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第36話 シャンファという令嬢
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「シャンファ‥‥さんはどうしてお一人で、?」
聖花がふと疑問に思ったことを尋ねる。殆ど全員出席しているにも関わらず、一人で行動をしているのには何か理由があるのだろうか、と。
「"さん"は不要です。シャンファとお呼びください」
ピシャリ、と言い放たれた。はっきりとした性格をしている。
シャンファが続けて口を開いた。
「私、あまり群れるのは好きじゃないの。陰気臭くて嫌になりますわ」
「ああ‥‥‥‥。では何故、私に?」
聖花はシャンファの言う事が分かる気がした。大勢で人を貶し、嘲笑う。それの何処が楽しいのか。
「貴女の堂々とした態度に感銘を受けましたの。それ以外に理由がありまして?」
シャンファが心底不思議そうに首を傾げる。何処かきつい言い方をしているが、それが彼女の性質なのだろう。
「ところで、先程から何処に向かっておられますの?」
これまでにそんな人間はいなかったのか。聖花がそう思っていると、シャンファが思い出したかのように尋ねた。
「視線の先にいる二人の令嬢に話しかけようと‥‥‥。
ほら、壁際で会話されている方々です」
「ああ。男爵家のお二人ですわね」
聖花の視線を追って、シャンファが理解したかのように頷く。当然、名前は把握しているようだ。
シャンファの様子からして、家柄は全くもって気にしないタイプのようだ。
シャンファを連れて、聖花がアナスタシアとリリエルの元へと辿り着いた。先に前へと進み出る。
「ご歓談中失礼いたします。初めまして、私はセイカ・ダンドールと申します。以後お見知りおきを。こちらは‥‥‥‥」
「シャンファ・テルドールですわ。こうしてお話するのは初めてですね。私たちも会話に入れて下さる?」
聖花が紹介するより早く、シャンファが話し出す。アナスタシアたちは会話を中断させ、聖花とシャンファを交互に視界に入れた。
一瞬、ふたりは目をパチクリとさせていた。が、思い出したかのように口を開く。
「セイカ様、シャンファ様。この度はお声掛け頂きありがとうございます。私はアナスタシア・バインドと申しますわ。私たちで良ければ喜んで」
「セイカ‥‥‥様、シャンファ様、。わ、私はリリエル・フィロソフィアです‥‥‥‥‥。よろしく、お願いいたしま‥‥‥‥‥す‥‥‥。」
「名乗らずとも知っているわ」
「シャンファ!?」
聖花が思わず声を荒らげた。無礼極まりない、とはこのことである。が、身分の関係上、彼女が責め立てられることはない。
アナスタシアらの身分がシャンファより高位であれば間違いなく非難の対象になっていただろう。
シャンファ自身、一見悪気がないように見えるのが更に厄介な所だ。これでは誤解されてしまいかねない。
早速、行動を共にしたことを聖花は後悔しそうになった。
恐る恐るアナスタシアたちを見る。
アナスタシアは笑顔を崩さずシャンファを見据え、リリエルはビクついて俯いた。
そんなことも気にせず、シャンファが再び口を開いた。嫌な予感しかしない。
「ねえ、貴女たち。先程からヴェルディーレ家の御令嬢の話ばかりしていたけれど、仲が宜しいのかしら?」
「はい。マリー様、いえ、マリアンナ様とは仲を深めております。不躾ながらお尋ね致しますが、何故そういったことを聞かれるのですか?」
思いもよらぬ台詞に、アナスタシアが目を見開いた。が、直ぐに鋭い目でシャンファを見る。
リリエルも先程の怯え具合が嘘のように、真剣な眼差しで彼女を見据えていた。
自然と、辺りは緊張感のある空気に包まれる。
「‥‥‥成る程、ね。生憎私、その方のこと好きじゃないの。貴女たちとは仲良くなれそうにないわね。では、ご機嫌よう。
行きましょう?セイカ」
はっきりと告げられた。これは完全なる誤算だ。
まさかそんなことを言い出すと、誰が考えられようか。
シャンファは身を翻して聖花を呼んでいる。
聖花がアナスタシアたちの様子をちらりと見た。シャンファに冷たい視線を向けている。
それは聖花も例外ではなかった。
以前の親友たちに向けられた敵意は、聖花の思っていた以上に深く心に突き刺さった。
シャンファを連れて来たことに対する後悔と、彼女の無遠慮な発言に対する怒りよりも、そのことに対する悲痛さが自身の胸をえぐりとった。
ダンドール達の時とはまた異なる哀しみだ。
しかし、その場で崩れ落ちたり絶望に明け暮れるような真似はもうしない。そんな所でいちいち立ち止まっていたら前へと進めないから。
直ぐに聖花はその気持ちを頭から振り払った。いや、胸に仕舞い込んだという方が正しいのかもしれない。
兎に角、アナスタシアたちと仲良くなる絶好の機会を逃してしまったことは確かだ。
流石にその場に居続けることは出来ない。
聖花は申し訳なさげにアナスタシアたちに礼をした。
それから、シャンファの方へと慌てて駆け寄る。
「シャンファ!貴女、彼女の何処が好きじゃないの?」
シャンファの失言を責立てるよりも先に、純粋に疑問に思ったことを聖花は尋ねた。
マリアンナは全く社交界に出ておらず、普通これといった情報がないからだ。
が、直ぐにその理由が分かった。
「全部よ。私、陰湿なのも嫌いだけど、それより自分じゃ何も出来ない方が一番嫌いなの。
それこそ彼女のようなね」
彼女。シャンファは誰かまでは言わなかったが、マリアンナのことを指していることは確実だった。
両親に寵愛を受けて世間知らず。言い返すことも出来ない弱虫。
それがシャンファからのマリアンナに対する評価だろう。
実はマリアンナの社交界デビューの日、シャンファはその場にいた。
元々、シャンファからの印象は良くなかった。が、決め手となったのは、その日のロザリアとマリアンナのやり取りだ。
あの光景を見て、シャンファはマリアンナに対して、余計に嫌悪感を抱いたのだ。
未だに聖花は、シャンファがあの日いたという事実を知らないが。
「そう、なのですね」
「はい。‥‥‥どうかされましたの?」
シャンファが頷く。少しだけ顔を沈めた聖花を不思議そうに見る。
「‥‥‥‥いえ。動きすぎたのか、少し気分が悪くなったようです。一度外の空気を吸って来ますね」
「分かりましたわ。付いていきましょうか?」
「いえ、大丈夫です。中で待っていてください」
シャンファと暫くの間離れたかった。
そうして、聖花はひとり、傍のバルコニーへと出た。
聖花がふと疑問に思ったことを尋ねる。殆ど全員出席しているにも関わらず、一人で行動をしているのには何か理由があるのだろうか、と。
「"さん"は不要です。シャンファとお呼びください」
ピシャリ、と言い放たれた。はっきりとした性格をしている。
シャンファが続けて口を開いた。
「私、あまり群れるのは好きじゃないの。陰気臭くて嫌になりますわ」
「ああ‥‥‥‥。では何故、私に?」
聖花はシャンファの言う事が分かる気がした。大勢で人を貶し、嘲笑う。それの何処が楽しいのか。
「貴女の堂々とした態度に感銘を受けましたの。それ以外に理由がありまして?」
シャンファが心底不思議そうに首を傾げる。何処かきつい言い方をしているが、それが彼女の性質なのだろう。
「ところで、先程から何処に向かっておられますの?」
これまでにそんな人間はいなかったのか。聖花がそう思っていると、シャンファが思い出したかのように尋ねた。
「視線の先にいる二人の令嬢に話しかけようと‥‥‥。
ほら、壁際で会話されている方々です」
「ああ。男爵家のお二人ですわね」
聖花の視線を追って、シャンファが理解したかのように頷く。当然、名前は把握しているようだ。
シャンファの様子からして、家柄は全くもって気にしないタイプのようだ。
シャンファを連れて、聖花がアナスタシアとリリエルの元へと辿り着いた。先に前へと進み出る。
「ご歓談中失礼いたします。初めまして、私はセイカ・ダンドールと申します。以後お見知りおきを。こちらは‥‥‥‥」
「シャンファ・テルドールですわ。こうしてお話するのは初めてですね。私たちも会話に入れて下さる?」
聖花が紹介するより早く、シャンファが話し出す。アナスタシアたちは会話を中断させ、聖花とシャンファを交互に視界に入れた。
一瞬、ふたりは目をパチクリとさせていた。が、思い出したかのように口を開く。
「セイカ様、シャンファ様。この度はお声掛け頂きありがとうございます。私はアナスタシア・バインドと申しますわ。私たちで良ければ喜んで」
「セイカ‥‥‥様、シャンファ様、。わ、私はリリエル・フィロソフィアです‥‥‥‥‥。よろしく、お願いいたしま‥‥‥‥‥す‥‥‥。」
「名乗らずとも知っているわ」
「シャンファ!?」
聖花が思わず声を荒らげた。無礼極まりない、とはこのことである。が、身分の関係上、彼女が責め立てられることはない。
アナスタシアらの身分がシャンファより高位であれば間違いなく非難の対象になっていただろう。
シャンファ自身、一見悪気がないように見えるのが更に厄介な所だ。これでは誤解されてしまいかねない。
早速、行動を共にしたことを聖花は後悔しそうになった。
恐る恐るアナスタシアたちを見る。
アナスタシアは笑顔を崩さずシャンファを見据え、リリエルはビクついて俯いた。
そんなことも気にせず、シャンファが再び口を開いた。嫌な予感しかしない。
「ねえ、貴女たち。先程からヴェルディーレ家の御令嬢の話ばかりしていたけれど、仲が宜しいのかしら?」
「はい。マリー様、いえ、マリアンナ様とは仲を深めております。不躾ながらお尋ね致しますが、何故そういったことを聞かれるのですか?」
思いもよらぬ台詞に、アナスタシアが目を見開いた。が、直ぐに鋭い目でシャンファを見る。
リリエルも先程の怯え具合が嘘のように、真剣な眼差しで彼女を見据えていた。
自然と、辺りは緊張感のある空気に包まれる。
「‥‥‥成る程、ね。生憎私、その方のこと好きじゃないの。貴女たちとは仲良くなれそうにないわね。では、ご機嫌よう。
行きましょう?セイカ」
はっきりと告げられた。これは完全なる誤算だ。
まさかそんなことを言い出すと、誰が考えられようか。
シャンファは身を翻して聖花を呼んでいる。
聖花がアナスタシアたちの様子をちらりと見た。シャンファに冷たい視線を向けている。
それは聖花も例外ではなかった。
以前の親友たちに向けられた敵意は、聖花の思っていた以上に深く心に突き刺さった。
シャンファを連れて来たことに対する後悔と、彼女の無遠慮な発言に対する怒りよりも、そのことに対する悲痛さが自身の胸をえぐりとった。
ダンドール達の時とはまた異なる哀しみだ。
しかし、その場で崩れ落ちたり絶望に明け暮れるような真似はもうしない。そんな所でいちいち立ち止まっていたら前へと進めないから。
直ぐに聖花はその気持ちを頭から振り払った。いや、胸に仕舞い込んだという方が正しいのかもしれない。
兎に角、アナスタシアたちと仲良くなる絶好の機会を逃してしまったことは確かだ。
流石にその場に居続けることは出来ない。
聖花は申し訳なさげにアナスタシアたちに礼をした。
それから、シャンファの方へと慌てて駆け寄る。
「シャンファ!貴女、彼女の何処が好きじゃないの?」
シャンファの失言を責立てるよりも先に、純粋に疑問に思ったことを聖花は尋ねた。
マリアンナは全く社交界に出ておらず、普通これといった情報がないからだ。
が、直ぐにその理由が分かった。
「全部よ。私、陰湿なのも嫌いだけど、それより自分じゃ何も出来ない方が一番嫌いなの。
それこそ彼女のようなね」
彼女。シャンファは誰かまでは言わなかったが、マリアンナのことを指していることは確実だった。
両親に寵愛を受けて世間知らず。言い返すことも出来ない弱虫。
それがシャンファからのマリアンナに対する評価だろう。
実はマリアンナの社交界デビューの日、シャンファはその場にいた。
元々、シャンファからの印象は良くなかった。が、決め手となったのは、その日のロザリアとマリアンナのやり取りだ。
あの光景を見て、シャンファはマリアンナに対して、余計に嫌悪感を抱いたのだ。
未だに聖花は、シャンファがあの日いたという事実を知らないが。
「そう、なのですね」
「はい。‥‥‥どうかされましたの?」
シャンファが頷く。少しだけ顔を沈めた聖花を不思議そうに見る。
「‥‥‥‥いえ。動きすぎたのか、少し気分が悪くなったようです。一度外の空気を吸って来ますね」
「分かりましたわ。付いていきましょうか?」
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