どうぞ、お召し上がりください。魔物の国のお食事係の奮闘記

りんくま

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 レイブン卿は、ゆらり、ゆらりと肩を左右に揺らし、玲の隣にやって来ると、そのままボスンと玲に密着するようにソファーに腰掛けた。

 太くて逞しい上腕二頭筋を玲の肩にゆっくり回した。ガチガチに鍛えられた筋肉の重みが、玲にのしかかる。玲は、恐る恐る隣のレイブン卿に顔をむけた。

「ヒィッ」

 レイブン卿の太い鼻筋に浮かぶ太い皺の数々。玲の喉元を一撃で食い千切れるほど太い牙を惜しみなく玲に晒した。

 玲が、思わず小さく悲鳴を上げてしまうのも無理はない。

「サトシよ。メルルを虜にする美味い飯を俺にも食わせてくれるんだろう。んん?」
「は、はひ!」
「あらあら、パパと玲仲良しさんね」
「メルル、パパたちは、仲良しさんだ。なぁ?」

 語尾強く尋ねられ、何処をどう見たら、仲良しに見えるのかと玲は、思ったが、取り敢えず首を上下にぶんぶんと振った。その玲を見て、首を傾げていたメルルは、「キュイッ」と可愛らしく鳴いて笑顔を見せた。

 真横でギリリと奥歯を噛み締める音が、聞こえてくる。怒ってますよねと思うも、そんな事を言ってしまったら、そのままメルルの目に見えない所に連れていかれ、そのまま行方不明にさせられてしまいそうだ。

「で、美味い飯食わせてくれるんだろう?」
「は、はい。喜んで!」
「あはっ!今日は、メルルが使える新しい操術も増えたお祝いね!」
「キュイッキュー!」

 マギーが、嬉しそうに両手をパチンと鳴らして喜んだ。メルルもパタパタ羽を広げ喜んで見せる。

「え?」
「はっ?」
「んん?」

 男三人衆の間抜けな声。険悪ムードだったレイブン卿もマギーの言葉に目を丸くさせた。

「そう術が、増えたって、どう言う事だママ!」

 普段は、ママ呼びなのかと心でツッコミながら、玲もその答えが知りたいとレイブン卿と顔を見合わせて頷いた。

「あら、いやだ。気がついたの私だけだったの?仕方がないわね……メルル、パパたちに見せてあげてくれる?」
「キュキュキュ!」

 マギーの問いかけに、メルルは、片方の羽を広げ了承とばかりに可愛く鳴いた。

 玲たちが見つめる中、メルルは、両方の羽を広げ、その先端にある小さな指を前へバフンと突き出した。

「キュッキュッキュー」

 その鳴き声と共に、玲たちの顔を優しい風が撫でていく。メルルが羽を傾ければ、風の向きが変化していく。右へ、左へ、顔を撫でる風の向きが変わっていく。

「風属性…」

 アレスが、ポツリと呟いた。玲とレイブン卿は、お互いの両手を握り合いながら、メルルの起こした可愛らしい風を喜び合った。

「メルル!さすがパパの子だ!」
「凄いぞメルル!いつの間に使えるようになったんだ?」
「……もしかして、あの時ですか?」
「アレス君。正解。パパの顔を蹴ってサトシの元に戻った時よ」

 レイブン卿の顎を蹴り上げ、Uターンした時、それまではヨタついてたメルルが、風に乗って玲の元へと戻ってきた。

「ハハッ」

 思い出して、またレイブン卿の機嫌が悪くなるのでは?と、チラリと表情を覗き見ると、レイブン卿は、嬉しそうに瞳を潤ませて喜んでいた。

「こりゃ、本当にお祝いだ。レイブン卿、めっちゃ美味い飯作りますんで、期待しておいてください」
「あぁ、サトシ!よろしく頼む」
「サトシ、俺も手伝います」

 玲が、立ち上がると、アレスも手伝うと立ち上がった。料理を作っている間、親子水入らずで過ごすのも良いだろう。

 せっかくだから、今日持ってきたお土産のパンも使ってみようかな。

 玲たちは、猫耳獣人のメイドの案内で、レイブン卿宅の台所に案内された。

「こちらでございます。材料は、お好きに使って頂いても問題ありません」

 丁寧にお辞儀をされ、用があれば隣の執務室で待機しているので声をかけるように言われ、メイドは去っていった。

 ただ、去り際に何故か蔑むような視線を送られたのは、気のせいか?玲は、首を傾げ、メイドの後ろ姿を見送った。

「流石、レイブン卿宅の台所ですね。コンロだけでなく、石窯もありますよ」
「食材は、こっちかな?」
「サトシもこちらの台所事情にも慣れてきましたね」
「そりゃ、俺は黒の神殿のお食事係だもん」

 神殿で、ハンバーグを作って以降、アーシェは、三日三晩ハンバーグを作り続けた。いくら、ハンバーグが美味しく料理ができるようになったとしても、三日三晩ハンバーグを食べさせられれば、根を上げる。

 三日目の夜、玲は、ディアブロに泣きつき自分に食事を作らせて欲しいと懇願した。そして、アーシェにも料理を教える事を条件に、名実ともにお食事係としての地位を得たのであった。

「サトシ!パイアですよ!パイアの油もあります!」
「ん?パイア……おぉ、豚肉じゃんってことは、こっちはラードか?」

 これで、米があればと思うのだが、玲はこの世界では、まだ米との出会いがない。野菜も果物も、名前が違うだけでほぼ同じ物が存在している。

「これは、小麦粉か……こっちの白い液体はもしかして……」

 冷蔵室に冷やされた白い液体を発見し、グラスに少量注ぎ、コクリと味見をした。

「牛乳!」
「……あぁ、アウズンブラの乳ですよ」
「じゃあ、やっぱり牛乳じゃん」

 アウズンブラは、牛に似た魔獣だ。ハンバーグのミンチ肉として利用した。ディアブロに借りた本でも姿を確認して、牛そっくりの魔獣である事を知った。

「フフフー、本日のメニューが、決まったぜ」

 玲は、材料を確認し、ニンマリと笑った。





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