3 / 59
3
しおりを挟む
ディアブロは、お菓子を一つ摘み玲の口に押し込んだ。モサモサとした食感は、やはり好きになれない味だ。玲は、ウバ茶で、ごくごくと口の中をさっぱりとさせた。
「これ、美味くないんだわ」
もう、遠慮は必要ないと判断した玲は、不機嫌を顕にして、ディアブロをジロリと睨んだ。
「やはり、素直な方ですね。君が、故郷に帰れない理由は、三つ。一つ目は、我が神、ハーデス様と契約を交わしたこと。二つ目は、このポムグラネイトを食したこと。三つ目は、君の体が、こちらの世界に組み替えられたこと。以上が、理由になります」
「いや、待て待て待て。契約何て交わした覚えねえぞ!……ハーデス?って冥府の王のハーデスか?」
「何と、我が神は、君の世界にも名を知られているのでございますか?流石は、我が神」
ディアブロは、恍惚の表情を浮かべ、祈りを捧げる様に両手の指を胸の前で重ね合わせて、天を見上げた。
「ディアブロ、契約とは何だ!俺には、覚えがないんだ!」
玲は、両手でテーブルをダンと叩き大きな音を立てて、大きな声でディアブロに詰め寄った。
その瞬間、白装束の一人が、玲の腕を取り、ぐいっと後ろ手に拘束した。ハラリとフードが外れ、白装束の顔が現れた。
赤い肌に少しウェーブのかかったショートヘアの野性味溢れる美女。何よりもこめかみの辺りに、太くくるんと巻いた山羊若しくは水牛のような角が目に入った。
「アーシェ。拘束を解いてあげてください。私は、大丈夫ですから」
アーシェは、納得できない様子ではあったが、玲をソファーに放り投げるとまた後ろに下がり、白装束の軍団と一緒に並んだ。
「それで、契約って何だ?」
「サトシ。君は、この紙に署名をしましたね」
「あぁ」
「そして、私は、ハーデス様にその名前をお伝えしました。ハーデス様もお認めになり、君に新たな名を与えてくださった」
「……え?」
「サトシ・リンデン。これは、ハーデス様が、授けてくれた君の名前です。その代わり、故郷の名前は、無くなっちゃいました」
ディアブロは、おしまいとでも言うように、にっこりと微笑んだ。唐突に名前が、無くなったと聞かされた玲は、口を大きくあんぐりと開け、呆然とした。
(待てよ……。再度、名前を聞かれたとき、俺は、名前を名乗ることが出来なかった。無くなったというのは、その瞬間か?)
「も、もう元の名前には、戻せないのか?」
「はい。契約書に署名をする時は、しっかり中身を確認しないといけませんよ」
「こ、この悪魔め!」
「私、デビル族ですから、当然です」
「ハッ!ディアブロもシャイターンも悪魔って意味じゃないか!全部、悪魔、悪魔って、………詐欺だ!詐欺じゃん!!」
「そんなに、悪魔、悪魔と褒められても……」
「褒めてねえよ!」
散々叫び、疲れ果てた玲は、両腕をソファーの背もたれにかけ、体をソファに沈めた。
何度、思い出そうとしても、名前が思い出せない。名を奪われた事を実感していた。そして、冷静になればなるほど色々な疑問が紐解けていく。
(ポムグラネイトって、確か柘榴って意味だよな。まるで、ギリシャ神話じゃないか。俺は、冥府の食べ物を食べたから、元の世界に戻れないってか)
ハァっと大きなため息をついた玲は、今までの生活を思い出す。毎日毎日、就職活動に明け暮れ、時間が有ればバイト。彼女がいる訳でもなく、大学もパッとしない三流大学。将来の夢や希望も特になかった。後悔があるとすれば、親孝行の一つも出来なかったことぐらいだ。
「元の世界の俺って、どう何の?」
「存在自体、消滅します」
「じゃあ、父ちゃん、母ちゃんは、悲しむことは、ないんだな?」
「そこは、ご安心ください」
玲にとって、両親が悲しむ事がないことは、幸いだと思った。玲には、兄がいた。きっと、兄が玲の分も両親に親孝行をしてくれるだろう。そう、思うしかなかった。玲は、心の中で、両親と兄に別れを告げた。
「それで、俺が、この世界に呼ばれた理由は、何だ?」
「素晴らしい!これは、話が早いです」
ディアブロからすれば、玲が、この世界での生活を前向きに考えてくれるようになったのだと、思える発言に聞こえた。実際は、玲が、この世界で平和に暮らしていけるのかどうか、探りを入れただけだ。
「それでは、私について来てください」
ディアブロに促され、玲は、立ち上がると白装束の軍団と共に執務室を後にした。
白装束の軍団は、アーシェを先頭にゾロゾロと五人いる。玲は、最初にアーシェを見ていたなら、人間とかけ離れた姿にもっとパニックに陥っていたかも知れないと思った。
「ディアブロ、彼女たちも神官なのか?」
「あぁ、アーシェ達ですか?アーシェは、私の妻です。オーガ族は、戦闘民族の為、荒っぽいところもありますが、ベッドの上では、可愛らしいんですよ」
「おまっ!」
突然、二人の夜の営みを暴露され、アーシェは、赤い顔をさらに真っ赤にして俯いた。その様子をディアブロは、満足気に爽やか笑顔を見せる。
(悪魔なだけに、鬼畜だな。絶対Sだろ)
「そして、後ろに居るのは、私たちの子供達です」
隠す必要も無くなった為か、白装束の軍団は、フードを取った。
「……全員、オーガ族?」
「はい、右から、アレス、アフィ、アストロ、アガレス、アンジュと申します」
アーシェに見劣りしない立派な二本のツノがあり、二人の子供というだけもあり二人の面影を宿した美男美女であった。
「これ、美味くないんだわ」
もう、遠慮は必要ないと判断した玲は、不機嫌を顕にして、ディアブロをジロリと睨んだ。
「やはり、素直な方ですね。君が、故郷に帰れない理由は、三つ。一つ目は、我が神、ハーデス様と契約を交わしたこと。二つ目は、このポムグラネイトを食したこと。三つ目は、君の体が、こちらの世界に組み替えられたこと。以上が、理由になります」
「いや、待て待て待て。契約何て交わした覚えねえぞ!……ハーデス?って冥府の王のハーデスか?」
「何と、我が神は、君の世界にも名を知られているのでございますか?流石は、我が神」
ディアブロは、恍惚の表情を浮かべ、祈りを捧げる様に両手の指を胸の前で重ね合わせて、天を見上げた。
「ディアブロ、契約とは何だ!俺には、覚えがないんだ!」
玲は、両手でテーブルをダンと叩き大きな音を立てて、大きな声でディアブロに詰め寄った。
その瞬間、白装束の一人が、玲の腕を取り、ぐいっと後ろ手に拘束した。ハラリとフードが外れ、白装束の顔が現れた。
赤い肌に少しウェーブのかかったショートヘアの野性味溢れる美女。何よりもこめかみの辺りに、太くくるんと巻いた山羊若しくは水牛のような角が目に入った。
「アーシェ。拘束を解いてあげてください。私は、大丈夫ですから」
アーシェは、納得できない様子ではあったが、玲をソファーに放り投げるとまた後ろに下がり、白装束の軍団と一緒に並んだ。
「それで、契約って何だ?」
「サトシ。君は、この紙に署名をしましたね」
「あぁ」
「そして、私は、ハーデス様にその名前をお伝えしました。ハーデス様もお認めになり、君に新たな名を与えてくださった」
「……え?」
「サトシ・リンデン。これは、ハーデス様が、授けてくれた君の名前です。その代わり、故郷の名前は、無くなっちゃいました」
ディアブロは、おしまいとでも言うように、にっこりと微笑んだ。唐突に名前が、無くなったと聞かされた玲は、口を大きくあんぐりと開け、呆然とした。
(待てよ……。再度、名前を聞かれたとき、俺は、名前を名乗ることが出来なかった。無くなったというのは、その瞬間か?)
「も、もう元の名前には、戻せないのか?」
「はい。契約書に署名をする時は、しっかり中身を確認しないといけませんよ」
「こ、この悪魔め!」
「私、デビル族ですから、当然です」
「ハッ!ディアブロもシャイターンも悪魔って意味じゃないか!全部、悪魔、悪魔って、………詐欺だ!詐欺じゃん!!」
「そんなに、悪魔、悪魔と褒められても……」
「褒めてねえよ!」
散々叫び、疲れ果てた玲は、両腕をソファーの背もたれにかけ、体をソファに沈めた。
何度、思い出そうとしても、名前が思い出せない。名を奪われた事を実感していた。そして、冷静になればなるほど色々な疑問が紐解けていく。
(ポムグラネイトって、確か柘榴って意味だよな。まるで、ギリシャ神話じゃないか。俺は、冥府の食べ物を食べたから、元の世界に戻れないってか)
ハァっと大きなため息をついた玲は、今までの生活を思い出す。毎日毎日、就職活動に明け暮れ、時間が有ればバイト。彼女がいる訳でもなく、大学もパッとしない三流大学。将来の夢や希望も特になかった。後悔があるとすれば、親孝行の一つも出来なかったことぐらいだ。
「元の世界の俺って、どう何の?」
「存在自体、消滅します」
「じゃあ、父ちゃん、母ちゃんは、悲しむことは、ないんだな?」
「そこは、ご安心ください」
玲にとって、両親が悲しむ事がないことは、幸いだと思った。玲には、兄がいた。きっと、兄が玲の分も両親に親孝行をしてくれるだろう。そう、思うしかなかった。玲は、心の中で、両親と兄に別れを告げた。
「それで、俺が、この世界に呼ばれた理由は、何だ?」
「素晴らしい!これは、話が早いです」
ディアブロからすれば、玲が、この世界での生活を前向きに考えてくれるようになったのだと、思える発言に聞こえた。実際は、玲が、この世界で平和に暮らしていけるのかどうか、探りを入れただけだ。
「それでは、私について来てください」
ディアブロに促され、玲は、立ち上がると白装束の軍団と共に執務室を後にした。
白装束の軍団は、アーシェを先頭にゾロゾロと五人いる。玲は、最初にアーシェを見ていたなら、人間とかけ離れた姿にもっとパニックに陥っていたかも知れないと思った。
「ディアブロ、彼女たちも神官なのか?」
「あぁ、アーシェ達ですか?アーシェは、私の妻です。オーガ族は、戦闘民族の為、荒っぽいところもありますが、ベッドの上では、可愛らしいんですよ」
「おまっ!」
突然、二人の夜の営みを暴露され、アーシェは、赤い顔をさらに真っ赤にして俯いた。その様子をディアブロは、満足気に爽やか笑顔を見せる。
(悪魔なだけに、鬼畜だな。絶対Sだろ)
「そして、後ろに居るのは、私たちの子供達です」
隠す必要も無くなった為か、白装束の軍団は、フードを取った。
「……全員、オーガ族?」
「はい、右から、アレス、アフィ、アストロ、アガレス、アンジュと申します」
アーシェに見劣りしない立派な二本のツノがあり、二人の子供というだけもあり二人の面影を宿した美男美女であった。
0
お気に入りに追加
66
あなたにおすすめの小説

望んでいないのに転生してしまいました。
ナギサ コウガ
ファンタジー
長年病院に入院していた僕が気づいたら転生していました。
折角寝たきりから健康な体を貰ったんだから新しい人生を楽しみたい。
・・と、思っていたんだけど。
そう上手くはいかないもんだね。


Sランクパーティを引退したおっさんは故郷でスローライフがしたい。~王都に残した仲間が事あるごとに呼び出してくる~
味のないお茶
ファンタジー
Sランクパーティのリーダーだったベルフォードは、冒険者歴二十年のベテランだった。
しかし、加齢による衰えを感じていた彼は後人に愛弟子のエリックを指名し一年間見守っていた。
彼のリーダー能力に安心したベルフォードは、冒険者家業の引退を決意する。
故郷に帰ってゆっくりと日々を過しながら、剣術道場を開いて結婚相手を探そう。
そう考えていたベルフォードだったが、周りは彼をほっておいてはくれなかった。
これはスローライフがしたい凄腕のおっさんと、彼を慕う人達が織り成す物語。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

もしかして寝てる間にざまぁしました?
ぴぴみ
ファンタジー
令嬢アリアは気が弱く、何をされても言い返せない。
内気な性格が邪魔をして本来の能力を活かせていなかった。
しかし、ある時から状況は一変する。彼女を馬鹿にし嘲笑っていた人間が怯えたように見てくるのだ。
私、寝てる間に何かしました?

いっとう愚かで、惨めで、哀れな末路を辿るはずだった令嬢の矜持
空月
ファンタジー
古くからの名家、貴き血を継ぐローゼンベルグ家――その末子、一人娘として生まれたカトレア・ローゼンベルグは、幼い頃からの婚約者に婚約破棄され、遠方の別荘へと療養の名目で送られた。
その道中に惨めに死ぬはずだった未来を、突然現れた『バグ』によって回避して、ただの『カトレア』として生きていく話。
※悪役令嬢で婚約破棄物ですが、ざまぁもスッキリもありません。
※以前投稿していた「いっとう愚かで惨めで哀れだった令嬢の果て」改稿版です。文章量が1.5倍くらいに増えています。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
転生して貴族になったけど、与えられたのは瑕疵物件で有名な領地だった件
桜月雪兎
ファンタジー
神様のドジによって人生を終幕してしまった七瀬結希。
神様からお詫びとしていくつかのスキルを貰い、転生したのはなんと貴族の三男坊ユキルディス・フォン・アルフレッドだった。
しかし、家族とはあまり折り合いが良くなく、成人したらさっさと追い出された。
ユキルディスが唯一信頼している従者アルフォンス・グレイルのみを連れて、追い出された先は国内で有名な瑕疵物件であるユンゲート領だった。
ユキルディスはユキルディス・フォン・ユンゲートとして開拓から始まる物語だ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる