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第0話 プロローグ (?)
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………ぉ……………ぃ…………
(………………………………)
…ぉ………ぉぃ……………
(……………………………?だ、れ?)
……………………………………………
「おい!起きろ!!起きろって!!!」
「!?
………な、何っっっっっ!!??」
少女は誰かの叫び声を聞いて意識を取り戻した。
思わず目を見開くと、見知らぬ男がしゃがみこんで彼女の顔をじーっと覗き込んでいる。
唐突な出来事に少女は一気に目が覚めた。衝撃と恐怖が走り、慌ててその場から飛び退くように後ずさる。
目を何度もパチパチとして、夢か否かを確認するために、彼女はもう一度恐る恐る顔を上げた。
すると、先程まで奏が倒れていた所に、草臥れた服を着た男が一人、少女の方を見ているではないか。
彼は一見細いだけに見える。しかし、所々から顔を覗かせる筋肉は、彼が鍛え上げられていることを示すのには十分だった。
そのことがより少女に恐怖を与える原因となった。
少女、いや、柊 奏は昨日までのことを思い出す。
昨晩、何の変哲もない女子学生の奏は、ある乙女ゲームを進めていた。『異界の国の聖女』という題名の、よくある恋愛シミュレーションゲームだ。
そのゲームに見事のめり込んだ彼女は、攻略対象全員の完全攻略を目指し、寝る間も惜しんで久し振りに夜更かしをした。
瞼が重くなって、意識を反らしたら今にも眠りそうになるのを何とか我慢して。
そうして、ゲームの正規ルートのみ攻略出来たのは、朝日が顔を覗かせ始めたその約1時間後。これから、という所で、奏は前触れなく激しい睡魔に襲われた。
『眠りたい』という、本能的な欲求には抗えず、彼女はゴチャゴチャと散乱した部屋の中で横たわった。
お風呂に入っておいて良かった、と思いながら、スゥッと瞼を下ろす。そうして、息を引き取るように静かに眠りについたのだ。
(ふ、不審者………!?)
確かに彼女は寝心地の悪い絨毯の上でひとり熟睡していた筈だ。なのに、目の前に見知らぬ者がいる。
きっと泥棒か何かに違いない、と奏は身構える。
その男は初めは心配げな表情を顔に浮かべていた。しかし勢いよく立ち退いた奏を見て、半分驚いた表情になっている。
そして遂に、男が口を開いた。
何を言い出すのか?と、奏も警戒気味に耳を傾ける。
「や、やっと起きた。大丈夫か??お嬢ちゃん。」
しかし、彼女の予想と全く異なる言葉がとんできた。流石の奏も呆気にとられ、その場に固まる。
そうしていると、男はゆっくりと立ち上がり、尻餅をついて混乱している彼女に近づいた。手を差しのべてくる。
どうやら助けようとしているようにも見えた。
が、自宅に堂々と上がり込んで来ている不審者には変わりない。 と、彼女は未だに認識している。
おまけに服装も、彼女の住んでいた国『日本』では有り得ない格好だ。
状況を未だに理解していない奏は、男を取り敢えず睨むことにした。そんなことが意味を為さないことは奏自身分かっていたが。
「そんな目つきしてりゃあ大丈夫そうだな。何でそんなに警戒してるのか分からねぇが…。」
男は敵意を向けている奏をまじまじと見て、心底不思議そうな様子で首を傾げた。
何がそんなに可笑しいのか、と彼女は疑問に感じると共に、どうやってここから逃げようか、と考えていた。
そうして、やっと男性からスイッと目を離し、状況把握の為に周囲を少し見渡すと、彼女が今までに見たことのない景色が広がっていた。
果てしなく続く広大で豊かな大森林、
離れた所で聞いたことのない鳴き声を上げる生物、
今の彼女の国ではほとんど見られない木製の乗り物、
そして…空に浮かぶ幻想的な島。
その全てが彼女にとって驚くべきものであり、素晴らしく魅力的なものだった。
そもそも、奏は部屋で眠った筈なのに、外に居る自体、可笑しな点が多すぎる。
そこで、彼女は一つの答えに辿り着く。
(これは、ゲームや小説でありがちな、異世界転移では!!??)
奏はやっと気が付いたのか、ひとり興奮を抑えきれていない。
目の前の不審な男の存在をすっかり忘れているようだ。
ついつい握り拳を挙げガッツポーズを決めている。
「……何してるんだ?やっぱし大丈夫かよ…。」
「あ…、すみません。先ほどは失礼な態度を。貴方はどちら様でしょうか?見たところ、私を助けて頂いたようですが……。」
置いてけぼりの男が先程とは別の意味で心配していると、彼女はハッと男性の存在を思い出し、落ち着いて非礼を詫びた上で丁寧に尋ねた。
内心は絶賛大興奮しており、落ち着きなど皆無に等しいのだが。
それに、警戒心を解いて男のことを完全に受け入れている。
「おっ?急に何だぁ??……まあ、細かいことはいいか。俺はルーツってんだ。ただのそこら辺に住んでる傭兵さ。嬢ちゃんは?」
「私は………、奏って言います。少し記憶が曖昧で、何処に住んでいるのか,何をしていたのかが分からないんです。えと、よろしくお願いします。」
「おう、よろしくな!カナデ。記憶喪失とは、何か悪いことでもあったのかもな‥‥‥」
ルーツと名乗った男は急変して敵意の抜けた彼女を見て笑いながら、彼女に軽く自己紹介をした。
彼女もそれを返した。
ただ、余計なことを言うとトチ狂ったとでも思われるだろうし、記憶喪失だとごまかしたのだった。
何か言いたくないことがあるのを察してか、それとも単に純粋なのか、ルーツは深くは詮索をせず、彼女に明るい笑みを向けた。
◆
彼女がここで一人で居続けること危険だとルーツは感じたので、奏を国の中心地まで送ると言って、彼が運んでいる乗り物の端側に乗ってもらった。
彼はそこに丁度向かっていたらしい。
「ところで、私たちが今いるのは何て言う国でしょうか?」
ふと気になって奏がルーツに尋ねる。
彼は振り返ってアルバ国だ、と答えた。
どうやら近頃、第一王太子が婚約者を真剣に作らねばならない歳になったようで、今注目の的を浴びる国らしい。
その王太子は頑なに婚約者を作ろうとはしなかったという。
(アルバ、国……??何か、どこかで聞いたことがある気が………)
聞き覚えのある国に、奏はどうも釈然としなかった。
どこで聞いたのだろうか、と思考をフルに回転させて思い出そうとする。
初めて聞く筈である国は…………。
「……………………………………あっ!!!」
その時、奏は何かを思い出したかのように下に向けていた顔を勢いよく上げた。
その目は歓喜と愉悦とに満ちていた。
足を止めたルーツがそんな彼女を凝視する。
どうしたのだろうか?そんな表情だ。
コロコロと変わる奏の様子を見て面白がっているようにも見えた。
「いきなりすみません。その王太子様のお名前は……ルードルフ・フィン・アルバ殿下で合ってますか?」
奏はバクバクと跳ねる心を無理やり抑え込みながら、ルーツに尋ねた。
すでに何かを確信しているようで、声色が心なしか高まっている。
「……そうだ。俺だから良かったが、他の人の前では絶対に余計なことを言うなよ?
いいか。殿下と近しい間柄の人か、学園内でない限り、不敬罪で檻に連れて行かれるぞ。気を付けろ」
ルーツは少し頷き、敢えて真剣な顔で奏に警告した。
どうやら本当のことのようだ。
しかし、ある事実に興奮しきった彼女の耳には入らなかった。
そんなことよりも、彼女が熱中していたゲームの世界に転生したことが嬉しくて‥‥。
「『異界の国の聖女』に転移したぞーー!!!!」
遂には抑えきれずに叫んでしまった。
静かな一本道で、奏の声が嫌に響き渡る。
「‥‥‥‥‥‥‥‥」
ルーツは無言のまま奏を凝視した。
こいつは何をいっているんだ、と言いたげで、怪訝な顔をしている。
しかし、奏は気にも留めていない。
と言うか、あまりの喜びでそれどころじゃないらしい。
しばらく経って、ようやく落ち着いてきた彼女は自身を見回した。
(あぁ、違うのね。まぁいっか。後で変えれば良いんだし)
奏はひとり、邪悪にほくそ笑んだ。
……コレが、全ての始まりだった。
(………………………………)
…ぉ………ぉぃ……………
(……………………………?だ、れ?)
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「おい!起きろ!!起きろって!!!」
「!?
………な、何っっっっっ!!??」
少女は誰かの叫び声を聞いて意識を取り戻した。
思わず目を見開くと、見知らぬ男がしゃがみこんで彼女の顔をじーっと覗き込んでいる。
唐突な出来事に少女は一気に目が覚めた。衝撃と恐怖が走り、慌ててその場から飛び退くように後ずさる。
目を何度もパチパチとして、夢か否かを確認するために、彼女はもう一度恐る恐る顔を上げた。
すると、先程まで奏が倒れていた所に、草臥れた服を着た男が一人、少女の方を見ているではないか。
彼は一見細いだけに見える。しかし、所々から顔を覗かせる筋肉は、彼が鍛え上げられていることを示すのには十分だった。
そのことがより少女に恐怖を与える原因となった。
少女、いや、柊 奏は昨日までのことを思い出す。
昨晩、何の変哲もない女子学生の奏は、ある乙女ゲームを進めていた。『異界の国の聖女』という題名の、よくある恋愛シミュレーションゲームだ。
そのゲームに見事のめり込んだ彼女は、攻略対象全員の完全攻略を目指し、寝る間も惜しんで久し振りに夜更かしをした。
瞼が重くなって、意識を反らしたら今にも眠りそうになるのを何とか我慢して。
そうして、ゲームの正規ルートのみ攻略出来たのは、朝日が顔を覗かせ始めたその約1時間後。これから、という所で、奏は前触れなく激しい睡魔に襲われた。
『眠りたい』という、本能的な欲求には抗えず、彼女はゴチャゴチャと散乱した部屋の中で横たわった。
お風呂に入っておいて良かった、と思いながら、スゥッと瞼を下ろす。そうして、息を引き取るように静かに眠りについたのだ。
(ふ、不審者………!?)
確かに彼女は寝心地の悪い絨毯の上でひとり熟睡していた筈だ。なのに、目の前に見知らぬ者がいる。
きっと泥棒か何かに違いない、と奏は身構える。
その男は初めは心配げな表情を顔に浮かべていた。しかし勢いよく立ち退いた奏を見て、半分驚いた表情になっている。
そして遂に、男が口を開いた。
何を言い出すのか?と、奏も警戒気味に耳を傾ける。
「や、やっと起きた。大丈夫か??お嬢ちゃん。」
しかし、彼女の予想と全く異なる言葉がとんできた。流石の奏も呆気にとられ、その場に固まる。
そうしていると、男はゆっくりと立ち上がり、尻餅をついて混乱している彼女に近づいた。手を差しのべてくる。
どうやら助けようとしているようにも見えた。
が、自宅に堂々と上がり込んで来ている不審者には変わりない。 と、彼女は未だに認識している。
おまけに服装も、彼女の住んでいた国『日本』では有り得ない格好だ。
状況を未だに理解していない奏は、男を取り敢えず睨むことにした。そんなことが意味を為さないことは奏自身分かっていたが。
「そんな目つきしてりゃあ大丈夫そうだな。何でそんなに警戒してるのか分からねぇが…。」
男は敵意を向けている奏をまじまじと見て、心底不思議そうな様子で首を傾げた。
何がそんなに可笑しいのか、と彼女は疑問に感じると共に、どうやってここから逃げようか、と考えていた。
そうして、やっと男性からスイッと目を離し、状況把握の為に周囲を少し見渡すと、彼女が今までに見たことのない景色が広がっていた。
果てしなく続く広大で豊かな大森林、
離れた所で聞いたことのない鳴き声を上げる生物、
今の彼女の国ではほとんど見られない木製の乗り物、
そして…空に浮かぶ幻想的な島。
その全てが彼女にとって驚くべきものであり、素晴らしく魅力的なものだった。
そもそも、奏は部屋で眠った筈なのに、外に居る自体、可笑しな点が多すぎる。
そこで、彼女は一つの答えに辿り着く。
(これは、ゲームや小説でありがちな、異世界転移では!!??)
奏はやっと気が付いたのか、ひとり興奮を抑えきれていない。
目の前の不審な男の存在をすっかり忘れているようだ。
ついつい握り拳を挙げガッツポーズを決めている。
「……何してるんだ?やっぱし大丈夫かよ…。」
「あ…、すみません。先ほどは失礼な態度を。貴方はどちら様でしょうか?見たところ、私を助けて頂いたようですが……。」
置いてけぼりの男が先程とは別の意味で心配していると、彼女はハッと男性の存在を思い出し、落ち着いて非礼を詫びた上で丁寧に尋ねた。
内心は絶賛大興奮しており、落ち着きなど皆無に等しいのだが。
それに、警戒心を解いて男のことを完全に受け入れている。
「おっ?急に何だぁ??……まあ、細かいことはいいか。俺はルーツってんだ。ただのそこら辺に住んでる傭兵さ。嬢ちゃんは?」
「私は………、奏って言います。少し記憶が曖昧で、何処に住んでいるのか,何をしていたのかが分からないんです。えと、よろしくお願いします。」
「おう、よろしくな!カナデ。記憶喪失とは、何か悪いことでもあったのかもな‥‥‥」
ルーツと名乗った男は急変して敵意の抜けた彼女を見て笑いながら、彼女に軽く自己紹介をした。
彼女もそれを返した。
ただ、余計なことを言うとトチ狂ったとでも思われるだろうし、記憶喪失だとごまかしたのだった。
何か言いたくないことがあるのを察してか、それとも単に純粋なのか、ルーツは深くは詮索をせず、彼女に明るい笑みを向けた。
◆
彼女がここで一人で居続けること危険だとルーツは感じたので、奏を国の中心地まで送ると言って、彼が運んでいる乗り物の端側に乗ってもらった。
彼はそこに丁度向かっていたらしい。
「ところで、私たちが今いるのは何て言う国でしょうか?」
ふと気になって奏がルーツに尋ねる。
彼は振り返ってアルバ国だ、と答えた。
どうやら近頃、第一王太子が婚約者を真剣に作らねばならない歳になったようで、今注目の的を浴びる国らしい。
その王太子は頑なに婚約者を作ろうとはしなかったという。
(アルバ、国……??何か、どこかで聞いたことがある気が………)
聞き覚えのある国に、奏はどうも釈然としなかった。
どこで聞いたのだろうか、と思考をフルに回転させて思い出そうとする。
初めて聞く筈である国は…………。
「……………………………………あっ!!!」
その時、奏は何かを思い出したかのように下に向けていた顔を勢いよく上げた。
その目は歓喜と愉悦とに満ちていた。
足を止めたルーツがそんな彼女を凝視する。
どうしたのだろうか?そんな表情だ。
コロコロと変わる奏の様子を見て面白がっているようにも見えた。
「いきなりすみません。その王太子様のお名前は……ルードルフ・フィン・アルバ殿下で合ってますか?」
奏はバクバクと跳ねる心を無理やり抑え込みながら、ルーツに尋ねた。
すでに何かを確信しているようで、声色が心なしか高まっている。
「……そうだ。俺だから良かったが、他の人の前では絶対に余計なことを言うなよ?
いいか。殿下と近しい間柄の人か、学園内でない限り、不敬罪で檻に連れて行かれるぞ。気を付けろ」
ルーツは少し頷き、敢えて真剣な顔で奏に警告した。
どうやら本当のことのようだ。
しかし、ある事実に興奮しきった彼女の耳には入らなかった。
そんなことよりも、彼女が熱中していたゲームの世界に転生したことが嬉しくて‥‥。
「『異界の国の聖女』に転移したぞーー!!!!」
遂には抑えきれずに叫んでしまった。
静かな一本道で、奏の声が嫌に響き渡る。
「‥‥‥‥‥‥‥‥」
ルーツは無言のまま奏を凝視した。
こいつは何をいっているんだ、と言いたげで、怪訝な顔をしている。
しかし、奏は気にも留めていない。
と言うか、あまりの喜びでそれどころじゃないらしい。
しばらく経って、ようやく落ち着いてきた彼女は自身を見回した。
(あぁ、違うのね。まぁいっか。後で変えれば良いんだし)
奏はひとり、邪悪にほくそ笑んだ。
……コレが、全ての始まりだった。
応援ありがとうございます!
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