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「テメエら、待たせたなぁ」
玲とアレスが、目玉焼きの乗ったハンバーグが盛り付けられた皿を一人一人の目の前に置いて行く。初めて見るハンバーグを皆が皆食い入る様に見つめる。アストロとアガレスは、小腹を満たす為、アーシェが焼いた肉を貪り食べていたにも関わらず、喉をゴクリと鳴らす。
「初めて見る食い物だ」
「肉の匂いがするが、肉なのか?肉で間違いないのか?」
早く食わせろと言わんばかりに、鼻を皿に近づけて、鼻をヒクヒクさせ匂いを嗅いでいる。
「どうするアンジュ。私たち、負け確定よ」
「アフィ。残念ながら、母さんに掛けさせられた時点で、私たちの負けは、決まっていたのよ。諦めるしかないわ」
アンジュとアフィは、一縷の望みを持って勝負に勝つ事を望んでいたらしい。
アーシェは、皿を持って匂いを嗅いだり上から下からそして真横からとハンバーグを観察している。ディアブロは、………メルルをあやしながら優雅にウバ茶を飲んでいる。相変わらず、マイペースな男だと玲は、思った。
「ディアブロ、メルルを預かってくれてありがとう。アンタの分もあるから、俺の料理を食べてくれるかい?」
「サ、サトシ!」
「え?」
アレスが、玲を呼びかけるが、ディアブロは、手のひらをアレスに向け、発言を制した。
「私に料理をですか?………宜しいでしょう誓約と承らせていただきます」
「誓約?」
にっこりと微笑んでメルルを玲に返すと、ディアブロは、ハンバーグをフォークとナイフを使って一口、上品に口に運んだ。賑やかだった食堂は、いつしかシンっと静まり返っていた。ゆっくりと咀嚼して喉が上下していく。
「私は、デーモン族。ディアブロ・シャイターン。サトシからの供物確かに承りましたよ」
「そんなこと、改めて言わなくても解ってるって。供物って何だよ、仰々しい」
「ち、父上!サトシは、この世界の理を知りません」
ディアブロを諌めるアレスに、何となく嫌な予感を感じた。名前も、ファミリーネームも、種族も、性格でさえ、全てが悪魔であるこの男の胡散臭さを思い出す。ディアブロと目が合うと、ニッコリと微笑み返され、玲は、背中からゾクゾクっと鳥肌を立てた。
「そんな、威嚇する猫の様に、警戒心を出さなくても、大丈夫ですよ」
「いや、お前の笑顔の裏には、毒だらけだ!」
「でも、誓約しましたから、もう手遅れですよ」
「父上!」
クスクスと笑うディアブロに、アレスは玲を胸の中に抱きしめて、ディアブロから遠ざける。
「兄ちゃんマジだわ」
「だね」
「それより、もう、食って良いのか?」
「腹減った」
「そうですね。サトシ、この話は食後にでも……。さあ、二人とも座りなさい」
「そ、それもそうだな」
玲が、アレスの胸を軽く押し、離れて席に着く。ハンバーグをキラキラした目で見つめるオーガたちを見て、にっこりと笑った。
「それじゃあ、存分に味わってくれ」
サトシの合図と共に、各々手に持ったフォークをハンバーグに突き刺した。アガレスとアストロは、目玉焼きごとハンバーグを突き刺し、持ち上げてダイレクトに齧り付き、女の子のアンジュとアフィは、ちょっとずつフォークでカットしたハンバーグを口に運ぶ。アーシェは、料理音痴であるにも関わらず、少量ずつ味を吟味しながら、ナイフとフォークを使って食べている。
「うんめぇ!!」
「何だったんだ今まで食べていた物は!」
「確かに、美味しいわ」
「コカトリスの卵が、お肉の味を引き立ててるわ」
アレスの弟妹たちからは、美味しいと絶賛。それをなぜか、アレスが誇らしげにうんうんと頷いている。玲は、自分が作った料理を喜んで貰えるのは嬉しかったが、一人難しい顔をしてハンバーグを食べているアーシェのことが、気になっていた。
料理音痴とはいえ、今までこの大食感たちの胃袋を管理していたのは、間違いなく母であるアーシェだ。
売り言葉に買い言葉。不味い飯を食べさせられるのは勘弁願いたいが、アーシェの立場を悪くするつもりは、毛頭ない。
アーシェは、ナイフとフォークを握りしめたまま、両手をダンとテーブルに大きな音を立てて叩きつけて上を向いた。
一瞬で静まり返る食堂。全員が、アーシェの様子を黙って見守る。玲が、ディアブロに視線を送るもどこ吹く風、和かな笑顔のまま、口元をナプキンで拭っていた。
「ククッ、クククククッ、アハハハハハハ!!」
だんだんと大きな声を上げて笑い出すアーシェ。両手は、ナイフとフォークを握ったままだ。
「あの、アーシェさん?」
「いやあ、参った、参ったよ」
一頻り、大きな声で笑ったアーシェは、優しい笑顔で玲を見つめた。
「怒ってないんですか?」
「何で?美味しい物を食べて、怒る奴がいるのか?」
「いや、でも、俺、アーシェさんを傷つけたんじゃ」
玲の発言にキョトンとするアーシェ。その様子を見て、アストロを始め、オーガ弟妹たちが、大爆笑し始めた。
「ぎゃはははは!母ちゃんの料理が、くそ不味いのは、今に始まったことじゃない」
「そうさ、母ちゃん自身も、くそ不味いって解ってら」
「おい、テメエら!そこまで笑うなよ」
「でも、ママもどうしても美味しくないって言ってたじゃん」
「だね」
ゲラゲラと笑いながら、いかに不味い料理なのかを語ってくれた。
「私の妻は、その程度で起こる様な狭量ではないですよ」
「さすが、私の旦那!愛してるぞ」
いきなりの惚気に毒気を抜かれる玲。アレスは、頬をかきながら小さく「すみません」と小声で謝ってきた。
「サトシ!私にハーンバーグとやらの作り方を教えてくれ!」
「別に構わないけど?」
「よーし、テメエら、まだ腹減ってるだろう。今からサトシに教えてもらうから、腹すかして待ってろ」
「え?…ええ?」
否応なしに、そのままアーシェに台所へ連れて行かれた玲。アーシェにハンバーグの作り方を教える羽目になったのだった。
玲とアレスが、目玉焼きの乗ったハンバーグが盛り付けられた皿を一人一人の目の前に置いて行く。初めて見るハンバーグを皆が皆食い入る様に見つめる。アストロとアガレスは、小腹を満たす為、アーシェが焼いた肉を貪り食べていたにも関わらず、喉をゴクリと鳴らす。
「初めて見る食い物だ」
「肉の匂いがするが、肉なのか?肉で間違いないのか?」
早く食わせろと言わんばかりに、鼻を皿に近づけて、鼻をヒクヒクさせ匂いを嗅いでいる。
「どうするアンジュ。私たち、負け確定よ」
「アフィ。残念ながら、母さんに掛けさせられた時点で、私たちの負けは、決まっていたのよ。諦めるしかないわ」
アンジュとアフィは、一縷の望みを持って勝負に勝つ事を望んでいたらしい。
アーシェは、皿を持って匂いを嗅いだり上から下からそして真横からとハンバーグを観察している。ディアブロは、………メルルをあやしながら優雅にウバ茶を飲んでいる。相変わらず、マイペースな男だと玲は、思った。
「ディアブロ、メルルを預かってくれてありがとう。アンタの分もあるから、俺の料理を食べてくれるかい?」
「サ、サトシ!」
「え?」
アレスが、玲を呼びかけるが、ディアブロは、手のひらをアレスに向け、発言を制した。
「私に料理をですか?………宜しいでしょう誓約と承らせていただきます」
「誓約?」
にっこりと微笑んでメルルを玲に返すと、ディアブロは、ハンバーグをフォークとナイフを使って一口、上品に口に運んだ。賑やかだった食堂は、いつしかシンっと静まり返っていた。ゆっくりと咀嚼して喉が上下していく。
「私は、デーモン族。ディアブロ・シャイターン。サトシからの供物確かに承りましたよ」
「そんなこと、改めて言わなくても解ってるって。供物って何だよ、仰々しい」
「ち、父上!サトシは、この世界の理を知りません」
ディアブロを諌めるアレスに、何となく嫌な予感を感じた。名前も、ファミリーネームも、種族も、性格でさえ、全てが悪魔であるこの男の胡散臭さを思い出す。ディアブロと目が合うと、ニッコリと微笑み返され、玲は、背中からゾクゾクっと鳥肌を立てた。
「そんな、威嚇する猫の様に、警戒心を出さなくても、大丈夫ですよ」
「いや、お前の笑顔の裏には、毒だらけだ!」
「でも、誓約しましたから、もう手遅れですよ」
「父上!」
クスクスと笑うディアブロに、アレスは玲を胸の中に抱きしめて、ディアブロから遠ざける。
「兄ちゃんマジだわ」
「だね」
「それより、もう、食って良いのか?」
「腹減った」
「そうですね。サトシ、この話は食後にでも……。さあ、二人とも座りなさい」
「そ、それもそうだな」
玲が、アレスの胸を軽く押し、離れて席に着く。ハンバーグをキラキラした目で見つめるオーガたちを見て、にっこりと笑った。
「それじゃあ、存分に味わってくれ」
サトシの合図と共に、各々手に持ったフォークをハンバーグに突き刺した。アガレスとアストロは、目玉焼きごとハンバーグを突き刺し、持ち上げてダイレクトに齧り付き、女の子のアンジュとアフィは、ちょっとずつフォークでカットしたハンバーグを口に運ぶ。アーシェは、料理音痴であるにも関わらず、少量ずつ味を吟味しながら、ナイフとフォークを使って食べている。
「うんめぇ!!」
「何だったんだ今まで食べていた物は!」
「確かに、美味しいわ」
「コカトリスの卵が、お肉の味を引き立ててるわ」
アレスの弟妹たちからは、美味しいと絶賛。それをなぜか、アレスが誇らしげにうんうんと頷いている。玲は、自分が作った料理を喜んで貰えるのは嬉しかったが、一人難しい顔をしてハンバーグを食べているアーシェのことが、気になっていた。
料理音痴とはいえ、今までこの大食感たちの胃袋を管理していたのは、間違いなく母であるアーシェだ。
売り言葉に買い言葉。不味い飯を食べさせられるのは勘弁願いたいが、アーシェの立場を悪くするつもりは、毛頭ない。
アーシェは、ナイフとフォークを握りしめたまま、両手をダンとテーブルに大きな音を立てて叩きつけて上を向いた。
一瞬で静まり返る食堂。全員が、アーシェの様子を黙って見守る。玲が、ディアブロに視線を送るもどこ吹く風、和かな笑顔のまま、口元をナプキンで拭っていた。
「ククッ、クククククッ、アハハハハハハ!!」
だんだんと大きな声を上げて笑い出すアーシェ。両手は、ナイフとフォークを握ったままだ。
「あの、アーシェさん?」
「いやあ、参った、参ったよ」
一頻り、大きな声で笑ったアーシェは、優しい笑顔で玲を見つめた。
「怒ってないんですか?」
「何で?美味しい物を食べて、怒る奴がいるのか?」
「いや、でも、俺、アーシェさんを傷つけたんじゃ」
玲の発言にキョトンとするアーシェ。その様子を見て、アストロを始め、オーガ弟妹たちが、大爆笑し始めた。
「ぎゃはははは!母ちゃんの料理が、くそ不味いのは、今に始まったことじゃない」
「そうさ、母ちゃん自身も、くそ不味いって解ってら」
「おい、テメエら!そこまで笑うなよ」
「でも、ママもどうしても美味しくないって言ってたじゃん」
「だね」
ゲラゲラと笑いながら、いかに不味い料理なのかを語ってくれた。
「私の妻は、その程度で起こる様な狭量ではないですよ」
「さすが、私の旦那!愛してるぞ」
いきなりの惚気に毒気を抜かれる玲。アレスは、頬をかきながら小さく「すみません」と小声で謝ってきた。
「サトシ!私にハーンバーグとやらの作り方を教えてくれ!」
「別に構わないけど?」
「よーし、テメエら、まだ腹減ってるだろう。今からサトシに教えてもらうから、腹すかして待ってろ」
「え?…ええ?」
否応なしに、そのままアーシェに台所へ連れて行かれた玲。アーシェにハンバーグの作り方を教える羽目になったのだった。
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