どうぞ、お召し上がりください。魔物の国のお食事係の奮闘記

りんくま

文字の大きさ
上 下
12 / 59

12

しおりを挟む
「テメエら、待たせたなぁ」

 玲とアレスが、目玉焼きの乗ったハンバーグが盛り付けられた皿を一人一人の目の前に置いて行く。初めて見るハンバーグを皆が皆食い入る様に見つめる。アストロとアガレスは、小腹を満たす為、アーシェが焼いた肉を貪り食べていたにも関わらず、喉をゴクリと鳴らす。

「初めて見る食い物だ」
「肉の匂いがするが、肉なのか?肉で間違いないのか?」

 早く食わせろと言わんばかりに、鼻を皿に近づけて、鼻をヒクヒクさせ匂いを嗅いでいる。

「どうするアンジュ。私たち、負け確定よ」
「アフィ。残念ながら、母さんに掛けさせられた時点で、私たちの負けは、決まっていたのよ。諦めるしかないわ」

 アンジュとアフィは、一縷の望みを持って勝負に勝つ事を望んでいたらしい。

 アーシェは、皿を持って匂いを嗅いだり上から下からそして真横からとハンバーグを観察している。ディアブロは、………メルルをあやしながら優雅にウバ茶を飲んでいる。相変わらず、マイペースな男だと玲は、思った。
 
「ディアブロ、メルルを預かってくれてありがとう。アンタの分もあるから、俺の料理を食べてくれるかい?」
「サ、サトシ!」
「え?」

 アレスが、玲を呼びかけるが、ディアブロは、手のひらをアレスに向け、発言を制した。

「私に料理をですか?………宜しいでしょう誓約と承らせていただきます」
「誓約?」

 にっこりと微笑んでメルルを玲に返すと、ディアブロは、ハンバーグをフォークとナイフを使って一口、上品に口に運んだ。賑やかだった食堂は、いつしかシンっと静まり返っていた。ゆっくりと咀嚼して喉が上下していく。

「私は、デーモン族。ディアブロ・シャイターン。サトシからの供物確かに承りましたよ」
「そんなこと、改めて言わなくても解ってるって。供物って何だよ、仰々しい」
「ち、父上!サトシは、この世界の理を知りません」

 ディアブロを諌めるアレスに、何となく嫌な予感を感じた。名前も、ファミリーネームも、種族も、性格でさえ、全てが悪魔であるこの男の胡散臭さを思い出す。ディアブロと目が合うと、ニッコリと微笑み返され、玲は、背中からゾクゾクっと鳥肌を立てた。

「そんな、威嚇する猫の様に、警戒心を出さなくても、大丈夫ですよ」
「いや、お前の笑顔の裏には、毒だらけだ!」
「でも、誓約しましたから、もう手遅れですよ」
「父上!」

 クスクスと笑うディアブロに、アレスは玲を胸の中に抱きしめて、ディアブロから遠ざける。

「兄ちゃんマジだわ」
「だね」
「それより、もう、食って良いのか?」
「腹減った」
「そうですね。サトシ、この話は食後にでも……。さあ、二人とも座りなさい」
「そ、それもそうだな」

 玲が、アレスの胸を軽く押し、離れて席に着く。ハンバーグをキラキラした目で見つめるオーガたちを見て、にっこりと笑った。

「それじゃあ、存分に味わってくれ」

 サトシの合図と共に、各々手に持ったフォークをハンバーグに突き刺した。アガレスとアストロは、目玉焼きごとハンバーグを突き刺し、持ち上げてダイレクトに齧り付き、女の子のアンジュとアフィは、ちょっとずつフォークでカットしたハンバーグを口に運ぶ。アーシェは、料理音痴であるにも関わらず、少量ずつ味を吟味しながら、ナイフとフォークを使って食べている。

「うんめぇ!!」
「何だったんだ今まで食べていた物は!」
「確かに、美味しいわ」
「コカトリスの卵が、お肉の味を引き立ててるわ」

 アレスの弟妹たちからは、美味しいと絶賛。それをなぜか、アレスが誇らしげにうんうんと頷いている。玲は、自分が作った料理を喜んで貰えるのは嬉しかったが、一人難しい顔をしてハンバーグを食べているアーシェのことが、気になっていた。

 料理音痴とはいえ、今までこの大食感たちの胃袋を管理していたのは、間違いなく母であるアーシェだ。

 売り言葉に買い言葉。不味い飯を食べさせられるのは勘弁願いたいが、アーシェの立場を悪くするつもりは、毛頭ない。

 アーシェは、ナイフとフォークを握りしめたまま、両手をダンとテーブルに大きな音を立てて叩きつけて上を向いた。

 一瞬で静まり返る食堂。全員が、アーシェの様子を黙って見守る。玲が、ディアブロに視線を送るもどこ吹く風、和かな笑顔のまま、口元をナプキンで拭っていた。

「ククッ、クククククッ、アハハハハハハ!!」

 だんだんと大きな声を上げて笑い出すアーシェ。両手は、ナイフとフォークを握ったままだ。

「あの、アーシェさん?」
「いやあ、参った、参ったよ」

 一頻り、大きな声で笑ったアーシェは、優しい笑顔で玲を見つめた。

「怒ってないんですか?」
「何で?美味しい物を食べて、怒る奴がいるのか?」
「いや、でも、俺、アーシェさんを傷つけたんじゃ」

 玲の発言にキョトンとするアーシェ。その様子を見て、アストロを始め、オーガ弟妹たちが、大爆笑し始めた。

「ぎゃはははは!母ちゃんの料理が、くそ不味いのは、今に始まったことじゃない」
「そうさ、母ちゃん自身も、くそ不味いって解ってら」
「おい、テメエら!そこまで笑うなよ」
「でも、ママもどうしても美味しくないって言ってたじゃん」
「だね」

 ゲラゲラと笑いながら、いかに不味い料理なのかを語ってくれた。

「私の妻は、その程度で起こる様な狭量ではないですよ」
「さすが、私の旦那!愛してるぞ」

 いきなりの惚気に毒気を抜かれる玲。アレスは、頬をかきながら小さく「すみません」と小声で謝ってきた。

「サトシ!私にハーンバーグとやらの作り方を教えてくれ!」
「別に構わないけど?」
「よーし、テメエら、まだ腹減ってるだろう。今からサトシに教えてもらうから、腹すかして待ってろ」
「え?…ええ?」

 否応なしに、そのままアーシェに台所へ連れて行かれた玲。アーシェにハンバーグの作り方を教える羽目になったのだった。



 

 








 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

望んでいないのに転生してしまいました。

ナギサ コウガ
ファンタジー
長年病院に入院していた僕が気づいたら転生していました。 折角寝たきりから健康な体を貰ったんだから新しい人生を楽しみたい。 ・・と、思っていたんだけど。 そう上手くはいかないもんだね。

Sランクパーティを引退したおっさんは故郷でスローライフがしたい。~王都に残した仲間が事あるごとに呼び出してくる~

味のないお茶
ファンタジー
Sランクパーティのリーダーだったベルフォードは、冒険者歴二十年のベテランだった。 しかし、加齢による衰えを感じていた彼は後人に愛弟子のエリックを指名し一年間見守っていた。 彼のリーダー能力に安心したベルフォードは、冒険者家業の引退を決意する。 故郷に帰ってゆっくりと日々を過しながら、剣術道場を開いて結婚相手を探そう。 そう考えていたベルフォードだったが、周りは彼をほっておいてはくれなかった。 これはスローライフがしたい凄腕のおっさんと、彼を慕う人達が織り成す物語。

もしかして寝てる間にざまぁしました?

ぴぴみ
ファンタジー
令嬢アリアは気が弱く、何をされても言い返せない。 内気な性格が邪魔をして本来の能力を活かせていなかった。 しかし、ある時から状況は一変する。彼女を馬鹿にし嘲笑っていた人間が怯えたように見てくるのだ。 私、寝てる間に何かしました?

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

いっとう愚かで、惨めで、哀れな末路を辿るはずだった令嬢の矜持

空月
ファンタジー
古くからの名家、貴き血を継ぐローゼンベルグ家――その末子、一人娘として生まれたカトレア・ローゼンベルグは、幼い頃からの婚約者に婚約破棄され、遠方の別荘へと療養の名目で送られた。 その道中に惨めに死ぬはずだった未来を、突然現れた『バグ』によって回避して、ただの『カトレア』として生きていく話。 ※悪役令嬢で婚約破棄物ですが、ざまぁもスッキリもありません。 ※以前投稿していた「いっとう愚かで惨めで哀れだった令嬢の果て」改稿版です。文章量が1.5倍くらいに増えています。

病弱少年が怪我した小鳥を偶然テイムして、冒険者ギルドの採取系クエストをやらせていたら、知らないうちにLV99になってました。

もう書かないって言ったよね?
ファンタジー
 ベッドで寝たきりだった少年が、ある日、家の外で怪我している青い小鳥『ピーちゃん』を助けたことから二人の大冒険の日々が始まった。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

処理中です...