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第1章 オークランド王国編

第10話 畑に行こう!(1)

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 オークランド国王、ドレイクは片手に白ウサギを抱えて、城の中を歩いていた。
 城の中で働く使用人や騎士、貴族達は一瞬、ぎょっとした表情になるものの、さりげなく視線を外したり、何も見なかったようなふりをしたりして、ドレイクを見送った。

 とはいえ、ここ数日で見られるようになった、『国王』が愛玩動物のウサギを抱えて歩く姿は、次第に人々にとって見慣れた光景となりつつあり、特に侍女や女官達は微笑ましいという表情で、国王を眺めた。

 ドレイクがブランケットを抱えていることを不思議そうに見る人々もいたが、「庭にブランケットを敷いて、ウサギと遊ぶのでは」と誰かが言い、皆、「なるほど」と納得したのだった。

 ウサギとブランケットを抱えた国王には親しみが湧く、人間らしく見える、というのが多数派の意見だった。
 一方、ドレイクがペットを手離せなくなるほどストレスに苦しんでいるのではないか、と心配する人間も出た。

 有名な『黒の竜王』は、何をしても話題になる、ということらしい。

 当のドレイクにしてみれば、ウサギによる「なんとなく変身のタイミングがわかってきたかも」という言葉と、だいぶ城での暮らしにも慣れただろう、という推測のもと、ウサギを連れ回している。

(なんだかんだ言って、ウサギみたいな小動物がいるのは癒されるからな)

 もうひとつの理由は、ドレイクの黒竜だった。
 アルワーンとの戦争でオークランドを守り抜き、精霊女王の守護者、そしてドレイクの守護者となった黒竜は、なぜかウサギをとても気に入り、ドレイクだけでなく、ウサギにも会いたがるようになったからである。

 そこで、黒竜の世話や散歩に行く時には、ウサギも一緒に連れていくことが多くなった。
 今のところ、人前でウサギから少女に変身してしまうことはない。
 とはいえ、最低限の準備として、もし少女姿になってしまった時のために、ブランケットを持ち運んでいたのだった。

 黒竜だけでも、伝説の生き物として怖れられているのに、そんな黒竜を従え、鍛えられた身体はがっしりとして大きく、黒髪黒眼に無表情、黒一色の服装。ドレイクが『黒の竜王』として怖れられるのも、なるほどと思われた。

 しかし、ドレイクは自分では気がついていないが、最近ではしばしばウサギを優しい手つきで撫でてやっていたり、微かに微笑みかけてやっていたりするのだ。

 ドレイクの印象は少しずつ、柔らかなものになっていた。

 この日も、ドレイクは、ウサギ部屋に寄って、白ウサギを抱き抱えると、黒竜に会いに竜舎に向かっていた。


(幼な子が畑に行きたいと言っている)

 黒竜は、竜舎の外の、日当たりの良い芝生でのんびりと日光浴をしていた。
 白ウサギがまるでじゃれるように、黒竜の足から腹の上によじ登り、得意げにドレイクを見下ろしている。

「畑?」
(そなたと『出会った思い出の地』だと言っている)

 ドレイクは少しの間、考え込んだ。

「もしかして、母上の家庭菜園のことを言っているのか?」
(背中に乗れ。すぐ行くぞ)

 ドレイクが黒竜の背中に乗ると、ウサギが慣れた様子で、ドレイクの胴衣に潜り込んだ。
 翼竜は2、3回、大きく翼を広げると、数歩走り込み、一気に上昇した。
 同じ城内の移動だ。
 あっという間に、黒竜は器用に畑の外に着地した。

 ドレイクが黒竜から降りると、ウサギは勢いよく、ドレイクの胸元から飛び出し、地面に着地した。
 黒竜は翼を畳み、身体を丸めると、しばらく休憩することに決めたらしい。
 目を閉じて、畑の外で眠ってしまった。

 ウサギはしばらく、楽しそうに畑を駆け回っていたが、不意にドレイクの前に後ろ足で立つと、耳と鼻をひくひく、と動かした。

「!!」

 ドレイクは思わず口を手で塞いだ。

(か、可愛いじゃないか……! 愛玩動物の破壊力はすごいな……)

 思わず悶絶しそうなところをこらえていると、ウサギが顔を背けているドレイクの前にわざわざ回ってきて、また後ろ足で立ち上がって、物言いたげにじっとドレイクを見つめてくる。

(ウサギ、止めてくれ!)

 ドレイクはまた顔を背けようとしたところ、突然、ガガガガガガガガッ!! と妙な音が聞こえてくるのに気が付いた。
 聞き覚えのある音だ……。
 ドレイクはどきりとした。

 ウサギを見ると、表情は変わらないものの、すごい勢いで、後足で地面を蹴り付けている。
 むしろ表情が変わらないのが怖いくらいだ。
 いや、動物だから、変えようがないのか?
 
 そして次の瞬間……

「ウサギ!!」

 ウサギは、少女姿に、変身したのだった。

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