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「心の準備は、出来たか?」
「キュイッ!」
アレスが、丹精込め世話をしてし色とりどりの花を咲かせている中庭で、バンパイアの娘である現在は、白いコウモリのメルルは、呼びかける玲に力強い眼差しで頷いた。
アレスに抱かれたメルルを優しく人撫ですると、玲はそのまま10歩ほど下がった。そして、ゆっくりとその場にしゃがむと大きく両手を広げた。
「さあ、来い!メルル!」
「キュッ!」
メルルは、可愛らしい声で返事をすると真っ白な翼を広げた。アレスの手のひらの上で立ち上がると、小さなつま先に力を入れた。
「キュイ~」
可愛らしい気合いの入った鳴き声と共に、手のひらを蹴って飛び出した。玲とアレスが、見守る中、一回、二回と翼をはためかせる。
傍目から見ると、小さな真っ白いコウモリが、ヨレヨレと飛んでいるだけだが、玲たちにとっては、勇気ある一歩、一飛びであった。着実に玲に近づいていくメルル。アレスも拳を握り締めメルルに必死に声援を送る。
「頑張れ!あと僅かだぞ!メルル、さあ来い」
「キュッ、キュッ、キュイ」
ばさんと玲の胸に飛び込んだメルル。玲は、優しく両腕でメルルを抱きしめた。
「キュ、キュキュ、キュキュキュイ」
「うん、うん、何言ってるかわかんないけど、すごいぞメルル!」
「す、素晴らしいです。メルル様」
玲が、この世界にやってきて一週間。玲の血液のおかげで大きく?力強く?成長したメルルの初飛行が成功した瞬間だった。
遡る事、一週間前、玲は、デーモン族のディアブロによってこの世界に召喚された。召喚された世界は、デーモン族、オーガ族、バンパイア族など魔物が棲む国プルートー。バンパイアのマギーの娘であるメルルの食糧として生きる事になった玲は、食糧としてではなく、お食事係兼お世話係として生きる道を選んだ。
そして、玲は、操術と呼ばれる魔法の事を知り、自身が操術を使える様になるために、玲をこの世界に呼び寄せた全ての元凶、デーモン族のディアブロに師事を受けることになった。
「まず、結論から申しますと、人間は、基本的に操術を使う事ができません」
「えー!じゃあ、俺って操術が使えるようにならないってことか?」
ディアブロに講義を受ける玲は、唇を尖らせ文句を言う。
「どうして、人間は操術が使えないんだ?」
「理由は、寿命の長さです。サトシ、人間の長くて100年程度しか生きられません。因みにアレスは、何歳に見えますか?」
玲が、ディアブロの講義を受ける間、代わりにメルルのお世話をしているアレスの顔をじっと見つめる。サトシの黒い瞳にじっと見つめられ、頬を染めアレスは、メルルの世話をしつつサトシの側で待機している。
「サトシ、そんなに見つめられると落ち着きません」
そんなアレスの気持ちは、無視して玲は、ディアブロに答える。
「うーん、俺の感覚からすると、25歳くらい?」
「では、メルル様は、何歳だと思いますか?」
「お包みに包まれているぐらいだから、生後半年も経っていないんじゃないかな?」
あくまで玲が、直感的に感じた年齢をディアブロに伝えた。
「まあ、サトシの感覚を基準に考えるとそれ位に見えるのでしょうが、アレスは、261歳です。因みにメルル様は、今日で生後30年です」
「え?メルル、俺よりも年上なの?」
アレスの年齢よりも、メルルが自分よりも年上という事実に驚いた。
「我々は、人間よりも悠久の時を生きます」
「それじゃあ、人間である俺は、操術を覚える事ができないってことか?」
玲は、残念そうに呟いた。
「本来なら、覚える事が出来ません」
「………本来なら?」
ディアブロは、ニヤリと口角を上げて微笑んだ。人間で合っても操術を覚える方法があるとその表情は、物語っていた。
「ディアブロ!俺にも操術を覚える方法が、あるってことだよな!」
「はい」
「よし、よし、よし!ディアブロ、その方法を教えてくれよ!!」
玲は、両腕で小さくガッツポーズをして、喜んだ。
「サトシ、君が操術を扱えるよになるのかどうか………。キーマンは、メルル様となります」
「メルル?」
「はい、メルル様です」
玲は、アレスに抱かれ眠るメルルを見た。お包みに包まれたメルル。小さな白いコウモリのメルル。バンパイアの娘であるメルル。
「サトシは、メルル様の食糧……いわゆる眷属です」
「今、食糧って言った。お食事係って言えよ。で、それが、眷属になるとどうなるんだ?」
「はい、眷属は、主を支えるべく様々な力を与えられるのです」
「じゃあ、もう俺は何かの力が与えられているということか?」
「………かも知れません」
ディアブロの説明に、一瞬喜んだが、「かも知れない」と言われ、ガクッと力が抜ける玲。相変わらず、ディアブロに一喜一憂させられている自分が、情けないと思ってしまった。
「これからメルル様は、サトシの血を与えられる事で成長なさいます。メルル様はバンパイア。しかも、次代の黒の巫女。その力は、測り得ません」
「じゃあ、メルルがすくすくと成長すれば、するほど俺も操術が使える様になるんだな」
にっこりとディアブロは、微笑んだ。玲もその笑顔を見て肯定と受け止めた。
玲は、また忘れていた。この世界に来て、何度も何度も経験しているのに。何の疑いもなく、ディアブロの言葉を鵜呑みにする。
そして、一週間後、メルルは、初飛行が出来るまでに成長した。
「キュイッ!」
アレスが、丹精込め世話をしてし色とりどりの花を咲かせている中庭で、バンパイアの娘である現在は、白いコウモリのメルルは、呼びかける玲に力強い眼差しで頷いた。
アレスに抱かれたメルルを優しく人撫ですると、玲はそのまま10歩ほど下がった。そして、ゆっくりとその場にしゃがむと大きく両手を広げた。
「さあ、来い!メルル!」
「キュッ!」
メルルは、可愛らしい声で返事をすると真っ白な翼を広げた。アレスの手のひらの上で立ち上がると、小さなつま先に力を入れた。
「キュイ~」
可愛らしい気合いの入った鳴き声と共に、手のひらを蹴って飛び出した。玲とアレスが、見守る中、一回、二回と翼をはためかせる。
傍目から見ると、小さな真っ白いコウモリが、ヨレヨレと飛んでいるだけだが、玲たちにとっては、勇気ある一歩、一飛びであった。着実に玲に近づいていくメルル。アレスも拳を握り締めメルルに必死に声援を送る。
「頑張れ!あと僅かだぞ!メルル、さあ来い」
「キュッ、キュッ、キュイ」
ばさんと玲の胸に飛び込んだメルル。玲は、優しく両腕でメルルを抱きしめた。
「キュ、キュキュ、キュキュキュイ」
「うん、うん、何言ってるかわかんないけど、すごいぞメルル!」
「す、素晴らしいです。メルル様」
玲が、この世界にやってきて一週間。玲の血液のおかげで大きく?力強く?成長したメルルの初飛行が成功した瞬間だった。
遡る事、一週間前、玲は、デーモン族のディアブロによってこの世界に召喚された。召喚された世界は、デーモン族、オーガ族、バンパイア族など魔物が棲む国プルートー。バンパイアのマギーの娘であるメルルの食糧として生きる事になった玲は、食糧としてではなく、お食事係兼お世話係として生きる道を選んだ。
そして、玲は、操術と呼ばれる魔法の事を知り、自身が操術を使える様になるために、玲をこの世界に呼び寄せた全ての元凶、デーモン族のディアブロに師事を受けることになった。
「まず、結論から申しますと、人間は、基本的に操術を使う事ができません」
「えー!じゃあ、俺って操術が使えるようにならないってことか?」
ディアブロに講義を受ける玲は、唇を尖らせ文句を言う。
「どうして、人間は操術が使えないんだ?」
「理由は、寿命の長さです。サトシ、人間の長くて100年程度しか生きられません。因みにアレスは、何歳に見えますか?」
玲が、ディアブロの講義を受ける間、代わりにメルルのお世話をしているアレスの顔をじっと見つめる。サトシの黒い瞳にじっと見つめられ、頬を染めアレスは、メルルの世話をしつつサトシの側で待機している。
「サトシ、そんなに見つめられると落ち着きません」
そんなアレスの気持ちは、無視して玲は、ディアブロに答える。
「うーん、俺の感覚からすると、25歳くらい?」
「では、メルル様は、何歳だと思いますか?」
「お包みに包まれているぐらいだから、生後半年も経っていないんじゃないかな?」
あくまで玲が、直感的に感じた年齢をディアブロに伝えた。
「まあ、サトシの感覚を基準に考えるとそれ位に見えるのでしょうが、アレスは、261歳です。因みにメルル様は、今日で生後30年です」
「え?メルル、俺よりも年上なの?」
アレスの年齢よりも、メルルが自分よりも年上という事実に驚いた。
「我々は、人間よりも悠久の時を生きます」
「それじゃあ、人間である俺は、操術を覚える事ができないってことか?」
玲は、残念そうに呟いた。
「本来なら、覚える事が出来ません」
「………本来なら?」
ディアブロは、ニヤリと口角を上げて微笑んだ。人間で合っても操術を覚える方法があるとその表情は、物語っていた。
「ディアブロ!俺にも操術を覚える方法が、あるってことだよな!」
「はい」
「よし、よし、よし!ディアブロ、その方法を教えてくれよ!!」
玲は、両腕で小さくガッツポーズをして、喜んだ。
「サトシ、君が操術を扱えるよになるのかどうか………。キーマンは、メルル様となります」
「メルル?」
「はい、メルル様です」
玲は、アレスに抱かれ眠るメルルを見た。お包みに包まれたメルル。小さな白いコウモリのメルル。バンパイアの娘であるメルル。
「サトシは、メルル様の食糧……いわゆる眷属です」
「今、食糧って言った。お食事係って言えよ。で、それが、眷属になるとどうなるんだ?」
「はい、眷属は、主を支えるべく様々な力を与えられるのです」
「じゃあ、もう俺は何かの力が与えられているということか?」
「………かも知れません」
ディアブロの説明に、一瞬喜んだが、「かも知れない」と言われ、ガクッと力が抜ける玲。相変わらず、ディアブロに一喜一憂させられている自分が、情けないと思ってしまった。
「これからメルル様は、サトシの血を与えられる事で成長なさいます。メルル様はバンパイア。しかも、次代の黒の巫女。その力は、測り得ません」
「じゃあ、メルルがすくすくと成長すれば、するほど俺も操術が使える様になるんだな」
にっこりとディアブロは、微笑んだ。玲もその笑顔を見て肯定と受け止めた。
玲は、また忘れていた。この世界に来て、何度も何度も経験しているのに。何の疑いもなく、ディアブロの言葉を鵜呑みにする。
そして、一週間後、メルルは、初飛行が出来るまでに成長した。
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