20 / 44
第1章 オークランド王国編
第20話 黒の竜王の誕生(2)
しおりを挟む
「精霊国の女王モルガンよ、精霊国を守る伝説の竜よ。平和を求める我が祈りに応えたまえ」
ドレイクはトルモル岩山の頂上で、心を込めて、精霊女王モルガンに呼びかけ、祈った。
目を閉じているドレイクの額に、細かな金色の粉が煌めいたように見えた。
そして、ドレイクに応える声が、響いたのである。
『我を呼ぶのは誰か』
「私はオークランド王国第1王子ドレイク・オークランド」
そう名乗ったドレイクだったが、その不思議な声は、どこか悲しげな調子で、答えた。
『それは違うな。オークランド王国国王、ドレイク・オークランドよ』
その瞬間、ドレイクは膝から崩れ落ちそうになるのを、必死でこらえた。
それでは、父王は、すでにこの世を去ったのか?
オークランドはどうなったのだ。
自分は、間に合わなかったと言うのだろうか……。
しかし、不思議な声は、ドレイクをなだめるように、穏やかな声で続けた。
『そなたの国はまだ保たれている』
その言葉に、ドレイクは深い息を吐いた。
もはや、ここまで来たからには、やり遂げるしかない。
岩山の頂上に声は響く。
しかし、何の姿も見えない。
それでもドレイクは、生まれて初めて、国王としてふさわしい姿であろうとし、しっかりと岩山の上に足を踏み締めて、立っていた。
『そなたの求めるものは何か』
再び問われた声に、ドレイクは考えることなくすぐに答えた。
「平和を。我が国は戦争を望まない。アルワーン王国と戦うつもりはない。勇敢なる黒竜よ、どうか我が国に降り、その翼で平和をもたらしたまえ」
次の瞬間、ドレイクの目の前が真っ暗になった。
バサバサという音と、桁外れの風がドレイクに吹き寄せ、ドレイクは思わず両腕で頭を覆った。
『我が名はアルディオン』
ドレイクの目の前に、1頭の黒い翼竜がその巨大な姿を現していた。
竜はドレイクを真っ直ぐに認め、名前を教えた。
『そなたとの契約を受け入れる。平和のために働こう』
ドレイクは自分の前で足を折り、頭を下げた竜に乗り、トルモル岩山の頂上から飛び立った。
目指すは、アルワーンとの戦線へ。最前線に向かうのだ。
和平を手にするために。
* * *
かつて竜と人は共存していた。
竜は精霊国の守護者であり、精霊国は人間の国々とも共存していた。
時に人間の国では争いが起こったが、精霊女王とその守護者の竜が助け、平和を保つのに力を貸した。
しかし人は私欲のため、竜を「従え」、精霊の力を利用しようとした。
そして竜は去り、精霊女王は結界を張った。精霊国は扉を閉じ、人間の国々は精霊の守護を失ったと伝えられている。
竜を含め、精霊族は平和を望む。
そのために人と協力し、手を貸す。
だからこそ、私欲を捨て、王国の滅亡に際し、平和を強く願ったドレイクに、竜は応えた。
アルワーン王国に攻められ、オークランドの人々がもう希望も失った時、ドレイクは竜と共に突然戦場に現れた。
そして、竜がドレイクの意のままに動く姿に恐怖したアルワーン王国軍はそのまま退却したのだった。
オークランド王国は独立を守った。
しかし、失われた命は戻らない。多くの国民の命と共に、ドレイクの両親もまた亡くなっていた。
それはドレイクの心に、深い悲しみとなって、残り続けた。
ドレイクの苦しみは『命は救えないが、国は救える』という精霊女王の予言そのもの。
父母を救う道はなかったのか?
自分だけが生き残ってしまった、という後悔。
ドレイクの中から、その悲しみが消える日は、おそらくないだろう。
国は救える、それは竜の加護を得ることで、周囲の国々を牽制《けんせい》することができるからだ。竜は、国を守る抑止力となる。
オークランドは、穏やかな国。精霊を信じ、自然を愛する、優しい人々が暮らす。
オークランドを失うことは、世界にとっての損失でもあるのだ。
だからこそ、精霊女王はオークランドを訪れ、予言を授けたのかもしれない。
ドレイクは竜の加護を得てから、孤独になった。
1人でさらに体を鍛え、翼竜に乗ることを覚えた。
人々はドレイクを恐れ、オークランドは守られた。
しかし、ドレイクの心は予言を知り、両親が死の覚悟をしていることを知ったあの日から、傷ついたままなのだった。
無表情なドレイクの顔の下では、いまだに血の涙を流しているドレイクの心が存在している。
* * *
そして時は流れ、ドレイク28歳。
アルワーンとの終戦から10年の月日が流れた今、再び、ドレイクの前にアルワーンが姿を現した。
ドレイクは再び、旅に出る。
今度の旅は、1人ではない。
ユリウスを伴う旅だ。
黒竜は連れて行けない。
しかし、ドレイクが本当に竜を必要とする時、彼がやって来ることを、ドレイクは確信していた。
大切なものを、もう2度と失わないために。
ドレイクは、因縁の地、アルワーン王国へと足を踏み入れる。
ドレイクはトルモル岩山の頂上で、心を込めて、精霊女王モルガンに呼びかけ、祈った。
目を閉じているドレイクの額に、細かな金色の粉が煌めいたように見えた。
そして、ドレイクに応える声が、響いたのである。
『我を呼ぶのは誰か』
「私はオークランド王国第1王子ドレイク・オークランド」
そう名乗ったドレイクだったが、その不思議な声は、どこか悲しげな調子で、答えた。
『それは違うな。オークランド王国国王、ドレイク・オークランドよ』
その瞬間、ドレイクは膝から崩れ落ちそうになるのを、必死でこらえた。
それでは、父王は、すでにこの世を去ったのか?
オークランドはどうなったのだ。
自分は、間に合わなかったと言うのだろうか……。
しかし、不思議な声は、ドレイクをなだめるように、穏やかな声で続けた。
『そなたの国はまだ保たれている』
その言葉に、ドレイクは深い息を吐いた。
もはや、ここまで来たからには、やり遂げるしかない。
岩山の頂上に声は響く。
しかし、何の姿も見えない。
それでもドレイクは、生まれて初めて、国王としてふさわしい姿であろうとし、しっかりと岩山の上に足を踏み締めて、立っていた。
『そなたの求めるものは何か』
再び問われた声に、ドレイクは考えることなくすぐに答えた。
「平和を。我が国は戦争を望まない。アルワーン王国と戦うつもりはない。勇敢なる黒竜よ、どうか我が国に降り、その翼で平和をもたらしたまえ」
次の瞬間、ドレイクの目の前が真っ暗になった。
バサバサという音と、桁外れの風がドレイクに吹き寄せ、ドレイクは思わず両腕で頭を覆った。
『我が名はアルディオン』
ドレイクの目の前に、1頭の黒い翼竜がその巨大な姿を現していた。
竜はドレイクを真っ直ぐに認め、名前を教えた。
『そなたとの契約を受け入れる。平和のために働こう』
ドレイクは自分の前で足を折り、頭を下げた竜に乗り、トルモル岩山の頂上から飛び立った。
目指すは、アルワーンとの戦線へ。最前線に向かうのだ。
和平を手にするために。
* * *
かつて竜と人は共存していた。
竜は精霊国の守護者であり、精霊国は人間の国々とも共存していた。
時に人間の国では争いが起こったが、精霊女王とその守護者の竜が助け、平和を保つのに力を貸した。
しかし人は私欲のため、竜を「従え」、精霊の力を利用しようとした。
そして竜は去り、精霊女王は結界を張った。精霊国は扉を閉じ、人間の国々は精霊の守護を失ったと伝えられている。
竜を含め、精霊族は平和を望む。
そのために人と協力し、手を貸す。
だからこそ、私欲を捨て、王国の滅亡に際し、平和を強く願ったドレイクに、竜は応えた。
アルワーン王国に攻められ、オークランドの人々がもう希望も失った時、ドレイクは竜と共に突然戦場に現れた。
そして、竜がドレイクの意のままに動く姿に恐怖したアルワーン王国軍はそのまま退却したのだった。
オークランド王国は独立を守った。
しかし、失われた命は戻らない。多くの国民の命と共に、ドレイクの両親もまた亡くなっていた。
それはドレイクの心に、深い悲しみとなって、残り続けた。
ドレイクの苦しみは『命は救えないが、国は救える』という精霊女王の予言そのもの。
父母を救う道はなかったのか?
自分だけが生き残ってしまった、という後悔。
ドレイクの中から、その悲しみが消える日は、おそらくないだろう。
国は救える、それは竜の加護を得ることで、周囲の国々を牽制《けんせい》することができるからだ。竜は、国を守る抑止力となる。
オークランドは、穏やかな国。精霊を信じ、自然を愛する、優しい人々が暮らす。
オークランドを失うことは、世界にとっての損失でもあるのだ。
だからこそ、精霊女王はオークランドを訪れ、予言を授けたのかもしれない。
ドレイクは竜の加護を得てから、孤独になった。
1人でさらに体を鍛え、翼竜に乗ることを覚えた。
人々はドレイクを恐れ、オークランドは守られた。
しかし、ドレイクの心は予言を知り、両親が死の覚悟をしていることを知ったあの日から、傷ついたままなのだった。
無表情なドレイクの顔の下では、いまだに血の涙を流しているドレイクの心が存在している。
* * *
そして時は流れ、ドレイク28歳。
アルワーンとの終戦から10年の月日が流れた今、再び、ドレイクの前にアルワーンが姿を現した。
ドレイクは再び、旅に出る。
今度の旅は、1人ではない。
ユリウスを伴う旅だ。
黒竜は連れて行けない。
しかし、ドレイクが本当に竜を必要とする時、彼がやって来ることを、ドレイクは確信していた。
大切なものを、もう2度と失わないために。
ドレイクは、因縁の地、アルワーン王国へと足を踏み入れる。
2
お気に入りに追加
54
あなたにおすすめの小説
私がいなくなった部屋を見て、あなた様はその心に何を思われるのでしょうね…?
新野乃花(大舟)
恋愛
貴族であるファーラ伯爵との婚約を結んでいたセイラ。しかし伯爵はセイラの事をほったらかしにして、幼馴染であるレリアの方にばかり愛情をかけていた。それは溺愛と呼んでもいいほどのもので、そんな行動の果てにファーラ伯爵は婚約破棄まで持ち出してしまう。しかしそれと時を同じくして、セイラはその姿を伯爵の前からこつぜんと消してしまう。弱気なセイラが自分に逆らう事など絶対に無いと思い上がっていた伯爵は、誰もいなくなってしまったセイラの部屋を見て…。
※カクヨム、小説家になろうにも投稿しています!
【完結】そんなに側妃を愛しているなら邪魔者のわたしは消えることにします。
たろ
恋愛
わたしの愛する人の隣には、わたしではない人がいる。………彼の横で彼を見て微笑んでいた。
わたしはそれを遠くからそっと見て、視線を逸らした。
ううん、もう見るのも嫌だった。
結婚して1年を過ぎた。
政略結婚でも、結婚してしまえばお互い寄り添い大事にして暮らしていけるだろうと思っていた。
なのに彼は婚約してからも結婚してからもわたしを見ない。
見ようとしない。
わたしたち夫婦には子どもが出来なかった。
義両親からの期待というプレッシャーにわたしは心が折れそうになった。
わたしは彼の姿を見るのも嫌で彼との時間を拒否するようになってしまった。
そして彼は側室を迎えた。
拗れた殿下が妻のオリエを愛する話です。
ただそれがオリエに伝わることは……
とても設定はゆるいお話です。
短編から長編へ変更しました。
すみません
私が愛する王子様は、幼馴染を側妃に迎えるそうです
こことっと
恋愛
それは奇跡のような告白でした。
まさか王子様が、社交会から逃げ出した私を探しだし妃に選んでくれたのです。
幸せな結婚生活を迎え3年、私は幸せなのに不安から逃れられずにいました。
「子供が欲しいの」
「ごめんね。 もう少しだけ待って。 今は仕事が凄く楽しいんだ」
それから間もなく……彼は、彼の幼馴染を側妃に迎えると告げたのです。
前略、旦那様……幼馴染と幸せにお過ごし下さい【完結】
迷い人
恋愛
私、シア・エムリスは英知の塔で知識を蓄えた、賢者。
ある日、賢者の天敵に襲われたところを、人獣族のランディに救われ一目惚れ。
自らの有能さを盾に婚姻をしたのだけど……夫であるはずのランディは、私よりも幼馴染が大切らしい。
「だから、王様!! この婚姻無効にしてください!!」
「My天使の願いなら仕方ないなぁ~(*´ω`*)」
※表現には実際と違う場合があります。
そうして、私は婚姻が完全に成立する前に、離婚を成立させたのだったのだけど……。
私を可愛がる国王夫婦は、私を妻に迎えた者に国を譲ると言い出すのだった。
※AIイラスト、キャラ紹介、裏設定を『作品のオマケ』で掲載しています。
※私の我儘で、イチャイチャどまりのR18→R15への変更になりました。 ごめんなさい。
【完結】殿下、自由にさせていただきます。
なか
恋愛
「出て行ってくれリルレット。王宮に君が住む必要はなくなった」
その言葉と同時に私の五年間に及ぶ初恋は終わりを告げた。
アルフレッド殿下の妃候補として選ばれ、心の底から喜んでいた私はもういない。
髪を綺麗だと言ってくれた口からは、私を貶める言葉しか出てこない。
見惚れてしまう程の笑みは、もう見せてもくれない。
私………貴方に嫌われた理由が分からないよ。
初夜を私一人だけにしたあの日から、貴方はどうして変わってしまったの?
恋心は砕かれた私は死さえ考えたが、過去に見知らぬ男性から渡された本をきっかけに騎士を目指す。
しかし、正騎士団は女人禁制。
故に私は男性と性別を偽って生きていく事を決めたのに……。
晴れて騎士となった私を待っていたのは、全てを見抜いて笑う副団長であった。
身分を明かせない私は、全てを知っている彼と秘密の恋をする事になる。
そして、騎士として王宮内で起きた変死事件やアルフレッドの奇行に大きく関わり、やがて王宮に蔓延る謎と対峙する。
これは、私の初恋が終わり。
僕として新たな人生を歩みだした話。
【完結】番が見つかった恋人に今日も溺愛されてますっ…何故っ!?
ハリエニシダ・レン
恋愛
大好きな恋人に番が見つかった。
当然のごとく別れて、彼は私の事など綺麗さっぱり忘れて番といちゃいちゃ幸せに暮らし始める……
と思っていたのに…!??
狼獣人×ウサギ獣人。
※安心のR15仕様。
-----
主人公サイドは切なくないのですが、番サイドがちょっと切なくなりました。予定外!
寵愛のいる旦那様との結婚生活が終わる。もし、次があるのなら緩やかに、優しい人と恋がしたい。
にのまえ
恋愛
リルガルド国。公爵令嬢リイーヤ・ロイアルは令嬢ながら、剣に明け暮れていた。
父に頼まれて参加をした王女のデビュタントの舞踏会で、伯爵家コール・デトロイトと知り合い恋に落ちる。
恋に浮かれて、剣を捨た。
コールと結婚をして初夜を迎えた。
リイーヤはナイトドレスを身に付け、鼓動を高鳴らせて旦那様を待っていた。しかし寝室に訪れた旦那から出た言葉は「私は君を抱くことはない」「私には心から愛する人がいる」だった。
ショックを受けて、旦那には愛してもられないと知る。しかし離縁したくてもリルガルド国では離縁は許されない。しかしリイーヤは二年待ち子供がいなければ離縁できると知る。
結婚二周年の食事の席で、旦那は義理両親にリイーヤに子供ができたと言い出した。それに反論して自分は生娘だと医師の診断書を見せる。
混乱した食堂を後にして、リイーヤは馬に乗り伯爵家から出て行き国境を越え違う国へと向かう。
もし、次があるのなら優しい人と恋がしたいと……
お読みいただき、ありがとうございます。
エブリスタで四月に『完結』した話に差し替えいたいと思っております。内容はさほど、変わっておりません。
それにあたり、栞を挟んでいただいている方、すみません。
王弟殿下の番様は溺れるほどの愛をそそがれ幸せに…
ましろ
恋愛
見つけた!愛しい私の番。ようやく手に入れることができた私の宝玉。これからは私のすべてで愛し、護り、共に生きよう。
王弟であるコンラート公爵が番を見つけた。
それは片田舎の貴族とは名ばかりの貧乏男爵の娘だった。物語のような幸運を得た少女に人々は賞賛に沸き立っていた。
貧しかった少女は番に愛されそして……え?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる