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第1章 オークランド王国編

第20話 黒の竜王の誕生(2)

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「精霊国の女王モルガンよ、精霊国を守る伝説の竜よ。平和を求める我が祈りに応えたまえ」

 ドレイクはトルモル岩山の頂上で、心を込めて、精霊女王モルガンに呼びかけ、祈った。

 目を閉じているドレイクの額に、細かな金色の粉が煌めいたように見えた。
 そして、ドレイクに応える声が、響いたのである。

『我を呼ぶのは誰か』

「私はオークランド王国第1王子ドレイク・オークランド」

 そう名乗ったドレイクだったが、その不思議な声は、どこか悲しげな調子で、答えた。

『それは違うな。オークランド王国国王、ドレイク・オークランドよ』

 その瞬間、ドレイクは膝から崩れ落ちそうになるのを、必死でこらえた。
 それでは、父王は、すでにこの世を去ったのか?
 オークランドはどうなったのだ。
 自分は、間に合わなかったと言うのだろうか……。

 しかし、不思議な声は、ドレイクをなだめるように、穏やかな声で続けた。

『そなたの国はまだ保たれている』

 その言葉に、ドレイクは深い息を吐いた。
 もはや、ここまで来たからには、やり遂げるしかない。
 岩山の頂上に声は響く。
 しかし、何の姿も見えない。
 それでもドレイクは、生まれて初めて、国王としてふさわしい姿であろうとし、しっかりと岩山の上に足を踏み締めて、立っていた。

『そなたの求めるものは何か』

 再び問われた声に、ドレイクは考えることなくすぐに答えた。

「平和を。我が国は戦争を望まない。アルワーン王国と戦うつもりはない。勇敢なる黒竜よ、どうか我が国に降り、その翼で平和をもたらしたまえ」

 次の瞬間、ドレイクの目の前が真っ暗になった。
 バサバサという音と、桁外れの風がドレイクに吹き寄せ、ドレイクは思わず両腕で頭を覆った。

『我が名はアルディオン』

 ドレイクの目の前に、1頭の黒い翼竜がその巨大な姿を現していた。

 竜はドレイクを真っ直ぐに認め、名前を教えた。

『そなたとの契約を受け入れる。平和のために働こう』

 ドレイクは自分の前で足を折り、頭を下げた竜に乗り、トルモル岩山の頂上から飛び立った。
 目指すは、アルワーンとの戦線へ。最前線に向かうのだ。
 和平を手にするために。

 * * *

 かつて竜と人は共存していた。
 竜は精霊国の守護者であり、精霊国は人間の国々とも共存していた。

 時に人間の国では争いが起こったが、精霊女王とその守護者の竜が助け、平和を保つのに力を貸した。

 しかし人は私欲のため、竜を「従え」、精霊の力を利用しようとした。
 そして竜は去り、精霊女王は結界を張った。精霊国は扉を閉じ、人間の国々は精霊の守護を失ったと伝えられている。

 竜を含め、精霊族は平和を望む。
 そのために人と協力し、手を貸す。
 だからこそ、私欲を捨て、王国の滅亡に際し、平和を強く願ったドレイクに、竜は応えた。

 アルワーン王国に攻められ、オークランドの人々がもう希望も失った時、ドレイクは竜と共に突然戦場に現れた。
 そして、竜がドレイクの意のままに動く姿に恐怖したアルワーン王国軍はそのまま退却したのだった。

 オークランド王国は独立を守った。

 しかし、失われた命は戻らない。多くの国民の命と共に、ドレイクの両親もまた亡くなっていた。
 それはドレイクの心に、深い悲しみとなって、残り続けた。
 ドレイクの苦しみは『命は救えないが、国は救える』という精霊女王の予言そのもの。

 父母を救う道はなかったのか?
 自分だけが生き残ってしまった、という後悔。
 ドレイクの中から、その悲しみが消える日は、おそらくないだろう。

 国は救える、それは竜の加護を得ることで、周囲の国々を牽制《けんせい》することができるからだ。竜は、国を守る抑止力となる。

 オークランドは、穏やかな国。精霊を信じ、自然を愛する、優しい人々が暮らす。
 オークランドを失うことは、世界にとっての損失でもあるのだ。
 だからこそ、精霊女王はオークランドを訪れ、予言を授けたのかもしれない。

 ドレイクは竜の加護を得てから、孤独になった。
 1人でさらに体を鍛え、翼竜に乗ることを覚えた。
 人々はドレイクを恐れ、オークランドは守られた。

 しかし、ドレイクの心は予言を知り、両親が死の覚悟をしていることを知ったあの日から、傷ついたままなのだった。
 無表情なドレイクの顔の下では、いまだに血の涙を流しているドレイクの心が存在している。

 * * *

 そして時は流れ、ドレイク28歳。
 アルワーンとの終戦から10年の月日が流れた今、再び、ドレイクの前にアルワーンが姿を現した。

 ドレイクは再び、旅に出る。
 今度の旅は、1人ではない。
 ユリウスを伴う旅だ。

 黒竜は連れて行けない。
 しかし、ドレイクが本当に竜を必要とする時、彼がやって来ることを、ドレイクは確信していた。


 大切なものを、もう2度と失わないために。
 ドレイクは、因縁の地、アルワーン王国へと足を踏み入れる。

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