皇家の呪いと純白の姫巫女

櫻井金貨

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第25話 皇家の呪い・1(2)

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 その日もアレシアは朝から神殿で、参拝する人々と祈り続けていた。

 昼の休憩で、ネティが用意した温かなお茶を飲むと、午後は一旦、神殿内の沐浴場で禊を行い、再び神殿で帝国の安全祈願のために祈っていた。

 集中していたアレシアは、ふと、神殿の気配が変化したことに気づき、目を開ける。
 すると、そこに神殿主オリバーに案内されて、皇帝カイルが祭壇に向かってくるのが見えた。

 数日前、アレシアは心を決め、オリバーにカイルを連れてきてくれるように頼んでいた。
 カイルと共に祈ることで、探し求めている真相に近づける。
 しかし、そのためにはカイルに告げなければならないことがあった。

 アレシアはカイルと向き合うと、深く一礼をした。
 2人は並んで祭壇の前に腰を下ろす。

 周囲は神聖な空気に包まれており、神殿内に入れる人々も制限されている。
 神殿の出入り口も神官によって守られており、さらに神殿内にはオリバーが立ち、いかなる人物も妨害できないように見張っているのだった。

「皇帝陛下」
 アレシアが口を開いた。
 その声は静かで、いつものアレシアの声とは異なっている。

 カイルもまた、農園でアレシアと話していた時とは異なり、施政者としての表情をして、アレシアを見ていた。

「陛下の望む、帝国の姿を教えてくださいませ。これから、女神に祈り、陛下の想いをお伝えします。その時に、陛下のご承認をいただければ、陛下のお手を取らせていただきます。そうすることにより、わたくしは女神の姫巫女として、陛下の想いに関わる過去と現在と未来を視ることができます。そして、女神の言葉を陛下にお伝え致しましょう」

 無表情だったカイルだが、一瞬、アレシアの言葉に目を見開いた。
 しばらくの間、沈黙が流れる。
 アレシアはその深い青の瞳で、静かにカイルを見つめていた。

「よかろう」

 カイルはアレシアに右手を差し出した。
 アレシアもまた、うなづき、カイルの手を取った。

「私が望むのは、平和な国の姿だ。そして、平和のために誰かを犠牲にするのではなく、民も、貴族達も、私を含む皇家の人間も、誰もが人間らしく、家族とつながり、愛と労りを持って生きていける、そんな人々に支えられる国の姿を望んでいる」

 アレシアはうなづいて、言った。
「もう1つ質問があります。『黒の封印』という言葉を聞いたことはありますか?」

「黒の封印?」
 カイルは不思議そうに言葉を繰り返すと、首を振った。
「いや。聞いたことはないな」

「わかりました。では、共に祈りましょう」
 次の瞬間、アレシアの全身が淡く光り、やがてその光がカイルをも包み込んだ。

 光に少しずつ目が慣れてきた時、アレシアとカイルは不思議な空間の中に立っていた。

 少年が泣いていた。
 少年の肩に手をかけ、涙ぐみながら寄り添っているのは、エミリアだろう。今より若い姿をしている。

 目を赤くして何か話しかけているエミリアに、必死でうなづく少年。
 何かが起こったのだ。しかし、その出来事自体、カイルは見ることができていない。

 それから数年が経ったのだろう、カイルは少し成長して、身長はもう今とそれほど変わらない。
 再び何かが起きた。

 今回は、カイルは泣くことはなく、黙って彼の元を訪れた使者のもたらした知らせに耳を傾けていた、
 カイルの身辺の変化は急激に訪れる。

 改めてカイルの元に迎えが訪れ、カイルは農園を後にした。
 宮殿では、恐ろしく冷たい目をしたオブライエン公爵がカイルを待っていた。
 皇帝が崩御したのだ、とアレシアは理解した。

 しかし、不思議なことに、カイルが皇帝の遺体を目にすることはなかったし、葬儀は空の棺で行われた。
 カイルの心は空虚だった。
 アレシアは少年のカイルの表情を、すぐ傍で眺めた。
 オブライエンはカイルの後見となり、毒のある視線で少年をいつも見つめていた。

『カイル様、これがあなたが見せたかったことですか?』
 アレシアが心の中で呟くと、カイルの声がアレシアの頭の中に響いた。

『そうだ。この時に、何かが変わってしまったんだ。私はそれ以来、それが何だったのか、探し続けている気がする』
 アレシアはうなづいた。

「カイル様、一緒に祈りましょう」

 アレシアはカイルにそっと声をかけた。
 カイルは顔を上げたが、その顔は不自然に青ざめている。
 アレシアはカイルを励ますようにうなづいた。

 カイルが何かを見たのか、感じたのか、この時アレシアは知らなかった。
 2人は祈った。
 それが心からの祈りであることを、アレシアは感じていたのだった。 
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