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第2章 アルワーン王国編

第24話 寵姫とウサギ

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 アルワーン王国には、50人の美女を収めた、後宮がある。

 奴隷が合法であるアルワーンならではで、家の意向で後宮に入った国内貴族の女性達のほか、献上された奴隷の女性達も多い。

 金髪碧眼の美女から、黒髪黒眼の少女まで、ありとあらゆる女達が揃っていると言っても、過言ではない。

 とはいえ、実際に国王の相手をする女性はほんのひと握り。
 そして、正式に『寵姫ちょうき』と呼ばれ、国王の寵愛を存分に受け取っているのは、たった1人だった。

 寵姫ザハラ。

 色白の肌。銀色の髪。紫色の瞳。
 際立った美貌の上に、ほっそりとした体は、胸や腰だけが豊かで、国王が寵愛するのもうなづける、と人々は噂しあっていた。

 その容貌から、西方の国の出身だろうと思われるが、ザハラは幼い頃にアルワーンに奴隷として売られてきたため、その出自ははっきりとしない。

 ザハラ本人は、「記憶がない」と言っているという話だった。

 * * *

 警護の兵士と侍女に付き添われ、後宮の廊下を進むザハラは、全身を薄い青色のベールで覆ってはいるものの、その整った容貌や身に付けている豪華な衣装は透けて見えている。

 これからザハラが向かうのは、国王アルファイドの居室である。
 後宮から出ることを許されているのは、寵姫たるザハラただ1人。
 さらにザハラには、専用の乗り物で街に出ることすら許されている。

 そして、何よりもザハラが特別な地位にあること、国王の特別な寵愛を受けていると感じさせるのが、ザハラが腰に身に付けている短剣ダガーだった。

 この短剣ダガーが飾りではないのを知っている人物はごくわずか。
 何かあれば、ザハラはためらうことなく、敵を殺すだろう。
 このザハラという女は何者なのか。

 ザハラは国王の前でも、帯剣を認められている。
 どれだけの信頼が、国王にあるのか。

 そんな様々な声を全てを封じる圧倒的な存在感が、ザハラには、あった。
 ザハラが将来は王妃になるのではないか、そう考える者は多かった。

 もっとも、いつも謎めいた微笑を浮かべているザハラ本人が何を考えているのかは、アルファイドしか知らない。
 いや、アルファイドもザハラの全てを知ってはいないのかもしれないーー。

 * * *

「陛下」

 ザハラの低い声がして、アルファイドは自ら部屋のドアを開けた。

「お呼びにつき、参上いたしました」

 ザハラが礼を取る。

「入れ」

 アルファイドはザハラの腕を取ると、そのまま部屋にまるで引きずり込むように入れた。

 ザハラは頭から被っていたベールを取る。

 長い銀髪を複雑な形に結い上げ、宝石で飾ったザハラの姿が現れた。
 目鼻立ちの非常に整った顔は、アルワーン風に化粧されている。
 大きな目の周りをくっきりと描く青のラインが、とてもエキゾチックに見えた。

「こちらに」

 アルファイドはずんずんと歩き、寝室へとザハラを招き入れる。
 ザハラが歩くと、大きく胸元が開いた薄物が、肩先からひらひらと揺れる。
 細い腰を飾り帯で押さえ、薄物の下に履いている、同じく透けるような薄い布地のパンツ、シャルワールが、足の動きに合わせてふわりとなびいた。

 天蓋付きのベッドに座っている少女を見たザハラの眉が片方だけ、ゆっくりと上がった。

「陛下。これは」

 ベッドの上にいるのは、奴隷が着る、麻の貫頭衣を着た、1人の少女だった。

 ふわふわとした長い白い髪。
 大きなピンク色の瞳。
 ほっそりとした姿は、その幼い顔立ち同様、まだ少女であることをうかがわせた。

 ザハラは厳しい目をアルファイドに向ける。

「奴隷ですわね。どうなさるおつもりで?」

 そのきつい、愛想が一片もない様子に、アルファイドはなぜか、ふっ、と目元を和らげた。

「本当に信頼している者にしか話せない」

 そう言って、アルファイドは少女に近づいた。
 ザハラもアルファイドのすぐ後ろに立つと、少女が両手を縛られているのが見えた。

「この少女はオークランドのドレイクが囲っている娘だ。そして、少女はウサギに変身できる」

 アルファイドは、優しいとも言える微笑みを浮かべた。
 少女の手からロープを外した。

「ザハラ、お前にウサギの世話を頼みたい。もちろん、他言無用だ」

 ザハラは驚いて、アルファイドを見つめる。

「言葉は通じる。この娘と話して、いろいろ聞き出してくれないか?」

 * * *

 翌日、アルファイドは新たな奴隷娘を後宮に入れたことを発表した。
 娘は『アルナブ』(ウサギの意)と名付けられ、寵姫ザハラの元で、見習いとして後宮のしきたりなどを学ぶことになった。

 一方。
 アルワーンから、密かにオークランドへと一報が放たれる。
 アルワーン潜入の間者からの報告は、『赤い瞳の奴隷娘が黄金宮殿に到着』。

 ドレイクを刺激するには十分過ぎる報告だった。

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