皇家の呪いと純白の姫巫女

櫻井金貨

文字の大きさ
上 下
4 / 50

第4話 正式書簡

しおりを挟む
 リオベルデ王国では、王女の存在は特殊な位置にある。

 辺境にある小さな国であるリオベルデが独立を保っている理由は、創世の女神を祀る女神神殿がある緑の谷が、女神による世界創造の地であることが大きい。

 同じく創世の女神を信仰する帝国から敬意を勝ち取り、独自の地位を保つことに成功しているのだ。

 それには、リオベルデ王家に時折生まれる、女神の祝福を受けた銀髪の王女の存在が大きく貢献していた。

 女神が降臨した地としての誇り。見事な銀髪をしていたと伝えられる女神を彷彿ほうふつとさせる、銀髪の王女が生まれる神秘。
 リオベルデの中心は緑の谷にある女神神殿であり、代々の王女は巫女として神殿に奉仕してきた。

 同時に、帝国との古い盟約により、王家に王女が2人生まれた場合は、1人は帝国に嫁ぐことが定められていたのだった。
 しかし。

 現在のリオベルデ王家にいる王女はただ1人。
 さらに、銀髪の王女は姫巫女と呼ばれ、本来であればリオベルデの女神神殿を離れることはない。

 静かに書簡に目を通したアレシアは、顔を上げた。

「……このタイミングで、帝国に嫁げと」

 クルスはそっと息をついた。

「来月、君が成人するからだろうね」
「あ」

 アレシアはうなづいた。
 たしかに、来月はアレシアの18歳の誕生日を迎える。それは帝国文化圏では成人を意味していた。

「でも……カイル様とわたしが婚約したのは、わたしが3歳の時です。それから何のお話もなかったし、わたしもまさか……。それに、わたしは姫巫女です。本来なら、緑の谷で女神神殿にお仕えするべき立場なのに」

「この婚姻の話を整えたのは、エレオラ伯母上だ。あの方は先代の皇帝に嫁がれたから……。しかし、婚姻については、両家でよく相談した上だと父上から聞いた」

 クルスは侍従に目線で茶を持ってくるようにと伝えた。
 すぐに、ほのかに花の香りがする茶が運ばれてきた。
 兄妹は椅子に落ち着き、穏やかな様子で話し合いを始めた。

「この書簡はランス帝国宰相オブライエン様からのものですね。たしか、長い間カイル様の後見でいらっしゃった」

 アレシアの指摘に、クルスもうなづいた。

「カイル様が皇太子になられたのが、12歳の時。18歳で皇帝位を継がれたのが……もう4年前になるのか」

 <女神神殿の聖なる姫巫女様に、我が国皇帝カイル陛下との正式な結婚のため、帝国へお越しくださいますよう、お願い申し上げます>

 それは、あまりにも簡素な、ランス帝国皇帝との婚姻を伝える手紙だった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

愛する貴方の心から消えた私は…

矢野りと
恋愛
愛する夫が事故に巻き込まれ隣国で行方不明となったのは一年以上前のこと。 周りが諦めの言葉を口にしても、私は決して諦めなかった。  …彼は絶対に生きている。 そう信じて待ち続けていると、願いが天に通じたのか奇跡的に彼は戻って来た。 だが彼は妻である私のことを忘れてしまっていた。 「すまない、君を愛せない」 そう言った彼の目からは私に対する愛情はなくなっていて…。 *設定はゆるいです。

【完結】仰る通り、貴方の子ではありません

ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは 私に似た待望の男児だった。 なのに認められず、 不貞の濡れ衣を着せられ、 追い出されてしまった。 実家からも勘当され 息子と2人で生きていくことにした。 * 作り話です * 暇つぶしにどうぞ * 4万文字未満 * 完結保証付き * 少し大人表現あり

【完結】男爵家に嫁ぎましたが、夫が亡くなったので今度こそ恋をしたい

野々宮なつの
恋愛
ソフィアは社交デビューしてすぐに嫁いだ夫が亡くなり2年になった。 愛のない結婚だったから悲しみに暮れることはなかったが、ソフィアには他の問題が立ちはだかっていた。 後継者がいないのだ! 今は義父がいるけれど、このままでは生活が立ち行かなくなる。できたら家庭教師の職を見つけたい。 そんな時、義父の紹介で伯爵令嬢の舞踏会の付き添い役を務めることに。 職を紹介してもらえるかもしれない。そんな下心から伯爵令嬢の付き添い役を了承したが、社交嫌いで有名な伯爵は優しくて気づかいもできる素敵な人だった。 ソフィアはあっという間に彼に恋に落ちてしまう。 でも伯爵は今でも亡き妻を愛しているようで? ソフィアが仕事に恋に、再び自分の人生に希望を見出して生きるお話です。 全20話です この話は小説家になろう様にも載せています。

〖完結〗その子は私の子ではありません。どうぞ、平民の愛人とお幸せに。

藍川みいな
恋愛
愛する人と結婚した…はずだった…… 結婚式を終えて帰る途中、見知らぬ男達に襲われた。 ジュラン様を庇い、顔に傷痕が残ってしまった私を、彼は醜いと言い放った。それだけではなく、彼の子を身篭った愛人を連れて来て、彼女が産む子を私達の子として育てると言い出した。 愛していた彼の本性を知った私は、復讐する決意をする。決してあなたの思い通りになんてさせない。 *設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。 *全16話で完結になります。 *番外編、追加しました。

お飾りの侯爵夫人

悠木矢彩
恋愛
今宵もあの方は帰ってきてくださらない… フリーアイコン あままつ様のを使用させて頂いています。

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

捨てられた王妃は情熱王子に攫われて

きぬがやあきら
恋愛
厳しい外交、敵対勢力の鎮圧――あなたと共に歩む未来の為に手を取り頑張って来て、やっと王位継承をしたと思ったら、祝賀の夜に他の女の元へ通うフィリップを目撃するエミリア。 貴方と共に国の繁栄を願って来たのに。即位が叶ったらポイなのですか?  猛烈な抗議と共に実家へ帰ると啖呵を切った直後、エミリアは隣国ヴァルデリアの王子に攫われてしまう。ヴァルデリア王子の、エドワードは影のある容姿に似合わず、強い情熱を秘めていた。私を愛しているって、本当ですか? でも、もうわたくしは誰の愛も信じたくないのです。  疑心暗鬼のエミリアに、エドワードは誠心誠意向に向き合い、愛を得ようと少しずつ寄り添う。一方でエミリアの失踪により国政が立ち行かなくなるヴォルティア王国。フィリップは自分の功績がエミリアの内助であると思い知り―― ざまあ系の物語です。

とまどいの花嫁は、夫から逃げられない

椎名さえら
恋愛
エラは、親が決めた婚約者からずっと冷淡に扱われ 初夜、夫は愛人の家へと行った。 戦争が起こり、夫は戦地へと赴いた。 「無事に戻ってきたら、お前とは離婚する」 と言い置いて。 やっと戦争が終わった後、エラのもとへ戻ってきた夫に 彼女は強い違和感を感じる。 夫はすっかり改心し、エラとは離婚しないと言い張り 突然彼女を溺愛し始めたからだ ______________________ ✴︎舞台のイメージはイギリス近代(ゆるゆる設定) ✴︎誤字脱字は優しくスルーしていただけると幸いです ✴︎なろうさんにも投稿しています 私の勝手なBGMは、懐かしすぎるけど鬼束ちひろ『月光』←名曲すぎ

処理中です...