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第1章 オークランド王国編
第7話 ウサギの愛の告白(2)
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「……いいな? 自分の部屋にいろ。あちこち出歩くな。人前で変身するな。お前がウサギに変身するのは、秘密なんだからな。それに、どんなタイミングで変身するのか、わからない。お前はわかるのか?」
少女は自室のベッドの上にちょこんと座り、目の前に立つドレイクを情けなさそうに見上げた。
ドレイクに捕まり、ウサギ姿の首根っこを掴まれて、足をぶらぶらさせながら、ウサギ部屋へと強制連行されたところだった。
部屋に入ったタイミングで、ウサギ姿から少女に戻り、当然、服を着ていないわけで、ドレイクのドスの効いた「エマ……!!」という叫び声が、廊下にも響き渡った。
「……わかりません」
ドレイクは天井を見上げ、長い息を吐いた。
「だよな」
「ドレイク様、お嬢様のことは私も気を付けますので」
「面倒くさいですが、私もお嬢様によく説明いたしましょう。ですので、もうその辺で」
ドアの脇では、心配そうな顔をしたユリウスとエマが立って、ドレイクと少女を見守っていた。
ドレイクはベッドの上に座り、神妙な顔をしている少女を見た。
うつむいた小さな顔。ピンクの瞳は長い睫毛の下で揺れている。
緩く巻いた、ふわふわした白い髪が肩から背中へと流れていて、まるで小さな妖精のようにも見える。
小さくて、柔らかくて、ふわふわした少女を前にすると、自分はまるで無骨な狼にでもなったような気がする。
ドレイクはまたため息をついた。
「俺は仕事だ。ユリウスも仕事がある。問題は起こすなよ」
念押しするドレイクの言葉に少女はうなづいた。
「ごめんなさい。おとなしくしてます」
そのしょげかえった顔に、ちくりとドレイクの良心が痛んだ。
ドレイクはくるりと踵を返すと、ウサギ部屋を出て、居間を突っ切り、廊下に出ようとした。
その時、とん、と背中に軽い衝撃を受けた。
「……ドレイク様! お仕事の後で、来てくれますか……? 夜にまた、会えますか?」
ドレイクのお腹にぎゅっと、少女の細い手が巻きついている。
ドレイクは優しく、少女の手を離すと、身体をかがめて、少女の顔を覗き込んだ。
「お前は何を心配しているんだ? 俺のことは気にしないで、楽しく過ごせばいいんだぞ? さっきはあちこち出歩くな、と言って悪かった。エマと一緒なら、多少は部屋を出ても構わない。エマなら安心だ。俺のことばかり待つ必要はない」
「ドレイク様っ……!」
少女は必死になってドレイクの顔を見上げた。
ピンク色の瞳に、薄い水の膜がかかり、キラキラしている様子に、ドレイクはどこか胸の奥が痛くなるような、そんな感覚がした。
パタン、と静かにドアが閉まる音がした。
ユリウスとエマが、気を利かせて部屋を出たらしい。
「あなたが大好きだから」
少女が鼻をくすん、といわせながら言った。
「ドレイク様、あなたのことが、大好きです」
ドレイクが廊下に出ると、皮肉家のユリウスが妙に穏やかな顔をして、彼のことを待っていた。
「陛下、では今日の仕事に入りますか。さっさと片付けて、お嬢様の相手でもしてあげてください」
「おい」
侍女のエマが、一礼して、部屋に戻って行った。
この短時間にどこで手に入れたのか、何かの菓子を詰めた箱を手にしている。
「お嬢様は結構、甘いお菓子がお好きだそうですよ。お茶にもミルクと砂糖を両方入れるそうで」
ふん、という感じで聞き流していたと思われたドレイクだが、その日の夜、仕事をようやく切り上げた彼は、どこからか手に入れたお菓子の箱を手に、自室へと戻って行った。
すでに夕食の時間は過ぎていたので、少女はもう眠っているかもしれない。
そう思いつつも、ウサギ部屋を覗くと、エマを相手に絵本を読んでいる少女の姿があった。
「ドレイク様」
少女が思わず絵本を落として椅子から飛び上がると、ドレイクはお菓子の箱を少女に渡した。
同時にエマに声を掛ける。
「何か飲むものを用意してやってくれ。お菓子にはちょっと遅い時間かもしれないが」
「かしこまりました」
エマがにっこり笑ってお茶の支度に行くと、少女は大喜びでドレイクにまとわりついた。
「ドレイク様!!」
満面の笑顔で、ぴょんぴょんと飛び、ドレイクにかじりつく。
ドレイクは苦笑して、少女を椅子に座らせた。
「開けてみろ。お前の好みか?」
少女が箱を開けると、白い砂糖衣がかけられ、その上に、マジパンで作られた、可愛いニンジンとウサギが飾られているケーキが入っていた。
ケーキの生地は茶色くて、しっとりしていて、美味しそうだ。
少女が不思議そうにドレイクを見ると、ドレイクは「キャロットケーキだ。ニンジンのケーキ」と言った。
「今日は色々大変だったからな。頑張ったウサギにご褒美だ」
次の瞬間、少女はドレイクに抱きついた。
「ありがとうございます!! ドレイク様、大好き!! ありがとうございますっ」
「お、落ち着け、落ち着けっ! そんなに興奮したら、もしかして、変身してしまうかも……ああ~!!」
* * *
エマはそれから5分ほどして、お茶を用意してウサギ部屋に戻ってきた。
そして、ベッドの上に座り、膝に白いウサギを載せた国王陛下が、少し困ったような表情で、ぎこちなくウサギの背中を撫でてやっている姿を目撃したのだった。
少女は自室のベッドの上にちょこんと座り、目の前に立つドレイクを情けなさそうに見上げた。
ドレイクに捕まり、ウサギ姿の首根っこを掴まれて、足をぶらぶらさせながら、ウサギ部屋へと強制連行されたところだった。
部屋に入ったタイミングで、ウサギ姿から少女に戻り、当然、服を着ていないわけで、ドレイクのドスの効いた「エマ……!!」という叫び声が、廊下にも響き渡った。
「……わかりません」
ドレイクは天井を見上げ、長い息を吐いた。
「だよな」
「ドレイク様、お嬢様のことは私も気を付けますので」
「面倒くさいですが、私もお嬢様によく説明いたしましょう。ですので、もうその辺で」
ドアの脇では、心配そうな顔をしたユリウスとエマが立って、ドレイクと少女を見守っていた。
ドレイクはベッドの上に座り、神妙な顔をしている少女を見た。
うつむいた小さな顔。ピンクの瞳は長い睫毛の下で揺れている。
緩く巻いた、ふわふわした白い髪が肩から背中へと流れていて、まるで小さな妖精のようにも見える。
小さくて、柔らかくて、ふわふわした少女を前にすると、自分はまるで無骨な狼にでもなったような気がする。
ドレイクはまたため息をついた。
「俺は仕事だ。ユリウスも仕事がある。問題は起こすなよ」
念押しするドレイクの言葉に少女はうなづいた。
「ごめんなさい。おとなしくしてます」
そのしょげかえった顔に、ちくりとドレイクの良心が痛んだ。
ドレイクはくるりと踵を返すと、ウサギ部屋を出て、居間を突っ切り、廊下に出ようとした。
その時、とん、と背中に軽い衝撃を受けた。
「……ドレイク様! お仕事の後で、来てくれますか……? 夜にまた、会えますか?」
ドレイクのお腹にぎゅっと、少女の細い手が巻きついている。
ドレイクは優しく、少女の手を離すと、身体をかがめて、少女の顔を覗き込んだ。
「お前は何を心配しているんだ? 俺のことは気にしないで、楽しく過ごせばいいんだぞ? さっきはあちこち出歩くな、と言って悪かった。エマと一緒なら、多少は部屋を出ても構わない。エマなら安心だ。俺のことばかり待つ必要はない」
「ドレイク様っ……!」
少女は必死になってドレイクの顔を見上げた。
ピンク色の瞳に、薄い水の膜がかかり、キラキラしている様子に、ドレイクはどこか胸の奥が痛くなるような、そんな感覚がした。
パタン、と静かにドアが閉まる音がした。
ユリウスとエマが、気を利かせて部屋を出たらしい。
「あなたが大好きだから」
少女が鼻をくすん、といわせながら言った。
「ドレイク様、あなたのことが、大好きです」
ドレイクが廊下に出ると、皮肉家のユリウスが妙に穏やかな顔をして、彼のことを待っていた。
「陛下、では今日の仕事に入りますか。さっさと片付けて、お嬢様の相手でもしてあげてください」
「おい」
侍女のエマが、一礼して、部屋に戻って行った。
この短時間にどこで手に入れたのか、何かの菓子を詰めた箱を手にしている。
「お嬢様は結構、甘いお菓子がお好きだそうですよ。お茶にもミルクと砂糖を両方入れるそうで」
ふん、という感じで聞き流していたと思われたドレイクだが、その日の夜、仕事をようやく切り上げた彼は、どこからか手に入れたお菓子の箱を手に、自室へと戻って行った。
すでに夕食の時間は過ぎていたので、少女はもう眠っているかもしれない。
そう思いつつも、ウサギ部屋を覗くと、エマを相手に絵本を読んでいる少女の姿があった。
「ドレイク様」
少女が思わず絵本を落として椅子から飛び上がると、ドレイクはお菓子の箱を少女に渡した。
同時にエマに声を掛ける。
「何か飲むものを用意してやってくれ。お菓子にはちょっと遅い時間かもしれないが」
「かしこまりました」
エマがにっこり笑ってお茶の支度に行くと、少女は大喜びでドレイクにまとわりついた。
「ドレイク様!!」
満面の笑顔で、ぴょんぴょんと飛び、ドレイクにかじりつく。
ドレイクは苦笑して、少女を椅子に座らせた。
「開けてみろ。お前の好みか?」
少女が箱を開けると、白い砂糖衣がかけられ、その上に、マジパンで作られた、可愛いニンジンとウサギが飾られているケーキが入っていた。
ケーキの生地は茶色くて、しっとりしていて、美味しそうだ。
少女が不思議そうにドレイクを見ると、ドレイクは「キャロットケーキだ。ニンジンのケーキ」と言った。
「今日は色々大変だったからな。頑張ったウサギにご褒美だ」
次の瞬間、少女はドレイクに抱きついた。
「ありがとうございます!! ドレイク様、大好き!! ありがとうございますっ」
「お、落ち着け、落ち着けっ! そんなに興奮したら、もしかして、変身してしまうかも……ああ~!!」
* * *
エマはそれから5分ほどして、お茶を用意してウサギ部屋に戻ってきた。
そして、ベッドの上に座り、膝に白いウサギを載せた国王陛下が、少し困ったような表情で、ぎこちなくウサギの背中を撫でてやっている姿を目撃したのだった。
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