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第1章 オークランド王国編
第12話 ウサギの長老の教え
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「そうだ、ここで長老に言われたんですっ……!」
飽きずに畑を歩き回っていた少女は、突然、何かを思い出したようで、ドレイクの元に駆け寄った。
「わたしは……気がついたら、ウサギだったんです。その前のことは、思い出せないんです。誰かと話した記憶があるんですけど……それと、部分的な記憶はあるんです。ドレイク様と会った時のことは、全部覚えているんですよ。でも、その他のことは、覚えていなくて」
少女は悲しげにうつむいた。
「それで、自分がウサギになっていて、この場所は覚えていたので、あなたに会えるかもしれない、とここに来ようとしていました。そうしたら、野原に住んでいるウサギの家族と出会ったのです」
少女の話によると、そのウサギの家族はかなりの大家族(?)で、一番歳を取っているオスのウサギは『長老』と呼ばれて、尊敬されていたという。
「長老は人間のこともよく知っていました。それで、若いウサギ達が人間とトラブルにならないよう、色々なことを教えてくれるのです。ある日のこと、長老が『ウサギ鍋』というものがある、と」
「ウサギ鍋!?」
ドレイクが驚いて、思わず口元を右手で覆った。
ウサギ自身がウサギ鍋のことを話したりするのか。
そういえば、つい先日、ドレイクは少女に対して、「ウサギ鍋にするぞ!」なんて意地悪を言ったこともあった。
少女の方は、そんなドレイクの様子には気づかずに、長老の言葉を正確に思い出そうとしていた。
「長老は人間を見つけると、すぐ他のウサギ達に戻って来るように、と言いました。『早くこっちへおいで。人を信用しちゃいけないよ。傷つくのはウサギであるお前なのだから』、なんて言うのです」
長老の言うことはわかるけれど、わたしはドレイク様を探していて、どうしてもまた会いたかった、そう言う少女は、「でもあの人が大好きなの! 一緒にいたいの!」と訴え、「どうすれば一緒にいられるの?」と、長老に聞いたと言う。
その時、長老ウサギは次のようなことを言って、仲間のウサギ達を恐怖のどん底に陥れたのだった。
『人の役に立つウサギになりなさい。そうすれば近くに置いてもらえるかも。もし役に立たなかったら……ウサギ鍋というものがあると聞いた』
少女は真剣な表情でドレイクを見上げた。
「ウサギ鍋です。……あの時は、怖かったです。皆で、震えました……」
ドレイクの頭の中に、仲間同士で手を握り合って、ふるふると震える、ウサギ達の姿が浮かんだ。
「…………」
ドレイクは真剣な顔をしている少女がおかしかったのだが、我慢して無表情を貫いた。
「ドレイク様、最後に畑をもう1度周ってきていいですか?」
「ああ。だが1周したらウサギになるんだぞ。もうそろそろ帰る時間だ」
少女は勢いよく、「はいっ!」と返事をして、もうウサギになったかのように飛び跳ねながら行ってしまった。
「でも、必ず変身できます、と言えるほど自信はないかな」
そう言うと、少女は足を止めた。今、何かを思い出せそうな気がしたのだ。
ずっと、自分はウサギだと思っていた。
でも、ドレイクと話しているうちに気がついたのだ。
自分には、ウサギになる以前の記憶があった。
自分は、ウサギの姿にもなれるけれど、元々、ウサギではなかったかもしれない。
その時、少女の心の中で、浮かんできた言葉があった。
『よいか、けっして境界線を超えてはいけない。人の国に入ったら最後、お前の名は失われ、精霊の国での記憶も封じられるであろう。そなたはわたくしのことも忘れてしまうのだぞ』
あれは誰の声だったのだろう?
一方、ドレイクの方も、少女は、元々ウサギではない、という考えに至っていた。
同時に、ウサギは記憶を失っていることも確信した。
ウサギが覚えているのは、部分的な記憶だ。
オークランドでの記憶だけが残っているようだ。
少女は、オークランドに来る前は、どこにいたのだろうか?
飽きずに畑を歩き回っていた少女は、突然、何かを思い出したようで、ドレイクの元に駆け寄った。
「わたしは……気がついたら、ウサギだったんです。その前のことは、思い出せないんです。誰かと話した記憶があるんですけど……それと、部分的な記憶はあるんです。ドレイク様と会った時のことは、全部覚えているんですよ。でも、その他のことは、覚えていなくて」
少女は悲しげにうつむいた。
「それで、自分がウサギになっていて、この場所は覚えていたので、あなたに会えるかもしれない、とここに来ようとしていました。そうしたら、野原に住んでいるウサギの家族と出会ったのです」
少女の話によると、そのウサギの家族はかなりの大家族(?)で、一番歳を取っているオスのウサギは『長老』と呼ばれて、尊敬されていたという。
「長老は人間のこともよく知っていました。それで、若いウサギ達が人間とトラブルにならないよう、色々なことを教えてくれるのです。ある日のこと、長老が『ウサギ鍋』というものがある、と」
「ウサギ鍋!?」
ドレイクが驚いて、思わず口元を右手で覆った。
ウサギ自身がウサギ鍋のことを話したりするのか。
そういえば、つい先日、ドレイクは少女に対して、「ウサギ鍋にするぞ!」なんて意地悪を言ったこともあった。
少女の方は、そんなドレイクの様子には気づかずに、長老の言葉を正確に思い出そうとしていた。
「長老は人間を見つけると、すぐ他のウサギ達に戻って来るように、と言いました。『早くこっちへおいで。人を信用しちゃいけないよ。傷つくのはウサギであるお前なのだから』、なんて言うのです」
長老の言うことはわかるけれど、わたしはドレイク様を探していて、どうしてもまた会いたかった、そう言う少女は、「でもあの人が大好きなの! 一緒にいたいの!」と訴え、「どうすれば一緒にいられるの?」と、長老に聞いたと言う。
その時、長老ウサギは次のようなことを言って、仲間のウサギ達を恐怖のどん底に陥れたのだった。
『人の役に立つウサギになりなさい。そうすれば近くに置いてもらえるかも。もし役に立たなかったら……ウサギ鍋というものがあると聞いた』
少女は真剣な表情でドレイクを見上げた。
「ウサギ鍋です。……あの時は、怖かったです。皆で、震えました……」
ドレイクの頭の中に、仲間同士で手を握り合って、ふるふると震える、ウサギ達の姿が浮かんだ。
「…………」
ドレイクは真剣な顔をしている少女がおかしかったのだが、我慢して無表情を貫いた。
「ドレイク様、最後に畑をもう1度周ってきていいですか?」
「ああ。だが1周したらウサギになるんだぞ。もうそろそろ帰る時間だ」
少女は勢いよく、「はいっ!」と返事をして、もうウサギになったかのように飛び跳ねながら行ってしまった。
「でも、必ず変身できます、と言えるほど自信はないかな」
そう言うと、少女は足を止めた。今、何かを思い出せそうな気がしたのだ。
ずっと、自分はウサギだと思っていた。
でも、ドレイクと話しているうちに気がついたのだ。
自分には、ウサギになる以前の記憶があった。
自分は、ウサギの姿にもなれるけれど、元々、ウサギではなかったかもしれない。
その時、少女の心の中で、浮かんできた言葉があった。
『よいか、けっして境界線を超えてはいけない。人の国に入ったら最後、お前の名は失われ、精霊の国での記憶も封じられるであろう。そなたはわたくしのことも忘れてしまうのだぞ』
あれは誰の声だったのだろう?
一方、ドレイクの方も、少女は、元々ウサギではない、という考えに至っていた。
同時に、ウサギは記憶を失っていることも確信した。
ウサギが覚えているのは、部分的な記憶だ。
オークランドでの記憶だけが残っているようだ。
少女は、オークランドに来る前は、どこにいたのだろうか?
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