閉じられてしまった。しかしこの時初めて、常に周りに流され、何も持っていなかった男が「生きたい!死にたくない!」と強く自身の意思を持ち、必死に生き延びようと戦いはじめる。白いバケモノから必死に逃げ、隠れては見つかり隠れては見つかるということをひたすら繰り返した。
火天は粘り強く隠れ続けることでなんとか白いバケモノを蒔くことに成功した。
そして火天はダンジョンの中で生き残るため、暇を潰すため、体を鍛え、精神を鍛えた。
瞬発力を鍛え、膂力を鍛え、何事にも動じないような精神力を鍛えた。気づくと火天は一歩で何メートルも進めるようになり、拳で岩を砕けるようになっていた。
力を手にした火天はそのまま外の世界へと飛び出し、いろいろと巻き込まれながら遺跡の謎を解明していく。

レジェンドテイマー ~異世界に召喚されて勇者じゃないから棄てられたけど、絶対に元の世界に帰ると誓う男の物語~
裏影P
ファンタジー
【2022/9/1 一章二章大幅改稿しました。三章作成中です】
宝くじで一等十億円に当選した運河京太郎は、突然異世界に召喚されてしまう。
異世界に召喚された京太郎だったが、京太郎は既に百人以上召喚されているテイマーというクラスだったため、不要と判断されてかえされることになる。
元の世界に帰してくれると思っていた京太郎だったが、その先は死の危険が蔓延る異世界の森だった。
そこで出会った瀕死の蜘蛛の魔物と遭遇し、運よくテイムすることに成功する。
大精霊のウンディーネなど、個性溢れすぎる尖った魔物たちをテイムしていく京太郎だが、自分が元の世界に帰るときにテイムした魔物たちのことや、突然降って湧いた様な強大な力や、伝説級のスキルの存在に葛藤していく。
持っている力に振り回されぬよう、京太郎自身も力に負けない精神力を鍛えようと決意していき、絶対に元の世界に帰ることを胸に、テイマーとして異世界を生き延びていく。
※カクヨム・小説家になろうにて同時掲載中です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる