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ディアブロは、祭壇の前で胸に手を当て傅いた。祭壇には、雄々しく立派なハーデスの彫像が、祀られている。神官長であるディアブロは、午前と午後に必ずここで祈りを捧げるのが、日課だった。
後方で礼拝堂の扉が、ギィッと音を立ててゆっくりと開いた。祈りを捧げているディアブロは、祈りを終え立ち上がると後ろへ振り返った。
「サトシ、お待ちしてましたよ」
「悪い、祈りの時間を中断させてしまったんじゃないか?」
「いえ、お呼びしたのは、私です。それに、ちょうど終わったところですから、ご心配なされずとも大丈夫ですよ」
ディアブロが、玲を呼び出したのは、紛れもない事実だ。玲の傍らに立つアレスが、心配そうな顔をして彼らを見守っている。
礼拝堂には、柔らかな日が差し込み、厳かな雰囲気を醸し出している。普段は、一般の方にも開放しているらしいのだが、今日は玲の召喚の儀もあり礼拝堂には、玲たち三人しかいなかった。
「さて、サトシ。君は、何か願い事がありますか?」
「願い事?」
「はい、何でも構いませんよ」
「ち、父上!」
唐突な質問に驚く玲。アレスだけは、何か知っている様子で慌てたが、ディアブロが、自身の唇を撫で指を鳴らすと、アレスは言葉を発することが出来なくなった。
「んんー!んんんー!んんー!!!」
唇を縫い合わせられた様に開かなくなり、何を言っても「んー」としか言葉に出来ない。
「そ、操術」
「おや?もう、アレスに教えて貰いましたか。そう、コレも操術です」
アレスが、何を言っているのか判らないが、この様な使い方も出来るのかと玲は、興味深く見ていた。
「アレス。サトシなら、大丈夫です。そこで、大人しく聞いていなさい」
さらに、ディアブロが指を鳴らすとアレスの動きが完全に止まった。ただし、「んーんー」と呻いている。
「アハハハハハハ!スゲェ!石化か?麻痺か?硬直か?」
「フフフッ。首から下の拘束ですよ」
「なぁ、ディアブロ。俺も操術を使えるようになりたい!教えてくれないか?」
「んー!」
「操術をですか?覚えてどうするんですか?」
「そうだなぁ……メルルと一緒に空を飛んだり」
「飛んだり?」
「アレスと一緒に冒険したり」
「冒険したり?」
「モフモフの動物と仲良くなったりしたいな」
「それだけですか?」
目をキラキラさせて語る玲は、ディアブロの反応に唇を尖らせる。
「何だよう!?ショボいって言うのか?発想が貧富だって言うのかよう!」
「フフッ、フハハハハッ!やはり、君は、面白い良いでしょう。誓約ですからね」
ディアブロは、パチンと再び指を鳴らすとアレスの拘束と閉じられた唇が動くようになった。
「アレス、あなたの心配する様なことは何も有りませんよ」
「父上、本当ですか?」
「え?何が心配する様なことがあったの?」
あからさまにホッとするアレスを見て、玲は首を傾げた。
「だから、あなたにメルル様を委ねられるんですけどね」
ディアブロは、ポソリと呟き微笑んでいた。
「デーモン族には、ギフトという固有能力があります。ギフトとは、与える力。ただし、力を与えるには、条件があるのです」
「条件?」
「はい。それが、誓約です」
玲は、この誓約という言葉に聞き覚えがあった。食堂で、ハンバーグを皆に振る舞った時、ディアブロに言われた言葉だ。この時もアレスが、少し慌てていたことを思い出した。
「俺、知らず知らずに誓約を交わしたってこと?」
「クスッ。人聞きの悪い。ちゃんと聞きましたよ、誓約かと」
「また、謀られた!コイツは、そういう奴だった!くー」
「そして、君は、私に願い事をしました。操術を教えて欲しいとね。だから、私はサトシに操術を教えるというギフトを差し上げましょう。その代わり……」
「俺が、俺が、サトシの代わりになるから。だから、だから、サトシに対価を求めるのはやめてください!!」
アレスは、涙を流しながらディアブロに懇願した。ディアブロは、その様子をさも面白い物を見るようにクスクスと笑いながら顎に指先を当てる。人をしかも自分を庇って必死に懇願してくれているアレスを嘲笑っている様なディアブロに、だんだん玲は、腹が立ってくる。
「やい!ディアブロ。アレスは、悪くない。全て、俺の責任だ!対価とやらが必要なら、俺がくれてやる!」
「ある女性は、私に巨万の富を願いました。その女性は、対価として寿命100年を私に差し出しました」
「え?」
「ある男性は、誰からも敬われる程の名声が欲しいと望みました。そしてその男性は、愛する家族を全て失いました」
「マジ?」
玲は、ディアブロの言葉を聞いて、ゴクリと唾を飲んだ。ディアブロは、クスクスと笑いながら玲に視線を送った。
「この性悪の悪魔め…」
「君の願いは、彼らに比べれば、些細な願いです。さて、どうしますか?」
「コイツ、人の足元を見やがって」
ディアブロは、長いきれいな指をそっと玲の頬に添え上から下へとなぞった。玲も、目を逸らしたら負けると必死に耐える。
「私に股でも開きますか?」
後方で礼拝堂の扉が、ギィッと音を立ててゆっくりと開いた。祈りを捧げているディアブロは、祈りを終え立ち上がると後ろへ振り返った。
「サトシ、お待ちしてましたよ」
「悪い、祈りの時間を中断させてしまったんじゃないか?」
「いえ、お呼びしたのは、私です。それに、ちょうど終わったところですから、ご心配なされずとも大丈夫ですよ」
ディアブロが、玲を呼び出したのは、紛れもない事実だ。玲の傍らに立つアレスが、心配そうな顔をして彼らを見守っている。
礼拝堂には、柔らかな日が差し込み、厳かな雰囲気を醸し出している。普段は、一般の方にも開放しているらしいのだが、今日は玲の召喚の儀もあり礼拝堂には、玲たち三人しかいなかった。
「さて、サトシ。君は、何か願い事がありますか?」
「願い事?」
「はい、何でも構いませんよ」
「ち、父上!」
唐突な質問に驚く玲。アレスだけは、何か知っている様子で慌てたが、ディアブロが、自身の唇を撫で指を鳴らすと、アレスは言葉を発することが出来なくなった。
「んんー!んんんー!んんー!!!」
唇を縫い合わせられた様に開かなくなり、何を言っても「んー」としか言葉に出来ない。
「そ、操術」
「おや?もう、アレスに教えて貰いましたか。そう、コレも操術です」
アレスが、何を言っているのか判らないが、この様な使い方も出来るのかと玲は、興味深く見ていた。
「アレス。サトシなら、大丈夫です。そこで、大人しく聞いていなさい」
さらに、ディアブロが指を鳴らすとアレスの動きが完全に止まった。ただし、「んーんー」と呻いている。
「アハハハハハハ!スゲェ!石化か?麻痺か?硬直か?」
「フフフッ。首から下の拘束ですよ」
「なぁ、ディアブロ。俺も操術を使えるようになりたい!教えてくれないか?」
「んー!」
「操術をですか?覚えてどうするんですか?」
「そうだなぁ……メルルと一緒に空を飛んだり」
「飛んだり?」
「アレスと一緒に冒険したり」
「冒険したり?」
「モフモフの動物と仲良くなったりしたいな」
「それだけですか?」
目をキラキラさせて語る玲は、ディアブロの反応に唇を尖らせる。
「何だよう!?ショボいって言うのか?発想が貧富だって言うのかよう!」
「フフッ、フハハハハッ!やはり、君は、面白い良いでしょう。誓約ですからね」
ディアブロは、パチンと再び指を鳴らすとアレスの拘束と閉じられた唇が動くようになった。
「アレス、あなたの心配する様なことは何も有りませんよ」
「父上、本当ですか?」
「え?何が心配する様なことがあったの?」
あからさまにホッとするアレスを見て、玲は首を傾げた。
「だから、あなたにメルル様を委ねられるんですけどね」
ディアブロは、ポソリと呟き微笑んでいた。
「デーモン族には、ギフトという固有能力があります。ギフトとは、与える力。ただし、力を与えるには、条件があるのです」
「条件?」
「はい。それが、誓約です」
玲は、この誓約という言葉に聞き覚えがあった。食堂で、ハンバーグを皆に振る舞った時、ディアブロに言われた言葉だ。この時もアレスが、少し慌てていたことを思い出した。
「俺、知らず知らずに誓約を交わしたってこと?」
「クスッ。人聞きの悪い。ちゃんと聞きましたよ、誓約かと」
「また、謀られた!コイツは、そういう奴だった!くー」
「そして、君は、私に願い事をしました。操術を教えて欲しいとね。だから、私はサトシに操術を教えるというギフトを差し上げましょう。その代わり……」
「俺が、俺が、サトシの代わりになるから。だから、だから、サトシに対価を求めるのはやめてください!!」
アレスは、涙を流しながらディアブロに懇願した。ディアブロは、その様子をさも面白い物を見るようにクスクスと笑いながら顎に指先を当てる。人をしかも自分を庇って必死に懇願してくれているアレスを嘲笑っている様なディアブロに、だんだん玲は、腹が立ってくる。
「やい!ディアブロ。アレスは、悪くない。全て、俺の責任だ!対価とやらが必要なら、俺がくれてやる!」
「ある女性は、私に巨万の富を願いました。その女性は、対価として寿命100年を私に差し出しました」
「え?」
「ある男性は、誰からも敬われる程の名声が欲しいと望みました。そしてその男性は、愛する家族を全て失いました」
「マジ?」
玲は、ディアブロの言葉を聞いて、ゴクリと唾を飲んだ。ディアブロは、クスクスと笑いながら玲に視線を送った。
「この性悪の悪魔め…」
「君の願いは、彼らに比べれば、些細な願いです。さて、どうしますか?」
「コイツ、人の足元を見やがって」
ディアブロは、長いきれいな指をそっと玲の頬に添え上から下へとなぞった。玲も、目を逸らしたら負けると必死に耐える。
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