ヒロインの座、奪われました。

荒川きな

文字の大きさ
20 / 50

第17話 逡巡と希望

しおりを挟む
(どうしよう・・・・・。
 私は、どうしたらいいの‥‥‥)

 アーノルドが聖花の元を去って数時間が経過した。

 彼女は長い間、その場に膝をついて佇んでいた。
 石で出来た床は冷ややかでザラッとしている。


(転生して、‥‥‥正直、初めは混乱してた。
周りが何かも全然分からなくて。
でも、今は・・・・・・。)

 アーノルドと会うまで、聖花は何もかもがどうでも良くなっていた。

 彼女を慈しんでくれた父親ダンドールと母親《ルアンナ》。
 手を焼いて可愛がってくれたフィリーネ
 彼女を少し気に掛けているギルガルド
 そして、ここで初めて出来た温かい友人たち‥‥‥。

 短い間ではあったものの、彼らは聖花に数え切れない程の思い出を与えてくれた。
 元々打たれ弱かった彼女も、彼らのお陰で自身の致命的な弱点を忘れることができた。 

 けれど、そんな彼らはここにはいない。

 まさかこんなことになるとは、聖花は想像さえしなかった。
 『魂の入れ代わり』が起こるなど、一体誰が予想できただろうか。

 故意にも引き起こされた事件。
 ダンドール達から向けられた敵意の籠もった眼差しや殺意。

 余りのショックに耐えきれず、友人や家族、自分の気持ちに至るまで、全てを投げ出したい気持ちでいっぱいになっていた。

 聖花は、アーノルドの言葉を思い出す。
 目の前に垂らされた一縷の希望。

 何者かに居場所を奪われ、傷つけられて、すっかり心がズタボロになっていた彼女には、彼の囁きが不思議と胸の奥底に突き刺さったのだ。
 それは何故だか、彼女を救ってくれるようにさえ感じた。

 息を潜めるように、呼吸を整える。
 聖花は段々と気持ちが安定していくのを感じた。

 そして、思考を巡らせる。
 

(何故、こんなことになったのか?
 ‥‥そんなこと考えても無駄、ね・・・・。

 そう言えば、本来の彼女マリアンナは何処に行ってしまったのかしら。
 もし私と入れ替わっているのだとしたら、今頃彼女は、私の代わりに事故で亡くなっている‥‥‥?他のところにいるのかも。

 『カナデ』、確かアーノルドはそう言っていた。
 どこか引っ掛かる名前。彼女は一体何者?
 彼は、街で知り合ったと言っていたし、彼女の身分も知らないようだから其処まで深い関係じゃないのかも。

・・彼がどうして私を助けようとするのかが理解できない。
 でも、たとえ何か彼に考えがあったとしても・・・、

 ‥‥‥‥私は、私のことをする)

 彼女は、頭の中で一通り考えを整理する。
 すっかり静まり返った牢の中、ゆっくりと顔を上げた。

 そんな彼女の瞳は生気を取り戻したように輝いている。
 決心が着いたのである。

 彼女は考えた。

 外に出たらまた、別の人間としてやり直せるのかもしれない。
 外に出たら、『カナデ』と会って決着がつけられるかもしれない。 
 外に出たら、元に戻る方法が見つかるかもしれない。
 外に出たら、・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。

 もしそうであるなら、先ずはここから脱出しなければならない。
 そして、彼女の欠点も克服する必要がある。

 一見、強くなったように見える。
 しかし今の彼女は、希望と言う名の原動力に突き動かされているに過ぎない。
 根本的な性質自体は何ら変わっていないのだ。

 ただ脱出出来ただけにしても、直ぐににまた何時か捕われてしまうことだろう。
 そんな状態で、アーノルドが用意した『居場所』でも上手くやっていけるかどうか。

 あの事件をキッパリと切り捨てる程の衝動や気持ちを生み出すようなモノが必要になってくる。

 
「ーーーーーー」

「‥?」

 丁度その時、何かの気配が彼女のすぐ側で感じられた。
 聖花は思わず、そのを探すかのように、辺りをキョロキョロと見渡した。

 しかし、誰もいない。


(誰か、‥‥‥いた?)

 懐かしいような、どこか不思議な雰囲気を彼女は感じ取った。

 他の人が先程まで、すぐ近くで見ていた。
 普通は有り得ないことであるが、聖花は直感的にそう感じた。
 しかも、聖花が入っている牢屋の中から。
 
 その時、彼女は古びた鏡に目が行った。
 その鏡の辺りには薄暗い靄のようなものがほんの一瞬だけ掛かっているように見えた。


(あ・・・・・、鏡が‥‥)

 聖花は鏡の中をチラ、と視線が吸い込まれるかのように見た。


「おにい、さま・・・・・?」

 下からな上に薄暗い空間であったから、全ては見えなかったし、其れがはっきりと誰かは彼女には分からなかった。
 が、何故か考える前に彼女の口からは、告げていた。

 気配が消えてしまったのか、それとも彼女の幻影か。
 その言葉に対する返事は勿論なく、彼女の台詞は虚空の中に虚しく消え去った。

 それでも彼女は、ギルガルドに再び会って、このことを話したい、そう強く思った。

 もう一つ、彼女が思い出したことがある。

 の時、彼はその場に居なかった。
 彼の性格のこともあるだろう。
 しかしもしかしたら、何かを知っているのかもしれない。
 
 聖花はギルガルドのことを思い、一種の期待を胸に抱いた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

身代わりで呪いの公爵に嫁ぎましたが、聖女の力で浄化したら離縁どころか国一番の溺愛妻になりました〜実家が泣きついてももう遅い〜

しょくぱん
恋愛
「お前のような無能は、死神の生贄にでもなっていろ」 魔力なしの無能と蔑まれ、家族に虐げられてきた伯爵令嬢レティシア。 彼女に命じられたのは、近づく者すべてを病ませるという『呪いの公爵』アレクシスへの身代わり結婚だった。 鉄格子の馬車で運ばれ、たどり着いたのは瘴気に満ちた死の城。 恐ろしい怪物のような男に殺される――。 そう覚悟していたレティシアだったが、目の前の光景に絶望よりも先に別の感情が湧き上がる。 (な、何これ……汚すぎるわ! 雑巾とブラシはどこ!?) 実は、彼女が「無能」と言われていたのは、その力が『洗浄』と『浄化』に特化した特殊な聖女の魔力だったから。 レティシアが掃除をすれば、呪いの瘴気は消え去り、枯れた大地には花が咲き、不気味だった公爵城はまたたく間にピカピカの聖域に塗り替えられていく。 さらには、呪いで苦しんでいたアレクシスの素顔は、見惚れるほどの美青年で――。 「レティシア、君は一体何者なんだ……? 体が、こんなに軽いのは初めてだ」 冷酷だったはずの公爵様から、まさかの執着と溺愛。 さらには、呪いが解けたことで領地は国一番の豊かさを取り戻していく。 一方で、レティシアを捨てた実家は、彼女の『浄化』を失ったことで災厄に見舞われ、今さら「戻ってきてくれ」と泣きついてくるが……。 「私は今、お城の掃除と旦那様のお世話で忙しいんです。お引き取りくださいませ」 これは、掃除を愛する薄幸令嬢が、その愛と魔力で死神公爵を救い、最高に幸せな居場所を手に入れるまでのお話。

転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました

桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。 言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。 しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。 ──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。 その一行が、彼の目に留まった。 「この文字を書いたのは、あなたですか?」 美しく、完璧で、どこか現実離れした男。 日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。 最初はただの好奇心だと思っていた。 けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。 彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。 毎日19時に更新予定です。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。

沼野 花
恋愛
夫と子供たちに、選ばれなかったイネス。 すべてを愛人に奪われ、彼女は限界を迎え、屋敷を去る。 だが、その先に待っていたのは、救いではなかった。 イネスを襲った、取り返しのつかない出来事。 変わり果てた現実を前に、 夫はようやく、自分が何を失ったのかを思い知る。 深い後悔と悲しみに苛まれながら、 失ったイネスの心を取り戻そうとする夫。 しかし、彼女の心はすでに、外の世界へと向かっていた。 贖罪を背負いながらもイネスを求め続ける夫。 そして、母の心を知っていく子供たち。 イネスが求める愛とは、 そして、幸せとは――。

冤罪で退学になったけど、そっちの方が幸せだった

シリアス
恋愛
冤罪で退学になったけど、そっちの方が幸せだった

『白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?』

夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」 教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。 ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。 王命による“形式結婚”。 夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。 だから、はい、離婚。勝手に。 白い結婚だったので、勝手に離婚しました。 何か問題あります?

【完結・おまけ追加】期間限定の妻は夫にとろっとろに蕩けさせられて大変困惑しております

紬あおい
恋愛
病弱な妹リリスの代わりに嫁いだミルゼは、夫のラディアスと期間限定の夫婦となる。 二年後にはリリスと交代しなければならない。 そんなミルゼを閨で蕩かすラディアス。 普段も優しい良き夫に困惑を隠せないミルゼだった…

二度目の子育て~我が子を可愛がったら溺愛されました

三園 七詩
恋愛
私は一人娘の優里亜の母親だった。 優里亜は幼い頃から体が弱く病院でほとんどの時間を過ごしていた。 優里亜は本が好きでよく私にも本の話をしてくれた。 そんな優里亜の病状が悪化して幼くして亡くなってしまう。 絶望に打ちひしがれている時事件に巻き込まれ私も命を落とした。 そして気がつくと娘の優里亜が大好きだった本の世界に入り込んでいた。

処理中です...