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第2章 アルワーン王国編
第28話 冷酷王の昔語り(1)
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「アルワーンの衣装がよく似合うな」
アルワーンの歴史と文化について話すから、部屋で待て。
フィオナが指示された通り、自分の部屋で小机に紙とペンを載せ、大人しく待っていると、アルファイドがやってきた。
アルファイドはまず、フィオナの全身を上から下まで見下ろすと、満足げにうなづいた。
フィオナはピンク色のカフタンを着ていた。
今日のカフタンは、同じピンクでも、袖口や裾の部分に、同色のドロンワークが施されていて、より華やかな仕上がりになっていた。
アルファイドがフィオナの向かい側に腰を下ろすと、控えていた侍女がガラスのカップに入れられた冷茶を運んできた。
「アルワーンについて、お前に多少のことを教えてやろうか。お前を寵姫にしようと思ってね。だが、アルワーンについて何も知らないのは困る。私が自ら教えようと思ったのは、気まぐれだよ。また考えを変えるかもしれない。ま、せいぜい頑張って、私を楽しませてくれ。まずは」
アルファイドはフィオナをじっと見つめる。
「私はアルワーンの冷酷王、と呼ばれるのだが、なぜか知っているか?」
フィオナはぴくりとした。
「……いいえ、知りません」
「私は第2王子なのだよ。父である先王と兄である王太子を殺して、王位に就いたからだ」
フィオナはじっとアルファイドを見つめた。
アルファイドはくすり、と笑う。
「信じていないか。まぁ、殺すのとほぼ変わらないことをしたと言っておこう」
アルファイドはそう言うと、フィオナをひた、と真正面から見た。
「お前はなぜウサギに変身できるのだ?」
フィオナは眉を寄せた。
言いたいことはわかる。しかし、フィオナに答えられることはほとんどないのだ。
「わかりません。わたしは、自分がウサギだと思っていました。でも、ドレイク様が、わたしはウサギに変身できるけれど、ウサギではないのではないか、と」
アルファイドはドレイク、という言葉を聞くと、急に、取ってつけたような微笑を浮かべた。
「お前はドレイクに気に入られていたようだ。だからこそ、お前を連れて来たのだよ。さて、今日はお前に、少し昔の話をしてみようか」
* * *
それはアルワーンとオークランドの戦争前のこと。
アルファイドは、10歳頃まで、オークランドに留学していた。
アルファイドは、第7夫人から生まれた子供で、第2王子。
王妃は実の子供である第1王子の王太子の座を盤石なものにしようと、アルファイドを疎んじ、王位継承争いの脅威になる前にと、まだ子供のうちにオークランドへ送った。
邪魔者の排除と同時に、アルワーンの間者として情報を流すことを期待されていた。
ところが、オークランドでは、アルファイドは一転して、大切に扱われる。
世継ぎの王子であるドレイクと同い年であることから、『学友』として遇されたのだ。
住まいも、王城の中に用意された。
オークランド国王夫妻、とりわけ王妃サリアはアルファイドに気を配ってくれた。
教育も、ドレイクともう1人の学友、ユリウスと一緒に、ドレイクと同じ授業を受ける。
さらに、サリアからは、オークランドで大切にされている精霊についても教えてもらった。
サリアは子供達を分け隔てすることなく、ドレイクのために、彼が幼い頃から作っているという、家庭菜園にも、ドレイクとユリウスと一緒に、アルファイドも連れて行ってくれたのだった。
ところが、そんな穏やかな日々は、突然終わりを告げる。
アルファイドを迎えに来た使者は、言った。
「国王陛下と王太子殿下は、オークランドを攻めることを決定なさいました。アルファイド王子殿下につきましては、至急、アルワーンにお帰りになりますように」
オークランドを好きなアルファイドの想いをよそに、父と王太子はオークランドを攻めることを決定し、アルファイドを絶望に突き落とす。
アルファイドは優しい子ね、と頭を撫でてくれた王妃サリア。
ドレイクは無口だが親切で、アルファイドに剣や体術の授業を一緒に受けようと誘ってくれた。
王妃は優しく、実の子のようにアルファイドに接してくれる。
王妃と一緒に菜園で作業したり、庭作りもした。
王妃を慕うアルファイドにとって、王妃は実の母にも似た存在に思えたのだった。
そして知る『精霊を信じる』世界。
「精霊はわたし達の”良心”よ」
「精霊のいる国は豊かになる」
「そのために、世界のために、自然の生物達のために良いことをしよう、と思うものなのよ」
暖かな日差しの中、いつものように家庭菜園で一緒に作業していた王妃は、そう言った。
彼女によると、精霊は自然の中に存在していると言う。
自然を大切にすることは、精霊を大切にすることなのだと。
「だからね、こうして畑で働くことは、自然を大切にすること、精霊を大切にすることでもあるのよ。精霊は土地を祝福してくれる。精霊に祝福される国は、栄えるの」
そんな幸せな日々は突然、終わりを告げた。
アルファイドは、オークランドとの戦争前にアルワーンに呼び戻された。
待っていたのは、相も変わらず冷淡な父王だった。
「簡単にオークランドに染まりおって。楽しく過ごしたようじゃないか?」
オークランドに一緒に来てくれた、信頼できる付き人。
そう思っていたのは全て、父が送ったスパイ。全ては筒抜けだったのだ。
「腰抜けめ。精霊のことなぞは忘れてしまえ!」
アルファイドは罰を受け、塔に閉じ込められた。
アルワーンの歴史と文化について話すから、部屋で待て。
フィオナが指示された通り、自分の部屋で小机に紙とペンを載せ、大人しく待っていると、アルファイドがやってきた。
アルファイドはまず、フィオナの全身を上から下まで見下ろすと、満足げにうなづいた。
フィオナはピンク色のカフタンを着ていた。
今日のカフタンは、同じピンクでも、袖口や裾の部分に、同色のドロンワークが施されていて、より華やかな仕上がりになっていた。
アルファイドがフィオナの向かい側に腰を下ろすと、控えていた侍女がガラスのカップに入れられた冷茶を運んできた。
「アルワーンについて、お前に多少のことを教えてやろうか。お前を寵姫にしようと思ってね。だが、アルワーンについて何も知らないのは困る。私が自ら教えようと思ったのは、気まぐれだよ。また考えを変えるかもしれない。ま、せいぜい頑張って、私を楽しませてくれ。まずは」
アルファイドはフィオナをじっと見つめる。
「私はアルワーンの冷酷王、と呼ばれるのだが、なぜか知っているか?」
フィオナはぴくりとした。
「……いいえ、知りません」
「私は第2王子なのだよ。父である先王と兄である王太子を殺して、王位に就いたからだ」
フィオナはじっとアルファイドを見つめた。
アルファイドはくすり、と笑う。
「信じていないか。まぁ、殺すのとほぼ変わらないことをしたと言っておこう」
アルファイドはそう言うと、フィオナをひた、と真正面から見た。
「お前はなぜウサギに変身できるのだ?」
フィオナは眉を寄せた。
言いたいことはわかる。しかし、フィオナに答えられることはほとんどないのだ。
「わかりません。わたしは、自分がウサギだと思っていました。でも、ドレイク様が、わたしはウサギに変身できるけれど、ウサギではないのではないか、と」
アルファイドはドレイク、という言葉を聞くと、急に、取ってつけたような微笑を浮かべた。
「お前はドレイクに気に入られていたようだ。だからこそ、お前を連れて来たのだよ。さて、今日はお前に、少し昔の話をしてみようか」
* * *
それはアルワーンとオークランドの戦争前のこと。
アルファイドは、10歳頃まで、オークランドに留学していた。
アルファイドは、第7夫人から生まれた子供で、第2王子。
王妃は実の子供である第1王子の王太子の座を盤石なものにしようと、アルファイドを疎んじ、王位継承争いの脅威になる前にと、まだ子供のうちにオークランドへ送った。
邪魔者の排除と同時に、アルワーンの間者として情報を流すことを期待されていた。
ところが、オークランドでは、アルファイドは一転して、大切に扱われる。
世継ぎの王子であるドレイクと同い年であることから、『学友』として遇されたのだ。
住まいも、王城の中に用意された。
オークランド国王夫妻、とりわけ王妃サリアはアルファイドに気を配ってくれた。
教育も、ドレイクともう1人の学友、ユリウスと一緒に、ドレイクと同じ授業を受ける。
さらに、サリアからは、オークランドで大切にされている精霊についても教えてもらった。
サリアは子供達を分け隔てすることなく、ドレイクのために、彼が幼い頃から作っているという、家庭菜園にも、ドレイクとユリウスと一緒に、アルファイドも連れて行ってくれたのだった。
ところが、そんな穏やかな日々は、突然終わりを告げる。
アルファイドを迎えに来た使者は、言った。
「国王陛下と王太子殿下は、オークランドを攻めることを決定なさいました。アルファイド王子殿下につきましては、至急、アルワーンにお帰りになりますように」
オークランドを好きなアルファイドの想いをよそに、父と王太子はオークランドを攻めることを決定し、アルファイドを絶望に突き落とす。
アルファイドは優しい子ね、と頭を撫でてくれた王妃サリア。
ドレイクは無口だが親切で、アルファイドに剣や体術の授業を一緒に受けようと誘ってくれた。
王妃は優しく、実の子のようにアルファイドに接してくれる。
王妃と一緒に菜園で作業したり、庭作りもした。
王妃を慕うアルファイドにとって、王妃は実の母にも似た存在に思えたのだった。
そして知る『精霊を信じる』世界。
「精霊はわたし達の”良心”よ」
「精霊のいる国は豊かになる」
「そのために、世界のために、自然の生物達のために良いことをしよう、と思うものなのよ」
暖かな日差しの中、いつものように家庭菜園で一緒に作業していた王妃は、そう言った。
彼女によると、精霊は自然の中に存在していると言う。
自然を大切にすることは、精霊を大切にすることなのだと。
「だからね、こうして畑で働くことは、自然を大切にすること、精霊を大切にすることでもあるのよ。精霊は土地を祝福してくれる。精霊に祝福される国は、栄えるの」
そんな幸せな日々は突然、終わりを告げた。
アルファイドは、オークランドとの戦争前にアルワーンに呼び戻された。
待っていたのは、相も変わらず冷淡な父王だった。
「簡単にオークランドに染まりおって。楽しく過ごしたようじゃないか?」
オークランドに一緒に来てくれた、信頼できる付き人。
そう思っていたのは全て、父が送ったスパイ。全ては筒抜けだったのだ。
「腰抜けめ。精霊のことなぞは忘れてしまえ!」
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