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玲は、持ってきたパンをスライスすると、石窯に並べていく。
「アレス、このパンをほんのりちょっと表面がカリカリってなるぐらいに焼いてくれるか?」
「もう、焼くのですか?食べる直前に焼くのが美味しいと思うんですが?」
「いいの、いいの。このパンは、今から作る料理の要になってもらうんだよ」
玲が、作ろうとしているのは、パン粉だ。豚肉の塊を見て、ラードを見つけ、玲の脳内は、じゅわっとカリカリに揚げたトンカツに占拠されていた。
ハンバーグを作った時、つなぎの代用品としてアーシェの焼いたお菓子もどき、ポムグラネイトを使った。焼き菓子ということもあり、小麦粉が有るのではとアーシェに確認し、玲は、小麦粉と出合うことができた。
小麦粉との出会いは、玲にとって料理の幅が広がるきっかけにもなった。バイトで培った知識を元に、天然酵母を作り、今回お土産で持ってきたパンを作ったのだった。
パンが軽く焼けると、卸金を使って、バケットにゴシゴシと削っていった。
「え?せっかく焼いたパンを削るんですか?」
「おうよ。コレ、パン粉っていうんだぜ」
パン粉が出来上がると、トンカツには欠かせないソースだ。ソースに使う野菜と果物は、トマト、玉ねぎ、セロリ、リンゴ、其々をアレスと手分けして微塵切りにしていく。
ほんの少し、水を足した鍋に材料をぶち込んで、お酢、砂糖、香辛料などを追加投入した後、火にかけてグツグツと煮込んでいく。くるくるとお玉を回し、微塵切りした野菜や果物でとろみもついて来た。
「アレス、こっちの鍋ごげないように混ぜながら、煮詰めてくれるか?」
「わかりまし………た?」
鍋の中身を見て、何か不思議そうな物を見るように首を傾げるアレス。玲自身、違和感を感じていたのは事実で、煮込んで10分も経たない内に、具材がトロトロに混ざり合い、焦茶色の酸味が薫るソースに化けていたからだ。
「まさか…ね」
「なんだよ。見た目がこんな色でもちゃんと美味いんだぞ」
「サトシを疑っているんじゃなくて……ちょっと」
アレスの含みのある言葉も気にはなるが、お玉を渡してソースの煮込みを任せることにする。
薄くスライスした豚肉を深底の鍋で炒め、小さめにカットした野菜も投入し小麦粉を絡めていく。豚の油と小麦粉がしっかり混ざった事を確認して、牛乳を注いでいく。小麦粉を溶かすようにお玉で混ぜつつ、具材が浸る程度に牛乳を入れた。
塩、胡椒、ガーリックパウダーやスパイシーな香辛料を適量振り入れて、味を整える。小麦粉が、良い感じにとろみを演出してくれる。
「こっちは、真っ白ですね」
「クリームシチューって言うんだけど、パンによく合うスープなんだ」
ソースの火を止めて、粗熱を取っている間、今度は、アレスにシチューの煮込みもお任せした。
メインディッシュのトンカツは、少し厚めに切り分ける。サクッと噛み切れるように、玲は丁寧に豚肉に刃を入れる。脂身も丸まったりしないように筋を等間隔で刃を入れ、仕上げに棒で肉の表面を叩いて伸ばす。豚肉の裏表に塩と胡椒を塗し、下拵えは完了した。
コンロの上に大きな中華鍋のような鍋を乗せると、ラードをたっぷりと鍋に入れた。
パン粉のバケットの他に、小麦粉、溶き卵のバケットを並べる。ラードは、熱で徐々に溶けてパチパチと音がなる。
パン粉を指で摘み、液体となったラードに入れると油の上で、パッと華が開く。玲は、手際よく、豚肉に小麦粉を塗し、卵を両面につけ、パン粉のバケットで豚肉を包むと、縦に持って熱して液体となったラードの鍋に豚肉を投入。
油の中で、弾けるトンカツ。パチパチ、ジュワジュワとパン粉が黄金色に揚げられていった。
皿に千切りキャベツを添えて、湯切りしたトンカツを並べ、小皿にソースと塩を取り分ける。辛子かマスタードも有ればベストだが、今日はこれで良し。アレスにお任せしたシチューも出来上がった。
「な、何ですかコレ!」
隣の部屋で待機していた猫耳メイドに料理が完成した事を伝え、台所に戻ってきた途端に、出来上がった料理を見ての第一声。クールビューティーかと思いきや、尻尾をタヌキのように膨らまし、トンカツとクリームシチューを見ての大絶叫。
「私、全然期待してなかったのに、人間風情が、短時間でこれだけの料理を作るなんて……。失敗して旦那様に泣きつけばいいのにと思ってたのに、悔しい」
清々しいほど悪意のある本音を聞かされ、カラ笑いするしか無い玲。去り際に蔑まれたのは、気のせいではなかった。
「旦那様からメルル様を奪ったと思ってて、面白くなかったんだけど、コレなら仕方ないのかもね」
「何だよ、その言い分。レイブン卿は、俺の事そう言う風に言ってんのか?」
「違うわよ!旦那様は、寂しそうにしてただけ!私が、勝手に………ごめんなさい」
「良いよ別に。レイブン卿って、けっこう慕われてんだ。あんなに厳ついのに」
強面の黒獅子であるレイブン卿が、従者にこんなにも慕われていたんだと知って、玲は、ほっこりとした気持ちになった。
「私は、ミーナン。ケットシー族よ」
「サトシ・レイブン。黒の神殿のお食事係で人間だ」
ミーナンと握手を交わす。アレスに続く、この世界での二人目の友達ができたのだった。
「アレス、このパンをほんのりちょっと表面がカリカリってなるぐらいに焼いてくれるか?」
「もう、焼くのですか?食べる直前に焼くのが美味しいと思うんですが?」
「いいの、いいの。このパンは、今から作る料理の要になってもらうんだよ」
玲が、作ろうとしているのは、パン粉だ。豚肉の塊を見て、ラードを見つけ、玲の脳内は、じゅわっとカリカリに揚げたトンカツに占拠されていた。
ハンバーグを作った時、つなぎの代用品としてアーシェの焼いたお菓子もどき、ポムグラネイトを使った。焼き菓子ということもあり、小麦粉が有るのではとアーシェに確認し、玲は、小麦粉と出合うことができた。
小麦粉との出会いは、玲にとって料理の幅が広がるきっかけにもなった。バイトで培った知識を元に、天然酵母を作り、今回お土産で持ってきたパンを作ったのだった。
パンが軽く焼けると、卸金を使って、バケットにゴシゴシと削っていった。
「え?せっかく焼いたパンを削るんですか?」
「おうよ。コレ、パン粉っていうんだぜ」
パン粉が出来上がると、トンカツには欠かせないソースだ。ソースに使う野菜と果物は、トマト、玉ねぎ、セロリ、リンゴ、其々をアレスと手分けして微塵切りにしていく。
ほんの少し、水を足した鍋に材料をぶち込んで、お酢、砂糖、香辛料などを追加投入した後、火にかけてグツグツと煮込んでいく。くるくるとお玉を回し、微塵切りした野菜や果物でとろみもついて来た。
「アレス、こっちの鍋ごげないように混ぜながら、煮詰めてくれるか?」
「わかりまし………た?」
鍋の中身を見て、何か不思議そうな物を見るように首を傾げるアレス。玲自身、違和感を感じていたのは事実で、煮込んで10分も経たない内に、具材がトロトロに混ざり合い、焦茶色の酸味が薫るソースに化けていたからだ。
「まさか…ね」
「なんだよ。見た目がこんな色でもちゃんと美味いんだぞ」
「サトシを疑っているんじゃなくて……ちょっと」
アレスの含みのある言葉も気にはなるが、お玉を渡してソースの煮込みを任せることにする。
薄くスライスした豚肉を深底の鍋で炒め、小さめにカットした野菜も投入し小麦粉を絡めていく。豚の油と小麦粉がしっかり混ざった事を確認して、牛乳を注いでいく。小麦粉を溶かすようにお玉で混ぜつつ、具材が浸る程度に牛乳を入れた。
塩、胡椒、ガーリックパウダーやスパイシーな香辛料を適量振り入れて、味を整える。小麦粉が、良い感じにとろみを演出してくれる。
「こっちは、真っ白ですね」
「クリームシチューって言うんだけど、パンによく合うスープなんだ」
ソースの火を止めて、粗熱を取っている間、今度は、アレスにシチューの煮込みもお任せした。
メインディッシュのトンカツは、少し厚めに切り分ける。サクッと噛み切れるように、玲は丁寧に豚肉に刃を入れる。脂身も丸まったりしないように筋を等間隔で刃を入れ、仕上げに棒で肉の表面を叩いて伸ばす。豚肉の裏表に塩と胡椒を塗し、下拵えは完了した。
コンロの上に大きな中華鍋のような鍋を乗せると、ラードをたっぷりと鍋に入れた。
パン粉のバケットの他に、小麦粉、溶き卵のバケットを並べる。ラードは、熱で徐々に溶けてパチパチと音がなる。
パン粉を指で摘み、液体となったラードに入れると油の上で、パッと華が開く。玲は、手際よく、豚肉に小麦粉を塗し、卵を両面につけ、パン粉のバケットで豚肉を包むと、縦に持って熱して液体となったラードの鍋に豚肉を投入。
油の中で、弾けるトンカツ。パチパチ、ジュワジュワとパン粉が黄金色に揚げられていった。
皿に千切りキャベツを添えて、湯切りしたトンカツを並べ、小皿にソースと塩を取り分ける。辛子かマスタードも有ればベストだが、今日はこれで良し。アレスにお任せしたシチューも出来上がった。
「な、何ですかコレ!」
隣の部屋で待機していた猫耳メイドに料理が完成した事を伝え、台所に戻ってきた途端に、出来上がった料理を見ての第一声。クールビューティーかと思いきや、尻尾をタヌキのように膨らまし、トンカツとクリームシチューを見ての大絶叫。
「私、全然期待してなかったのに、人間風情が、短時間でこれだけの料理を作るなんて……。失敗して旦那様に泣きつけばいいのにと思ってたのに、悔しい」
清々しいほど悪意のある本音を聞かされ、カラ笑いするしか無い玲。去り際に蔑まれたのは、気のせいではなかった。
「旦那様からメルル様を奪ったと思ってて、面白くなかったんだけど、コレなら仕方ないのかもね」
「何だよ、その言い分。レイブン卿は、俺の事そう言う風に言ってんのか?」
「違うわよ!旦那様は、寂しそうにしてただけ!私が、勝手に………ごめんなさい」
「良いよ別に。レイブン卿って、けっこう慕われてんだ。あんなに厳ついのに」
強面の黒獅子であるレイブン卿が、従者にこんなにも慕われていたんだと知って、玲は、ほっこりとした気持ちになった。
「私は、ミーナン。ケットシー族よ」
「サトシ・レイブン。黒の神殿のお食事係で人間だ」
ミーナンと握手を交わす。アレスに続く、この世界での二人目の友達ができたのだった。
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