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第2章 アルワーン王国編
第22話 アルワーンの冷酷王
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「ご指示の通り、オークランドから10人、その他の国からも10人、合計20人の奴隷を連れて参りました。ご指定のあった少女も含めて」
アルワーンの美しい黄金宮殿。
青のモザイク造りの壁は涼しげで、暑い日差しが嘘のように室内は涼しい。
オークランドの騎士姿の男から、報告を受けているのは、長い黒髪を背中に流した、細身の男だった。
エメラルドグリーンのカフタンに、ゆったりと身を包んでいる。
カフタンは、この国では男女関係なく着る、民族衣装だ。
ともすれば、女ものの衣装にも見えかねない色合いだったが、美しい顔立ちに、青い瞳のこの男にはよく似合う。
男の背後には、彼のそばを離れることのない、剣を持った2人の兵士が立っている。
男は、アルワーン王国国王、アルファイド・ガラニエルだった。
別名、『アルワーンの冷酷王』と呼ばれている。
冷酷王と呼ばれるには理由があるのだが、こうして黄金宮殿の主人として、あれこれ采配をふるっている姿からは、ただどこか投げやりで、気まぐれな若者、としか見えないかもしれない。
「ドレイク国王の治世は、おおむね良好と思われます。有能な人物を登用しています。辺境伯との関係も良く、国境線は磐石と言っていいでしょう。騎士団は国王自ら、かなり鍛えて成果を出しています。ただ、農地は天候不順が続いたこともあり、まだ戦争前の基準には達していません」
そのドレイクが王宮に入れた、不思議な少女。
「ご命令の通り、その少女はさらって参りましたが……あの少女が、ドレイク王にとっていかほどのものか……。少女の出自も、よくわからないままです」
「なるほど。まあ、私が調べてみるか。で、その少女は?」
「ご指示の通り、牢に入れてあります。ショックを受け、容易に口を割るようになるかと」
アルファイドは退屈そうにうなづいた。
「そうだな。奴隷市に出してもいい。ちょっと脅かすといいだろう。もっと口を割りやすくなる」
オークランドの騎士姿の男は、アルワーンの間者だった。
ただし、オークランドの騎士であるのは本当だ。
騎士の祖父がアルワーン人で、そこからつながり、アルワーンに引き入れた。
* * *
騎士が下がると、次々と人が現れ、アルファイドに報告をしていった。
アルファイドは国王を名乗っているが、氏族長でもある。
アルワーンには、7つの代表的な氏族があり、氏族長はガラニエル族が代々務めていた。
族長会議はあるものの、伝統的に、氏族長に任される権限は大きい。
罪人、裁判の取り扱い。
交易。実は奴隷売買によって、アルワーンは最大の利益を得ていた。
アルファイドは表情を変えることなく、冷静に判断を下していく。
そして、ある問題について報告を聞いていたアルファイドは手を振って、その話を遮った。
「つまらん。もういい。その話は慣例に従って処置しろ」
アルファイドは振り返って、誰にともなく声をかける。
「お茶を」
アルファイドの背後に引かれていた幕が揺れた。
ベールを付けた侍女が、ガラスのカップに入れた、氷入りの冷茶を持ってくる。
それを1杯飲むと、アルファイドは立ち上がった。
「奴隷を検分する時間だ。今度の仕入れの質を見てみるか。あの娘はどうしている?」
アルファイドがそう問うと、目に見えて、その男は動揺した。
「は。その件についてでございますが、何か手違いがあったようで、ただ今調べておりますので、国王陛下におかれましては……」
アルファイドは眉を寄せた。
「私に、来るな、と言っているのか?」
「滅相もございません……!! しかし」
アルファイドは男を押しのけた。
床に置きっぱなしにしていた、美しい曲線を描く剣を手にして、歩き出した。
「国王陛下!!」
剣を手に、勢いよく廊下を歩いていくアルファイドに、誰もが慌てて道を開ける。
国王のどんな行動にも動じない。背後から音もなく、護衛の兵士が付いて来る。
一方、突然の国王の登場に、廊下は大騒ぎになった。
「陛下、どちらに行かれますか!?」
「この後、大宰相殿との会議が。急ぎ知らせを」
アルファイドと面会の予定があった大臣達が慌て、大臣に付き添っていた書記達が走り回る。
アルファイドは苦笑して立ち止まった。
「よい。付いて来るな。少々足を伸ばしてくるだけだ。すぐ戻る。皆、持ち場に戻れ。騒々しくてかなわない」
面倒くさそうに手を振ると、アルファイドは単身、地下牢へと向かった。
地下牢は普段通り。
入り口は固く閉ざされ、そこに詰めている兵士達も、何も問題はないように見えた。
しかし、アルファイドが「例の娘の牢へ案内せよ」と命じると、目に見えて動揺した。
入り口の鍵を開け、先導してアルファイドを案内する。
しかし、問題の牢の前に立ったアルファイドは、驚きのあまり、目を見張った。
「なんだこれは………?」
アルワーンの美しい黄金宮殿。
青のモザイク造りの壁は涼しげで、暑い日差しが嘘のように室内は涼しい。
オークランドの騎士姿の男から、報告を受けているのは、長い黒髪を背中に流した、細身の男だった。
エメラルドグリーンのカフタンに、ゆったりと身を包んでいる。
カフタンは、この国では男女関係なく着る、民族衣装だ。
ともすれば、女ものの衣装にも見えかねない色合いだったが、美しい顔立ちに、青い瞳のこの男にはよく似合う。
男の背後には、彼のそばを離れることのない、剣を持った2人の兵士が立っている。
男は、アルワーン王国国王、アルファイド・ガラニエルだった。
別名、『アルワーンの冷酷王』と呼ばれている。
冷酷王と呼ばれるには理由があるのだが、こうして黄金宮殿の主人として、あれこれ采配をふるっている姿からは、ただどこか投げやりで、気まぐれな若者、としか見えないかもしれない。
「ドレイク国王の治世は、おおむね良好と思われます。有能な人物を登用しています。辺境伯との関係も良く、国境線は磐石と言っていいでしょう。騎士団は国王自ら、かなり鍛えて成果を出しています。ただ、農地は天候不順が続いたこともあり、まだ戦争前の基準には達していません」
そのドレイクが王宮に入れた、不思議な少女。
「ご命令の通り、その少女はさらって参りましたが……あの少女が、ドレイク王にとっていかほどのものか……。少女の出自も、よくわからないままです」
「なるほど。まあ、私が調べてみるか。で、その少女は?」
「ご指示の通り、牢に入れてあります。ショックを受け、容易に口を割るようになるかと」
アルファイドは退屈そうにうなづいた。
「そうだな。奴隷市に出してもいい。ちょっと脅かすといいだろう。もっと口を割りやすくなる」
オークランドの騎士姿の男は、アルワーンの間者だった。
ただし、オークランドの騎士であるのは本当だ。
騎士の祖父がアルワーン人で、そこからつながり、アルワーンに引き入れた。
* * *
騎士が下がると、次々と人が現れ、アルファイドに報告をしていった。
アルファイドは国王を名乗っているが、氏族長でもある。
アルワーンには、7つの代表的な氏族があり、氏族長はガラニエル族が代々務めていた。
族長会議はあるものの、伝統的に、氏族長に任される権限は大きい。
罪人、裁判の取り扱い。
交易。実は奴隷売買によって、アルワーンは最大の利益を得ていた。
アルファイドは表情を変えることなく、冷静に判断を下していく。
そして、ある問題について報告を聞いていたアルファイドは手を振って、その話を遮った。
「つまらん。もういい。その話は慣例に従って処置しろ」
アルファイドは振り返って、誰にともなく声をかける。
「お茶を」
アルファイドの背後に引かれていた幕が揺れた。
ベールを付けた侍女が、ガラスのカップに入れた、氷入りの冷茶を持ってくる。
それを1杯飲むと、アルファイドは立ち上がった。
「奴隷を検分する時間だ。今度の仕入れの質を見てみるか。あの娘はどうしている?」
アルファイドがそう問うと、目に見えて、その男は動揺した。
「は。その件についてでございますが、何か手違いがあったようで、ただ今調べておりますので、国王陛下におかれましては……」
アルファイドは眉を寄せた。
「私に、来るな、と言っているのか?」
「滅相もございません……!! しかし」
アルファイドは男を押しのけた。
床に置きっぱなしにしていた、美しい曲線を描く剣を手にして、歩き出した。
「国王陛下!!」
剣を手に、勢いよく廊下を歩いていくアルファイドに、誰もが慌てて道を開ける。
国王のどんな行動にも動じない。背後から音もなく、護衛の兵士が付いて来る。
一方、突然の国王の登場に、廊下は大騒ぎになった。
「陛下、どちらに行かれますか!?」
「この後、大宰相殿との会議が。急ぎ知らせを」
アルファイドと面会の予定があった大臣達が慌て、大臣に付き添っていた書記達が走り回る。
アルファイドは苦笑して立ち止まった。
「よい。付いて来るな。少々足を伸ばしてくるだけだ。すぐ戻る。皆、持ち場に戻れ。騒々しくてかなわない」
面倒くさそうに手を振ると、アルファイドは単身、地下牢へと向かった。
地下牢は普段通り。
入り口は固く閉ざされ、そこに詰めている兵士達も、何も問題はないように見えた。
しかし、アルファイドが「例の娘の牢へ案内せよ」と命じると、目に見えて動揺した。
入り口の鍵を開け、先導してアルファイドを案内する。
しかし、問題の牢の前に立ったアルファイドは、驚きのあまり、目を見張った。
「なんだこれは………?」
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