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2章 Runaway
5話
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「クラウディア、二人を部屋に案内してあげな。アタシももう寝るよ」
「分かったのよ」
夕飯後。片付け等を終えた俺達はクラウディアに二階まで案内されていた。
中に入り、電気を点け――いや、これは電気じゃない。ガス灯か……珍しい。
荷物を端に置き、一つ伸びをする。
「ん……狭いな」
「ユーヤ。滅多なことを言うものじゃないですよ」
ソファが一脚、丸テーブルが一つにベッドが一つ、そしてストーブが一つという簡素な部屋だ。……ベッドが一つ?
「じゃ、また何かあったら言って欲しいのよ」
そのまんま部屋を出て行こうとするクラウディアの肩を掴み、慌てて引き止める。
「お、おい。部屋は一部屋しかないのか?」
「客が来ることなんて想定してないのよ。ここはあたしのお父さんとお母さんが泊まる時に使う部屋なのよ」
「いやいや、王女と一般人。男女!」
「……そんなに気になるなら、貴方だけ野宿でもすればいいのよ」
「ええ……?」
「じゃあ、おやすみなさい、なのよ」
バタン、と扉が閉じられる。部屋に残されるのは俺とリーナのみ。
というか、王族に対する態度としてどうなんだアレは。いくら自分の祖父と国王が既知だからって……。
「まあ、我が家とは家族ぐるみの付き合いがありますから……彼女からすれば、親戚のお姉さんくらいなんじゃないでしょうか、私は」
「いやいやいや、王家がそれでいいのかよ。普通、打ち首からの一族郎党皆殺しもありうるぞ」
「我が王家は暴力で支配しないのです」
いい心がけですこと。だからクーデター起こされたんじゃねえのか? っていうかさっきクラウディアから聞いた話だともっと武闘派なイメージなんだけど。
「これどう考えてもダブルベッドじゃねえだろ……」
改めてベッドを見る。どう見てもシングル。子どもなら二人寝れるかもしれないが――大人だと、抱き合わないと無理だろコレ。
「ダブルベッド?」
「ん?」
何故か顔に疑問符を浮かべるリーナ。……王族はキングベッドでしか寝たことが無いから、ダブルベッドを知らないのだろうか。
「ダブルベッド、知らないのか? 二人用のベッドのことだよ」
「いえ、そもそも……ベッドとは?」
「は?」
ベッドを知らない?
「布団派なのか? だとしても知らないのはおかしいだろ」
「一部の地方では床で寝る文化があるとは聞いたことがありますが、私はちゃんと寝台で寝ています。ではなく、ベッドとは何です?」
布団、が床の上で寝るためのものであることは理解しているらしい。その上で――ベッドを聞いたことが無い、と言う。
まさかとは思うが……英語、というか外来語が通じないのか? そう言われてみれば、俺と彼女が交わしている言葉は原理語なんだったか。
俺は訝しく思いつつ、ポンポンとベッドを叩く。
「これのことをベッドって言うんだ。……俺の世界の言葉でな」
「はぁ……」
何となくピンと来ていない顔のリーナ。俺は確認の意味を込めて、いくつか質問してみることにする。
「その、確認なんだが……分からないなら分からないでいい。チェアーの意味は?」
「聞いたこと無いですね」
「……じゃあ、クーデターの意味は?」
「それも……すみません、聞き覚えが無いです」
「いや、謝ることじゃない。確認したかっただけだ」
俺はそう言ってから、顎を触る。外来語が通じないとなると……結構面倒そうだ。いちいち日本語に戻して喋らないといけないのか。
「ま、いいか。……しかし困ったな。取りあえずベッ……ああいや、えっと、寝台はリーナが使え。俺は下の階で寝よう」
「えっ?」
「えっ? ってなんだよ。えっ? って。俺もお前も、平均的な男女の身長より少し大きいんだ。あのベッドじゃ狭すぎる。まあ、かけ布団くらい貸してもらえるだろうよ」
俺はそう言って、階下に行こうと思って立ち上がるが、なぜかリーナはそれを制止した。
「なんだよ」
「二人で寝ればすむことです」
「いや、無理だろ。広さ的に」
普通サイズのベッドだ。俺もリーナも十二分に大人の体格、これで一緒に寝るのは無理があるだろう。
「だとしても、一人にするわけにはいきません」
「……なんでだよ」
若い男女が同衾ってだけでもマズいのに、女性の方が王族だ。色々マズいだろう。そう思っての判断なのに……何故、一緒に寝たがる。
俺が困惑していると、リーナがやれやれといった風に首を振った。
「ユーヤ……私たちがどういう状況なのか忘れてないですよね? もしも暗殺者が来たらどうするんですか?」
「あ、暗殺者?」
思わず素っ頓狂な声を出す俺。部屋割りの話をしていたら、とんでもない話が出てきた。
「はい。忘れているかもしれませんが、私たちは一応革命軍に追われる身です。それも、ムサシという我が国の最終兵器を持っているんです。当然、命を狙われるでしょう」
……そういえば、ムサシって国に伝わる最終兵器だっけ。あの性能を見たらさもありなん、って感じだが。それを持って逃げているお姫様と一緒……あれ? これってもしかしてリーナじゃなくて俺が危ない感じ? リーナじゃムサシを動かせないし(敵がその情報を持っているとは限らないが)。
自分から首を突っ込んだとはいえ、冷静に考えると……かなりマズいかもしれない。
「ムサシに乗っている間はいいですが……生身でいるときに襲われたら、私はともかくユーヤではひとたまりもありません」
「あー……まあ、確かにな。俺弱いし」
訓練された暗殺者と、素人の俺。いくら銃が得意だとは言っても、そんなものは素人レベル。プロにはかなわないだろう。
「昼はクラウディアさんと一緒だったから良かったですが、同じ家の中とはいえ一人にするわけにはいきません。今一番危惧すべきことは――」
「どちらか片方でも、やられること、か。リーナがサムライモードを解放してくれた上で、俺が操縦する――そうじゃないとムサシが本領発揮出来ないしな」
「その通りです」
確かに、ここだって絶対安全とは言えないのだ。レイニー婆さんは裏切らないと俺も思うが……だからと言って、万が一尾行されていたらお終いだ。それなら、一塊になる方がいいだろう。こういうときは、冷静に物事に対処できる奴じゃなきゃ生き残れないんだから。
「……わかった。部屋は同室にしよう。俺はそっちの長椅子で寝る」
「いえ、一緒に寝れば……」
「……流石に同じ寝台はマズいって。俺には刺激が強すぎる、リーナは」
リーナは、目が覚めるほどの美人。俺の目がえんえん冴えて眠れる気がしない。
何か言いたそうにしてたリーナを軽くシカトし、階下へ。レイニー婆さんのところへ行き、掛布団を貰う。
「一緒の寝台で寝たらいいじゃないか」
「……本気で言ってるのか?」
「ふっふっふ。思ったよりしっかりしてんだね。はいよ」
なんか変な笑みを浮かべられた気もするが、掛布団さえもらえれば用は無い。俺はさっさと部屋に戻る。
「あ、そういえばムサシに戻らなくていいのか? いや、むしろムサシで寝泊りしなくていいのか?」
座ったまま寝るのはネトゲ廃人の得意分野だ。
「……ストレイニーさんの好意を無下にするわけにもいきませんし……」
チラッと窓の外を見るリーナ。街灯があるとはいえ、殆ど何も見えない。
「この暗闇の中、ムサシを取りに戻るのは危険ですね。何があるか分かりませんし」
「それもそうか」
「それに、ムサシを動かせるのは王族だけです。ムサシを包囲するほどの大軍団で機兵が来れば寝ていても分かりますから」
だから、と彼女は少しほほ笑む。
「私たち十分に休息をとってから行動するのが最善です。ユーヤも疲れているでしょう? 座って寝ても疲れは取れませんよ」
――そういえば、俺はともかくリーナが限界なことをすっかり忘れていた。彼女にとっては、落ち着く空間で寝る方がいいだろう。
……若い男と一緒で落ち着くのかは疑問だが。
「お前がいいなら……そうするか。って、あ、そうだ。これ渡しとく」
ふと、リーナに渡すものがあったことを思い出し、ジャケットのポケットから取り出す。
「? これは……首飾り?」
「ああ」
さっきクラウディアに言われたこと――を、実践してみる。
「似合いそうだったからな」
「へっ? そ、そうですか?」
何故か顔を赤くするリーナ。……褒められ慣れてないのだろうか、こいつは。リーナはおずおずと俺からネックレスを受け取ると、パッと顔を綻ばせる。
「つ、つけてみてもいいですか?」
「ああ。やってやるよ」
「へ? え、あ、いや。だ、大丈夫ですよ?」
「いいって。鏡も無いんだし」
俺は彼女の後ろに回り、ネックレスをつけてあげる。人にネックレスをつけるのなんて初めてだが……ちょっと難しいな。
「ひゃっ、ゆ、ユーヤ。どこ触ってるんですか」
「知らん」
やっとこさつけ終わると、リーナは少しだけ頬を上気させ、唇を尖らせる。
「……その、私たち……今日会ったばかりなのに……」
何かモジモジと呟くリーナ。よく聞き取れないので、俺は鏡が無いかレイニー婆さんがまとめてくれたバッグを開く。
「しかも……ユーヤが王族と庶民と……みたいな話をしていたのに、こんな熱烈に……でも、悪い人じゃ無さそうですし……」
布にくるまって鏡が入っていた。俺はそれを取り出し、彼女に渡す。
「ほら、リーナ」
「うう……でも彼に頼らなくちゃいけない今……ここで否と言うわけには……いえ、決して嬉しいわけでは……確かに頼りになりますし、実力もありますし……」
なんでうねうねしてるんだか。俺は彼女の前に鏡を突き出した。
「ほら」
「わひゃっ! ……あ、はい」
正気に戻ったか、リーナが鏡を見てニコッと笑う。
「似合いますか?」
「ああ。綺麗だよ」
美人なんだから何でも似合うだろうが……よく似合っている。ただのワンピース姿だっていうのに、ドレスを纏ってる時と殆ど美しさが変わらないのがその証拠だ。
そもそもネックレスも奇抜なデザインではなく、銀のチェーンに白い宝石が一つ……というシンプルなデザインだから、そうそう外さないだろう。
「な、なんでこんなものをいきなり?」
「だから似合いそうだったからって言っただろ?」
それ以外の理由は一応伏せ、彼女に伝える。しかしリーナは……ぽぽぽぽ、と顔を真っ赤にした。
「い、いや、しかし首飾りなんて……」
「? 嫌だって言われても持っていてもらうぞ。つけるのが嫌ならカバンにでもしまってろよ」
「そ、そんな! ちゃんと着けます! 肌身離さず!」
「お、おう。まあ、そうしてくれると助かる」
リーナが、なぜか凄い勢いで前のめりになって俺に迫ってくるので、少し引きながら俺は応える。
クラウディアの言う通り、女子ってのは本当にアクセサリーが好きなんだな。
「……ユーヤ、ズルいですよこんなの。ああ……でも……せめて白馬に乗って来て欲しかったです……」
何がズルいんだか。そして白馬ってなんだよ。
俺はよく分からないことを言うリーナに生暖かい目を向けてから、ソファに腰掛けた。
「リーナも座れよ」
「あ、はい」
俺はベッドを見ながらそう言ったのだが――ちょこんと隣に座ってきた。何でそうなった?
「……リーナ?」
「ちょっと狭いですね……ユーヤ、寝台の方に座りませんか?」
「どうして隣同士で座る前提なんだよ!?」
立ち上がって叫ぶ。リーナはきょとんとした顔で俺の袖を引いた。
「あまり大きな声を出すと良くないですよ?」
「ああ、その通りだな。……いや、こいつは王族だから何か感覚が違うんだろう。気にするだけ無駄か」
俺は何とか自分の中で折り合いをつけ、ベッドに座る。リーナも横に座ってきたけど、指摘は諦めよう。
……その、なんかいい香りするなぁとか思って無いし。
リーナは俺の横に座ったかと思うと、モジモジしながら俺のあげたネックレスをいじっている。よほど気に入ってくれたんだろう、あげた甲斐があるってものだ。
「……その、これを頂いたのは、私なりの覚悟の証でも、あります。……でも今一度、ユーヤの気持ちを聞きたいです」
ぽつり、と喋り出すリーナ。まるで何かに縋るように、か細い糸を手繰るように。……リーナは、ジッと俺の眼を見据えると覚悟を決めたような表情で凛と背筋を伸ばした。
「ユーヤは……その、別世界から来た、んでしょう?」
頷く。そこは間違いないだろう。
「ユーヤは……この国のために戦う意味は無い、はずです。なのに、何で助けてくれるんですか? 何で、一緒に戦ってくれるんですか? ……本当は、逃げ出したいんじゃないんですか?」
昼間と、殆ど同じことを訊くリーナ。その目に浮かぶのは、後ろめたさ、不安、焦燥――そして、ある種の期待。
確認したい、のだろう。俺を。
「今なら……降りれます、よ……?」
降りる。
二重の意味で告げられているであろう言葉を、俺は受け止める。その上で……何て言葉をかけたらいいものかと思考を巡らせる。
五秒、十秒……と脳をフル回転させるが、こういう時に言うべき台詞をおもいつかない。自分の対人経験の少なさを嗤いながら、彼女に質問を返すことにした。
「質問に質問を返して悪いが……そもそも、何で俺を助けた。民を助けるのは……なんて言ってたけど、アレは建前だろ」
彼女が王族としてのプライドや責任を持っていない……とは、思えない。言動は怪しいが、その根幹にはちゃんと王族としての意識は根付いているだろう。
しかし、だとしてもおかしい。あの状況で、俺を助けるのは悪手でしかないのだ。咄嗟に救うほど、リーナに余裕があったとは思えない。
それがきっと後ろめたさの原因――そう思った俺の問いに、彼女は更に申し訳なさそうな顔になる。
「……何か、起きるかもって」
「ん」
「ユーヤを見た瞬間……おかしい、って。こんなところに人がいるなんておかしい、って。そう思って……」
そうだろうな。明らかに人類の生存圏に見えなかったし。開発失敗した跡地みたいな場所だったしな。
「咄嗟に助けたのは、本当です。反射的に、このままじゃ機兵に踏み潰されるかもしれない、って思ったら……助けるって言ってしまって」
彼女の眼に嘘はなさそうだ。彼女は本当に善意で助けた。あの状況で。
「凄いな」
「……何も凄くないです。むしろ……それで最悪を招き入れたかもしれないって思いました」
普通の反応だ。しかしリーナはグッと拳を握ると、膝の上に置いた。
「でも、同時に……何か起きるかもしれないって。この状況を打破出来るかもしれないって、そんな直感が私の中で叫んで……」
ぽつぽつ話す彼女は、心底申し訳なさそうで――苦しそうな顔だ。
「ユーヤがいきなりムサシを完璧に乗りこなして。私じゃ逃げることすら出来なかった敵を即座に蹴散らして。その後に出て来た十機も……本当に一瞬で倒してしまって。あんなに辛くて、怖かったのに……全部、あっさりと覆してしまって」
つう、と彼女の眼に涙が浮かぶ。
「そしたら、私……ユーヤを利用すれば、今城都に攻め入っている傭兵部隊も全部倒せるんじゃないか、って……っ! そしたら、全部、ひっくり返せるかもって。そう思ったら、これが最後のチャンスなんじゃないかって……!」
「ああ」
自然な反応だ。当たり前だ。普通、そう思う。
「たくさん、考えました。どうやって仲間に引き込もうか。……でも、貴方は私が何か言う前に戦うと言ってくれた。この国の人じゃないのに」
それが、分からない。
リーナはそう呟いてから、瞳に浮かんだ涙をぬぐった。
「だから、怖かった。何でこんなに自分にとって都合がいいように話が進むのか。仮に、ただあなたが優しいだけだったら……負けたら命を失うかもしれない戦いに、無関係な人を巻き込んだと思った! それが、それがずっと嫌で、でも他何も思いつかなくて……!」
徐々に語気を強くするリーナ。それほど彼女にとっては辛いことだったのだろう。
無関係な人を巻き込んだ罪悪感。それを利用しないとどうしようも無いかもしれないという、無力感。
どれもこれも、責任感の強い人にとっては辛いことだろう。
「ユーヤがいれば、全部どうにかなるって……でも、今の私はユーヤに何も渡せなくて……何も知らないユーヤを巻き込んでしまって、申し訳なくて……!」
再び涙を浮かべるリーナ。俺はそんな彼女の手をそっと握り、安心させるように力を籠める。
(そりゃ、不安だよな)
国を追われる瀬戸際だ、不安にならないわけが無い。
そんな時に拾った、戦局を一発でひっくり返せるかもしれない最強の札。手放したくはない、でも俺が……なんで今、戦っているのか分からない。
だから不安だ。だから、どうすればいいのか分からない。負ければすべてを失い、勝ったとしても俺は何の報酬を得られるか分からない。
それなのに戦う――不気味だろうな。
「だから、ユーヤがさっき……ネックレスをくれた時、その……そういうことなんだ、って思って」
「ん?」
リーナは涙を流しながら……決意を籠めた目で俺を見る。
「嫌なわけじゃないです。むしろこんなモノでいいなら、って思ってしまいます。私はあまり褒められた容姿ではないですし、勝ったとしても、ユーヤが想像する生活が待っていることも無いと思うので。命を懸ける価値があるとも思えませんが、ユーヤが望むなら――」
「――いや、命を懸けるに値する。その価値がある」
リーナの美貌で褒められたものじゃないのなら、この世界に褒められた容姿の人はいなくなると思うんだが。そして俺の思ってるものってなんだよ。
とかなんとか言いたかったが、最後の言葉だけ否定しておくことにした。彼女が不安になる理由も分かれば、ちゃんと安心させる言葉をかけられるだろう。
「リーナ。お前は……自分の居場所って、あったか?」
「え?」
「自分の居場所。ここなら自分でいられる、みたいな」
俺の言葉に、少し考えてからリーナは俺に目を向けた。
「察しの通り、俺には無かった。生まれた時から兄は天才で、まさに百年に一度の逸材だった。……でも、俺は」
悲しいくらいの非才。
泣きたくなるほどの凡才。
「親父は、まだよかった。でも母親はな……」
顔を合わせると無視か嫌味。俺が修哉と喧嘩でもしようものなら、
『貴方と違って修哉は皆から期待されてるの。かすり傷でも付けたらどうやって責任を取るの!?』
……なんて言われて、よく物置に閉じ込められた。
「少し大きくなってくると、俺はいないものとして扱われた。修哉も楽しそうに俺を見下すしな」
気が安らぐのは親父が家にいた時と、誰とも会わず部屋に籠っている時だけだった。
母親に言われたこと、されたことを言いだしたら二晩かかっても言い切れない。
「俺が修哉に勝てたのは、ゲームだけだった。それも、アクションゲームとか格闘ゲームみたいな、頭使わなくていいようなゲームだけ」
アレと肩を並べるか、超えなきゃ俺の存在は誰にも認知されなかった。必ず『優秀な兄がいる』山上雄哉って言われるからな。
「だから俺は、ゲームの中でしか自分でいられなかった。そこにしか居場所が無かった」
「…………」
すっかり黙り込んでしまったリーナ。やはりあまり気分のいい話じゃいからな――そう思って、努めて明るい声を出す。
「ま、アレだぜ? 文句言っても仕方なかったし、それはもう終わったことだからいいんだけど――」
――ギュムッ、と。
いきなり、俺は柔らかい物に包まれた。見なくても分かる、リーナの胸に俺は埋められている。
「り、リーナ!?」
「すみません。でも、どうしてもこうしたくて。……辛かった、ですよね」
ドクン、と心臓が跳ねる。それは何も美女から抱きしめられたから――という理由だけではない。
辛かった、と。
「私の母は、私を産んでからすぐに亡くなったと聞いています。だから母の温かみは知りません。でも……家族の優しさは、知っています。ユーヤ、家族から愛されなかったのは、辛かったでしょう」
俺が見ようとしてなかったことを、言い当てるリーナ。言い当てるとも少し違うのかもしれないが。
思わず、涙が浮かぶ。誰かに『辛かったね』なんて言われたのは初めてだから。
『何で出来ないんだ』とは、よく言われた。頑張れとすら言われない。
『出来た』という結果しか、求められない。それが当たり前だったから。
「……ご、ごめんなさい。勝手に抱きしめたりして」
リーナは少し照れながら、俺を放す。が、ちょっと泣きそうになっていることがバレるとカッコ悪いので、今度はこっちから抱きしめた。仮にドレス姿だったらアレだが、まあそんなに高い服じゃないから多少濡れても問題無いだろう。
「はぅ……えっと、その……は、恥ずかしいです……」
涙が止まったタイミングで、俺は顔を離す。そしてニコッと笑ってからもう少しだけテンションを上げた。
「ありがとな、リーナ。……この世界には、俺を知る奴はどこにもいない。ムサシっていう狭い空間の中とはいえ、俺を認めてくれる、必要としてくれる人がいる」
そこには。
「『天才、山上修哉の弟』である山上雄哉はそこにはいない。一人の男として、山上雄哉として在るんだ。この世界には、そんな空間がある」
居場所がある。
「なのに、どうして俺はまた居場所の無い世界に帰んなきゃなんないんだよ? 義理も恩も無い? ふざけんな。俺を認めてくれた最初の人間だ」
「認めた、だなんて……そんな」
「認めてくれたんだよ」
ムサシで戦っている時。
リーナは俺にこう声をかけてくれた。
「頑張れ、って。そう、言ってくれたじゃないか。リーナ」
他人からすれば、それだけ? と思うかもしれない。
でも、一度だって俺は言われたことが無かった。
何かをこなせば『山上修哉の弟だから』。
何かが出来なければ『山上修哉の弟なのに』。
「礼なんて、むしろ俺からしたいよ。何すればいい、どうすればいい? なんでもするよ。俺を認めてくれた、リーナのために。……取りあえず、敵を全部斬ればいいか?」
そう、偶然とはいえ、ちっぽけとはいえ、たった一人とはいえ……俺を認めてくれたんだ。それに恩返しをしなきゃ罰が当たる。どうせならこの世界すべてプレゼントしてやりたいところだけど、取り敢えずはこの国だ。
「それに、わくわくするだろう? 調子に乗ってる奴らが、俺たちに一瞬で殺られるんだ。俺と、リーナと、そしてムサシに。こんな物語に参加できるんだ。断られたって俺はムサシに乗るぞ。降りるなんてとんでもない。そんな勿体無いこと出来るかよ」
「ユーヤ……」
「第一、俺は負けねえよ。ムサシに乗ったら無敵だ」
大胆不敵に言い放ってやる。リーナを安心させるためにも、己自身を鼓舞するためにも。
俺の意図が伝わったのか、リーナは少し安心した目で俺を見つめ返してくれた。
「その通り、ですね。ユーヤが負けるはずありませんよね」
「ああ。大船に乗った気でいろ」
俺はニッと笑ってリーナを見る。リーナも、俺に笑顔を返してくれた。さっきまで頬を伝っていた涙を拭ってやり、改めて握手のために手を差し出す。
「リーナ。俺をムサシに乗せてくれ。俺を戦わせてくれ。お前のために、俺のために。俺が俺でいるために」
「はい。……では、正式にお願いします。ムサシの操縦者として……協力、してください。この国を渡さないために」
「ああ、引き受けた」
俺とリーナはガシッと握手し、微笑みあい――同時に、その手の柔らかさに再度ドキッとする。
そして同時に、俺はリーナの胸に顔をうずめていたことを思い出した。
(――あっ、やっべ)
一気に顔が熱くなる。同時に、心臓の音が尋常じゃないくらい鳴り響いた。ヤバいヤバい、心が心がヤバい。
俺しかも追加で抱き着いたよな、ヤバく無いか!?
「……ど、どうしました? ユーヤ。その、顔が真っ赤ですけど……」
「なんでもない何でもない何でもない!」
ブンブンと首を振って、リーナの手を離した。ヤバいリーナにセクハラって思われる!
……と、思って彼女と距離を取ったのだが、何故かリーナの顔に不快感を示す表情は無い。何故だろうか。
(……不敬罪とか言われなくてよかったぜ)
リーナの方から抱きしめてきたのに不敬罪もへったくれも無い気はするが。
「……よ、よし。そうと決まれば今後の方針だ。どうやって動くか考えないとな」
俺は咳払いして話を逸らす。
「そういえば第一世代機兵と第二世代機兵の違いについて本で読んだんだ。それで訊きたいんだが……賊軍の連中は第一世代機兵について正確に把握していると考えてもいいか?」
「はい。国防の要が第一世代機兵であるということは、この国だけでなく世界の常識と考えていただいても良いかと」
俺は第一世代機兵と第二世代機兵の差について考える。ムサシは『サムライモード』を十五分間しか使えない。他の第一世代機兵も同様だとしよう。
「時間制限を加味しても、第二世代機兵じゃ第一世代機兵に逆立ちしたって勝てねえな」
「はい」
そして、それを敵も理解しているということは――
「……じゃあ、賊軍は間違いなく第一世代機兵の対策を持ってるとみて間違いないか」
さっきのミサイルのような超火力兵器か。
それとも、第一世代機兵の時間制限すら圧し潰す物量か。
或いは――
「同じ、第一世代機兵を用意しているか」
「…………ありうるの、でしょうか」
「さあな。それに関しちゃお前の方が詳しいだろ」
俺には判断がつかない。でもその公算が高いんじゃないかと思っている。
「そもそも、戦いに勝つだけなら簡単なんだよ。敵のボスを倒せばいい。頭を欠いた集団なんて烏合の衆だ。まして……今回は国を乗っ取る気でいる。それなら、相応の人物がトップにいると考えてもいいだろう」
王家に近しい貴族か、それとも政治に参加している大臣か。何にせよ、次の国を任せられると……クーデターに賛同した人間が思っている人間がトップにいることは間違いない。
「だが、トップを直接倒すって言っても簡単じゃない。暗殺するにも俺たちは二人しかいないからな。だから次善策――敵の最大戦力を斬ることになる」
「でもそこに第一世代機兵がいたら……」
「ああ。第一世代機兵同士の戦いになる。……負けるとは微塵も思わないが、そこで十五分全部使わされる可能性もあるな」
『サムライモード』を使っている最中は無敵、一秒に一機くらい斬る自信はある。それくらい、第一世代機兵と第二世代機兵の間に差がある。
「でも、第一世代機兵が敵にいるのなら……もう城は落とされているのでは? その、ムサシが今……逃げていることは敵も知っているはずですし」
「そうだな」
十機の援軍が来たことからして、ムサシがいなくなっていることは理解しているだろう。
「……いや、その十機が破壊されて連絡が途絶えたから……慎重になってるのかもな」
十対一で倒せていない、ということは奇襲されるかもしれない。それを恐れて安易に第一世代機兵を切れないのかもしれない。
……可能性としてはあり得ないことも無いだろう。
「敵からすれば……このまま第二世代機兵のみで押し切れればそれでよし。敵がムサシを出して来たらそこに第一世代機兵を合わせればいい。最悪のケースは、第一世代機兵の十五分間を使い切ったタイミングで……ムサシが出てくることだ」
そうなれば一気に形勢逆転される可能性もある。向こうは城を攻めている最中、冒険に出る必要も無いってことだ。
「そういうもの……なんでしょうか」
「考えられる可能性としてはこれがあるってだけだ。今大事なのは、敵にも第一世代機兵がいるかもしれないって可能性を頭に入れておくことだ」
「そう……ですね。敵の戦力を過小評価してもいい場面なんて一切ありませんから」
リーナの言う通り。黄金と呼ばれた最強の男ですら、油断したせいで若造に負けた例もある。
「取りあえず、敵に第一世代機兵がいると仮定して話を進めよう。……敵の総力は?」
「分かりませんが……裏切った軍部の人間も含めれば、我が軍とほぼ同等かと」
そう言ってリーナが思い出すように自軍のライトフットの数を書いていく。また、軍の形式なんかも。
そこから予測される敵の総数を見て、俺は……
「流石にお手軽モードでこれを全滅させる自信はねえな。練習すればまだしも……今はまだ、キツイか」
あの時、十機でもしんどかったし。そもそも第二陣で来たゴリラは決して練度が低いわけじゃ無かったしな。
「城都まで行けば……援軍も期待出来るかと」
普通に合流したらそうだろうが……それじゃなおのこと勝ちの眼が無いだろう。
「それじゃあ削り合いになる。補給が尽きた方の負けだ」
「そう、ですね……」
ここまで話し合い、結論を出す。
「うだうだ言ったが、結局……敵の最大戦力を短期決戦で潰すことだな。敵に第一世代機兵がいないならヨシ、いればそいつを斬る。そしてその上で……城に戻れば、戦力差は逆転だ」
後ろから、敵の最大戦力を潰す。
結局それが最善手。
「……力業ですね」
「俺に戦略を期待するな」
そもそも戦略ゲーは俺の範疇じゃない。俺に出来ることは――機兵で敵を斬ることだけだ。
「まあこっちに機兵が来る可能性もあるしな。あの十機から連絡が途絶えた時点で」
それなら各個撃破が出来て容易なんだが。
俺の呟きに、リーナが首を振る。
「いえ、たぶんまだ伝わっていないと思います。戻って来なくて、おかしいな……となっている程度でしょう。伝書鳩もありませんし」
「なに? だが、普通の通信機があるだろう。こう、電波を飛ばす……」
「電波?」
リーナが、きょとんとした顔でこちらを向く。……え?
「い、いや、電気は知ってるよな?」
「電気?」
……はぁ!?
俺は、部屋を見回す。だが……電化製品は、ない。
電灯は? ……ガス灯だ。
「電気がない、だと……ってことは獲菩流鉱石とやらで出してるエネルギーは電気じゃない……?」
道理で車も無いわけだ。それじゃ、この銃器類はどうやって生産されてるんだ。
まさか一個一個手作りってことは無いだろう、し……
「高級品だから銃を使う奴が少ないって側面もあるんだろうか」
俺が納得していると、リーナが少し首をかしげる。
「どうしたんですか?」
「何でも無い。……さて、リーナ。どんな第一世代型機兵か分かるか? 第二世代機兵から推測、とか」
「すいません……分かりません」
俺の問いに申し訳なさそうにしゅんとなるリーナ。まあ仕方がない。
「こっちだけ知られてるのは大きなハンディだな……」
「すみません……姉なら詳しかったんですが」
「お前の姉は何モンなんだよ」
「私は内政を勉強し、姉は軍事、外交を勉強していたので」
「なるほどな」
その姉がいれば話が早いんだが……背に腹は変えられない。
「あ、でも、そういえば」
「? なんだ?」
「あの、基本第一世代型機兵は各国が保有している最終兵器のようなものなんですが……ある国が一度滅び、そこにあった機兵が行方不明になったという噂を聞いたことがあります」
「ほう」
興味深い話だ。都落ちしたが、機兵だけを持って流浪の民になっているとか……だろうか。補給とかどうするんだろうか。
「もしも、賊軍がそれと手を組んでいたら……」
「可能性は、ありそうだな」
俺はソファから立ち上がり、荷物を確認する。
……用意したとはいえ、大丈夫だろうか。
今さらになって、情報の少なさに少々苛立ちを覚える。
さっきはああ言ったが、既に第一世代型機兵が投入されていたら、戦場は詰んでることになる。俺ほどのパイロットがいなかったとしても、あれだけのスペックを持つ機体だ。動かせるだけで充分以上の戦力になる。
「いつ城は襲われた?」
「三日前です。私が逃げたのは今朝のことです」
「なるほどな。逃げてきたってことは……城が落ちそうだったからか?」
「それもありますし……万が一、父と合流出来たらムサシを動かすことが出来ますので……」
戦況を変えられるかもしれないと思った、と。
「どれくらい持ちこたえられそうなんだ?」
「もって……あと二日、くらいでしょうか。明日に落とされる、ってことは無いと思います」
二日か……あまり時間は無いな。
俺は地図を取り出し、地形を確認する。
「城都はこっちだよな? そして、今いる土地がここ……」
「ええ」
ここまで来た道を戻るか、それとも別のルートで行くかっていうことだが。
「戻るか?」
「それよりもこちらの方が相手の背後を取れるのでいいかと」
まあ、そうだな。
この街から城都に直線距離で行こうとすると間に山と、大きな湖がある。ここを突っ切るのは悪手だろう。
それよりも多少迂回することになるが、次の街――ライアイアへ向かうべきだろう。補給も出来るし、休息も取れる。
「山を突っ切らないならライアイアが一番近いからな」
「ええ」
「よし……じゃ、今日は休んで、明日から動くか。国を盗り返すためにな」
これからどうなるかは分からないが、とりあえずの目標だ。
『二日以内に、国を盗り返す』
リアルWRB――俺にはヌルゲーもいいところだ。
~~~~~~~~~~~~~~~~
「ユーヤ、朝ですよ」
「くぁあ……若干、背中が痛い」
体を起こすと、バキバキと関節が鳴る。床で寝るよりはマシ……かな。
「変なことを言ってないで着替えましょう」
「そうだな。俺は洗面所で着替えるから、終わったら言ってくれ」
「はい」
昨夜はここで体を拭いて、風呂の代わりにした。何でこの家に風呂が無いんだよ――と思ったら、公衆浴場があるらしい。俺だけ入りに行くわけにもいかないので自重したが、あれだけ動いた後に風呂に入れないのは気持ちが悪い。
ちなみにリーナをこっちの部屋で着替えさせようとしたら、さっさと着替えて部屋で着替えている俺をドアから覗いてくるから意味が無かった。リーナのキャラが掴めない。
「ユーヤ、着替え終えたので大丈夫ですよ」
「おう」
リーナは流石に俺の服から着替え、パンツスタイルの女性服になっている。ジーンズに緑色のシャツ、そしてスポーティーな羽織り。伊達眼鏡をかけ、髪型をポニーテールに変えている。
化粧も少しいじっているらしく、ぱっと見でリーナとは気づけないだろう。ちょっとキツめで運動好きなお姉さんって感じだ。
「変装か。ふむ、変われば変わるもんだ」
「そうですか?」
「ああ、似合ってるよ」
「え、あ、そ、そうですか……それは、良かったです……」
はにかむリーナ。お姫様なら、この程度の誉め言葉は言われ慣れてそうなものだが。
「お二人さん、朝ごはんの準備が出来たのよ」
ノック音とクラウディアの声。
「お、ありがとう」
「すみません、何もお手伝いせずに」
「良いのよ、別に。あたしは現王家に文句無いから」
遠回しに応援してくれてるんだろうか。
クラウディアについていくと、既に料理は並んでおり……レイニー婆さんが椅子に座って待っていた。メニューはコーンスープっぽいものと、パン。昨日の夜は煮物だったから、洋風な朝ご飯が出て来てちょっと嬉しい。
「悪いな、レイニー婆さん。助かる」
「本当にありがとうございます」
俺は飯に口を付ける前に、レイニー婆さんにむかって頭を下げる。昨日の夜といい、何もかも世話になりっぱなしだ。
「良いってことよ。……なぁ、ユーヤ」
レイニー婆さんはスープにパンを浸してから、俺の方をジッと見た。
「あんたがリーナと一緒に戦うのは理解した。でもね、第一世代機兵さえあれば国は再建出来るんだ。国自体が無くなってもね」
パンを口に運び、美味しそうに頬張るレイニー婆さん。
「逃げるのも一つの手だ。忘れんじゃ無いよ?」
「……ああ、もちろん」
あんなぬるい奴らに負けるものか。
言いかけた言葉を飲みこみ、頷く。
「ムサシとリーナ。これらを守り抜くことを一番に考えるよ」
「それが分かってるならいいよ。……このスープ、美味しいよ。クラウディア、腕を上げたね」
レイニー婆さんに言われ、少し照れた表情になるクラウディア。昨日の夜ご飯も美味しかったから楽しみだ。
「じゃあ、いただきます」
手を合わせてスープを一口飲む。結構美味しい。
「美味しいですね」
リーナの言う通り、美味しい。昨夜のご飯も美味しかったし、クラウディアは料理が上手なのだろう。
「後で片づけくらいは手伝わせてくれ。貰いっぱなしってのも悪い」
俺が言うと、リーナもこくこくと頷く。これに関しては特に否と言われなかったのでちゃんと手伝おう。
(……朝起きて、食卓を囲む、か)
何でだろうな、普通の光景のはずなのに。
どうにもこうにも、俺にとっては眩し過ぎる。
「分かったのよ」
夕飯後。片付け等を終えた俺達はクラウディアに二階まで案内されていた。
中に入り、電気を点け――いや、これは電気じゃない。ガス灯か……珍しい。
荷物を端に置き、一つ伸びをする。
「ん……狭いな」
「ユーヤ。滅多なことを言うものじゃないですよ」
ソファが一脚、丸テーブルが一つにベッドが一つ、そしてストーブが一つという簡素な部屋だ。……ベッドが一つ?
「じゃ、また何かあったら言って欲しいのよ」
そのまんま部屋を出て行こうとするクラウディアの肩を掴み、慌てて引き止める。
「お、おい。部屋は一部屋しかないのか?」
「客が来ることなんて想定してないのよ。ここはあたしのお父さんとお母さんが泊まる時に使う部屋なのよ」
「いやいや、王女と一般人。男女!」
「……そんなに気になるなら、貴方だけ野宿でもすればいいのよ」
「ええ……?」
「じゃあ、おやすみなさい、なのよ」
バタン、と扉が閉じられる。部屋に残されるのは俺とリーナのみ。
というか、王族に対する態度としてどうなんだアレは。いくら自分の祖父と国王が既知だからって……。
「まあ、我が家とは家族ぐるみの付き合いがありますから……彼女からすれば、親戚のお姉さんくらいなんじゃないでしょうか、私は」
「いやいやいや、王家がそれでいいのかよ。普通、打ち首からの一族郎党皆殺しもありうるぞ」
「我が王家は暴力で支配しないのです」
いい心がけですこと。だからクーデター起こされたんじゃねえのか? っていうかさっきクラウディアから聞いた話だともっと武闘派なイメージなんだけど。
「これどう考えてもダブルベッドじゃねえだろ……」
改めてベッドを見る。どう見てもシングル。子どもなら二人寝れるかもしれないが――大人だと、抱き合わないと無理だろコレ。
「ダブルベッド?」
「ん?」
何故か顔に疑問符を浮かべるリーナ。……王族はキングベッドでしか寝たことが無いから、ダブルベッドを知らないのだろうか。
「ダブルベッド、知らないのか? 二人用のベッドのことだよ」
「いえ、そもそも……ベッドとは?」
「は?」
ベッドを知らない?
「布団派なのか? だとしても知らないのはおかしいだろ」
「一部の地方では床で寝る文化があるとは聞いたことがありますが、私はちゃんと寝台で寝ています。ではなく、ベッドとは何です?」
布団、が床の上で寝るためのものであることは理解しているらしい。その上で――ベッドを聞いたことが無い、と言う。
まさかとは思うが……英語、というか外来語が通じないのか? そう言われてみれば、俺と彼女が交わしている言葉は原理語なんだったか。
俺は訝しく思いつつ、ポンポンとベッドを叩く。
「これのことをベッドって言うんだ。……俺の世界の言葉でな」
「はぁ……」
何となくピンと来ていない顔のリーナ。俺は確認の意味を込めて、いくつか質問してみることにする。
「その、確認なんだが……分からないなら分からないでいい。チェアーの意味は?」
「聞いたこと無いですね」
「……じゃあ、クーデターの意味は?」
「それも……すみません、聞き覚えが無いです」
「いや、謝ることじゃない。確認したかっただけだ」
俺はそう言ってから、顎を触る。外来語が通じないとなると……結構面倒そうだ。いちいち日本語に戻して喋らないといけないのか。
「ま、いいか。……しかし困ったな。取りあえずベッ……ああいや、えっと、寝台はリーナが使え。俺は下の階で寝よう」
「えっ?」
「えっ? ってなんだよ。えっ? って。俺もお前も、平均的な男女の身長より少し大きいんだ。あのベッドじゃ狭すぎる。まあ、かけ布団くらい貸してもらえるだろうよ」
俺はそう言って、階下に行こうと思って立ち上がるが、なぜかリーナはそれを制止した。
「なんだよ」
「二人で寝ればすむことです」
「いや、無理だろ。広さ的に」
普通サイズのベッドだ。俺もリーナも十二分に大人の体格、これで一緒に寝るのは無理があるだろう。
「だとしても、一人にするわけにはいきません」
「……なんでだよ」
若い男女が同衾ってだけでもマズいのに、女性の方が王族だ。色々マズいだろう。そう思っての判断なのに……何故、一緒に寝たがる。
俺が困惑していると、リーナがやれやれといった風に首を振った。
「ユーヤ……私たちがどういう状況なのか忘れてないですよね? もしも暗殺者が来たらどうするんですか?」
「あ、暗殺者?」
思わず素っ頓狂な声を出す俺。部屋割りの話をしていたら、とんでもない話が出てきた。
「はい。忘れているかもしれませんが、私たちは一応革命軍に追われる身です。それも、ムサシという我が国の最終兵器を持っているんです。当然、命を狙われるでしょう」
……そういえば、ムサシって国に伝わる最終兵器だっけ。あの性能を見たらさもありなん、って感じだが。それを持って逃げているお姫様と一緒……あれ? これってもしかしてリーナじゃなくて俺が危ない感じ? リーナじゃムサシを動かせないし(敵がその情報を持っているとは限らないが)。
自分から首を突っ込んだとはいえ、冷静に考えると……かなりマズいかもしれない。
「ムサシに乗っている間はいいですが……生身でいるときに襲われたら、私はともかくユーヤではひとたまりもありません」
「あー……まあ、確かにな。俺弱いし」
訓練された暗殺者と、素人の俺。いくら銃が得意だとは言っても、そんなものは素人レベル。プロにはかなわないだろう。
「昼はクラウディアさんと一緒だったから良かったですが、同じ家の中とはいえ一人にするわけにはいきません。今一番危惧すべきことは――」
「どちらか片方でも、やられること、か。リーナがサムライモードを解放してくれた上で、俺が操縦する――そうじゃないとムサシが本領発揮出来ないしな」
「その通りです」
確かに、ここだって絶対安全とは言えないのだ。レイニー婆さんは裏切らないと俺も思うが……だからと言って、万が一尾行されていたらお終いだ。それなら、一塊になる方がいいだろう。こういうときは、冷静に物事に対処できる奴じゃなきゃ生き残れないんだから。
「……わかった。部屋は同室にしよう。俺はそっちの長椅子で寝る」
「いえ、一緒に寝れば……」
「……流石に同じ寝台はマズいって。俺には刺激が強すぎる、リーナは」
リーナは、目が覚めるほどの美人。俺の目がえんえん冴えて眠れる気がしない。
何か言いたそうにしてたリーナを軽くシカトし、階下へ。レイニー婆さんのところへ行き、掛布団を貰う。
「一緒の寝台で寝たらいいじゃないか」
「……本気で言ってるのか?」
「ふっふっふ。思ったよりしっかりしてんだね。はいよ」
なんか変な笑みを浮かべられた気もするが、掛布団さえもらえれば用は無い。俺はさっさと部屋に戻る。
「あ、そういえばムサシに戻らなくていいのか? いや、むしろムサシで寝泊りしなくていいのか?」
座ったまま寝るのはネトゲ廃人の得意分野だ。
「……ストレイニーさんの好意を無下にするわけにもいきませんし……」
チラッと窓の外を見るリーナ。街灯があるとはいえ、殆ど何も見えない。
「この暗闇の中、ムサシを取りに戻るのは危険ですね。何があるか分かりませんし」
「それもそうか」
「それに、ムサシを動かせるのは王族だけです。ムサシを包囲するほどの大軍団で機兵が来れば寝ていても分かりますから」
だから、と彼女は少しほほ笑む。
「私たち十分に休息をとってから行動するのが最善です。ユーヤも疲れているでしょう? 座って寝ても疲れは取れませんよ」
――そういえば、俺はともかくリーナが限界なことをすっかり忘れていた。彼女にとっては、落ち着く空間で寝る方がいいだろう。
……若い男と一緒で落ち着くのかは疑問だが。
「お前がいいなら……そうするか。って、あ、そうだ。これ渡しとく」
ふと、リーナに渡すものがあったことを思い出し、ジャケットのポケットから取り出す。
「? これは……首飾り?」
「ああ」
さっきクラウディアに言われたこと――を、実践してみる。
「似合いそうだったからな」
「へっ? そ、そうですか?」
何故か顔を赤くするリーナ。……褒められ慣れてないのだろうか、こいつは。リーナはおずおずと俺からネックレスを受け取ると、パッと顔を綻ばせる。
「つ、つけてみてもいいですか?」
「ああ。やってやるよ」
「へ? え、あ、いや。だ、大丈夫ですよ?」
「いいって。鏡も無いんだし」
俺は彼女の後ろに回り、ネックレスをつけてあげる。人にネックレスをつけるのなんて初めてだが……ちょっと難しいな。
「ひゃっ、ゆ、ユーヤ。どこ触ってるんですか」
「知らん」
やっとこさつけ終わると、リーナは少しだけ頬を上気させ、唇を尖らせる。
「……その、私たち……今日会ったばかりなのに……」
何かモジモジと呟くリーナ。よく聞き取れないので、俺は鏡が無いかレイニー婆さんがまとめてくれたバッグを開く。
「しかも……ユーヤが王族と庶民と……みたいな話をしていたのに、こんな熱烈に……でも、悪い人じゃ無さそうですし……」
布にくるまって鏡が入っていた。俺はそれを取り出し、彼女に渡す。
「ほら、リーナ」
「うう……でも彼に頼らなくちゃいけない今……ここで否と言うわけには……いえ、決して嬉しいわけでは……確かに頼りになりますし、実力もありますし……」
なんでうねうねしてるんだか。俺は彼女の前に鏡を突き出した。
「ほら」
「わひゃっ! ……あ、はい」
正気に戻ったか、リーナが鏡を見てニコッと笑う。
「似合いますか?」
「ああ。綺麗だよ」
美人なんだから何でも似合うだろうが……よく似合っている。ただのワンピース姿だっていうのに、ドレスを纏ってる時と殆ど美しさが変わらないのがその証拠だ。
そもそもネックレスも奇抜なデザインではなく、銀のチェーンに白い宝石が一つ……というシンプルなデザインだから、そうそう外さないだろう。
「な、なんでこんなものをいきなり?」
「だから似合いそうだったからって言っただろ?」
それ以外の理由は一応伏せ、彼女に伝える。しかしリーナは……ぽぽぽぽ、と顔を真っ赤にした。
「い、いや、しかし首飾りなんて……」
「? 嫌だって言われても持っていてもらうぞ。つけるのが嫌ならカバンにでもしまってろよ」
「そ、そんな! ちゃんと着けます! 肌身離さず!」
「お、おう。まあ、そうしてくれると助かる」
リーナが、なぜか凄い勢いで前のめりになって俺に迫ってくるので、少し引きながら俺は応える。
クラウディアの言う通り、女子ってのは本当にアクセサリーが好きなんだな。
「……ユーヤ、ズルいですよこんなの。ああ……でも……せめて白馬に乗って来て欲しかったです……」
何がズルいんだか。そして白馬ってなんだよ。
俺はよく分からないことを言うリーナに生暖かい目を向けてから、ソファに腰掛けた。
「リーナも座れよ」
「あ、はい」
俺はベッドを見ながらそう言ったのだが――ちょこんと隣に座ってきた。何でそうなった?
「……リーナ?」
「ちょっと狭いですね……ユーヤ、寝台の方に座りませんか?」
「どうして隣同士で座る前提なんだよ!?」
立ち上がって叫ぶ。リーナはきょとんとした顔で俺の袖を引いた。
「あまり大きな声を出すと良くないですよ?」
「ああ、その通りだな。……いや、こいつは王族だから何か感覚が違うんだろう。気にするだけ無駄か」
俺は何とか自分の中で折り合いをつけ、ベッドに座る。リーナも横に座ってきたけど、指摘は諦めよう。
……その、なんかいい香りするなぁとか思って無いし。
リーナは俺の横に座ったかと思うと、モジモジしながら俺のあげたネックレスをいじっている。よほど気に入ってくれたんだろう、あげた甲斐があるってものだ。
「……その、これを頂いたのは、私なりの覚悟の証でも、あります。……でも今一度、ユーヤの気持ちを聞きたいです」
ぽつり、と喋り出すリーナ。まるで何かに縋るように、か細い糸を手繰るように。……リーナは、ジッと俺の眼を見据えると覚悟を決めたような表情で凛と背筋を伸ばした。
「ユーヤは……その、別世界から来た、んでしょう?」
頷く。そこは間違いないだろう。
「ユーヤは……この国のために戦う意味は無い、はずです。なのに、何で助けてくれるんですか? 何で、一緒に戦ってくれるんですか? ……本当は、逃げ出したいんじゃないんですか?」
昼間と、殆ど同じことを訊くリーナ。その目に浮かぶのは、後ろめたさ、不安、焦燥――そして、ある種の期待。
確認したい、のだろう。俺を。
「今なら……降りれます、よ……?」
降りる。
二重の意味で告げられているであろう言葉を、俺は受け止める。その上で……何て言葉をかけたらいいものかと思考を巡らせる。
五秒、十秒……と脳をフル回転させるが、こういう時に言うべき台詞をおもいつかない。自分の対人経験の少なさを嗤いながら、彼女に質問を返すことにした。
「質問に質問を返して悪いが……そもそも、何で俺を助けた。民を助けるのは……なんて言ってたけど、アレは建前だろ」
彼女が王族としてのプライドや責任を持っていない……とは、思えない。言動は怪しいが、その根幹にはちゃんと王族としての意識は根付いているだろう。
しかし、だとしてもおかしい。あの状況で、俺を助けるのは悪手でしかないのだ。咄嗟に救うほど、リーナに余裕があったとは思えない。
それがきっと後ろめたさの原因――そう思った俺の問いに、彼女は更に申し訳なさそうな顔になる。
「……何か、起きるかもって」
「ん」
「ユーヤを見た瞬間……おかしい、って。こんなところに人がいるなんておかしい、って。そう思って……」
そうだろうな。明らかに人類の生存圏に見えなかったし。開発失敗した跡地みたいな場所だったしな。
「咄嗟に助けたのは、本当です。反射的に、このままじゃ機兵に踏み潰されるかもしれない、って思ったら……助けるって言ってしまって」
彼女の眼に嘘はなさそうだ。彼女は本当に善意で助けた。あの状況で。
「凄いな」
「……何も凄くないです。むしろ……それで最悪を招き入れたかもしれないって思いました」
普通の反応だ。しかしリーナはグッと拳を握ると、膝の上に置いた。
「でも、同時に……何か起きるかもしれないって。この状況を打破出来るかもしれないって、そんな直感が私の中で叫んで……」
ぽつぽつ話す彼女は、心底申し訳なさそうで――苦しそうな顔だ。
「ユーヤがいきなりムサシを完璧に乗りこなして。私じゃ逃げることすら出来なかった敵を即座に蹴散らして。その後に出て来た十機も……本当に一瞬で倒してしまって。あんなに辛くて、怖かったのに……全部、あっさりと覆してしまって」
つう、と彼女の眼に涙が浮かぶ。
「そしたら、私……ユーヤを利用すれば、今城都に攻め入っている傭兵部隊も全部倒せるんじゃないか、って……っ! そしたら、全部、ひっくり返せるかもって。そう思ったら、これが最後のチャンスなんじゃないかって……!」
「ああ」
自然な反応だ。当たり前だ。普通、そう思う。
「たくさん、考えました。どうやって仲間に引き込もうか。……でも、貴方は私が何か言う前に戦うと言ってくれた。この国の人じゃないのに」
それが、分からない。
リーナはそう呟いてから、瞳に浮かんだ涙をぬぐった。
「だから、怖かった。何でこんなに自分にとって都合がいいように話が進むのか。仮に、ただあなたが優しいだけだったら……負けたら命を失うかもしれない戦いに、無関係な人を巻き込んだと思った! それが、それがずっと嫌で、でも他何も思いつかなくて……!」
徐々に語気を強くするリーナ。それほど彼女にとっては辛いことだったのだろう。
無関係な人を巻き込んだ罪悪感。それを利用しないとどうしようも無いかもしれないという、無力感。
どれもこれも、責任感の強い人にとっては辛いことだろう。
「ユーヤがいれば、全部どうにかなるって……でも、今の私はユーヤに何も渡せなくて……何も知らないユーヤを巻き込んでしまって、申し訳なくて……!」
再び涙を浮かべるリーナ。俺はそんな彼女の手をそっと握り、安心させるように力を籠める。
(そりゃ、不安だよな)
国を追われる瀬戸際だ、不安にならないわけが無い。
そんな時に拾った、戦局を一発でひっくり返せるかもしれない最強の札。手放したくはない、でも俺が……なんで今、戦っているのか分からない。
だから不安だ。だから、どうすればいいのか分からない。負ければすべてを失い、勝ったとしても俺は何の報酬を得られるか分からない。
それなのに戦う――不気味だろうな。
「だから、ユーヤがさっき……ネックレスをくれた時、その……そういうことなんだ、って思って」
「ん?」
リーナは涙を流しながら……決意を籠めた目で俺を見る。
「嫌なわけじゃないです。むしろこんなモノでいいなら、って思ってしまいます。私はあまり褒められた容姿ではないですし、勝ったとしても、ユーヤが想像する生活が待っていることも無いと思うので。命を懸ける価値があるとも思えませんが、ユーヤが望むなら――」
「――いや、命を懸けるに値する。その価値がある」
リーナの美貌で褒められたものじゃないのなら、この世界に褒められた容姿の人はいなくなると思うんだが。そして俺の思ってるものってなんだよ。
とかなんとか言いたかったが、最後の言葉だけ否定しておくことにした。彼女が不安になる理由も分かれば、ちゃんと安心させる言葉をかけられるだろう。
「リーナ。お前は……自分の居場所って、あったか?」
「え?」
「自分の居場所。ここなら自分でいられる、みたいな」
俺の言葉に、少し考えてからリーナは俺に目を向けた。
「察しの通り、俺には無かった。生まれた時から兄は天才で、まさに百年に一度の逸材だった。……でも、俺は」
悲しいくらいの非才。
泣きたくなるほどの凡才。
「親父は、まだよかった。でも母親はな……」
顔を合わせると無視か嫌味。俺が修哉と喧嘩でもしようものなら、
『貴方と違って修哉は皆から期待されてるの。かすり傷でも付けたらどうやって責任を取るの!?』
……なんて言われて、よく物置に閉じ込められた。
「少し大きくなってくると、俺はいないものとして扱われた。修哉も楽しそうに俺を見下すしな」
気が安らぐのは親父が家にいた時と、誰とも会わず部屋に籠っている時だけだった。
母親に言われたこと、されたことを言いだしたら二晩かかっても言い切れない。
「俺が修哉に勝てたのは、ゲームだけだった。それも、アクションゲームとか格闘ゲームみたいな、頭使わなくていいようなゲームだけ」
アレと肩を並べるか、超えなきゃ俺の存在は誰にも認知されなかった。必ず『優秀な兄がいる』山上雄哉って言われるからな。
「だから俺は、ゲームの中でしか自分でいられなかった。そこにしか居場所が無かった」
「…………」
すっかり黙り込んでしまったリーナ。やはりあまり気分のいい話じゃいからな――そう思って、努めて明るい声を出す。
「ま、アレだぜ? 文句言っても仕方なかったし、それはもう終わったことだからいいんだけど――」
――ギュムッ、と。
いきなり、俺は柔らかい物に包まれた。見なくても分かる、リーナの胸に俺は埋められている。
「り、リーナ!?」
「すみません。でも、どうしてもこうしたくて。……辛かった、ですよね」
ドクン、と心臓が跳ねる。それは何も美女から抱きしめられたから――という理由だけではない。
辛かった、と。
「私の母は、私を産んでからすぐに亡くなったと聞いています。だから母の温かみは知りません。でも……家族の優しさは、知っています。ユーヤ、家族から愛されなかったのは、辛かったでしょう」
俺が見ようとしてなかったことを、言い当てるリーナ。言い当てるとも少し違うのかもしれないが。
思わず、涙が浮かぶ。誰かに『辛かったね』なんて言われたのは初めてだから。
『何で出来ないんだ』とは、よく言われた。頑張れとすら言われない。
『出来た』という結果しか、求められない。それが当たり前だったから。
「……ご、ごめんなさい。勝手に抱きしめたりして」
リーナは少し照れながら、俺を放す。が、ちょっと泣きそうになっていることがバレるとカッコ悪いので、今度はこっちから抱きしめた。仮にドレス姿だったらアレだが、まあそんなに高い服じゃないから多少濡れても問題無いだろう。
「はぅ……えっと、その……は、恥ずかしいです……」
涙が止まったタイミングで、俺は顔を離す。そしてニコッと笑ってからもう少しだけテンションを上げた。
「ありがとな、リーナ。……この世界には、俺を知る奴はどこにもいない。ムサシっていう狭い空間の中とはいえ、俺を認めてくれる、必要としてくれる人がいる」
そこには。
「『天才、山上修哉の弟』である山上雄哉はそこにはいない。一人の男として、山上雄哉として在るんだ。この世界には、そんな空間がある」
居場所がある。
「なのに、どうして俺はまた居場所の無い世界に帰んなきゃなんないんだよ? 義理も恩も無い? ふざけんな。俺を認めてくれた最初の人間だ」
「認めた、だなんて……そんな」
「認めてくれたんだよ」
ムサシで戦っている時。
リーナは俺にこう声をかけてくれた。
「頑張れ、って。そう、言ってくれたじゃないか。リーナ」
他人からすれば、それだけ? と思うかもしれない。
でも、一度だって俺は言われたことが無かった。
何かをこなせば『山上修哉の弟だから』。
何かが出来なければ『山上修哉の弟なのに』。
「礼なんて、むしろ俺からしたいよ。何すればいい、どうすればいい? なんでもするよ。俺を認めてくれた、リーナのために。……取りあえず、敵を全部斬ればいいか?」
そう、偶然とはいえ、ちっぽけとはいえ、たった一人とはいえ……俺を認めてくれたんだ。それに恩返しをしなきゃ罰が当たる。どうせならこの世界すべてプレゼントしてやりたいところだけど、取り敢えずはこの国だ。
「それに、わくわくするだろう? 調子に乗ってる奴らが、俺たちに一瞬で殺られるんだ。俺と、リーナと、そしてムサシに。こんな物語に参加できるんだ。断られたって俺はムサシに乗るぞ。降りるなんてとんでもない。そんな勿体無いこと出来るかよ」
「ユーヤ……」
「第一、俺は負けねえよ。ムサシに乗ったら無敵だ」
大胆不敵に言い放ってやる。リーナを安心させるためにも、己自身を鼓舞するためにも。
俺の意図が伝わったのか、リーナは少し安心した目で俺を見つめ返してくれた。
「その通り、ですね。ユーヤが負けるはずありませんよね」
「ああ。大船に乗った気でいろ」
俺はニッと笑ってリーナを見る。リーナも、俺に笑顔を返してくれた。さっきまで頬を伝っていた涙を拭ってやり、改めて握手のために手を差し出す。
「リーナ。俺をムサシに乗せてくれ。俺を戦わせてくれ。お前のために、俺のために。俺が俺でいるために」
「はい。……では、正式にお願いします。ムサシの操縦者として……協力、してください。この国を渡さないために」
「ああ、引き受けた」
俺とリーナはガシッと握手し、微笑みあい――同時に、その手の柔らかさに再度ドキッとする。
そして同時に、俺はリーナの胸に顔をうずめていたことを思い出した。
(――あっ、やっべ)
一気に顔が熱くなる。同時に、心臓の音が尋常じゃないくらい鳴り響いた。ヤバいヤバい、心が心がヤバい。
俺しかも追加で抱き着いたよな、ヤバく無いか!?
「……ど、どうしました? ユーヤ。その、顔が真っ赤ですけど……」
「なんでもない何でもない何でもない!」
ブンブンと首を振って、リーナの手を離した。ヤバいリーナにセクハラって思われる!
……と、思って彼女と距離を取ったのだが、何故かリーナの顔に不快感を示す表情は無い。何故だろうか。
(……不敬罪とか言われなくてよかったぜ)
リーナの方から抱きしめてきたのに不敬罪もへったくれも無い気はするが。
「……よ、よし。そうと決まれば今後の方針だ。どうやって動くか考えないとな」
俺は咳払いして話を逸らす。
「そういえば第一世代機兵と第二世代機兵の違いについて本で読んだんだ。それで訊きたいんだが……賊軍の連中は第一世代機兵について正確に把握していると考えてもいいか?」
「はい。国防の要が第一世代機兵であるということは、この国だけでなく世界の常識と考えていただいても良いかと」
俺は第一世代機兵と第二世代機兵の差について考える。ムサシは『サムライモード』を十五分間しか使えない。他の第一世代機兵も同様だとしよう。
「時間制限を加味しても、第二世代機兵じゃ第一世代機兵に逆立ちしたって勝てねえな」
「はい」
そして、それを敵も理解しているということは――
「……じゃあ、賊軍は間違いなく第一世代機兵の対策を持ってるとみて間違いないか」
さっきのミサイルのような超火力兵器か。
それとも、第一世代機兵の時間制限すら圧し潰す物量か。
或いは――
「同じ、第一世代機兵を用意しているか」
「…………ありうるの、でしょうか」
「さあな。それに関しちゃお前の方が詳しいだろ」
俺には判断がつかない。でもその公算が高いんじゃないかと思っている。
「そもそも、戦いに勝つだけなら簡単なんだよ。敵のボスを倒せばいい。頭を欠いた集団なんて烏合の衆だ。まして……今回は国を乗っ取る気でいる。それなら、相応の人物がトップにいると考えてもいいだろう」
王家に近しい貴族か、それとも政治に参加している大臣か。何にせよ、次の国を任せられると……クーデターに賛同した人間が思っている人間がトップにいることは間違いない。
「だが、トップを直接倒すって言っても簡単じゃない。暗殺するにも俺たちは二人しかいないからな。だから次善策――敵の最大戦力を斬ることになる」
「でもそこに第一世代機兵がいたら……」
「ああ。第一世代機兵同士の戦いになる。……負けるとは微塵も思わないが、そこで十五分全部使わされる可能性もあるな」
『サムライモード』を使っている最中は無敵、一秒に一機くらい斬る自信はある。それくらい、第一世代機兵と第二世代機兵の間に差がある。
「でも、第一世代機兵が敵にいるのなら……もう城は落とされているのでは? その、ムサシが今……逃げていることは敵も知っているはずですし」
「そうだな」
十機の援軍が来たことからして、ムサシがいなくなっていることは理解しているだろう。
「……いや、その十機が破壊されて連絡が途絶えたから……慎重になってるのかもな」
十対一で倒せていない、ということは奇襲されるかもしれない。それを恐れて安易に第一世代機兵を切れないのかもしれない。
……可能性としてはあり得ないことも無いだろう。
「敵からすれば……このまま第二世代機兵のみで押し切れればそれでよし。敵がムサシを出して来たらそこに第一世代機兵を合わせればいい。最悪のケースは、第一世代機兵の十五分間を使い切ったタイミングで……ムサシが出てくることだ」
そうなれば一気に形勢逆転される可能性もある。向こうは城を攻めている最中、冒険に出る必要も無いってことだ。
「そういうもの……なんでしょうか」
「考えられる可能性としてはこれがあるってだけだ。今大事なのは、敵にも第一世代機兵がいるかもしれないって可能性を頭に入れておくことだ」
「そう……ですね。敵の戦力を過小評価してもいい場面なんて一切ありませんから」
リーナの言う通り。黄金と呼ばれた最強の男ですら、油断したせいで若造に負けた例もある。
「取りあえず、敵に第一世代機兵がいると仮定して話を進めよう。……敵の総力は?」
「分かりませんが……裏切った軍部の人間も含めれば、我が軍とほぼ同等かと」
そう言ってリーナが思い出すように自軍のライトフットの数を書いていく。また、軍の形式なんかも。
そこから予測される敵の総数を見て、俺は……
「流石にお手軽モードでこれを全滅させる自信はねえな。練習すればまだしも……今はまだ、キツイか」
あの時、十機でもしんどかったし。そもそも第二陣で来たゴリラは決して練度が低いわけじゃ無かったしな。
「城都まで行けば……援軍も期待出来るかと」
普通に合流したらそうだろうが……それじゃなおのこと勝ちの眼が無いだろう。
「それじゃあ削り合いになる。補給が尽きた方の負けだ」
「そう、ですね……」
ここまで話し合い、結論を出す。
「うだうだ言ったが、結局……敵の最大戦力を短期決戦で潰すことだな。敵に第一世代機兵がいないならヨシ、いればそいつを斬る。そしてその上で……城に戻れば、戦力差は逆転だ」
後ろから、敵の最大戦力を潰す。
結局それが最善手。
「……力業ですね」
「俺に戦略を期待するな」
そもそも戦略ゲーは俺の範疇じゃない。俺に出来ることは――機兵で敵を斬ることだけだ。
「まあこっちに機兵が来る可能性もあるしな。あの十機から連絡が途絶えた時点で」
それなら各個撃破が出来て容易なんだが。
俺の呟きに、リーナが首を振る。
「いえ、たぶんまだ伝わっていないと思います。戻って来なくて、おかしいな……となっている程度でしょう。伝書鳩もありませんし」
「なに? だが、普通の通信機があるだろう。こう、電波を飛ばす……」
「電波?」
リーナが、きょとんとした顔でこちらを向く。……え?
「い、いや、電気は知ってるよな?」
「電気?」
……はぁ!?
俺は、部屋を見回す。だが……電化製品は、ない。
電灯は? ……ガス灯だ。
「電気がない、だと……ってことは獲菩流鉱石とやらで出してるエネルギーは電気じゃない……?」
道理で車も無いわけだ。それじゃ、この銃器類はどうやって生産されてるんだ。
まさか一個一個手作りってことは無いだろう、し……
「高級品だから銃を使う奴が少ないって側面もあるんだろうか」
俺が納得していると、リーナが少し首をかしげる。
「どうしたんですか?」
「何でも無い。……さて、リーナ。どんな第一世代型機兵か分かるか? 第二世代機兵から推測、とか」
「すいません……分かりません」
俺の問いに申し訳なさそうにしゅんとなるリーナ。まあ仕方がない。
「こっちだけ知られてるのは大きなハンディだな……」
「すみません……姉なら詳しかったんですが」
「お前の姉は何モンなんだよ」
「私は内政を勉強し、姉は軍事、外交を勉強していたので」
「なるほどな」
その姉がいれば話が早いんだが……背に腹は変えられない。
「あ、でも、そういえば」
「? なんだ?」
「あの、基本第一世代型機兵は各国が保有している最終兵器のようなものなんですが……ある国が一度滅び、そこにあった機兵が行方不明になったという噂を聞いたことがあります」
「ほう」
興味深い話だ。都落ちしたが、機兵だけを持って流浪の民になっているとか……だろうか。補給とかどうするんだろうか。
「もしも、賊軍がそれと手を組んでいたら……」
「可能性は、ありそうだな」
俺はソファから立ち上がり、荷物を確認する。
……用意したとはいえ、大丈夫だろうか。
今さらになって、情報の少なさに少々苛立ちを覚える。
さっきはああ言ったが、既に第一世代型機兵が投入されていたら、戦場は詰んでることになる。俺ほどのパイロットがいなかったとしても、あれだけのスペックを持つ機体だ。動かせるだけで充分以上の戦力になる。
「いつ城は襲われた?」
「三日前です。私が逃げたのは今朝のことです」
「なるほどな。逃げてきたってことは……城が落ちそうだったからか?」
「それもありますし……万が一、父と合流出来たらムサシを動かすことが出来ますので……」
戦況を変えられるかもしれないと思った、と。
「どれくらい持ちこたえられそうなんだ?」
「もって……あと二日、くらいでしょうか。明日に落とされる、ってことは無いと思います」
二日か……あまり時間は無いな。
俺は地図を取り出し、地形を確認する。
「城都はこっちだよな? そして、今いる土地がここ……」
「ええ」
ここまで来た道を戻るか、それとも別のルートで行くかっていうことだが。
「戻るか?」
「それよりもこちらの方が相手の背後を取れるのでいいかと」
まあ、そうだな。
この街から城都に直線距離で行こうとすると間に山と、大きな湖がある。ここを突っ切るのは悪手だろう。
それよりも多少迂回することになるが、次の街――ライアイアへ向かうべきだろう。補給も出来るし、休息も取れる。
「山を突っ切らないならライアイアが一番近いからな」
「ええ」
「よし……じゃ、今日は休んで、明日から動くか。国を盗り返すためにな」
これからどうなるかは分からないが、とりあえずの目標だ。
『二日以内に、国を盗り返す』
リアルWRB――俺にはヌルゲーもいいところだ。
~~~~~~~~~~~~~~~~
「ユーヤ、朝ですよ」
「くぁあ……若干、背中が痛い」
体を起こすと、バキバキと関節が鳴る。床で寝るよりはマシ……かな。
「変なことを言ってないで着替えましょう」
「そうだな。俺は洗面所で着替えるから、終わったら言ってくれ」
「はい」
昨夜はここで体を拭いて、風呂の代わりにした。何でこの家に風呂が無いんだよ――と思ったら、公衆浴場があるらしい。俺だけ入りに行くわけにもいかないので自重したが、あれだけ動いた後に風呂に入れないのは気持ちが悪い。
ちなみにリーナをこっちの部屋で着替えさせようとしたら、さっさと着替えて部屋で着替えている俺をドアから覗いてくるから意味が無かった。リーナのキャラが掴めない。
「ユーヤ、着替え終えたので大丈夫ですよ」
「おう」
リーナは流石に俺の服から着替え、パンツスタイルの女性服になっている。ジーンズに緑色のシャツ、そしてスポーティーな羽織り。伊達眼鏡をかけ、髪型をポニーテールに変えている。
化粧も少しいじっているらしく、ぱっと見でリーナとは気づけないだろう。ちょっとキツめで運動好きなお姉さんって感じだ。
「変装か。ふむ、変われば変わるもんだ」
「そうですか?」
「ああ、似合ってるよ」
「え、あ、そ、そうですか……それは、良かったです……」
はにかむリーナ。お姫様なら、この程度の誉め言葉は言われ慣れてそうなものだが。
「お二人さん、朝ごはんの準備が出来たのよ」
ノック音とクラウディアの声。
「お、ありがとう」
「すみません、何もお手伝いせずに」
「良いのよ、別に。あたしは現王家に文句無いから」
遠回しに応援してくれてるんだろうか。
クラウディアについていくと、既に料理は並んでおり……レイニー婆さんが椅子に座って待っていた。メニューはコーンスープっぽいものと、パン。昨日の夜は煮物だったから、洋風な朝ご飯が出て来てちょっと嬉しい。
「悪いな、レイニー婆さん。助かる」
「本当にありがとうございます」
俺は飯に口を付ける前に、レイニー婆さんにむかって頭を下げる。昨日の夜といい、何もかも世話になりっぱなしだ。
「良いってことよ。……なぁ、ユーヤ」
レイニー婆さんはスープにパンを浸してから、俺の方をジッと見た。
「あんたがリーナと一緒に戦うのは理解した。でもね、第一世代機兵さえあれば国は再建出来るんだ。国自体が無くなってもね」
パンを口に運び、美味しそうに頬張るレイニー婆さん。
「逃げるのも一つの手だ。忘れんじゃ無いよ?」
「……ああ、もちろん」
あんなぬるい奴らに負けるものか。
言いかけた言葉を飲みこみ、頷く。
「ムサシとリーナ。これらを守り抜くことを一番に考えるよ」
「それが分かってるならいいよ。……このスープ、美味しいよ。クラウディア、腕を上げたね」
レイニー婆さんに言われ、少し照れた表情になるクラウディア。昨日の夜ご飯も美味しかったから楽しみだ。
「じゃあ、いただきます」
手を合わせてスープを一口飲む。結構美味しい。
「美味しいですね」
リーナの言う通り、美味しい。昨夜のご飯も美味しかったし、クラウディアは料理が上手なのだろう。
「後で片づけくらいは手伝わせてくれ。貰いっぱなしってのも悪い」
俺が言うと、リーナもこくこくと頷く。これに関しては特に否と言われなかったのでちゃんと手伝おう。
(……朝起きて、食卓を囲む、か)
何でだろうな、普通の光景のはずなのに。
どうにもこうにも、俺にとっては眩し過ぎる。
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