紅い騎士の物語

アヴァン

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千堂夢幻

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「勝負!」
「負けない!」

 ガっ!

二人の腕から力が入っているのが分かる。力はどうやら拮抗しているようだ。恐るべきは来栖の馬鹿力に対抗できている夢幻なのか、千堂と張り合っている来栖なのか。

「!? う、うぅぅぅ……」

 突然、来栖の頬が上気する。それは腕相撲とは関係なしに出ているようで、なんだか艶めかしい。これはなんだ?
 安具楽先生の解説が入ります!

「あぁん?説明しろだぁー?まぁいいか。あれは単純だ。夢幻の手の汗から毒が出てんだよ。おそらく媚薬の類だな、こりゃ」
「おおっと、いきなりかますとは。夢幻君大人げない!!」

 僕の発言にピクっと反応する夢幻。男なのにちょっとかわいい。

「ルール。問題ない」
「そ、そんなの……  !?」

 来栖が文句を言おうとするが、来栖は口をパクパクさせているだけ、これは!?

「まぁまんまだ。声が出ねぇ毒だ。この勝負の敗因はな。夢幻の腕力を舐めていたことと夢幻に直接触ったことだ。そこの来栖だったか?夢幻の情報皆無でよく戦おうと思ったなぁ!」

 安具楽がそう来栖を挑発するが、来栖はもはや声すら出ない。その馬鹿力も段々と弱々しくなっていく。夢幻はそこへ更に追い打ちをかける。

「……千の道は毒の道。"異端狩りの千堂"。"十の毒"。千堂夢幻。あなたの体を支配する」
「!?」

 突然の必勝宣言。来栖は今の今まで千堂の付き人だと思っていたのでかなりビックリした。そして、その目の前の千堂は目を大きく見開いて来栖を見つめてくる。その目はまるで獲物を前にした蛇のようでもあった。
 来栖は媚薬のせいもあってか、直接夢幻の顔を見れない。おおっと、これは恋する乙女の瞬間を見ちゃったかな……?

とどめ。果てろ」
「!!」

 一気に夢幻はその力を開放する!それはもはや常人の力ではない。

『千堂流紫式 小夜直伝 刹那の最果て』

 それは夢幻自身が作り出した毒を夢幻自身に作用させることで一瞬だけ持てる力の全てを一瞬だけ込めるドーピングする毒。夢幻のお気に入りの技でもある。

 ドンっ!

それは言葉通り一瞬だった。夢幻が来栖の腕を台に叩きつける。それと同時に来栖は地面へへたり込んでしまった。やけに上気した顔や倒れ方がエロい。非常に艶《なま》めかしい。

「勝者!夢幻君!」
「当然。余裕」

 僕の勝利宣言も当たり前という態度で夢幻はその場にいる他の四人にハイタッチをする。

「さっすが夢幻君!やるなぁー!」
「むっくん流石っす!かっこいいー!」
「夢幻ならば当然だね」
「余裕だねー」

 夢幻は満足したようにそれを受け取ると改めて来栖に向き直る。

「頂く。報酬」
「はぁ…はぁ…はぁ…な、何を…?」

 来栖は本当に大丈夫?なんか発情しっぱなしだったけど…

「と、友達」
「はぁ…はぁ…なんて?」
「友達。要請」

 夢幻君…やっぱあんた最高だよ…ごめんよ、なんかやべぇ奴って思ってしまって…

「な、なら私をお風呂に連れて行ってくれない……?」

 え、な、何を言ってんの?ちゃんくる!?

「!? 理解不能!」
「友達なら、困っている友人を助ける。これは常識」
「……不可抗力。合点承知」

 そう言うと夢幻は来栖をお姫様抱っこする。そして、他の祓い人に聞きながらお風呂場に運んで行ってしまった。これは……
 安具楽が言う。

「あーあ。こりゃダメだねぇ。夢幻はずっと里にいたかんなぁ。ここで常識の欠如がマイナスに働いちまったかぁ。勝負に勝って試合に負けるとはこのことよのぉ!」
「千堂としての本能がでた感じですか?」
「おうよ!ヒカリもわかって来てんじゃん!そうだぁ。千堂ってのは仲間にどうしても優しくなっちまう。特につえぇ奴ならなおさらだなぁ。あいつもまだ子供だかんな。祓い人は友好関係を結んではいるが仲間じゃねぇ。それがまだ理解しきれてねぇのさ!」

 ということは今のままではまずいのでは!?

「既成事実を作られちゃあ、あいつはもう祓い人と歴代初の夫婦になっちまぅってこったなぁ!」
「と、止めないんですか?」
「あん?なんでだよ?」
「そういわれると…なんでだろう?」
「別によぉ、千堂が誰と結婚しようが構わねぇんだぜ?祓い人と結婚しようが自由だ。寧ろ俺は祝うぜぇ?全力でなぁ!」
「はぁ……」
「それによぉ、俺たちは元々山賊だぁ!自分の女は自分で見つけて奪ってくるもんだぁ!むしろあの来栖って女が祓い人を抜けて千堂の里に来る羽目になんぜぇ?誓ってもいぃ!」

 なるほどなぁー。結局のところ、来栖の思惑通りにいっても千堂は安泰《あんたい》だと。こりゃあどっちも幸せになるからめでたいってことっすかね!

 ヒカリは妙なテンションのまま実況を終える。はぁー、僕何やってんだろ……
 巴が近寄ってくる。

「ヒカリ、先にお風呂をいただきませんか?」
「そうだね。じゃあ行こうか。あ、安具楽さんたちもどうです?」

 ここは千堂同士でお風呂に入った方がいいだろう。じゃないと他の祓い人が遠慮したりこき使われたりして大変だ。しかし、安具楽さんや水城さん。その他の子供たちの返答はあっさりしたものだった。

「………俺たちはいい」
「え?いいって……」
「今夜は勇真の弔いの日だ。寺の警護と周辺のバケモノ共は俺らが狩ってやらねぇとなぁ!だろ?水城ぃ?」
「ええ。もうすっかり歓迎されましたからね。恩に報いるのは千堂としての務め。では、小竜。この辺の警護はあなたに任せますよ」
「わかった」

 小竜という弓使いの子供は他の子どもたちをぞろぞろと引き連れて本堂から出ていく。それを幸宗は止めようとする。

「あ、安具楽様!ここはどうか気を遣わずに……」
「ハン!俺たちは千堂だぁ!やりたいことをやる一族だぜぇ?勇真には昔世話になったことがあっからよぉ!今日だけその借りを返すだけってのぉ!」
「そうですよ。そもそも私達は弟子の社会見学でここにいるのです。ただ宴を開いて終わりでは本末転倒です。……おや?夢幻。もう戻ってきたのですか?」

 よく見ると夢幻があたかもそこにいたかのように本堂の中に戻ってきていた。ちゃんくるはどうしたの!?

「あの女。俺に抱き着いてきた」

 !?

「だから眠らせた。今は部屋」

 ちょっとだけ言葉数が増えているので少しは動揺しているのだろう。だが、やはり千堂。ハニートラップなんかに引っ掛からないか。

「では夢幻。あなたはヒカリについていなさい」
「!?」
「……了解。意図把握」
「ぼ、僕の事は気にしないでください!」

 僕の顔色をうかがっている水城さんはそれでも首を振って言う。

「あなたはまだ脆いところがあります。記憶操作を受けていると聞きました。それは、いつ、どんな作用をきたすかわかりません」
「で、でも……」
「粛清隊が絡んでるとなるとかなり厄介です。ですが、夢幻ならあなたを如何様にも対処できるでしょう。それにあなたと同じ高校生です。この際仲良くなてみては?」
「こ、高校生!?」

 ば、バカな!見た目が明らかに中学生くらいだ!来栖と同じタイプか!?

「我。十八。敬え」

 夢幻君…。いや、夢幻さんか。だからちゃんくると気が合ってたんですね。納得です。

「で、ではヒカリ。む、夢幻さんも。お風呂場へ参りましょう」
「うん…」
「合点承知。意気揚々」

 僕らは三人本堂を後にする。しかし、やはり安具楽さんたちはなんだかんだいってもイケメンだと思う。口調は荒いが恩や義理は返す人達のようだ。
 脱衣所で服を脱いでいると遠くの方で謎の爆発音が聞こえたけど、これは幻聴だよね………?







 風呂から上がった僕たち三人は巴の部屋に向かう。そういえばこの間は巫女会に連れられたから巴の部屋で寝てないんだっけ。しかし、ここも広いなぁ…。巴がいなかったら未だに迷子になっちゃいそうだ。

「うん?綾子さん?」

 よく見ると綾子さんが渡り廊下で空を眺めている。なんだか表情が物憂げだ。やはり、息子さんが亡くなったのでショックなのだろう。

「綾子。何故なにゆえ?」

 意外にも夢幻が綾子に話しかける。綾子さんは夢幻君の方を見て切なそうに話しかける。

「すいません。千堂様。私も歳を取りましてね。息子が亡くなっただけで心が痛いのですよ。それはもう死にたくなるくらいに……」
「……」
「いけませんね。せっかく他の千堂様が祓い人を守ってくださっているというのに……私はダメな母親です……」

「否定。綾子。大丈夫」
「そうですよ!息子さんが亡くなったというのに悲しまない親なんていません!」
「叔母さん。私がしっかりします。父に代わり、私が五条を支えますから。だから叔母さんも……」

 僕らにできる事はただ励ますことしかできない。何もできなかった僕には特に。その言葉を聞いて綾子さんは安心したのか。やわらかい笑顔になり、そして言った。

「……ありがとうございます。千堂様。巴。私は前を向いて生きていきます。息子の分まで……」
「良策。健闘」
「ではそこの……夢幻様ですかね?一つ私のお願いを聞いていただけますか…?」
「了解。なんでも」

 なんでも?おっと。その言葉は何があっても使うべきではないワードだよ?この子はまだその恐ろしさを知らないね……
 でもこの状況ではそんな大したことにはならないだろう。僕らは綾子さんの次の言葉を待つ。

「ではこちらへきていただけますか……?」
「? 意図不明。だが承諾」

 こうして僕らは進みだす。綾子さんの案内で。巫女スペースへ。もうすっかり夜も更けている。何だろう。すっごく既視感があるなぁ……。不思議です。体の震えが止まりません。

「と、巴!ぼ、僕たちは部屋にもどろうか?」
「が、がってんしょうち!いとりかい!」

 巴の口調が夢幻君のようになってる。しかし、今はツッコんでる場合じゃない!!
 綾子さんは僕らの考えていることに気づいたのか。先手を打たれる前に行動する。

「藤野」
「てっへらぁー☆ 呼ばれて参上!藤野ちゃんでぇ~す!」

 げげぇー!藤野さん!?あんた失神してたんじゃ……

「彼らを例の部屋へ。来栖。あなたも手伝いなさい」
「わかった。今夜は無礼講。夢幻さん。行きましょう」
「!? 意味不明! 救援要請!」

 眠っている筈の来栖さんまでいる!
 藤野さんは僕と巴を拘束し、来栖さんは混乱している夢幻君を腕を組む要領で部屋へ誘導する。そう、その部屋は勿論……

「巫女会に行きましょう。今夜はかわいい男の子もいます。盛大にはしゃぎましょう」

 綾子さん……年齢を考えてください……

「ヒカリ、何か言いましたか?」
「なんでも……ないです……」

 なるほど。ハニートラップとはこういう事もできるのか。人の優しさにつけ込むとは。やはり巫女会は魔境か。







「夢幻君かっわいぃぃぃぃぃぃぃぃ!」
「ねぇねぇ。夢幻君は何が好きなの?なんでも言ってみてよぉ!」
「今何歳?彼女とかいるのぉ?」

「………女不要。我十八」

「やっばぁぁぁぁぁ!めっちゃクールでかわいいんですけどぉぉぉ!」
「十八っていえばちゃんくると一緒じゃん!」
「夢幻さんは私の物」
「それはダメだってぇ~!みんな平等だかんねー?チャンスはさぁー!」

 夢幻君がめっちゃモテていた。羨ましいような助かったようなそんな心境で僕と巴はその様子を部屋の片隅で見つめている。…………正座で。

「わ、我綾子の要請! 汝ら関係なし!」

 夢幻君はそう言うと女性陣を抜け出し、綾子さんの所へ寄りつく。

「あらあら。夢幻様。律義なのですね。このような状況になっても」
「? 律義? 当然。一諾千金いちだくせんきん
「………なんだかこれはこれでいいものですねぇ」
「?」

 綾子さんは夢幻君の頭を優しく撫でる。それを気持ちよさそうに夢幻君は目を細めていた。

「勇真もこういう時がありましたねぇ……」
「………意図理解」

 そのまま二人は黙り切ってしまった。それは綾子にとって昔を懐かしむ行為であり、亡くなった息子を偲ぶ最後の思い出のような、そんな光景だった。

「………綾子さんも辛いわよね」
「勇真さんとは仲良かったみたいだしぃ~。夢幻君、昔の勇真さんにそっくりらしいし」
「あーあ、夢幻君取られちゃったしどうしよっかなぁー」

 おっと、ここは感動的なシーンで終わるところではないのでしょうか?
 隣の巴さんもブルブルと震えているのが僕、なんだか不安な気持ちでいっぱいになるのです。ここは一つ、僕の守護神を呼び戻すべきではないでしょうか。

「む、夢幻君?悪いんだけどさ、僕の所へ来てくれない?もう綾子さんは大丈夫だろうし……」

 夢幻君は僕らの方を見る。そしてその観察眼で冷静に状況を分析した彼は頷いてこう答えた。
 
「………意図理解。南無三」

 南無三って何!? 南無三って何!? 南無三って何!?

 もはや僕の情緒が不安定になる。これはマズい。一度は助けてくれた夢幻君が僕を見捨てたとあっちゃあ救いがない。無いならここは人柱を……

「巴、ごめん」
「え?な、何を言って」

 『弱点に至る一撃』。それは弱点と言っても加減というものがある。相手を溶かしたり、粉々にしたり、果てはぐちゃぐちゃのめちゃくちゃにしたりである。僕はそれを今までランダムに発生するものだと考えていたが、戦ってみてわかった。
 これはイメージなんだ。僕のイメージが基準となっている。だったらこの力は加減ができる。

 今僕らは正座をしている。そして巴も僕も足はもうかなり痺れている。だったら足は既に弱点だ。僕はそれを助長してやればいい。

 名付けて『弱点を広げる一撃』。僕は巴の足に手を触れる。

「!? グッ!なんか足のしびれが全身にまわってる!?」
「南無三!!」

 千堂の力を存分に使って僕はその場を離脱する。ふっふっふ。前回は綾子さんがいたから抜け出せなかったけどね。今綾子さんは夢幻君に注意が向いている。この状況なら脱出はワケないのさ!!

「お、おのれヒカリぃぃぃぃぃ!裏切ったなァァァァァァ!」

 後ろから敗者の戯言ざれごとが聞こえるが関係ない。さらば友よ。また明日会おう………

 こうして今日二度目の命と社会的な危機を抜け出したヒカリは巴の部屋へ行き、勝手に布団を敷いて勝手に寝ることにした。夜中に度々、爆発音や巴によく似た叫び声が聞こえたけど気のせいだよねっ☆ ヒカリ、バカだからわかんなぁーいっ☆









「この恨み、晴らさでおくべきか………」
「ごめんよ、巴…。血走った目でこっち見ないでよ…。この間はそっちが裏切ろうとしたんだよ?因果応報だよ、いんがおーほー」
「巴。復讐。よくない」

 結局、僕は巴の部屋で寝て、夢幻君は綾子さんと一緒に寝たらしい。微笑ましいね。
 巴?そんなの決まってんじゃん。魔境で寝たらしいよ。哀れな。

 ここは祓い人の男性スペース。その食堂だ。言ってしまえば前回と一緒。巴は朝早く起きて魔境から生還し、僕と夢幻君は普通に起きて食堂にいた。それだけの事。

「そういえば安具楽さんたちは?」
「安具楽。予想。時機帰還」
「じゃあ探しに行こうか」

 僕らは食事を摂り終えるとお寺の周囲を回る。すると、夢幻の予想通りに安具楽と水城の二人が帰ってくるところだった。

「お疲れ様です。安具楽さん。すいません。僕らは何もせずに…」
「あん?こういう時に俺らが動かなくってどうするってぇの!」
「そうですよ。あなた方後輩はきちんと成長してくれるだけで結構なのです。気を遣わずともいいのです」

 こういうところは本当に尊敬する。お寺の周囲警護組。つまりは子供組もこっちに向かってきた。

「水城。警護おわった」
「お疲れ様です。小竜。どうでしたか?警護は」
「退屈です。安具楽と水城が全部狩ってしまったら僕らの出番ないです」
「すいませんね。なんか体の調子がよかったのですよ。周囲十キロはもう狩りつくしてしまいました」

 周囲十キロ!? どんだけ索敵範囲広いんだよ。

「まぁ狩るだけならもっとイケたんだがなぁ!ほれ!これが報酬よ!」

 安具楽がさっきから大きな袋を持ってると思ったらどうやらバケモノ共の巣から金品を集めていたらしい。財布や貴金属。他にも高そうな小物の家具などがあった。

「流石ですね。師匠」
「ええ。こういう仕事は安具楽より私の方が得意分野ですので。索敵やアジトの特定は私がほとんどしましたけどね」

 よく見るとその袋の中の物は血がついてたりする。それがバケモノの血なのか、バケモノに襲われた人たちの血なのかわからないが、これ全部売れば一軒家が建つんじゃないか?

「私達はこれから朝食を摂りに行きます。夢幻、それとヒカリ。あなたは本堂の方で待っていてください」
「了解」
「? わかりました」

 何か話でもあるのだろうか。しかし、もう巴とは別行動になるだろう。

「巴。実は僕、いま家がないんだ」
「! 何故なんです…?」
「詳しくは話せない。でも、学校にこれから通えるのかもわからない…」
「………」
「でも僕はこれからは千堂として生きていく。そう決めたんだ。だから安心していて欲しい。僕はどこに行っても巴の友人だ」
「……そうですか。ならば仕方ありませんね。また……会えるのでしょう?」
「それは勿論。また会おうよ。と言ってもいつここを離れるのかすらわかんないんだけどさ」
「そうですね」

 僕らは笑いあう。それを見ていた夢幻が僕に言う。

「ヒカリ。行く」
「わかった。じゃあまたね。巴」
「ヒカリもお気を付けて」

 僕と夢幻はお寺の本堂へ行く。そこには昨日宴会などなかったかのようにきれいになっており、数枚の座布団だけが円形に置かれていた。

「座して待つ。待機命令」
「そうだね。待っとこうか」

 しばらく無言の時が過ぎる。そして、安具楽さんと水城さん。小竜・礼二・カイン・紅蓮・小雪が入ってきた。あれ………?

「そういえば小雪さん、昨日の夜から見てないですね?」
「ええ。あなたのその赤嶺教会の偵察に行っていたのよ」
「!!」

 全員が黙って座布団に座る。しかし、僕は気が気でなかった。

「あなたの言う通りあそこには神父、赤嶺善導とシスターの赤嶺ゆかりらしき人がいたわ。でも……その……」
「レインは!ジュリーは!」

 なんだ!?なんで普通に言ってくれないんだ!?

「その二人は生きてはいたわ。でも地下深くの牢屋で拷問を受けていた。酷いものだったわ。かろうじで生きている感じね」
「だ、だったら今すぐいかないと!!」
「落ち着けぇ!ヒカリぃ!今は感情論は抜きだぁ!黙って聞きやがれぇ!」
「!!」

 そ、そうだ。今焦っても仕方がない。まずは冷静に冷静に聞こう。

「……続けるわよ。そして、また分かったこともあるわ。粛清隊が本気で動き出した」
「「「「!!」」」」
「司教クラスが全滅したから当然と言えば当然ね。向こうは本気で潰しに来るわ。おそらくまずは全国の祓い人を潰しに来るはず。いきなり千堂に歯向かうほど向こうもバカではないわ」
「…………」
「ちょっとよろしいですか?」

 水城が口を挟む。

「私からも報告が。今朝妖魔どもをごうも……いえ、倒していたら面白い情報が聞けましてね」
 
 拷問!? 今この人拷問って言いかけたよね!?

「どうやら百鬼夜行が行われるようです」
「「「「!!」」」」
「え、百鬼夜行ってなんなの?」
「ヒカリは知らねぇのか!百鬼夜行っつーのはあれだ!妖魔どもが集まって人を無差別に襲うっつーあれだよ!基本、トップに立つのは三大妖魔だがなぁ!」

 以前、聞いたことがある。三大妖魔。大蛇のユーゼリウス。大天狗のユーバッハ。そして、白狼のリンエイ。その三体がそうだと。

「しかし、今回は違うようです。なんでも人が彼らを誘導しているのだとか」
「……こりゃあキナ臭くなってきたなぁ!」

 赤嶺教会に百鬼夜行。問題が二つも出てくるなんて……
 そして、意外にも小竜が手を上げて発言する。

「あ、それと僕もあるんだ。祓い人から情報収集してたら人が徒党を組んで祓い人を襲っているようです」
「ほぅ。小竜。詳しく」
「はい、師匠。どうも夜道を巡回している祓い人を何十人もの武装した人たちがものすごい力で襲ってるんだって。自分達の事を『アヴェンジャー』って呼んでるって言ってた」

 アヴェンジャー?復讐者か。

「祓い人も普通の一般人に後れを取ることはなかったけど、相手が人だから反撃することもできなかったみたいですね」
「……およその構成人数は?」
「不明。十人だったり二十人だったり。大人だったり子供だったりするらしい。それがここ数日無作為に行われているみたいです」
「そうですか……小竜、ありがとう。聞き込みをするとは。流石私の弟子です」
「ありがとうございます。師匠」

 つ、つまりこの地域で……

「赤嶺教会の粛清隊。謎の人物に百鬼夜行。町で発生する祓い人狩り『アヴェンジャー』。どれも厄介ですね。安具楽。どうしますか?」
「そうだなぁ。偶然とも思えねぇし……どうしたらいいのかねぇ……」

 安具楽は深く考え込んでいた。彼が真剣に悩むことなど滅多にない。この事態はかなり異常なことだ。それはこの世界をよく知らないヒカリでさえも分かることだった。

 ああ、どうか僕に安寧をください……

 ヒカリは祈る。もはや仏像すら置いていない祓い人のお寺で。この先にどんな戦闘が待ち受けているのか、不安になりながらも。








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