どうぞ、お召し上がりください。魔物の国のお食事係の奮闘記

りんくま

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 挑発。玲は、アストロとアガレスのニヤついた視線をそう感じ取った。今度は、フォークを手に取り、皿の上をじっと見つめる。

 この肉っぽい塊から聞こえた有り得ない咀嚼音。石か骨かを噛み砕いているかの様な音だった。強靭な顎を持つオーガ族だから、咀嚼できるというのだろうか?幸い、玲の皿の上には一口サイズの塊しか乗っていない。

 そっと塊の上にフォークの先を当てがった。………刺さらない。グッと力を込めてもコロンと皿の上で、向きを変える塊。結局、玲は、フォークを突き刺す事を諦め、スプーンの様に使って塊を掬った。

 先程の経験から、いきなり口の中に放り込まず、くんくんと鼻で匂いを嗅いだ。残念ながら、先程のスープのせいで、嗅覚が馬鹿になっている。何となく香ばしい匂いを感じ、問題ないと判断した玲は、パクリと口に放り込んだ。

「…………!!辛ッ!!痛い!!アツッ!!」

 辛味は、限界を越えると痛覚を感じることがある。塊に歯を立てるが、全く歯が立たない。強烈な辛味と痛みが、玲を襲った。どこに歯を立てても噛めない。咀嚼ができない為、飲み込むこともできず、塊を飴玉の様に転がす。

 飴玉と違うのは、溶けて無くならないこと。永遠と続く辛味の地獄。ついに玲も限界を迎える。

「俺の世界では、一度口に入れた食べ物は、吐いてはならない。そう言ったマナーがあるんですが、もう無理だ!」

 玲は、ナプキンを口元に当て、ぺっと肉っぽい塊を吐き出した。

「やっぱりな、アフィ、アンジュ、この勝負俺たちの勝ちだ」
「え~、やっぱり私たちの負け?」
「ちょっと待て!お前ら、勝ち負けって、何言ってんだ?」

 勝手に賭けの対象にされた玲は、アストロとアガレスに説明を求めた。今までずっと黙っていたアーシェが、ブスッとした表情で口を開いた。

「クソッ!どうせまた、クソ不味いとか言うんだろ」

 頬杖をついて不貞腐れた様子のアーシェは、唇を尖らしていた。ディアブロは、クスクスと笑いながらアーシェの頭を抱き寄せつむじに唇を落とす。

「アーシェの料理は、独創的ですからね。だけど、私はそんなアーシェの料理を食べる人の顔を見るのが大好きなんです。これからも、腕に寄りをかけて作ってください」

 。そう言われれば聞こえが良いが、決して万人受けしないということではないか?

「俺たちオーガは、繊細な作業が苦手なので、料理などは、焼く、煮る、などなので、味付けは全て何となくなんです」

 アレスは、申し訳なさそうに玲へ説明をした。

「え?え?そ、それじゃ、俺、ずっとこんなのを食べさせられるの?」
「おや?私の妻の手料理が不満だと?」
「何、良い夫のセリフみたいな事言ってんだ。ディアブロ、お前、はっきり言って、一口も食べてないじゃねぇか!自分の嫁の手料理を食べてから、発言しろ!……あ」

 ディアブロに抱き寄せられたままのアーシェが、ギロリとしたから今にも玲に襲いかかりそうな殺気を込めた視線で睨みつけている。

 玲も全てぶちまけてしまった後に、自分の失言に気がついた。

 ゆらりとアーシェは、立ち上がり、ボキボキと指を鳴らす。

「テメェ、そこまで言うんなら、きっと美味いもんを作ってくれるんだろうな?」

 何で、こんなクソ不味い、料理を作っておきながら、こんなに偉そうなんだ?そんなことを思いつつも、数多くの飲食店でバイトに励んでいた玲からすれば、いや、玲でなくてもアーシェよりは美味しい料理を作ることはできるだろうと考え直した。

「びっくりする様な、美味い飯。俺なら作れるぜ」

 アーシェという最低ランクの基準という根拠のみの自信から、玲は胸を張ってアーシェに答えた。ギラリと光るアーシェの瞳。

「よし!ならば、私を唸らす様な飯を作ってみろ」
「クソッ、やってやろうじゃんか」
「お?なら、俺たちはサトシにベッドするぜ!」
「え~。ズルい」
「早い者勝ちさ。アフィとアンジュは、母ちゃんな」

 勝負となれば、オーガ兄妹は、直ぐ様に賭けの対象と考える。何をかけているのか判らないが、先一番に玲にかけたアストロとアガレスに期待されているのかと思うと、少しプレッシャーを感じてしまう。

「父上!サトシ様は、プルートーに召喚されて間もないです。何も知らないというハンデは大きすぎます。俺が補助したいのですが構いませんよね?」
「そうですね。アレスには、サトシのお世話をお願いしましたし、構わないでしょう。サトシ、メルル様をこちらへ。いったん私がお預かりしましょう」

 玲は、首から下げていたお包みに包まれたメルルを撫でると「頼みます」と言ってディアブロに預けた。アレスの後ろを追い、台所の手前で立ち止まると両頬をパチンと叩き、気合いを入れた。






 



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