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第14話 帝国で暮らすアレシア(1)
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アレシアの帝国での生活が始まった。
アレシアのために用意された部屋で、基本的には自由に過ごして構わない、とカイルの補佐官であるエドアルドに言われていた。
このエドアルドが帝国側の窓口になるらしい。
アレシアのことを気遣い、不自由はしていないか、必要なものはないか等、毎日のように声をかけてくれた。
アレシアとの初めての顔合わせの際に、さっさと立ち去ってしまったカイルだが、その後も正式な顔合わせの場は作られることはなかった。
食事も基本、アレシアは1人で取る。
カイルとの食事が設定されていれば、正式な食堂に行くようだが、アレシア1人ということで、食事もアレシアのために用意された部屋に運ばれてくるようになった。
ある朝、アレシアが居間で朝食を取っている時、エドアルドが訪ねてきた。
「おはようございます、姫巫女様。ご機嫌はいかがですか? 何か不自由をされていることはありませんか?」
いつものように声をかけてくるエドアルドに、アレシアはしばし考え込むと、口を開いた。
「質問があります」
エドアルドは穏やかにうなづいた。
「基本は自由にと仰いましたけれど、それは宮殿内ということですわね? 外出をしたりしてもいいのかしら?」
侍女のネティがぎょっとしたように顔を上げた。
「どこか行きたい場所がおありですか?」
エドアルドの質問に、アレシアはうなづく。
「はい。女神神殿分院に行きたいのです」
エドアルドはほっとしたようにうなづいた。
「もちろん。ご案内します」
「自分で、度々好きな時に行きたいのだけれど」
「アレシア様!」
今度のネティの声は、ちょっと悲鳴のようだった。
「それから、図書館にも行きたいですし。町も見たいと思います。市場を見たいですわ。神殿には孤児院や治療院なども附属で設立されていますか?」
エドアルドはさらっと行きたい場所を列挙したアレシアをまじまじと見つめると、アレシアもエドアルドを静かに見つめ返した。
「……陛下には、どこでも好きなように行っていただいて構わない、と言いつかっています。私もできるだけご案内いたしますが、もし、アレシア様が独自に外出されたい時には、必ず、私に一言連絡の上、ネティさんとサラをお連れください。それでしたら構いません。また、外出の際には、護衛が付くこともあらかじめご了承ください」
エドアルドは、ふうっと息を吐いた。アレシアの世話役もなかなか大変らしい、ということにようやく気づいたのかもしれなかった。
「今のお話は、陛下にもお伝えしておきます。それから、サラは……」
エドアルドは部屋の隅に静かに控えているサラに視線を送った。
アレシアの目には、サラは軽く、肩をすくめたように見えた。
「サラは町中でも、大抵の場所を知っています。ネティさんはまだ土地に不案内でしょうから、案内役として、サラを毎回必ずお連れくださいますように」
アレシアはうなづいた。
「お約束しますわ」
そうにこやかに答えたアレシアを、微妙な表情で見やったネティの様子に、エドアルドは気づいた。
(これは楽ではないかもしれない)
エドアルドがついたため息は、今度は長いものだった。
「……というわけです、カイル様」
エドアルドが一通り話し終えると、カイルは一瞬、片方の眉を上げたが、特に何かを質問することはなかった。
「毎日、アレシアの様子を報告するように。どこへ行った、誰と何を話した等、逐一知らせてくれ。サラにも改めてそう伝えておくように」
「かしこまりました」
エドアルドはそう答えるしかなかった。
アレシアのために用意された部屋で、基本的には自由に過ごして構わない、とカイルの補佐官であるエドアルドに言われていた。
このエドアルドが帝国側の窓口になるらしい。
アレシアのことを気遣い、不自由はしていないか、必要なものはないか等、毎日のように声をかけてくれた。
アレシアとの初めての顔合わせの際に、さっさと立ち去ってしまったカイルだが、その後も正式な顔合わせの場は作られることはなかった。
食事も基本、アレシアは1人で取る。
カイルとの食事が設定されていれば、正式な食堂に行くようだが、アレシア1人ということで、食事もアレシアのために用意された部屋に運ばれてくるようになった。
ある朝、アレシアが居間で朝食を取っている時、エドアルドが訪ねてきた。
「おはようございます、姫巫女様。ご機嫌はいかがですか? 何か不自由をされていることはありませんか?」
いつものように声をかけてくるエドアルドに、アレシアはしばし考え込むと、口を開いた。
「質問があります」
エドアルドは穏やかにうなづいた。
「基本は自由にと仰いましたけれど、それは宮殿内ということですわね? 外出をしたりしてもいいのかしら?」
侍女のネティがぎょっとしたように顔を上げた。
「どこか行きたい場所がおありですか?」
エドアルドの質問に、アレシアはうなづく。
「はい。女神神殿分院に行きたいのです」
エドアルドはほっとしたようにうなづいた。
「もちろん。ご案内します」
「自分で、度々好きな時に行きたいのだけれど」
「アレシア様!」
今度のネティの声は、ちょっと悲鳴のようだった。
「それから、図書館にも行きたいですし。町も見たいと思います。市場を見たいですわ。神殿には孤児院や治療院なども附属で設立されていますか?」
エドアルドはさらっと行きたい場所を列挙したアレシアをまじまじと見つめると、アレシアもエドアルドを静かに見つめ返した。
「……陛下には、どこでも好きなように行っていただいて構わない、と言いつかっています。私もできるだけご案内いたしますが、もし、アレシア様が独自に外出されたい時には、必ず、私に一言連絡の上、ネティさんとサラをお連れください。それでしたら構いません。また、外出の際には、護衛が付くこともあらかじめご了承ください」
エドアルドは、ふうっと息を吐いた。アレシアの世話役もなかなか大変らしい、ということにようやく気づいたのかもしれなかった。
「今のお話は、陛下にもお伝えしておきます。それから、サラは……」
エドアルドは部屋の隅に静かに控えているサラに視線を送った。
アレシアの目には、サラは軽く、肩をすくめたように見えた。
「サラは町中でも、大抵の場所を知っています。ネティさんはまだ土地に不案内でしょうから、案内役として、サラを毎回必ずお連れくださいますように」
アレシアはうなづいた。
「お約束しますわ」
そうにこやかに答えたアレシアを、微妙な表情で見やったネティの様子に、エドアルドは気づいた。
(これは楽ではないかもしれない)
エドアルドがついたため息は、今度は長いものだった。
「……というわけです、カイル様」
エドアルドが一通り話し終えると、カイルは一瞬、片方の眉を上げたが、特に何かを質問することはなかった。
「毎日、アレシアの様子を報告するように。どこへ行った、誰と何を話した等、逐一知らせてくれ。サラにも改めてそう伝えておくように」
「かしこまりました」
エドアルドはそう答えるしかなかった。
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