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第1章 オークランド王国編
第18話 精霊女王の予言
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今から28年前のこと。
オークの木々が連なり、広大な森を作っているその土地は、オークランド王国と呼ばれ、若き王と王妃が国を治めていた。
自然を愛する人々は、伝説に残る精霊という存在と、精霊が住まう国である、精霊国を信じていた。
しかし、人々が実際に、その人間離れした、精霊という存在に触れることはなかった。
『その時』までは。
オークランド国王と王妃の間に、念願の子供が生まれた時のことだった。
世継ぎとなる男児誕生に沸く王城に、1人の貴婦人が姿を現した。
「わたくしの名は、モルガン。オークランドの王の元に生まれた赤子を祝福しに来た」
それは、まるで炎のように真っ赤な、見事な髪をし、鮮やかな緑の瞳をした、とても常人とは思えない美しさを持った女性だった。
貴婦人は即座に城内に案内される。
なぜなら、モルガンと名乗った彼女は、1頭の、黒い翼竜を従えていたからだった。
竜は伝説の存在。この世界で、竜を見た者はいない。
竜は精霊国に存在していると言われる生き物だった。
精霊国に関わりがある存在が、突然、オークランド城に現れたのだ。
オークランド国王は、生まれた男児を大切に抱え、王妃を伴って、最大級の礼を持って、この女性を迎えた。
「わたくしは、精霊国の女王、モルガン。この幼な子を祝福しに来た。自然と精霊を愛するオークランドの人々に敬意を表するため、そなたらに予言を授けよう」
言葉を切ったモルガンの次の言葉に、居合わせた人々からは、悲鳴が上がった。
モルガンは言ったのだ。
「オークランドを失う危機が訪れる。命は救えないが、国は救える」
「なんと……!!」
オークランド国王は絶句した。
王妃もまた、衝撃のあまり、両手で口元を押さえ、必死で体の震えを抑えようとした。
呆然とする国王夫妻の前で、モルガンは続ける。
「竜の加護を求めよ。その時が来たら、この子に1人でトルモル岩山に来るように言うのだ」
「トルモル岩山……」
「それは世界の果てにあると言う、黒い岩山のある小島では。伝承によると、その島では竜が空を飛ぶ姿を見ることができるとか」
人々の交わす会話に、モルガンは微笑んだ。
「世界の果てではあるまいよ。オークランドの西南端ではあるが。そこが一番、この世界では精霊国に近い場所にある。王妃、よいか、この子を、竜の加護に耐える、強い男性に育てよ」
王妃が精霊の女王を見つめた。
「よいな。その方らは、予言を聞き、怖れたであろう。では希望はないのか、と思うたであろう。この子供が、希望なのだ。これが、わたくしからの祝福、贈り物である」
精霊の女王はそう言うと、国王夫妻に歩み寄り、赤ん坊の額にそっと手を載せた。
金色の光が溢れ、赤ん坊を包み、やがて消えた。
精霊の女王はそのまま竜に向かって歩く。
竜の首を軽く叩いた。
竜が足を折り、頭を下げて待つ。
精霊の女王は軽やかに竜の背に乗ると、王城の空に消えていった。
「国王陛下」
「妃よ」
若き国王夫妻は、手を取り合って、黒い翼竜の消えた暗い空を眺めた。
なんということが起こったのか。
これは夢ではないのか。
しかし、2人が見つめている先で、赤ん坊の額に、まるで鱗粉のような、金色の光がちらちらと輝いているのが見えた。
「これは警告だ」
王は呟いた。
「そして祝福である。よいな。準備をせよ、との警告なのだ」
王は自分の初めての息子を愛情がこもった眼差しで見つめた。
「ドレイク」
王は言った。
「オークランド国第1王子、そなたの名前は、ドレイク(竜)だ。名前の通り、強き男に育ち、竜の加護を得る者となれ」
わっと一斉に歓声が上がった。
その中で、まだショックから覚めやらぬ王妃を、労るように抱きしめると、王は言った。
「妃よ。許せ。私はいずれ死を迎えるようだ。ドレイクをしっかり育てようぞ。予言を忘れるな。『オークランドを失う危機が訪れる。命は救えないが、国は救える』。オークランドを救うために、私の命は失われるであろう。しかし、ドレイクが、オークランドを救ってくれるであろう。であれば、我には何も恐れるものはない」
「陛下」
王妃もまた、国王をしっかりと抱きしめた。
「わたくしも、命をかけてドレイクを必ずや、竜の加護を得る者に育てる所存でございます」
* * *
ドレイクが自分の誕生時に訪れた精霊女王の話を聞いたのは、彼が10歳の時だった。
精霊の女王が来たのは、準備をさせるため。
ドレイクが竜の加護に耐える、強い男性に育つように、との願いを込めていた。
そして王はドレイク(竜)という名前を赤ん坊に付けた。
両親から初めて聞いた、精霊女王の予言に、ドレイクはこれまでにないくらいの衝撃を受けた。
王は自身の死を覚悟し、ドレイクをしっかりと育てた。オークランドを救うためには、自分は命を失うのだろうと悟ったのだ。
王妃もまた、ドレイクの健康に心を配り育てた。王妃もまた、夫と共にどこまでも行く覚悟だった。
王妃自ら、体に良い香草や各種トウガラシを育てた家庭菜園は、子供の頃は病弱だったドレイクを強く育てるため。
家庭菜園の恵みを惜しげもなく使って、王妃はさまざまな料理を考案し、ドレイクは今でも母の得意料理だったトウガラシ入りのスープが大好きだ。
玉ねぎ、じゃがいも、セロリ、にんじん、ソーセージ、お肉、豆、トウガラシで作る特製のスープのレシピは、ナイア夫人が今も保管している。
もう1つ、ドレイクが10歳の時には、大きな変化が起こっていた。
それが、隣国アルワーン王国の第2王子、アルファイド・ガラニエルのオークランドへの留学だった。
オークランドの脅威は常に隣国のアルワーンだった。
アルワーンは、隣国とはいえ、人々の見た目も違えば、文化も異なる。
広大な国土を持つとはいえ、大部分は砂漠。
雨は少なく、気温は高い。
比較的温暖な気候である西部に、アルワーンの都市は集中していた。
そこには大きな港が作られ、船を使った交易が盛んだった。
そんなアルワーンの特徴はまず、精霊を信じないということ。
そして現代においても、奴隷が合法であることだった。
アルワーンとの間に戦が起こらないようにと、オークランド国王夫妻は留学のために来たアルワーンの王子を快く引き受け、ドレイクの学友として、我が子のように接した。
同時にアルワーンにはない、精霊信仰、精霊を愛し、敬う心を伝えようとしたのだった。
国王夫妻はアルファイドに繰り返し語りかけた。
「精霊のいる国は豊かになる」
「精霊は私達の良心」
オークランドを滅ぼす国がアルワーンとは限らない。
しかし、国王夫妻は、周辺国家との和平に務め、少しでも予言の未来を回避しようと、努力を続けていたのだった。
両親がドレイクに生まれた時の予言の詳細を初めて教えた、ドレイク10歳の時。
衝撃を受けたドレイクは体を鍛え始める。
同時に未来にも備え始めた。
精霊女王の語った、『トルモル岩山』を探すとともに、精霊についても調べ始めたのだった。
そして18歳の時、ついに戦争が起き、予言が実現してしまう。
全てが、世界が変わってしまう1年が始まったーー。
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竜は精霊国に存在していると言われる生き物だった。
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「わたくしは、精霊国の女王、モルガン。この幼な子を祝福しに来た。自然と精霊を愛するオークランドの人々に敬意を表するため、そなたらに予言を授けよう」
言葉を切ったモルガンの次の言葉に、居合わせた人々からは、悲鳴が上がった。
モルガンは言ったのだ。
「オークランドを失う危機が訪れる。命は救えないが、国は救える」
「なんと……!!」
オークランド国王は絶句した。
王妃もまた、衝撃のあまり、両手で口元を押さえ、必死で体の震えを抑えようとした。
呆然とする国王夫妻の前で、モルガンは続ける。
「竜の加護を求めよ。その時が来たら、この子に1人でトルモル岩山に来るように言うのだ」
「トルモル岩山……」
「それは世界の果てにあると言う、黒い岩山のある小島では。伝承によると、その島では竜が空を飛ぶ姿を見ることができるとか」
人々の交わす会話に、モルガンは微笑んだ。
「世界の果てではあるまいよ。オークランドの西南端ではあるが。そこが一番、この世界では精霊国に近い場所にある。王妃、よいか、この子を、竜の加護に耐える、強い男性に育てよ」
王妃が精霊の女王を見つめた。
「よいな。その方らは、予言を聞き、怖れたであろう。では希望はないのか、と思うたであろう。この子供が、希望なのだ。これが、わたくしからの祝福、贈り物である」
精霊の女王はそう言うと、国王夫妻に歩み寄り、赤ん坊の額にそっと手を載せた。
金色の光が溢れ、赤ん坊を包み、やがて消えた。
精霊の女王はそのまま竜に向かって歩く。
竜の首を軽く叩いた。
竜が足を折り、頭を下げて待つ。
精霊の女王は軽やかに竜の背に乗ると、王城の空に消えていった。
「国王陛下」
「妃よ」
若き国王夫妻は、手を取り合って、黒い翼竜の消えた暗い空を眺めた。
なんということが起こったのか。
これは夢ではないのか。
しかし、2人が見つめている先で、赤ん坊の額に、まるで鱗粉のような、金色の光がちらちらと輝いているのが見えた。
「これは警告だ」
王は呟いた。
「そして祝福である。よいな。準備をせよ、との警告なのだ」
王は自分の初めての息子を愛情がこもった眼差しで見つめた。
「ドレイク」
王は言った。
「オークランド国第1王子、そなたの名前は、ドレイク(竜)だ。名前の通り、強き男に育ち、竜の加護を得る者となれ」
わっと一斉に歓声が上がった。
その中で、まだショックから覚めやらぬ王妃を、労るように抱きしめると、王は言った。
「妃よ。許せ。私はいずれ死を迎えるようだ。ドレイクをしっかり育てようぞ。予言を忘れるな。『オークランドを失う危機が訪れる。命は救えないが、国は救える』。オークランドを救うために、私の命は失われるであろう。しかし、ドレイクが、オークランドを救ってくれるであろう。であれば、我には何も恐れるものはない」
「陛下」
王妃もまた、国王をしっかりと抱きしめた。
「わたくしも、命をかけてドレイクを必ずや、竜の加護を得る者に育てる所存でございます」
* * *
ドレイクが自分の誕生時に訪れた精霊女王の話を聞いたのは、彼が10歳の時だった。
精霊の女王が来たのは、準備をさせるため。
ドレイクが竜の加護に耐える、強い男性に育つように、との願いを込めていた。
そして王はドレイク(竜)という名前を赤ん坊に付けた。
両親から初めて聞いた、精霊女王の予言に、ドレイクはこれまでにないくらいの衝撃を受けた。
王は自身の死を覚悟し、ドレイクをしっかりと育てた。オークランドを救うためには、自分は命を失うのだろうと悟ったのだ。
王妃もまた、ドレイクの健康に心を配り育てた。王妃もまた、夫と共にどこまでも行く覚悟だった。
王妃自ら、体に良い香草や各種トウガラシを育てた家庭菜園は、子供の頃は病弱だったドレイクを強く育てるため。
家庭菜園の恵みを惜しげもなく使って、王妃はさまざまな料理を考案し、ドレイクは今でも母の得意料理だったトウガラシ入りのスープが大好きだ。
玉ねぎ、じゃがいも、セロリ、にんじん、ソーセージ、お肉、豆、トウガラシで作る特製のスープのレシピは、ナイア夫人が今も保管している。
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それが、隣国アルワーン王国の第2王子、アルファイド・ガラニエルのオークランドへの留学だった。
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そこには大きな港が作られ、船を使った交易が盛んだった。
そんなアルワーンの特徴はまず、精霊を信じないということ。
そして現代においても、奴隷が合法であることだった。
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国王夫妻はアルファイドに繰り返し語りかけた。
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「精霊は私達の良心」
オークランドを滅ぼす国がアルワーンとは限らない。
しかし、国王夫妻は、周辺国家との和平に務め、少しでも予言の未来を回避しようと、努力を続けていたのだった。
両親がドレイクに生まれた時の予言の詳細を初めて教えた、ドレイク10歳の時。
衝撃を受けたドレイクは体を鍛え始める。
同時に未来にも備え始めた。
精霊女王の語った、『トルモル岩山』を探すとともに、精霊についても調べ始めたのだった。
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