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その1 影武者令嬢はわがまま王女に婚約破棄された公爵令息に求婚される

第4話 わがまま王女と影武者令嬢(1)

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「こんなものかしらね。ジリアン、あなたもよく似合っているわよ」

 色白の、小さな顔。
 顔の周りで金色の巻毛がふわふわと揺れている、綺麗に見開かれた瞳は、海のような青だった。

 ローデール王国のアネット王女の部屋では、ほぼ同じ背格好に、同じ色の髪、同じ色の瞳をした2人の少女が、まるで合わせ鏡のようにして向き合っていた。

 ゆるやかに巻いた髪は肩から背中に自然に広がり、額の上には、花冠を模した、華奢な金色のティアラが載せられていた。

 身に着けているのは、純白のドレス。
 ーー明日の結婚式で着る、ウエディングドレスだった。

「え? よく似合って……? ぐふぉっ……げほげほげほ!」

 突然、奇妙な音で咳き込むと、2人の少女のうち、やや背が高く、ほっそりとした少女が、体を折った。

 それを見て、若干背が低く、ふっくらとした頬の少女が、片方の眉をひゅい、と上げる。

「ジリアンったら。さすがのわたくしも、そんな音を出して咳き込んだりはしないわよ? 全くもう。心配しないでも大丈夫よ、結婚式のリハーサルなんてすぐ終わるから。それに、式を行う大聖堂までの馬車では、わたくしのフリをしてもらうけど、大聖堂に着くまでのことよ。着いたら、騎士姿に戻っていいんだから。ちょっとの辛抱じゃない」

「……げほ?」

 主君である王女殿下に励まされて、ジリアンは慌てて顔を上げる。

 ジリアンは、先ほどまでの騎士姿から一転、髪は下ろし、アネットと同じ純白のウエディングドレスに身を包んでいた。

「う……。王女殿下、お気遣いさせてしまい、申し訳ございません。大丈夫です。ドレスが似合う、というところで、驚愕してしまいまして」

 ジリアンの言葉に、アネットは優しく微笑した。
 そっとジリアンの手を取って、2人で猫脚のカウチに腰を下ろす。

「まぁ。わたくし、嘘は言っていませんけどね? さて。心配しないで。もうすぐウィルが迎えに来るわ。ほら、鏡を見て。わたくし達、そっくりに見えるわ。誰もあなたが本物のアネットではなくて、影武者だなんて、気づかないわよ」

 ジリアンが顔を上げると、大きな鏡に、同じカウチに座っている2人の少女が映っていた。

 アネットが困ったような顔をして、ジリアンを見つめる。

「大体、わたくしの影武者なんて、小さい頃から数えきれないほどやってくれているじゃないの。どうして、今回はそうナーバスになっているのよ?」

 そう言われて、ジリアンは反省した。

 ローデール王国の国王夫妻に生まれたただ1人の子ども。
 それが女の子で、アネットが女王になるのをよしとしない人々が、何度もアネットの暗殺を企てたのだ。

 ジリアンは、アネットの影武者役を務めることが決まった時に、父からそのことははっきりと知らされていた。
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