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本編――公爵令嬢リリア
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アルテミスの死因は不慮の事故が原因だった。
偶然にも、彼女の乗っていた馬車が転落したのだと、アバンリッシュから伝えられたのをリリアは覚えている。
そういう彼も誰かから聞いたらしい。
当時のリリアはそれを信じ込んだ。幼い彼女は、恐怖に支配されていた彼女は、疑うことすらしなかった。
そんな余裕などなかったのだ。
が、今になって考えてみると不可思議である。
アルテミスの死後からラミアと再婚するまでの期間が余りに短過ぎるのだ。
普通、妻が亡くなったともなれば、愛していようが、いまいが、体裁を守る為にもそんなに直ぐ再婚はしない。
少なくとも数年は空けることだろう。
けれども彼等は年を跨ぐことなく再婚した。それも上位貴族の地位を持ちながら、だ。
これは、アバンリッシュがするようなことにはとてもではないが思えない。皮肉にも、リリアと皇太子の婚約を勝手に結ぶような彼が。
つまり、アルテミスの事故は偶然ではなく、意図して引き起こされた可能性が高い。
もし、母の事故が故意に引き起こされたことでなかったとしても、リリアはアルテミスの命を救いたかった。
例えリリアを愛していなくても、彼女の唯一の母であったから。
けれども、故意に起こされたことであれば、一度救えたところで根本的な解決にはならない。
大本を絶たなければならないのだ。
それでも、先ずは目の前にあることの方が大事だった。
アルテミスの事故を何とかして防ぎ、ラミアたちの再来を無くす。あるいは遅らせることが彼女の今の目標だ。
が、それだけでは足りない。
最終的なリリアの目標は、ラミアの魔の手から完全に逃れ、常に付き纏う恐怖を取り払うことだ。
アルテミスとの過去を振り返る。
何度も何度も構ってもらおうと話し掛けた。が、結局殆ど口さえ聞いてくれもらえないままに彼女の命は潰えてしまった。
決して明るい話ではない。むしろ苦々しい思い出だ。
それでも、リリアは心からアルテミスを救いたかった。
大好きだったから。これから、関係を修復していけるかもしれないから。
端から見殺しにする選択肢はリリアには存在していなかった。
アルテミスが亡くなるのは、初めてリリアとカルロが出会う日。
記憶の中の彼は、リリアにとってのヒーローだった。けども、そんな人物の影はもう見当たらない。
今では、将来リリアを地獄へと叩きつける1人で、出来るだけ関わりたくない人間である。
例えリリアの未来が変わったとしても、今度はカルロを愛したくはなかった。信じたくなかった。
もう彼に捨てられるのは耐えられないし、似たようなことが繰り返されない保証はないから。
リリアは首を振った。
今は感傷に浸っている場合ではない、と。
兎に角、リリアには運命の日に街へと降りずに、アルテミスを引き止めるしか方法がなかった。
そしたら自ずとカルロとの接触は避けられるし、婚約の打診さえ来ないかもしれない。
が、突然、パタパタとメイドが駆け込んで来た。慌てた様子で、ノックさえ忘れている。
「どうしましたか?」
ただならぬ気配を感じ取り、リリアは、何ら咎めることなくメイドに尋ねた。
落ち着きを取り繕って。
「お嬢様、落ち着いて聞いて下さい」
「何、でしょうか‥‥‥‥?」
「皇太子殿下から婚約の打診がきているのです」
そこまで聞いて、リリアは自分の耳を疑った。聞き間違いではないか、と。
まだ出会ってさえいない筈だ。なのにどうしてそんなことが起こるのか。
おまけに、衝撃的なのはそれだけではない。
メイドの話を呆然と聞き流していると、最後にとんでもない台詞が飛んできたのだ。
「今、客室にいらしております!!」
明らかに早すぎる来訪。アルテミスはまだ亡くなってはいない筈だ。
メイドがその証拠である。
まさか自身が戻って来たことで未来が変わってしまったのかと考えて、リリアは血の気が引くのを感じていた。
これでは対策のしようがない。
メイドに急かされるがままに慌てて仕度をした彼女は、部屋から勢い良く飛び出した。
偶然にも、彼女の乗っていた馬車が転落したのだと、アバンリッシュから伝えられたのをリリアは覚えている。
そういう彼も誰かから聞いたらしい。
当時のリリアはそれを信じ込んだ。幼い彼女は、恐怖に支配されていた彼女は、疑うことすらしなかった。
そんな余裕などなかったのだ。
が、今になって考えてみると不可思議である。
アルテミスの死後からラミアと再婚するまでの期間が余りに短過ぎるのだ。
普通、妻が亡くなったともなれば、愛していようが、いまいが、体裁を守る為にもそんなに直ぐ再婚はしない。
少なくとも数年は空けることだろう。
けれども彼等は年を跨ぐことなく再婚した。それも上位貴族の地位を持ちながら、だ。
これは、アバンリッシュがするようなことにはとてもではないが思えない。皮肉にも、リリアと皇太子の婚約を勝手に結ぶような彼が。
つまり、アルテミスの事故は偶然ではなく、意図して引き起こされた可能性が高い。
もし、母の事故が故意に引き起こされたことでなかったとしても、リリアはアルテミスの命を救いたかった。
例えリリアを愛していなくても、彼女の唯一の母であったから。
けれども、故意に起こされたことであれば、一度救えたところで根本的な解決にはならない。
大本を絶たなければならないのだ。
それでも、先ずは目の前にあることの方が大事だった。
アルテミスの事故を何とかして防ぎ、ラミアたちの再来を無くす。あるいは遅らせることが彼女の今の目標だ。
が、それだけでは足りない。
最終的なリリアの目標は、ラミアの魔の手から完全に逃れ、常に付き纏う恐怖を取り払うことだ。
アルテミスとの過去を振り返る。
何度も何度も構ってもらおうと話し掛けた。が、結局殆ど口さえ聞いてくれもらえないままに彼女の命は潰えてしまった。
決して明るい話ではない。むしろ苦々しい思い出だ。
それでも、リリアは心からアルテミスを救いたかった。
大好きだったから。これから、関係を修復していけるかもしれないから。
端から見殺しにする選択肢はリリアには存在していなかった。
アルテミスが亡くなるのは、初めてリリアとカルロが出会う日。
記憶の中の彼は、リリアにとってのヒーローだった。けども、そんな人物の影はもう見当たらない。
今では、将来リリアを地獄へと叩きつける1人で、出来るだけ関わりたくない人間である。
例えリリアの未来が変わったとしても、今度はカルロを愛したくはなかった。信じたくなかった。
もう彼に捨てられるのは耐えられないし、似たようなことが繰り返されない保証はないから。
リリアは首を振った。
今は感傷に浸っている場合ではない、と。
兎に角、リリアには運命の日に街へと降りずに、アルテミスを引き止めるしか方法がなかった。
そしたら自ずとカルロとの接触は避けられるし、婚約の打診さえ来ないかもしれない。
が、突然、パタパタとメイドが駆け込んで来た。慌てた様子で、ノックさえ忘れている。
「どうしましたか?」
ただならぬ気配を感じ取り、リリアは、何ら咎めることなくメイドに尋ねた。
落ち着きを取り繕って。
「お嬢様、落ち着いて聞いて下さい」
「何、でしょうか‥‥‥‥?」
「皇太子殿下から婚約の打診がきているのです」
そこまで聞いて、リリアは自分の耳を疑った。聞き間違いではないか、と。
まだ出会ってさえいない筈だ。なのにどうしてそんなことが起こるのか。
おまけに、衝撃的なのはそれだけではない。
メイドの話を呆然と聞き流していると、最後にとんでもない台詞が飛んできたのだ。
「今、客室にいらしております!!」
明らかに早すぎる来訪。アルテミスはまだ亡くなってはいない筈だ。
メイドがその証拠である。
まさか自身が戻って来たことで未来が変わってしまったのかと考えて、リリアは血の気が引くのを感じていた。
これでは対策のしようがない。
メイドに急かされるがままに慌てて仕度をした彼女は、部屋から勢い良く飛び出した。
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