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第44話 緑の谷・3
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「アレシア!!」
アレシアが振り返る間もなく、アレシアの身体はすっぽりと何かに包まれてしまった。
ぎゅうぎゅうと締め付ける力に、アレシアが思わずこほっと咳をすると、「悪い悪い」と言う声とともに拘束は外れた。
「クルス兄様」
「当たり」
柔らかな声。ブラウンの髪にヘイゼルの瞳。
それは懐かしい、アレシアの兄であり、リオベルデ国王クルスの姿だった。
「アレシア、なかなか到着しないから、心配していた。とっくに着いてもいい頃だと思っていたのに。迎えを出すにも、君がどこにいるのかわからないから、気を揉んだよ。大丈夫だったかい?」
アレシアはうなづいた。
「大丈夫よ。馬車を乗り継いで来たから、大回りになって時間がかかってしまったけれど、道に迷ったりはしなかったわ」
アレシアは微笑んだ。
アレシアは先ほど、ネティを従えて徒歩でリオベルデの王宮前に着き、門を守る騎士達に仰天されたのだ。
リオベルデの王宮に立つアレシアは、青の小花模様のワンピースに、揃いのボンネットを被って、どこかの町娘のようだった。
農園で、カイルの乳母だったエミリアが用意してくれた服だ。
特徴のある、銀の長い髪は、三つ編みにして、帽子の中に入れ込んでいた。
クルスは、のほほんとしているアレシアに言いたいことは山のようにあったが、ぐっと心の中に押し込めた。
何しろ、今は、アレシアが無事にリオベルデに帰ってきたことだけで十分だ。
アレシアはリオベルデの王女であり、神殿の姫巫女。何よりも、クルスにとって世界でただ1人の妹であり、大切な家族である。
アレシアが無事だったのも、女神の守護とアレシアの強運のなせる技。
もちろん、あっさりとアレシアに脱走されたカイルには、言いたいことは山のようにある。悪いのはカイルなのだ。
「さあ、まずこちらへおいで。疲れているだろう? お腹も空いているんじゃないのか? ゆっくりお茶にでもしようじゃないか。ネティも大変だったね。無事にアレシアを連れてきてくれて、本当によくやってくれたよ。アレシアに仕えるのは並大抵ではないから」
「とんでもありません、陛下」
ネティが慌てて礼を取る。
そんなネティもアレシアと同じように、綿のワンピース姿だった。
クルスはアレシアの手を引いて、国王執務室の奥にある居間へ連れて行くと、ゆったりとしたソファに座らせた。
クルスは、侍女に命じて、熱いお茶とお茶菓子などを運ばせながら言った。
「アレシア、少しはゆっくりしていくんだろうね? すぐ緑の谷に向かうのは許さないよ。あとできちんと馬車を手配して、谷まで護衛付きで送らせるから、それまで待ちなさい」
その夜、アレシアが王宮にある彼女の部屋でぐっすり眠っているのを確認すると、クルスはようやく手紙を認めた。
中身はたった1行。かなりそっけない手紙である。
そこに仰々しいハンコやら封蝋やらを嫌味ったらしく施してやった。
「ランス帝国の皇帝陛下にお届けしろ。『宝は無事、リオベルデに帰還した』と。あ、急ぐ必要はないぞ。通常便扱いで届けてこい。せいぜい、気を揉ませておけ」
クルスはそう言って、手紙を側近に渡した。
「カイル殿。アレシアを任せるには、まだまだ力不足と判定しよう」
そう言うと、クルスは昼間できなかった分、溜め込んだ書類を片付けるために、ふんふんと笑顔で執務室へと戻るのだった。
アレシアが振り返る間もなく、アレシアの身体はすっぽりと何かに包まれてしまった。
ぎゅうぎゅうと締め付ける力に、アレシアが思わずこほっと咳をすると、「悪い悪い」と言う声とともに拘束は外れた。
「クルス兄様」
「当たり」
柔らかな声。ブラウンの髪にヘイゼルの瞳。
それは懐かしい、アレシアの兄であり、リオベルデ国王クルスの姿だった。
「アレシア、なかなか到着しないから、心配していた。とっくに着いてもいい頃だと思っていたのに。迎えを出すにも、君がどこにいるのかわからないから、気を揉んだよ。大丈夫だったかい?」
アレシアはうなづいた。
「大丈夫よ。馬車を乗り継いで来たから、大回りになって時間がかかってしまったけれど、道に迷ったりはしなかったわ」
アレシアは微笑んだ。
アレシアは先ほど、ネティを従えて徒歩でリオベルデの王宮前に着き、門を守る騎士達に仰天されたのだ。
リオベルデの王宮に立つアレシアは、青の小花模様のワンピースに、揃いのボンネットを被って、どこかの町娘のようだった。
農園で、カイルの乳母だったエミリアが用意してくれた服だ。
特徴のある、銀の長い髪は、三つ編みにして、帽子の中に入れ込んでいた。
クルスは、のほほんとしているアレシアに言いたいことは山のようにあったが、ぐっと心の中に押し込めた。
何しろ、今は、アレシアが無事にリオベルデに帰ってきたことだけで十分だ。
アレシアはリオベルデの王女であり、神殿の姫巫女。何よりも、クルスにとって世界でただ1人の妹であり、大切な家族である。
アレシアが無事だったのも、女神の守護とアレシアの強運のなせる技。
もちろん、あっさりとアレシアに脱走されたカイルには、言いたいことは山のようにある。悪いのはカイルなのだ。
「さあ、まずこちらへおいで。疲れているだろう? お腹も空いているんじゃないのか? ゆっくりお茶にでもしようじゃないか。ネティも大変だったね。無事にアレシアを連れてきてくれて、本当によくやってくれたよ。アレシアに仕えるのは並大抵ではないから」
「とんでもありません、陛下」
ネティが慌てて礼を取る。
そんなネティもアレシアと同じように、綿のワンピース姿だった。
クルスはアレシアの手を引いて、国王執務室の奥にある居間へ連れて行くと、ゆったりとしたソファに座らせた。
クルスは、侍女に命じて、熱いお茶とお茶菓子などを運ばせながら言った。
「アレシア、少しはゆっくりしていくんだろうね? すぐ緑の谷に向かうのは許さないよ。あとできちんと馬車を手配して、谷まで護衛付きで送らせるから、それまで待ちなさい」
その夜、アレシアが王宮にある彼女の部屋でぐっすり眠っているのを確認すると、クルスはようやく手紙を認めた。
中身はたった1行。かなりそっけない手紙である。
そこに仰々しいハンコやら封蝋やらを嫌味ったらしく施してやった。
「ランス帝国の皇帝陛下にお届けしろ。『宝は無事、リオベルデに帰還した』と。あ、急ぐ必要はないぞ。通常便扱いで届けてこい。せいぜい、気を揉ませておけ」
クルスはそう言って、手紙を側近に渡した。
「カイル殿。アレシアを任せるには、まだまだ力不足と判定しよう」
そう言うと、クルスは昼間できなかった分、溜め込んだ書類を片付けるために、ふんふんと笑顔で執務室へと戻るのだった。
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