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第21話 脱獄 前半
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日が昇っている間は貴族たちが入り乱れ、活気の溢れた王宮は見る影もなく、王宮専属の騎士たちが数名、王宮内を徘徊しているのみだった。
自室に備え付けてある机で、事務仕事をして起きていたアーノルドは、念の為布団に細工を施し、窓から外に出て、無駄なく飛び降りた。
風貌はまるで暗殺者のようで、真っ黒な布で身体を覆っている。
地面に叩きつけられる直前、彼は小さな風を引き起こして勢いを相殺して綺麗に着地した。
鳴った音も魔術によって掻き消され、誰の耳にも届くことはなかった。
彼はそのまま王宮を迂回して、滅多に誰も近付かない小屋の前に着いた。
王宮にはそぐわない古びれてボロボロな小屋、その側に鎧を身に着けた男が1人眠たそうに立っていた。
まだアーノルドの存在に気付いていない。
アーノルドは気配を出来る限り消してゆっくりとその男に近付いた。
一瞬で間合いを詰めると、男がやっと反応し、意識を一度は完全に取り戻した。
「なっ…………………」
男が言葉を発する前に、既に勝負はついていた。
アーノルドが先に蔓延させていた自作の睡眠ガスが男に回りきったからだ。
アーノルド自身はそれを吸わないように口と鼻を覆っている為、そんなものは効かない。
「安心しろ。害はない……」
しかし既に眠ってしまっている男には届かない。
アーノルドは騎士の対策の甘さに呆れ、情けない男を一瞥した。
しかしすぐに、男の横を通り過ぎ地下へと進んで行った。
階段を降りる彼の靴からは、少なからず音がしているが、防音の壁が張られている為に、壁の外には響かない。
無遠慮に奥へ奥へと進み、カナデの入る牢の前へと向かった。
アーノルドも流石に地下でガスを使うのは色々とリスクが高すぎるので、途中で遭遇した騎士たちは、少々手荒な手段で眠らしていた。
夜間に犯罪者の警備を行う騎士たちは、大抵は何か後ろ暗い過去を抱えていることが多い。
つまり、何かミスをした時、自分の過失を必死に隠そうとすることは火を見るよりも明らかだった。
「カナデよ、起きているか?」
そうして、不測の事態は起こることなく、アーノルドはすぐに目的場所に辿り着いた。
カナデは冷えた石の上に横になっている。
それを見ただけでは起きているかどうかは分からない。
「…………………………………、
…はい。全く眠れませんでした。中々時間が過ぎないもので、待ちくたびれてしまいましたよ」
アーノルドが一言発してから少し経過した。
眠っているのか?と彼が疑問に思い始めた時、遂に彼女は反応した。
じっ、と息を潜めて時が過ぎるのを待っていた聖花は、既に疲れ果てたような素振りをして、のらりくらりと立ち上がった。
だが、その瞳は活気に満ちている。
「遅くなって、すまないな」
「承知の上です」
(殿下が素直に謝った!?)
思いもよらぬアーノルドの発言を聞き、聖花は顔には出さないものの心底驚いていた。
前のことがあったとしても、かなり失礼である。
アーノルドはそれに気付いていないのか、特に何も言及しなかった。
が、何故か目を細めて薄ら笑いしていることから、彼女の反応を面白がっているようにも見えた。
「悪いが話している暇はない。万が一、ここの騎士以外に見られたら大変だ。なるべく早くここから出るぞ」
「は、はい…!」
事情は聖花には深く分からないが、彼は本当に急いでいるようだった。
昼に見た自信満々の彼も、やはり立場上(いや、そうで無くとも)、当たり前だが多くの人に見られたら不味いのだろうか。
「鍵はどうやって………、え…?」
ーーカチャンッ
聖花が尋ねようとした次の瞬間、鍵が間抜けに開く音がした。
この男は、堂々と牢屋の鍵を持参してきていたのだ。
勿論、この音は聖花と彼との間でしか聞こえず、防音対策は完璧である。
「……鍵は何処から持ってきたのですか?」
「王宮内の鍵の保管庫だ。王族はすんなり通れる上、みな頻繁に利用している故に疑われることもない」
「ダミーとかじゃないんですね、、、、」
「そんなものはない。すべて特別な金属でできていてな……。そんなものがまかり通ったら多くの犯罪者が世に放たれることになるであろう?」
聖花は、聞かなければ良かったと思った。
どの口が言うか、と心の中で突っ込むと共に、もうやりたい放題な彼に頭が痛くなるのを感じた。
今に始まったことではないが、彼が本性を曝け出しているように見えるのは彼女の気の所為ではないだろう。
ちなみに、鍵だけでなく牢屋の柵も、その特別な金属とやらで出来ているようで、普通に破壊することは不可能らしい。
それに壊したほうが大問題になるそうだ。
兎に角、聖花は開いた格子からすんなりと抜け出して、通路に出た。
何というか緊張感がないな、と彼女は感じた。
アーノルドと聖花は話すのを止めて、彼が先ほど来た道に向かって走り出した。
アーノルドが先行して、その後ろにカナデが付いて行く形だ。
ただ、彼女の想像以上にアーノルドの足が早く、彼女は逆に体力がなかったようで、すぐに引き離されそうになっていた。
「………手を出せ」
それに瞬時に気が付いたアーノルドは、一度立ち止まってカナデの方を見ている。
彼女が肩で息をしながら、片方の手を前に差し出した。
すると、彼女のものでない温もりが、確かにそこに伝わってきた。
不覚にも、手を握られたのだ。
彼の一見スラッとした容貌に反した、大きくて少し骨張っている手。
無許可で握ったことにやじを飛ばすべきであろうが、今はそんなこと言ってられない。
(あ………、ペース遅くしてくれてる・・)
聖花は少し楽になった身体で、引かれるがままに、薄暗い通路の中を駆け抜けていった。
これでも彼なりに気を遣ってくれているのだと感じて、普段は不愉快極まりないが、今だけはアーノルドに身を任せようと手をぎゅっと握った。
自室に備え付けてある机で、事務仕事をして起きていたアーノルドは、念の為布団に細工を施し、窓から外に出て、無駄なく飛び降りた。
風貌はまるで暗殺者のようで、真っ黒な布で身体を覆っている。
地面に叩きつけられる直前、彼は小さな風を引き起こして勢いを相殺して綺麗に着地した。
鳴った音も魔術によって掻き消され、誰の耳にも届くことはなかった。
彼はそのまま王宮を迂回して、滅多に誰も近付かない小屋の前に着いた。
王宮にはそぐわない古びれてボロボロな小屋、その側に鎧を身に着けた男が1人眠たそうに立っていた。
まだアーノルドの存在に気付いていない。
アーノルドは気配を出来る限り消してゆっくりとその男に近付いた。
一瞬で間合いを詰めると、男がやっと反応し、意識を一度は完全に取り戻した。
「なっ…………………」
男が言葉を発する前に、既に勝負はついていた。
アーノルドが先に蔓延させていた自作の睡眠ガスが男に回りきったからだ。
アーノルド自身はそれを吸わないように口と鼻を覆っている為、そんなものは効かない。
「安心しろ。害はない……」
しかし既に眠ってしまっている男には届かない。
アーノルドは騎士の対策の甘さに呆れ、情けない男を一瞥した。
しかしすぐに、男の横を通り過ぎ地下へと進んで行った。
階段を降りる彼の靴からは、少なからず音がしているが、防音の壁が張られている為に、壁の外には響かない。
無遠慮に奥へ奥へと進み、カナデの入る牢の前へと向かった。
アーノルドも流石に地下でガスを使うのは色々とリスクが高すぎるので、途中で遭遇した騎士たちは、少々手荒な手段で眠らしていた。
夜間に犯罪者の警備を行う騎士たちは、大抵は何か後ろ暗い過去を抱えていることが多い。
つまり、何かミスをした時、自分の過失を必死に隠そうとすることは火を見るよりも明らかだった。
「カナデよ、起きているか?」
そうして、不測の事態は起こることなく、アーノルドはすぐに目的場所に辿り着いた。
カナデは冷えた石の上に横になっている。
それを見ただけでは起きているかどうかは分からない。
「…………………………………、
…はい。全く眠れませんでした。中々時間が過ぎないもので、待ちくたびれてしまいましたよ」
アーノルドが一言発してから少し経過した。
眠っているのか?と彼が疑問に思い始めた時、遂に彼女は反応した。
じっ、と息を潜めて時が過ぎるのを待っていた聖花は、既に疲れ果てたような素振りをして、のらりくらりと立ち上がった。
だが、その瞳は活気に満ちている。
「遅くなって、すまないな」
「承知の上です」
(殿下が素直に謝った!?)
思いもよらぬアーノルドの発言を聞き、聖花は顔には出さないものの心底驚いていた。
前のことがあったとしても、かなり失礼である。
アーノルドはそれに気付いていないのか、特に何も言及しなかった。
が、何故か目を細めて薄ら笑いしていることから、彼女の反応を面白がっているようにも見えた。
「悪いが話している暇はない。万が一、ここの騎士以外に見られたら大変だ。なるべく早くここから出るぞ」
「は、はい…!」
事情は聖花には深く分からないが、彼は本当に急いでいるようだった。
昼に見た自信満々の彼も、やはり立場上(いや、そうで無くとも)、当たり前だが多くの人に見られたら不味いのだろうか。
「鍵はどうやって………、え…?」
ーーカチャンッ
聖花が尋ねようとした次の瞬間、鍵が間抜けに開く音がした。
この男は、堂々と牢屋の鍵を持参してきていたのだ。
勿論、この音は聖花と彼との間でしか聞こえず、防音対策は完璧である。
「……鍵は何処から持ってきたのですか?」
「王宮内の鍵の保管庫だ。王族はすんなり通れる上、みな頻繁に利用している故に疑われることもない」
「ダミーとかじゃないんですね、、、、」
「そんなものはない。すべて特別な金属でできていてな……。そんなものがまかり通ったら多くの犯罪者が世に放たれることになるであろう?」
聖花は、聞かなければ良かったと思った。
どの口が言うか、と心の中で突っ込むと共に、もうやりたい放題な彼に頭が痛くなるのを感じた。
今に始まったことではないが、彼が本性を曝け出しているように見えるのは彼女の気の所為ではないだろう。
ちなみに、鍵だけでなく牢屋の柵も、その特別な金属とやらで出来ているようで、普通に破壊することは不可能らしい。
それに壊したほうが大問題になるそうだ。
兎に角、聖花は開いた格子からすんなりと抜け出して、通路に出た。
何というか緊張感がないな、と彼女は感じた。
アーノルドと聖花は話すのを止めて、彼が先ほど来た道に向かって走り出した。
アーノルドが先行して、その後ろにカナデが付いて行く形だ。
ただ、彼女の想像以上にアーノルドの足が早く、彼女は逆に体力がなかったようで、すぐに引き離されそうになっていた。
「………手を出せ」
それに瞬時に気が付いたアーノルドは、一度立ち止まってカナデの方を見ている。
彼女が肩で息をしながら、片方の手を前に差し出した。
すると、彼女のものでない温もりが、確かにそこに伝わってきた。
不覚にも、手を握られたのだ。
彼の一見スラッとした容貌に反した、大きくて少し骨張っている手。
無許可で握ったことにやじを飛ばすべきであろうが、今はそんなこと言ってられない。
(あ………、ペース遅くしてくれてる・・)
聖花は少し楽になった身体で、引かれるがままに、薄暗い通路の中を駆け抜けていった。
これでも彼なりに気を遣ってくれているのだと感じて、普段は不愉快極まりないが、今だけはアーノルドに身を任せようと手をぎゅっと握った。
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