6 / 59
6
しおりを挟む
「サトシ様、こちらが食堂になります」
食堂は、大きなテーブルが部屋のど真ん中に置かれて、その周りを10脚の椅子が置かれている。食堂の隣に見えるのが台所だろう。アーシェの後ろ姿が見えるところから、本日の食事は、アーシェが作っているのだと判断できた。
アレスが、椅子を引いてくれたので、玲は、ありがとうとお礼を伝え、その席に座った。テーブルの真ん中には、ディアブロに食べさせられた、美味しくないモサモサとしたお菓子がお皿にドッサリと置かれていた。
「小腹が空いているようでしたら、それを摘んでいても構いませんよ?」
「……大丈夫」
玲とアレスのやりとりを見ていたディアブロは、玲の気持ちを理解しているのかクスクスと笑っていた。
「アレス、サトシにウバ茶を用意してあげてください」
「はい、父上」
アレスは、台所からコップと何やら蠢く物が大量に載せられた大皿を持って、玲の元に戻ってきた。
テーブルに置かれた大皿を見て、玲は、あんぐりと口を開けて固まった。尻尾のついた大きな芋虫が、ウネウネと皿の上で蠢いていたからだ。
「ア、アレス君。コレは、な、何かな?」
玲は、大皿の上で蠢く何かを凝視しながら、恐る恐る尋ねた。キョトンとしたアレスは、玲が皿をじっと見ている事に気が付いた。
ディアブロは、玲を見て苛虐心が疼き、ニヤリと笑みを浮かべる。
「サトシが、先ほど飲んでいたウバ茶です。アレス、さあ、サトシに説明をしてあげて」
涙をうっすら浮かべ、皿を凝視する玲を見て、ディアブロは、玲がウバのフォルムに嫌悪感を抱いているのだと感じた。
「あぁ、コレはウバの実ですよ。採れたてで、新鮮ですよ」
「身……獲りたて……って生きたままじゃんコレ!」
「アレス、是非新鮮な搾り立てのウバ茶を淹れて差し上げなさい」
「し、搾りたて?」
玲は、縋るような目でアレスの服の裾を掴んで見上げた。アレスは、潤んだ玲の瞳に頬を赤らめる。
(サトシ様のご期待に応えなくては)
ディアブロは、頬を赤らめるアレスの様子を見て、さも面白いものを見るように笑った。アレスは、玲に頼られていると思い込み、突っ走ってしまっている。
「サトシ様、見ていてくださいね」
「ひっ!」
玲が、短い悲鳴をあげているのにも気づくことはなかった。ディアブロは、我が子に訪れた遅い春を温かく見守っていこうと建前上思う事にした。本音は、こんな面白いことを止めさせるのは、勿体ないという気持ちだけだ。
アレスは、ウバに生えている尻尾のようなところを摘むと玲の目線の高さに合わせ、目の前のグラスの上で、しっかり玲に見えるように位置をキープした。
うにょん、うにょんと大きな芋虫のようなウバの実が、玲の目の前で蠢く。日本育ちの現代っ子、大都会とは言わないが、ど田舎ではない所で暮らしていた玲は、芋虫と戯れると言った経験は無い。
「ウバをこの様に吊るして、もう片方の手で上から順々に指を握っていくのです」
アレスが、右手を添え、牛の乳を搾るように、親指と人差し指を握り、中指、薬指、小指と順番に握り込んだ。
ウバの実の先端の黒い顔のような所がピリっと裂けて、玲の目の前に置かれたグラスへ勢いよくブシャッと液体が注がれた。
「ひいぃぃ!」
玲の腕の中でスヤスヤと眠っていたメルルが、玲の悲鳴を聞きゆっくりと目を開けた。小さな鼻をヒクヒクと動かすと、テーブルの上に大量に置いてあるウバの実に気がついた。
メルルは、お包みの中でモゾモゾと動き、羽根がついている可愛い両腕をウバの実に向かって伸ばした。
「アーアーアー」
「お目覚めですか?あぁ、メルル様は、ウバの実が大好きでしたね。アレス、メルル様にも一つ渡して差し上げなさい」
アレスは、頷くと、皿の上で一際大きく蠢くウバの実を摘むと、そのままメルルに手渡した。
そして大きく口を開けると、ウバの実の顔のような部分へ齧り付いた。
ちゅばっ、ちゅばっ、ちゅばっ
メルルが、勢いよくウバの実を啜っていく。ぷりぷりっとしていた実が、みるみる萎んでいく様は、玲からすると芋虫が、ミイラ化していくように見えた。
思わずアレスの腕を握る玲に、アレスは、頬を赤らめて嬉しそうに笑った。
「腹減った~」
「母ちゃん飯!」
玲が、アレスの腕を掴んだまま呆けていると、ディアブロの双子の息子であるアストロとアガレスが、食堂に入ってきた。アレスの弟でもある二人には、まだ幼さが残る顔立ちだが、オーガという種族の為か、アーシェやアレスより、体はひと回り、二回り小さくとも、玲よりも遥かに逞しい体つきである。
「やった!ウバの実じゃん」
アストロが、テーブルの上のウバの実を掴むと、そのままそのまま大きく口を開けて丸ごと放り込んだ。同様に、アガレスもガシっと鷲掴みすると口の中に放り込む。
「やっぱ、果物は丸齧りが一番うめぇよな!」
唇の端からウバの実の果汁を垂らしながらアストロとアガレスは、ガシュガシュと音を立てて咀嚼し、指先で唇を拭った。
「へ?果物?」
「おや、お気づきになられましたか?残念ですね」
ディアブロは、楽しみの一つが減ってしまった事をとても残念に思った。
食堂は、大きなテーブルが部屋のど真ん中に置かれて、その周りを10脚の椅子が置かれている。食堂の隣に見えるのが台所だろう。アーシェの後ろ姿が見えるところから、本日の食事は、アーシェが作っているのだと判断できた。
アレスが、椅子を引いてくれたので、玲は、ありがとうとお礼を伝え、その席に座った。テーブルの真ん中には、ディアブロに食べさせられた、美味しくないモサモサとしたお菓子がお皿にドッサリと置かれていた。
「小腹が空いているようでしたら、それを摘んでいても構いませんよ?」
「……大丈夫」
玲とアレスのやりとりを見ていたディアブロは、玲の気持ちを理解しているのかクスクスと笑っていた。
「アレス、サトシにウバ茶を用意してあげてください」
「はい、父上」
アレスは、台所からコップと何やら蠢く物が大量に載せられた大皿を持って、玲の元に戻ってきた。
テーブルに置かれた大皿を見て、玲は、あんぐりと口を開けて固まった。尻尾のついた大きな芋虫が、ウネウネと皿の上で蠢いていたからだ。
「ア、アレス君。コレは、な、何かな?」
玲は、大皿の上で蠢く何かを凝視しながら、恐る恐る尋ねた。キョトンとしたアレスは、玲が皿をじっと見ている事に気が付いた。
ディアブロは、玲を見て苛虐心が疼き、ニヤリと笑みを浮かべる。
「サトシが、先ほど飲んでいたウバ茶です。アレス、さあ、サトシに説明をしてあげて」
涙をうっすら浮かべ、皿を凝視する玲を見て、ディアブロは、玲がウバのフォルムに嫌悪感を抱いているのだと感じた。
「あぁ、コレはウバの実ですよ。採れたてで、新鮮ですよ」
「身……獲りたて……って生きたままじゃんコレ!」
「アレス、是非新鮮な搾り立てのウバ茶を淹れて差し上げなさい」
「し、搾りたて?」
玲は、縋るような目でアレスの服の裾を掴んで見上げた。アレスは、潤んだ玲の瞳に頬を赤らめる。
(サトシ様のご期待に応えなくては)
ディアブロは、頬を赤らめるアレスの様子を見て、さも面白いものを見るように笑った。アレスは、玲に頼られていると思い込み、突っ走ってしまっている。
「サトシ様、見ていてくださいね」
「ひっ!」
玲が、短い悲鳴をあげているのにも気づくことはなかった。ディアブロは、我が子に訪れた遅い春を温かく見守っていこうと建前上思う事にした。本音は、こんな面白いことを止めさせるのは、勿体ないという気持ちだけだ。
アレスは、ウバに生えている尻尾のようなところを摘むと玲の目線の高さに合わせ、目の前のグラスの上で、しっかり玲に見えるように位置をキープした。
うにょん、うにょんと大きな芋虫のようなウバの実が、玲の目の前で蠢く。日本育ちの現代っ子、大都会とは言わないが、ど田舎ではない所で暮らしていた玲は、芋虫と戯れると言った経験は無い。
「ウバをこの様に吊るして、もう片方の手で上から順々に指を握っていくのです」
アレスが、右手を添え、牛の乳を搾るように、親指と人差し指を握り、中指、薬指、小指と順番に握り込んだ。
ウバの実の先端の黒い顔のような所がピリっと裂けて、玲の目の前に置かれたグラスへ勢いよくブシャッと液体が注がれた。
「ひいぃぃ!」
玲の腕の中でスヤスヤと眠っていたメルルが、玲の悲鳴を聞きゆっくりと目を開けた。小さな鼻をヒクヒクと動かすと、テーブルの上に大量に置いてあるウバの実に気がついた。
メルルは、お包みの中でモゾモゾと動き、羽根がついている可愛い両腕をウバの実に向かって伸ばした。
「アーアーアー」
「お目覚めですか?あぁ、メルル様は、ウバの実が大好きでしたね。アレス、メルル様にも一つ渡して差し上げなさい」
アレスは、頷くと、皿の上で一際大きく蠢くウバの実を摘むと、そのままメルルに手渡した。
そして大きく口を開けると、ウバの実の顔のような部分へ齧り付いた。
ちゅばっ、ちゅばっ、ちゅばっ
メルルが、勢いよくウバの実を啜っていく。ぷりぷりっとしていた実が、みるみる萎んでいく様は、玲からすると芋虫が、ミイラ化していくように見えた。
思わずアレスの腕を握る玲に、アレスは、頬を赤らめて嬉しそうに笑った。
「腹減った~」
「母ちゃん飯!」
玲が、アレスの腕を掴んだまま呆けていると、ディアブロの双子の息子であるアストロとアガレスが、食堂に入ってきた。アレスの弟でもある二人には、まだ幼さが残る顔立ちだが、オーガという種族の為か、アーシェやアレスより、体はひと回り、二回り小さくとも、玲よりも遥かに逞しい体つきである。
「やった!ウバの実じゃん」
アストロが、テーブルの上のウバの実を掴むと、そのままそのまま大きく口を開けて丸ごと放り込んだ。同様に、アガレスもガシっと鷲掴みすると口の中に放り込む。
「やっぱ、果物は丸齧りが一番うめぇよな!」
唇の端からウバの実の果汁を垂らしながらアストロとアガレスは、ガシュガシュと音を立てて咀嚼し、指先で唇を拭った。
「へ?果物?」
「おや、お気づきになられましたか?残念ですね」
ディアブロは、楽しみの一つが減ってしまった事をとても残念に思った。
0
お気に入りに追加
66
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

望んでいないのに転生してしまいました。
ナギサ コウガ
ファンタジー
長年病院に入院していた僕が気づいたら転生していました。
折角寝たきりから健康な体を貰ったんだから新しい人生を楽しみたい。
・・と、思っていたんだけど。
そう上手くはいかないもんだね。
異世界起動兵器ゴーレム
ヒカリ
ファンタジー
高校生鬼島良太郎はある日トラックに
撥ねられてしまった。そして良太郎
が目覚めると、そこは異世界だった。
さらに良太郎の肉体は鋼の兵器、
ゴーレムと化していたのだ。良太郎が
目覚めた時、彼の目の前にいたのは
魔術師で2級冒険者のマリーネ。彼女は
未知の世界で右も左も分からない状態
の良太郎と共に冒険者生活を営んで
いく事を決めた。だがこの世界の裏
では凶悪な影が……良太郎の異世界
でのゴーレムライフが始まる……。
ファンタジーバトル作品、開幕!

Sランクパーティを引退したおっさんは故郷でスローライフがしたい。~王都に残した仲間が事あるごとに呼び出してくる~
味のないお茶
ファンタジー
Sランクパーティのリーダーだったベルフォードは、冒険者歴二十年のベテランだった。
しかし、加齢による衰えを感じていた彼は後人に愛弟子のエリックを指名し一年間見守っていた。
彼のリーダー能力に安心したベルフォードは、冒険者家業の引退を決意する。
故郷に帰ってゆっくりと日々を過しながら、剣術道場を開いて結婚相手を探そう。
そう考えていたベルフォードだったが、周りは彼をほっておいてはくれなかった。
これはスローライフがしたい凄腕のおっさんと、彼を慕う人達が織り成す物語。

もしかして寝てる間にざまぁしました?
ぴぴみ
ファンタジー
令嬢アリアは気が弱く、何をされても言い返せない。
内気な性格が邪魔をして本来の能力を活かせていなかった。
しかし、ある時から状況は一変する。彼女を馬鹿にし嘲笑っていた人間が怯えたように見てくるのだ。
私、寝てる間に何かしました?

いっとう愚かで、惨めで、哀れな末路を辿るはずだった令嬢の矜持
空月
ファンタジー
古くからの名家、貴き血を継ぐローゼンベルグ家――その末子、一人娘として生まれたカトレア・ローゼンベルグは、幼い頃からの婚約者に婚約破棄され、遠方の別荘へと療養の名目で送られた。
その道中に惨めに死ぬはずだった未来を、突然現れた『バグ』によって回避して、ただの『カトレア』として生きていく話。
※悪役令嬢で婚約破棄物ですが、ざまぁもスッキリもありません。
※以前投稿していた「いっとう愚かで惨めで哀れだった令嬢の果て」改稿版です。文章量が1.5倍くらいに増えています。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
転生して貴族になったけど、与えられたのは瑕疵物件で有名な領地だった件
桜月雪兎
ファンタジー
神様のドジによって人生を終幕してしまった七瀬結希。
神様からお詫びとしていくつかのスキルを貰い、転生したのはなんと貴族の三男坊ユキルディス・フォン・アルフレッドだった。
しかし、家族とはあまり折り合いが良くなく、成人したらさっさと追い出された。
ユキルディスが唯一信頼している従者アルフォンス・グレイルのみを連れて、追い出された先は国内で有名な瑕疵物件であるユンゲート領だった。
ユキルディスはユキルディス・フォン・ユンゲートとして開拓から始まる物語だ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる