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第4話 初の社交界
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ダンドールの元へと一枚の招待状が運ばれた。
聖花の選んだダンドール伯爵家のものだ。
現在執務中であった彼は休憩がてら手を止め、手にしていた羽根ペンを静かに置いた。
遂に来たか、と深刻そうな顔つきになる。彼本人は意識していないが、物凄い剣幕だ。全く休憩に見えない。
後ろに控える護衛騎士も、心なしか冷や汗をかいていた。
彼の座る執務席の向かい側からメイが招待状を手渡す。すると、彼女が部屋から去るのを待たずして彼はその中を開け出した。
他のことには目もくれず、血眼に招待状の内容を確認している。
その様はとても滑稽で、他の貴族が事情を知ったら内心あざ笑うことだろう。
すべて確認できたのか、招待状からようやく目を離す。厳粛な雰囲気などなく、どこか寂しそうだ。
社交界でのマリアンナの姿を想像しているのだろうか。
そうして感慨に耽った後、彼はやっとのことで招待状に参加表明のサインをした。
今度は苦虫を噛み潰したような苦々しい顔をしている。表情が豊かで色々と忙しそうだ。
これが社交の場であまり出ないから、貴族は恐ろしいのだ。
「マリーと同年代の男が多いな‥‥。未婚の者も多そうだ。
もし、私の愛する娘に寄り付く害虫がいたら全力で潰してやろう」
ダンドールの本音がふと口をついて出た。重く、低い声で、悪役そのもののような顔をしている。
周りの空気がまるで雪山のように冷えきった。
側で控えていた護衛騎士は平静を装っている。が、内心は部屋から逃げ出したい気持ちでいっぱいだ。
しかし、そんなことはおくびにも出さない。貴族専属の護衛騎士にはそれが求められているのである。
対してメイは、ダンドールに招待状を渡し終えるや否や、彼のいる執務室から出て行った。マリアンナのいる所に出来るだけ早く戻るためだ。
招待状を選び終わった後、聖花が、気分転換に庭で散歩したい、と言った。だから、メイの主であるマリアンナをあまり待たせるわけにはかないのである。
しかし、あくまでそれは建前で、メイが単にマリアンナのことが大好きである故なのは、当人も誰も知らない。
マリアンナが幼い頃から側にいたメイには、今は主従の関係でも、彼女は姉妹当然なのであった。
こうして、メイと聖花は共に庭へと出た。メイは聖花の少し後ろに控え、日傘を指してくれている。
外は、まるで秋のように心地良い。ポカポカと暖かい日差しが肌寒い空気を緩和してくれている。
庭には、庭師が育てたパンジーやマーガレットなど、色とりどりの花々が咲き誇っている。
季節ごとに異なった景色が見られるというので、聖花は庭で景色を眺めながら食事を楽しみたい、と思った。勿論、家族も誘って。
メイに提案してみると、好感触だったようで、後にダンドール達に直接伝えてくれるらしい。前のことと言い、聖花の侍女は有能だ。
「社交界って何をすれば良いのかしら‥‥、?」
思い出したかのように聖花が呟く。
初めてする事は誰にだって上手くできるものではない。やはり不安は付きものなのである。
「そうですね‥‥。言わば、人脈づくりのようなものが
主だと考えていただければ。と、思います。
気を楽にして、同年代のご令嬢方とお話すれば良いですよ」
メイは暫く考えてから、自分の意見を述べた。シンプルで極めて単純だ。
「成る程ね。教えてくれてありがとう」
聖花が納得したかのように頷いた。が、それが上手くいくかどうかは別物である。
何せこれまで社交界に参加してこなかった為、聖花には友達は疎か話し相手さえいない状態た。人脈も何もあったものじゃない。
(仲良くなれるといいな)
聖花は能天気にもそう思った。他の令嬢たちと仲睦まじげに話す自分を想像して。
初めてのことに浮かれて、皆が皆いい人ばかりでないことを考慮するのを忘れていたのだ。
◆
それから直ぐに数日が経ち、社交界当日になった。
今日はマリアンナにとって大切な節目の一つである。
多くのメイド達が彼女を取り囲み、衣装やら化粧品やらを真剣に選んでいる。燃え上がる火が見えそうだ。
聖花はというと、まるで着せ替え人形になったかのような気分だった。抵抗する間もなく、為されるがままに着飾らされてしまう。
「‥‥‥そんなに張り切りすぎなくて良いのよ?」
聖花が思っていたことがそのまま声に出た。周囲のあまりの熱気に気圧されている。
聖花の発言に一瞬シンッと静かになったが、すぐに取り直した。
「「いえ、初の社交界ですから!!」」
大勢が、その言葉は聞き捨てならないとばかりに声を上げた。一向に譲る気配がなく、流石の聖花もこれ以上は何も言えない。
マリアンナの顔立ちは美しいというより、小柄で可愛らしい印象だ。
透き通るようなコーラルピンクの髪色に髪の色より少し赤みがかった瞳、柔らかで心地好い声……。それらの全てが、彼女を見る者を惹きつけることだろう。
だが、ダンドールが入念に手回しをして、彼女をこれまで社交の場に出さなかった。その為に、姿を実際に見たことがある者は多くはなかった。
寧ろ殆どいない、と断言することができる。
マリアンナ自身、たっぷりと甘やかされたにも関わらず、物静かで大人しい性格に育った。きっと根本的なものもあるのだろう。
兎に角、聖花と魂が混ざるまでの彼女を、社交の場に出さない判断はある意味では正解だったのだ。
殺伐とした空間に彼女を放てば、きっと既に喰い殺されていたことだろう。
「お嬢様!お嬢様!!見てください!!
とても可憐で、品がお有りで‥‥。
‥‥まるで天使が舞い降りたかのようです!」
そうしている内に、メイドの一人が声高に叫んだ。興奮気味で、一種の中毒状態になっているかのようだ。
「大袈裟ね 、 、 」
聖花が小さく笑った。オーバーリアクションにも程がある、と。
しかし、
「‥…え?‥‥‥‥‥‥‥‥これが、私…?」
聖花は鏡に映し出された自分を見て固まった。それは、何とも儚げで可憐な少女が此方を見ていたからだった。
聖花が初めてマリアンナの容姿を見たときも、色々と驚かされた。が、それを差し引いても自分とは思えない愛くるしさだ。
少なくとも聖花はそう思った。
少しやり過ぎ感はあったが、メイド達が折角綺麗にしてくれたので、聖花は素直に感謝の意を述べて微笑んだ。「ありがとう」と。
すると、やりきった雰囲気を出していたメイド達は、再び大騒ぎし出した。彼女の天使のような笑顔を見たからだ。
「ひとり重症です!」「こちらもです!!」などと不吉な会話が飛び交っている。
そんなメイド達のことを見向きもせず、聖花は改めて彼女の姿を鏡で確認し、唖然としていた。
マリアンナが初めて社交界という舞台に上がるからか、やはり本気度が違う。
きっとメイド達にとっても、特別な日なのだろう。
中には、フィリーネの社交界デビューの日に化粧したことのある者もいた。
しかし、だからこそより一層精が出るのだと、その者は熱弁していた。姉妹とはいえ違う人間なのだから。
そんなこんなで騒いでいると、時間がギリギリまで押してしまっていた。
彼女は飛び込むようにして馬車に乗り込み、パーティー会場である『ゴルダール伯爵家』へと向かった。
話によると、パーティーは本邸の側に建てられた別邸で行われるそうだ。本邸にある貴重品の盗難、漏洩防止らしい。
そして遂に、ゴルダール伯爵家に着いた。
門の前に立っている騎士に馬車の確認が行われた後、中に入る。すると、既に多くの貴族たちが集まっていた。
何せ準備に時間が掛かったので仕方がない。
会場のホールは、綺羅びやかなシャンデリアや豪華に装飾された壁面に包まれている。
辺りは子供から大人までの淑女や紳士が大勢いた。これで、貴族の中の一握りに過ぎないのが驚きである。
聖花たちは会場に控えめに入場した後で、このパーティーの主催者であるヴィンセント・ゴルダール伯爵に挨拶をしに向かった。
途中、聖花は何度か歳の近い男に声を掛けられそうになった。が、その度にダンドールが鬼のような殺気を彼らに向けて遠ざけていた。
当然ながら聖花自身は気がついていない。
ダンドールが辺りを何度も見回してヴィンセントを探す。
先に主催者に挨拶するのが筋なので、上手く他の貴族との接触を避けながら会場内を歩き回った。
そうしていると、漸くヴィンセントの姿が見えた。
彼は丁度、他の貴族と会話をしている最中で、聖花たちに気が付いていない。
待っていても埒が明かないので、ダンドールが先に話し掛けた。
「お話し中、申し訳ない、ゴルダール伯爵。この度はご招待頂き感謝する。ご挨拶に伺った。暫しよろしいか?」
「あぁ、ダンドール卿、よしてくれ。私とお前の仲ではないか。堅苦しい呼び名でなくてよい。それで、卿の後にいる淑女は娘か?」
「貴方の仰る通りだ。マリー、この方が今回のパーティの主催者であるヴィンセント・ゴルダール伯爵だ。挨拶を」
「はい。ゴルダール伯爵様、初めてお目にかかります。私はヴェルディーレ家、ダンドール伯爵の二女であるマリアンナ・ヴェルディーレと申します。この度はお招き頂き、ありがとうございます。これからもヴェルディーレ家をよろしくお願い致します。…‥不慣れながらのご挨拶となることをお許し頂ければ幸いです」
ヴィンセントは他の者との話を一旦中断して、ダンドールたちの方を向いた。
真っ先にダンドールの後に立つマリアンナに視線をやる。品定めするかのような視線だ。
彼女の容姿を見て、何かを考えているようにも見えた。
聖花はダンドールから事前に挨拶の大体の内容を聞かされていた。だから覚えている範囲でヴィンセントに挨拶をした。
彼自身も箱入りの割りに挨拶がなっている、と評価したようで、視線をダンドールの方へと向き直した。
しかし、たまにチラチラとマリアンナに目をやっている。
「マリアンナ、向こう側にお前と同い年頃の子達が会話しているようだから、其方で友人でも作りなさい。紳士たちと混じって話をしている淑女たちの方へは出来るだけ行かないように。私は大人たちと難しい話をするから」
「分かりました。行ってきますね、お父様」
ゴルダールの様子を察し、ダンドールは聖花にやんわりとこの場を離れるように言った。聖花は特に気が付いていない。
直ぐにその場から立ち去って、聖花は彼女と同年代の少女たちが集まっている所へと向かった。きちんと淑女らしい動きが出来ている。
そしてダンドールはと言うと、ヴィンセントから一旦別れ、マリアンナから見えないように離れて追った。
彼女が少女たちの元に行くまで、彼女の父親はずっと警戒して周囲を見渡し、様子に応じて彼女を群がる男たちから守っていた。
ヴィンセントはその有様を見て軽く笑った。
聖花の選んだダンドール伯爵家のものだ。
現在執務中であった彼は休憩がてら手を止め、手にしていた羽根ペンを静かに置いた。
遂に来たか、と深刻そうな顔つきになる。彼本人は意識していないが、物凄い剣幕だ。全く休憩に見えない。
後ろに控える護衛騎士も、心なしか冷や汗をかいていた。
彼の座る執務席の向かい側からメイが招待状を手渡す。すると、彼女が部屋から去るのを待たずして彼はその中を開け出した。
他のことには目もくれず、血眼に招待状の内容を確認している。
その様はとても滑稽で、他の貴族が事情を知ったら内心あざ笑うことだろう。
すべて確認できたのか、招待状からようやく目を離す。厳粛な雰囲気などなく、どこか寂しそうだ。
社交界でのマリアンナの姿を想像しているのだろうか。
そうして感慨に耽った後、彼はやっとのことで招待状に参加表明のサインをした。
今度は苦虫を噛み潰したような苦々しい顔をしている。表情が豊かで色々と忙しそうだ。
これが社交の場であまり出ないから、貴族は恐ろしいのだ。
「マリーと同年代の男が多いな‥‥。未婚の者も多そうだ。
もし、私の愛する娘に寄り付く害虫がいたら全力で潰してやろう」
ダンドールの本音がふと口をついて出た。重く、低い声で、悪役そのもののような顔をしている。
周りの空気がまるで雪山のように冷えきった。
側で控えていた護衛騎士は平静を装っている。が、内心は部屋から逃げ出したい気持ちでいっぱいだ。
しかし、そんなことはおくびにも出さない。貴族専属の護衛騎士にはそれが求められているのである。
対してメイは、ダンドールに招待状を渡し終えるや否や、彼のいる執務室から出て行った。マリアンナのいる所に出来るだけ早く戻るためだ。
招待状を選び終わった後、聖花が、気分転換に庭で散歩したい、と言った。だから、メイの主であるマリアンナをあまり待たせるわけにはかないのである。
しかし、あくまでそれは建前で、メイが単にマリアンナのことが大好きである故なのは、当人も誰も知らない。
マリアンナが幼い頃から側にいたメイには、今は主従の関係でも、彼女は姉妹当然なのであった。
こうして、メイと聖花は共に庭へと出た。メイは聖花の少し後ろに控え、日傘を指してくれている。
外は、まるで秋のように心地良い。ポカポカと暖かい日差しが肌寒い空気を緩和してくれている。
庭には、庭師が育てたパンジーやマーガレットなど、色とりどりの花々が咲き誇っている。
季節ごとに異なった景色が見られるというので、聖花は庭で景色を眺めながら食事を楽しみたい、と思った。勿論、家族も誘って。
メイに提案してみると、好感触だったようで、後にダンドール達に直接伝えてくれるらしい。前のことと言い、聖花の侍女は有能だ。
「社交界って何をすれば良いのかしら‥‥、?」
思い出したかのように聖花が呟く。
初めてする事は誰にだって上手くできるものではない。やはり不安は付きものなのである。
「そうですね‥‥。言わば、人脈づくりのようなものが
主だと考えていただければ。と、思います。
気を楽にして、同年代のご令嬢方とお話すれば良いですよ」
メイは暫く考えてから、自分の意見を述べた。シンプルで極めて単純だ。
「成る程ね。教えてくれてありがとう」
聖花が納得したかのように頷いた。が、それが上手くいくかどうかは別物である。
何せこれまで社交界に参加してこなかった為、聖花には友達は疎か話し相手さえいない状態た。人脈も何もあったものじゃない。
(仲良くなれるといいな)
聖花は能天気にもそう思った。他の令嬢たちと仲睦まじげに話す自分を想像して。
初めてのことに浮かれて、皆が皆いい人ばかりでないことを考慮するのを忘れていたのだ。
◆
それから直ぐに数日が経ち、社交界当日になった。
今日はマリアンナにとって大切な節目の一つである。
多くのメイド達が彼女を取り囲み、衣装やら化粧品やらを真剣に選んでいる。燃え上がる火が見えそうだ。
聖花はというと、まるで着せ替え人形になったかのような気分だった。抵抗する間もなく、為されるがままに着飾らされてしまう。
「‥‥‥そんなに張り切りすぎなくて良いのよ?」
聖花が思っていたことがそのまま声に出た。周囲のあまりの熱気に気圧されている。
聖花の発言に一瞬シンッと静かになったが、すぐに取り直した。
「「いえ、初の社交界ですから!!」」
大勢が、その言葉は聞き捨てならないとばかりに声を上げた。一向に譲る気配がなく、流石の聖花もこれ以上は何も言えない。
マリアンナの顔立ちは美しいというより、小柄で可愛らしい印象だ。
透き通るようなコーラルピンクの髪色に髪の色より少し赤みがかった瞳、柔らかで心地好い声……。それらの全てが、彼女を見る者を惹きつけることだろう。
だが、ダンドールが入念に手回しをして、彼女をこれまで社交の場に出さなかった。その為に、姿を実際に見たことがある者は多くはなかった。
寧ろ殆どいない、と断言することができる。
マリアンナ自身、たっぷりと甘やかされたにも関わらず、物静かで大人しい性格に育った。きっと根本的なものもあるのだろう。
兎に角、聖花と魂が混ざるまでの彼女を、社交の場に出さない判断はある意味では正解だったのだ。
殺伐とした空間に彼女を放てば、きっと既に喰い殺されていたことだろう。
「お嬢様!お嬢様!!見てください!!
とても可憐で、品がお有りで‥‥。
‥‥まるで天使が舞い降りたかのようです!」
そうしている内に、メイドの一人が声高に叫んだ。興奮気味で、一種の中毒状態になっているかのようだ。
「大袈裟ね 、 、 」
聖花が小さく笑った。オーバーリアクションにも程がある、と。
しかし、
「‥…え?‥‥‥‥‥‥‥‥これが、私…?」
聖花は鏡に映し出された自分を見て固まった。それは、何とも儚げで可憐な少女が此方を見ていたからだった。
聖花が初めてマリアンナの容姿を見たときも、色々と驚かされた。が、それを差し引いても自分とは思えない愛くるしさだ。
少なくとも聖花はそう思った。
少しやり過ぎ感はあったが、メイド達が折角綺麗にしてくれたので、聖花は素直に感謝の意を述べて微笑んだ。「ありがとう」と。
すると、やりきった雰囲気を出していたメイド達は、再び大騒ぎし出した。彼女の天使のような笑顔を見たからだ。
「ひとり重症です!」「こちらもです!!」などと不吉な会話が飛び交っている。
そんなメイド達のことを見向きもせず、聖花は改めて彼女の姿を鏡で確認し、唖然としていた。
マリアンナが初めて社交界という舞台に上がるからか、やはり本気度が違う。
きっとメイド達にとっても、特別な日なのだろう。
中には、フィリーネの社交界デビューの日に化粧したことのある者もいた。
しかし、だからこそより一層精が出るのだと、その者は熱弁していた。姉妹とはいえ違う人間なのだから。
そんなこんなで騒いでいると、時間がギリギリまで押してしまっていた。
彼女は飛び込むようにして馬車に乗り込み、パーティー会場である『ゴルダール伯爵家』へと向かった。
話によると、パーティーは本邸の側に建てられた別邸で行われるそうだ。本邸にある貴重品の盗難、漏洩防止らしい。
そして遂に、ゴルダール伯爵家に着いた。
門の前に立っている騎士に馬車の確認が行われた後、中に入る。すると、既に多くの貴族たちが集まっていた。
何せ準備に時間が掛かったので仕方がない。
会場のホールは、綺羅びやかなシャンデリアや豪華に装飾された壁面に包まれている。
辺りは子供から大人までの淑女や紳士が大勢いた。これで、貴族の中の一握りに過ぎないのが驚きである。
聖花たちは会場に控えめに入場した後で、このパーティーの主催者であるヴィンセント・ゴルダール伯爵に挨拶をしに向かった。
途中、聖花は何度か歳の近い男に声を掛けられそうになった。が、その度にダンドールが鬼のような殺気を彼らに向けて遠ざけていた。
当然ながら聖花自身は気がついていない。
ダンドールが辺りを何度も見回してヴィンセントを探す。
先に主催者に挨拶するのが筋なので、上手く他の貴族との接触を避けながら会場内を歩き回った。
そうしていると、漸くヴィンセントの姿が見えた。
彼は丁度、他の貴族と会話をしている最中で、聖花たちに気が付いていない。
待っていても埒が明かないので、ダンドールが先に話し掛けた。
「お話し中、申し訳ない、ゴルダール伯爵。この度はご招待頂き感謝する。ご挨拶に伺った。暫しよろしいか?」
「あぁ、ダンドール卿、よしてくれ。私とお前の仲ではないか。堅苦しい呼び名でなくてよい。それで、卿の後にいる淑女は娘か?」
「貴方の仰る通りだ。マリー、この方が今回のパーティの主催者であるヴィンセント・ゴルダール伯爵だ。挨拶を」
「はい。ゴルダール伯爵様、初めてお目にかかります。私はヴェルディーレ家、ダンドール伯爵の二女であるマリアンナ・ヴェルディーレと申します。この度はお招き頂き、ありがとうございます。これからもヴェルディーレ家をよろしくお願い致します。…‥不慣れながらのご挨拶となることをお許し頂ければ幸いです」
ヴィンセントは他の者との話を一旦中断して、ダンドールたちの方を向いた。
真っ先にダンドールの後に立つマリアンナに視線をやる。品定めするかのような視線だ。
彼女の容姿を見て、何かを考えているようにも見えた。
聖花はダンドールから事前に挨拶の大体の内容を聞かされていた。だから覚えている範囲でヴィンセントに挨拶をした。
彼自身も箱入りの割りに挨拶がなっている、と評価したようで、視線をダンドールの方へと向き直した。
しかし、たまにチラチラとマリアンナに目をやっている。
「マリアンナ、向こう側にお前と同い年頃の子達が会話しているようだから、其方で友人でも作りなさい。紳士たちと混じって話をしている淑女たちの方へは出来るだけ行かないように。私は大人たちと難しい話をするから」
「分かりました。行ってきますね、お父様」
ゴルダールの様子を察し、ダンドールは聖花にやんわりとこの場を離れるように言った。聖花は特に気が付いていない。
直ぐにその場から立ち去って、聖花は彼女と同年代の少女たちが集まっている所へと向かった。きちんと淑女らしい動きが出来ている。
そしてダンドールはと言うと、ヴィンセントから一旦別れ、マリアンナから見えないように離れて追った。
彼女が少女たちの元に行くまで、彼女の父親はずっと警戒して周囲を見渡し、様子に応じて彼女を群がる男たちから守っていた。
ヴィンセントはその有様を見て軽く笑った。
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