上 下
4 / 39
一章 エルフの森を切り拓け

2話 エルフの村で囚人生活-2

しおりを挟む
「エルリンさん、すみませんが夫に『職』と『職スキル』について教えてあげていただけませんか」

「え、いいけど……。えーっと、ジューイチだっけ」

「おう」

 オレは名乗った覚えは無いが、アイラが既に伝えているのだろうか。

「剣を持ってる人がいたら、その人の『職』ってなんだと思う?」

「……? まぁ、剣士とかじゃないのか」

 剣を持っていて、ファンタジーな『職業』と言われると、剣士か騎士くらいしか思い浮かばない。そこに聖とか魔の文字がついたりはするかもしれないが。
 オレの答えに満足したのか、一つ頷いてさらに説明を続けるエルリン。

「うん。でね、例えば『剣士』の『職』を持つ人は、自分以外の誰かに『剣士だ』って思って貰わないといけないの」

「名乗ったりして?」

「いいえ。何も言わずに察してもらわないといけないのよ。そうすることで初めて、『職』を発現させて自由に『職スキル』を使うことが出来るようになる」

 何も言わないで察してもらうって……なかなかハードル高いな。

「そうでも無いわよ。剣士なら剣を持ってればいいし、弓兵なら弓。ちょっと難しい『職』でも、それで使う武器を持っていればだいたい一人くらいは理解してくれるわ」

「へー……なるほど、だからオレは名実共に『囚人』になる必要があった、と」

 だとしても些かやり方が強引すぎやしないだろうか。
 あと……

「なんでアイラ、お前はオレの『職』を知ってたんだよ」

「愛の力ですかね」

「たまにいるらしいわよ、他人の『職』が何故かわかっちゃう人。あとは、夢とかで自分の『職』にぼんやり気づく人も多いわね」

 あやふやだなぁ……。
 それじゃあ仮に自分が『職』を持っていても、一生発現させることなく死んじゃうヤツとかもいるんじゃなかろうか。

「……私の場合は女神パワーです。下界なので九十九パーセントくらい能力が制限されていますが、この力は使えたようですね」

 便利だな女神パワー。

「で、『職』が発現した後は、知名度が上がれば上がるほどぐんぐん強くなるわ」

「知名度?」

「ええ。自分が『剣士の誰々である』って知ってる人が、多ければ多いホド強くなれるの。この『知ってる』判定って結構ガバガバだから、戦う前に自分の『職』を宣言する人も多いし、なんなら旅をしながら自分の宣伝してる人は多いわね」

 名前が売れると強くなる方式なのか。強くなれば名前が売れるし、名前が売れれば強くなれる。そこは理にかなったシステムだな。
 でも発現させる時には自分で言っちゃいけないのか……謎だな。

「あ、でもこの知名度にも注意が必要なんだけど……『職』の持ち主自身もその知名度を自覚して無いといけないの。このことは『自分を信じないと強くなれない』って言われてるわ」

「双方向性なのか、そこは」

「うん。この辺は何でなのかはわかってないんだけどね」

「ってことは……結論、『職』を使うにはまず形から入って、そして名を挙げて自分のことをいろんな人に知ってもらう必要があるってことか」

 そしてその知名度を自覚する必要があると。

「そういうことよ」

 なるほどなぁ……。
 ということは、オレは『職』の真価を発揮するためには一目で『囚人』と分かる格好をしないといけないわけか。

「……嫌なんだが?」

「それだけでなく、囚人に一度ならないといけません」

「そもそもこの発動条件がおかしいだろ!」

「ですが、そうしないと『職』を使えません」

「いやそうかもしれねぇけどさ!? なんかこう、必要な時だけそういう格好になるとかじゃダメなのかよ……!」

「知名度補正、バカにならないのよ。一人違うだけで、『職スキル』の威力が目に見えて違う。だから、出来れば普段から自分の『職』をアピールした方が良いわ。……ぶふっ」

「笑うんじゃねえ!」

 なんてこった……。
 オレは自分の服を引っ張る。この服なら誰がどう見ても囚人だろうけど……納得いかねぇ……。

「分かりましたか? 重一。貴方がこの世界で真価を発揮するためにはその格好が必須なのです。そしてさっきも、ここで囚人になることが必須だったのです」

「いや、それは分かったけどよ……だったら捕まる前に言ってくれといても良かったじゃねえか」

「そこは……ほら、貴方が焦るシーンを見るのが楽しかったので」

「このドS女!」

 本当に油断も隙も無い。
 オレはため息をついて、その『職スキル』というのを見つめる。

「……で、これってどうやって使えばいいんだ」

「基本的には『職スキル』の名前を叫ぶか、特定のポーズをとると使えるわよ。効果っていうか、何が起きるかは『職スキル』の下に書いてあるでしょう?」

 エルリンの言う通り、『職スキル』の説明は簡単に書かれている。書かれてはいるが……

「なんだよ……『絞首刑』と『電気椅子』って……」

「ご愁傷様ですね」

「ご愁傷様じゃねえよなんだこのラインナップ!?」

 かめ○め波とか螺○丸みたいなカッコいい技を使わせろとは言わないが、せめて技らしい技を使わせて欲しい。
 この『職スキル』、どっちも名前的にオレが喰らう側じゃねえか。

「絞首刑って……。あんた、自分で自分の首を絞めるの? 二重の意味で」

「微塵も上手くねえよ! ……えーっと『相手の首に巻き付く輪っかのついたロープを召喚出来ます』ってさ。おら、『絞首刑』」

 そう呟いてみると、確かにロープが召喚された。そのまま生きているかのように伸び、牢屋の鉄格子に巻き付く。グイっと引っ張ってみると、強度は十分……むしろ、切れる気がしないくらい頑丈だ。
 試しに「縮め」と念じてみると、ロープがぐんぐん縮んでいき、オレの上に乗っかってるアイラごと上体を起こすことに成功した。

「きゃっ」

 アイラがバランスを崩すので、彼女の腰を支えてやりひっくり返らないようにする。

「大丈夫か。……なるほどなぁ、これは使い勝手がよさそうだ」

「ロープを出す能力なのね」

 エルリンがナイフを取り出して、オレの『絞首刑』を切ろうとする。しかし、バインと弾かれてしまった。

「おお、頑丈だね。……このナイフ、ちゃんと魔道具なんだけどな」

 少し不満げなエルリン。

「もう一個は『電気椅子』か」

 言うと、オレの手から椅子が召喚される。パイプ椅子のような形状をしているが……。
 そして念じてみると、椅子に電気が流れだす。バチバチバチ! と無茶苦茶なスパークが光り――

「あががががが!?」

「いやあんたが感電するの!?」

 慌てて『電気椅子』を消す。ヤバい、これはやばい……。

「自分で出した能力で怪我するとか……あまりにも情けないですね」

「ニヤニヤするんじゃねえアイラ! ……クッソ、これどうやって使えばいいんだよ……」

「その出した椅子でぶん殴れば?」

「脳筋が過ぎる!」

 でもそれくらいしか使い道が思い浮かばねえ……。
 敵の動きを封じて、感電させるとかになるのだろうか。

「まぁでも、それが出たんなら安心しました」

 ホッとした様子のアイラ。まぁでも、何も能力が無いよりはマシだ。

「ただまぁ、オレが無実なのわかったろ? エルリン。ここから出してくれよ」

「奥さんに強要してなかったことは分かったけど、まだ変態プレイを外でやっていたことの罪に関しては無くなってないわ」

 だから変態プレイしたんじゃねえってば。

「首に鎖をつけて奥さんに引き回されてるのは立派な変態だと思うけど」

 ぐうの音も出ない。

「わ、分かったよ。……どうやったら出して貰えるんだ?」

「そうそう。その話をしたくて私も来たのよ」

 エルリンはぴらっと地図を取り出して、オレとアイラに渡す。

「この村の外れに、オークが何体か住み着いているのよ。それを退治しないといけないんだけど、オークって強くってね。だからそれの討伐を手伝って貰おうと思って」

 地図を指さしながら、オークの規模について説明するエルリン。
 手伝うと言われても……。

「……オレをここに連行してきた屈強な男どもがいるだろ。あっちに任せたらいいじゃねえか」

「オークとの戦闘は死ぬ可能性があるのよ。うかつに普通のエルフを連れてけないわ」

 オレは死んでもいいのかって言おうと思ったが、罪人だしそんなものか。

「囮にするとかか?」

「って村長には言われてるんだけど……どうする? 嫌なら、別の処罰が決まるまでここに幽閉だけど。まぁ、処罰って言っても囮より酷い目には合わないと思うわ」

 どっちも普通に嫌だな……。
 正直、この能力があればここから脱出することくらい出来る気がする。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

異世界転生!俺はここで生きていく

おとなのふりかけ紅鮭
ファンタジー
俺の名前は長瀬達也。特に特徴のない、その辺の高校生男子だ。 同じクラスの女の子に恋をしているが、告白も出来ずにいるチキン野郎である。 今日も部活の朝練に向かう為朝も早くに家を出た。 だけど、俺は朝練に向かう途中で事故にあってしまう。 意識を失った後、目覚めたらそこは俺の知らない世界だった! 魔法あり、剣あり、ドラゴンあり!のまさに小説で読んだファンタジーの世界。 俺はそんな世界で冒険者として生きて行く事になる、はずだったのだが、何やら色々と問題が起きそうな世界だったようだ。 それでも俺は楽しくこの新しい生を歩んで行くのだ! 小説家になろうでも投稿しています。 メインはあちらですが、こちらも同じように投稿していきます。 宜しくお願いします。

チートがちと強すぎるが、異世界を満喫できればそれでいい

616號
ファンタジー
 不慮の事故に遭い異世界に転移した主人公アキトは、強さや魔法を思い通り設定できるチートを手に入れた。ダンジョンや迷宮などが数多く存在し、それに加えて異世界からの侵略も日常的にある世界でチートすぎる魔法を次々と編み出して、自由にそして気ままに生きていく冒険物語。

『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる

農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」 そんな言葉から始まった異世界召喚。 呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!? そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう! このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。 勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定 私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。 ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。 他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。 なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。

異世界転生した俺は平和に暮らしたいと願ったのだが

倉田 フラト
ファンタジー
「異世界に転生か再び地球に転生、  どちらが良い?……ですか。」 「異世界転生で。」  即答。  転生の際に何か能力を上げると提案された彼。強大な力を手に入れ英雄になるのも可能、勇者や英雄、ハーレムなんだって可能だったが、彼は「平和に暮らしたい」と言った。何の力も欲しない彼に神様は『コール』と言った念話の様な能力を授け、彼の願いの通り平和に生活が出来る様に転生をしたのだが……そんな彼の願いとは裏腹に家庭の事情で知らぬ間に最強になり……そんなファンタジー大好きな少年が異世界で平和に暮らして――行けたらいいな。ブラコンの姉をもったり、神様に気に入られたりして今日も一日頑張って生きていく物語です。基本的に主人公は強いです、それよりも姉の方が強いです。難しい話は書けないので書きません。軽い気持ちで呼んでくれたら幸いです。  なろうにも数話遅れてますが投稿しております。 誤字脱字など多いと思うので指摘してくれれば即直します。 自分でも見直しますが、ご協力お願いします。 感想の返信はあまりできませんが、しっかりと目を通してます。

異世界転生したのだけれど。〜チート隠して、目指せ! のんびり冒険者 (仮)

ひなた
ファンタジー
…どうやら私、神様のミスで死んだようです。 流行りの異世界転生?と内心(神様にモロバレしてたけど)わくわくしてたら案の定! 剣と魔法のファンタジー世界に転生することに。 せっかくだからと魔力多めにもらったら、多すぎた!? オマケに最後の最後にまたもや神様がミス! 世界で自分しかいない特殊個体の猫獣人に なっちゃって!? 規格外すぎて親に捨てられ早2年経ちました。 ……路上生活、そろそろやめたいと思います。 異世界転生わくわくしてたけど ちょっとだけ神様恨みそう。 脱路上生活!がしたかっただけなのに なんで無双してるんだ私???

世界最強の勇者は伯爵家の三男に転生し、落ちこぼれと疎まれるが、無自覚に無双する

平山和人
ファンタジー
世界最強の勇者と称えられる勇者アベルは、新たな人生を歩むべく今の人生を捨て、伯爵家の三男に転生する。 しかしアベルは忌み子と疎まれており、優秀な双子の兄たちと比べられ、学校や屋敷の人たちからは落ちこぼれと蔑まれる散々な日々を送っていた。 だが、彼らは知らなかったアベルが最強の勇者であり、自分たちとは遥かにレベルが違うから真の実力がわからないことに。 そんなことも知らずにアベルは自覚なく最強の力を振るい、世界中を驚かせるのであった。

異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜

KeyBow
ファンタジー
 間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。  何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。  召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!  しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・  いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。  その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。  上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。  またぺったんこですか?・・・

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

処理中です...