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章間なう⑫

圧倒と本気と剣

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7話


『スゲェな、オレをここまで飛ばすたぁよ』

「そうだろう、うちの自慢のトランスポーターだ」

 黒いゲートを通り抜けた先は――東京ドーム一個分くらいの、草木が一本も生えていない平原だった。
 その中心部に着地すると……だいぶ遠くに、山が見える。地平線とまでは言わないが、五駅分くらい離れているんじゃなかろうか。
 ……そこまで周辺の景色を見て気づいた。この草木が生えていないところは、ラノールさんが山を消し飛ばした時に削れたのだろう。
 どんな規模の技を放てばこうなるのか。
 デススターゴーレモンはゆっくりと天川とラノールさんを見て、腕を組んでからうんうん頷いた。

『騎士団長は殺せって言われているし、勇者は生け捕りにしろって言われているし。二人とも来てくれて助かったぜ。がはははは! こりゃ楽しくなりそうだ』

 そう言ったデススターゴーレモンは、胸を赤く光らせる。先ほどまで王城で見せていた光とは違う――その倍以上の光量。

「飛べ!」

 ラノールさんの指示に従い、天川は宝石の足場を作って空を駆ける。ラノールさんも素早く飛竜で飛び上がった。

 ビカッッッッッッッッッッッッッッッ!!!!!!!!!!!!

 ドッドオオオオドオオオオオオオオオオオオオオオオオッッッッッッッッ!!!!

 耳をつんざく轟音。地面に向けて照射された熱線が、デススターゴーレモンが体を起こすのと連動して文字通り地を切り裂いていく。
 吹き飛ばされる地面、そこから飛来する破片。
 そのうちの一つが、 下手な弾丸よりも速く飛んでくる。咄嗟に顔を庇うと、ザクッと左手に小さい破片が刺さった。
 地平線の彼方まで到達した奴の熱線。それによって切り裂かれた地面は、底が見えないほどの崖になっている。

『やっぱ広いところはいいなあ! 本気で戦える!』

 高笑いするオージョー。天川は破片を引き抜いて、投げ捨てた。

(なんという化け物だ)

 天川の背に冷たい物が走る。
 まず間違いなく、目の前にいる魔物はSランク魔物……以上の実力があるだろう。王都動乱で戦った魔族とは、また違った強さと圧力を持っている。
 しかも、合一してる魔物がSランクだというだけではない。

『そおら!』

 地面から数十枚の鋼の刃が生えてくる。それを宝石でガードし、回避しながらさらに高く空へ駆けていく。

「新造神器まで……! 厄介な!」

『テメェらをぶっ殺した後に、ブリーダさんたちが盗られた新造神器も回収しねぇとなぁ!』

 勇者は生け捕りじゃなかったのか。
 天川はそんな感想を抱きながら、飛竜の横に立つ。

「……これを王都でやられてたら、本当にヤバかったですね。さて、どうしますか?」

「問題ない。あそこじゃ私も|本気(・・)を出せないからな」

 下着姿のまま、飛竜の上で仁王立ちになるラノールさん。剣も鎧も無いまま、ドゥッ! と全身から『圧』を噴き出した。

「『飛竜騎士モード』」

 呟く。次の瞬間、ラノールさんの肉体に竜の鱗で出来た鎧が装備される。真っ白な鎧に真っ白な剣。
 最後に竜の翼の意匠があしらわれたヘルメットを装着して、変身が完了した。
 立っているだけで感じる、圧倒的な存在感。Sランク以上の実力を持つ者は、例外なく使えるという『覚醒モード』。

「これがラノールさんの本気か……!」

『がはははははは! 全部アレか、スキルってやつで剣も鎧も作ってるのか! 操れねぇな!』

 鎌を向けるが、何も起きない。
 ラノールさんは威風堂々と胸を張ってそこに立っている。ただそれだけなのに、膝を屈してしまいそうなほどのオーラ。
 これが、騎士団長。
 これが、Sランククラスの実力者。 
 これが――この国、最強の騎士。

『……ッ!』

 ジリッと一歩後ろに下がるデススターゴーレモン。自分でも無意識だったのか、足元を見てハッとする。 

『……面白くなってきたじゃねえか』

「よし、俺も! 着装!」

 左手のバンドについているダイヤルを回す。
 キリッ! とキャップを外した時のような音が鳴り、天川の体に白銀のアーマーが装着されていく。
 胸の部分には二本の剣をクロスした紋様が現れ、変身が完了した。

「シムラとやらの作った鎧か?」

「はい!」

 神器は操られない、鎧もどうにかなった。
 であれば、後は反撃するだけだ。

「ラノールさん、俺が援護するので一気に――」

「いや」

 ラノールさんは冷静な表情で、天川の声を遮った。
 その表情は普段の彼女よりも鋭く、理知的。

「私一人で良い。アキラは下がっていろ」

「えっ?」

『がはははは! おいおい、冗談が上手だなぁ! 騎士団長ってのは、ギャグが上手くねぇとなれねぇのか?』

 笑い飛ばすオージョー。しかしラノールさんは無表情でオージョーを見た。

「二対一だと卑怯だろう?」

『別にオレは構わねえぜ?』

 余裕たっぷりに言うオージョーと、ニヤッと笑うラノールさん。

「ま、待ってください! 相手は明らかにSランクです。今の俺なら、足手纏いになんかなりません!」

「分かっている。だからこそだ」

 彼女は今度は天川の方を見ると、目つきを少しだけ優しくした。

「アキラ、王都動乱の時に――『黒』のアトラと、『流星』のキョースケ。二人が|本気で(・・・)戦うところを見たか?」

 問われて、首を振る。アトラさんは単独行動をしていたし、清田が戦っているところは見たが、本気だったとは思えない。
 ラノールさんは天川の頭に手を置くと、ぐしゃぐしゃと撫でた。

「ら、ラノールさん?」

「さっき私がお前も来るように言ったのは――お前に、見せるためなんだ。私の本気を。『覚醒モード』を使える者であり、勇者の子孫であり、この国最強の騎士であり――いつか、お前が越えねばならない恋人である私の、本気を」

 精悍な顔つき。だが同時に、女神のような美しさすら感じる。
 まるで|正義の女神(ユースティティア)のような美しさだ。

「って、恋人?」

「い、いずれそうなるんだから良いだろう?」

 パチンとウインクをして――しゅぼっと顔を赤らめるラノールさん。いや、戦場で何をやって――

『おらっ!』

 ズズズズウウウウウウン!!!!! と轟音が鳴り、デススターゴーレモンの鉄球をラノールさんが盾で受け止めていた。
 剣や鎧と同じく、純白の盾で。

『遺言はそんなもんでいいか?』

「ああ――『岩砕き』の力」

 ラノールさんの鎧と盾が、茶色に染まっていく。

「『飛竜纏鎧』!」

 ゴッッッッッッッ!
 巨大な岩を纏った剣で、自分の十倍もある巨体を押し返して吹っ飛ばしてしまうラノールさん。
 体が浮いたデススターゴーレモンは、そのまま尻もちをつく。
 白鷺は、足を払ってデススターゴーレモンをダウンさせた。
 ラノールさんは、力で真っ向から押し返してダウンさせた。

「………………凄い」

「アキラ、一瞬も目を離すなよ?」

 カッコよく微笑むラノールさん。そして『雷纏い』に乗って、一瞬でデススターゴーレモンとの距離を詰めた。

「ラノールさん……!」

 天川は神器を握り――グッと堪えた。確かに、一緒に戦っていたら彼女の姿は見れない。
 相手は新造神器を使うSランク魔物。普通であれば、ここで戦わないなんて選択肢はありえない。
 でも、彼女はラノール・エッジウッド。この国最強の騎士。
 彼女が大丈夫と言ったのだから、信じねば。

「それだけじゃない。もしも、マナバさんをお前が殺しているのならば……私が、その落とし前をつけないといけないからな!」

『がはははははは! 往生すんなぁ、こいつぁ!』

 鎌を振り下ろすデススターゴーレモン。『雷纏い』はそれを紙一重で躱し、懐に飛び込む。

『うおらぁ!』

「ぬう!」

 ガギギギギギギイイイイイイイイン!!!!!!!!!
 空気が震える。剣と鉄球が再びぶつかり合う。
 しかし――今度もまた、ラノールさんが勝利した。デススターゴーレモンの巨体を文字通り吹き飛ばす。

『がははははははは! おいおい、このオレよりパワーがあるだと? すげぇな!』

 笑いながら起き上がるデススターゴーレモン。吹っ飛ばされたせいで、いつの間にか草木の無い平原から、山の麓まで移動している。
 そいつは鎌を背後の山に突き刺し、その斜面から勢いよく鋼の刃を発射してきた。

「甘い!」

 目の色を変えたラノールさんは鎧の色を赤色に変え、乗っている飛竜を青い物に変え、そして剣の色が黄色に変わった。

「雷纏い、焔喰い、海呑み! 『飛竜三重斬撃』!!」

 バチバチバチ!
 雷、炎が合わさった斬撃に、飛竜が水のブレスを浴びせる。その三属性が混ざり合い、尋常ならざる勢いとエネルギーで飛んで行った。

『ぐっ!?』

 バカッ!
 四つに分離して回避するデススターゴーレモン。躱された斬撃はそのまま飛んでいき――背後にあった山を消し飛ばした。

「なんて……威力……」

『だったらこうだ!』

 空中で頭と胴体だけ合体したデススターゴーレモンは、胸の部分を光らせ始める。それと同時に下半身がミサイルのようにラノールさんに襲い掛かり、鋼の槍が降り注ぐ。

「『生命よ、精霊よ、創生の息吹をもって、その身を異なる姿へ変えろ! ドラゴン・チェンジ』!」

 呪文を唱えるラノールさん。すると『海呑み』の前に魔法陣が出現し――そこを通ると同時に、サメのようなフォルムをした緑色の飛竜に変わった。

「『音超え』! 飛べ!」

『キュイイイイッ!』

 スコールのように降る鋼の槍をすべて躱す『音超え』。だが――ビタッ! といきなり空中で急停止した。
 何故――そう思って目を凝らすと、彼女の前に細いワイヤーが蜘蛛の巣のように張られている。気づかずにそのまま突っ込んでいたら、全身が切り裂かれていたかもしれない。

『よく気づいた! だが止まったな? 往生してんなぁ!』

 動きの止まったタイミングを逃さず、発射される熱線。ラノールさんはワイヤーを剣で切るが、もう回避は間に合わない。
 あんなもの、まともに喰らったら確実に死ぬ。咄嗟に宝石で盾を作ろうとしたところで、ラノールさんが薄く微笑んでいるのが見えた。

「本気を見せる、と言ったからな。もう一段階行こうか。『ドラゴン・チェンジ』!」

 ラノールさんが赤――というよりも、薄紅色のオーラを身にまとった。そして再度魔法陣を空中に召喚し、頭から突っ込んでいく。

「ともに征くぞ! 『光断ち』!」

 ビカァッ!
 ラノールさんは、魔法陣から光り輝く飛竜に乗って現れる。
 黄色い鎧を身に纏い、赤い剣を構える。輝く飛竜がブレスを発射した。 

「勇者の血よ、我に愛する者を守る力を! 焔喰い、雷纏い、光断ち! 力を貸せ――『飛竜三重斬撃・愛』!」

 ビカッッッッッッッッッッッッッッッ!!!!!
 ラノールさんの剣から放たれた斬撃が、光のブレスを受けてうねり、目にもとまらぬスピードでデススターゴーレモンの熱線を割る。

『ぬぐぅ!?』

 バシュウウウウウウウウウン!
 デススターゴーレモンは鎌でその斬撃を受け止める。さらに自らの体躯の倍以上まで金属で巨大化させた。
 しかし、それでもなおラノールさんの一撃は全く威力が衰えない。

『ぐっ……ぐっ、が、がははははははは! クソ、クソ! まさか、オレが往生することになるたぁな!』

 金属が割られた、鎌が吹き飛ばされた。

「じゃあな」

『がははははははははは! 楽しかったぜ!』

 ボシュッ!
 ゴウッッッッ!
 上空を飛んでいたデススターゴーレモンは……跡形もなく消し飛ぶ。後に残るのは巨大な鎌と、上半身を失った残骸。それは魔物のルールに則り、溶けて消えていく。

「………………凄い」

 呆然と、その一言だけ呟く。宝石の上で、剣を降ろして。
 ラノールさんはこちらに気づくと、風の飛竜……『音超え』に変えてからこちらへ飛んできた。

「ちゃんと見ていたか?」

「は、はい」

 天川は身長だけは伸び切らず、平均の百七十センチくらいで止まった。対して、ラノールさんは女性にしてはかなり背が高く、天川よりも数センチ高い。
 普段ならば、気にならない程度の差。
 だが今は、その数センチが途方もなく遠くに見える。
 これが、騎士団長。
 これが、Sランククラスの実力者。 
 これが――この国、最強の騎士。

「俺、は」

 いつか、この人を超えられるのだろうか。
 彼女は二十六歳、天川よりも九つ上。
 自分は九年後、彼女くらい強くなっているのだろうか。

「どうした、そんなにぼうっとして」

 彼女は『飛竜騎士モード』を解除して下着姿になると、天川の腰に手を回し、ぎゅっと抱きしめてきた。
 顔が近い――まるでキスするかというような距離。ほんのり薄紅色になっている、彼女の顔の中心に走る大きな傷が――今日ほど、美しく見えた日は無い。

「ら、ラノールさん」

 いつもであれば照れて振りほどく、彼女からのアプローチ。
 だけど今日は、振り払えない。

「……今の俺と、どれくらい差が、あるんですか?」

 彼女に抱きしめられたまま、呆然と呟く。
 ラノールさんは、優しく天川の頭を撫でた。

「今見た通りだ。これが、人族の最高峰だ」

 朗らかに笑うラノールさん。

「なんて顔をしているんだ、アキラ。……頂上が見えない山ほど登りにくいものは無い。今のお前なら――頂上がどこにあるかくらい、分かるだろう?」

 頂上が見える山。
 頂上が見えない山。
 自分の理想をなんとなく掴むのではなく、実感する。彼女は、それを見せてくれたのだ。

「駆け上ってこい。お前なら出来る」

 ――悔しい。
 ――悔しい。
 ――悔しい。
 だったら、走るしかない。

「はい!」

「良い返事だ。――帰るぞ!」

「はい! ……はい?」

 元気よく返事をして……はて、ここがどこだったかと思い直す。
 さっきの場所にいれば、おそらく井川が迎えに来てくれるだろうが……しかし既にだいぶ移動してきてしまっている。
 というか、ラノールさんもデススターゴーレモンも地形を変えまくったせいで、今自分たちがどの辺にいるのか分からない。

「「………………」」

 二人で無言で見つめあう。美人と見つめあっているのに、冷汗しか出てこない。

「いや、ケータイがある! これで助けを呼べば……」

 アイテムボックスからケータイを取り出すが、何故か動かない。
 ……よく見ると、金属部分がへし曲がっている。

「まさか壊れた!?」

 アイテムボックスではなく鎧にしまっておいたのが仇になったらしい。すぐに鎧と一緒にアイテムボックスにしまったが、間に合わなかったようだ。

「す、すみません、ラノールさん。ケータイを――」

「私は鎧ごと向こうだ」

 あっ。
 そういえば、豪快に鎧をぶち壊していた。その時にポケットから落ちたのだろう。
 天川も着装を解除すると、やっぱり下着姿だ。
 下着姿の男女が、宝石と飛竜の上で途方に暮れる。

「……ひ、人里を目指すか!」

「は、はい!」

 人里までたどり着けば、どうにかなる。どうにかなってくれ。
 そう念じながら、天川達は空を飛ぶのであった。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 ズズウゥゥゥゥン……。
 あらかたの魔物が片付いたタイミングで、空からドラゴンが降って来た。

『『ゴアアアアアアアアアアアアアア!!!』』

 巨大な咆哮で、ビリビリと空気が震える。

「やぁやぁ、なかなか面倒なことになりましたね」

 シロークは苦笑しながら、目の前にいるドラゴンを見上げる。
 他の魔族たちを乗せてきたであろう、いわば空母ドラゴンだ。
 長い首と太い手足に、真っ黄色な鱗。王城の正門にある見張り塔を優に越すサイズ。
 その身体の倍はありそうなほどの翼に、身に纏う雷。
 何より特徴的なのは――角の生えた双頭。

「初めて見ますね。……ツインヘッドドラゴン、とでもしておきますか」

 図鑑でも見た覚えがない。いや……双頭の片方ずつは、どこかで見た覚えがある。明らかに違う種が、強引にくっつけられているようにしか見えない。
 ――強い。Aランクじゃきかないだろう。

「よっしゃああああ! めっちゃ強そう! なぁ、アレ俺が倒しても良いよな! な!」

「ああ、すみません。申し訳ないんですが、私に譲ってもらえませんか?」

 元気いっぱいな異世界人――確か、シラサギさん。うきうきしている彼に、少々申し訳なく思いながら声をかける。

「な、なんでッスか!? あの、俺、結構強くって!」

「いえ、それは見ていれば分かるんですが……このドラゴンが陽動の可能性も捨てきれません。であれば、この場で最も速い貴方には周囲を警戒していて欲しいのです」

 少しだけ、嘘をつく。これが陽動である可能性を考慮して警戒しなくていけないのは本当だが、わざわざシロークだけが戦う意味は薄い。
 ツインヘッドドラゴンは、何をしてくるか情報の少ない魔物だ。それが魔族の手先として来ている以上、必要以上に警戒すべきだろう。
 少なくとも、素手の拳を武器とする彼に先鋒を任せるわけにはいかない。

『『ゴアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!』』

 恐らくツインヘッドドラゴンは、まだ息のある魔族を回収するために降りて来たのだろう。
 だが、それはさせない。

「シローク、『炎帝剣ソルレイド』は持っているな?」

 いつの間にかゴーレムから降りているシムラさんが横に立つ。彼の手には、銀色のペンケースのようなものが。

「ええ。後方から援護をお願いします」

「任された」

 シムラさんがペンケースのようなものを腰に当てると、それがベルトになって巻き付く。

「変身!」

 ベルトを操作し、鎧をまとうシムラさん。

「ではおれも」

 シロークも『炎帝剣ソルレイド』を腰に提げて、「新造神器を無理矢理、解放させるための鍵」こと、『クラッキングキー』を取り出した。
 シムラさん曰く、正式名称は『バージョン・プロミネンス』とのこと。
 バタフライナイフのようになっており、ナイフ部分が鍵になっている。パチンと鍵を出して、柄にあるボタンを押す。

『Prominence power! Awakening!』

 鍵を相手に向けて構えた後、剣の柄頭に鍵を差し込み、抜刀の構えをとる。

「変身!」

 剣を引き抜く。すると肉体が炎で包まれて――一瞬のうちに、鎧が生成された。
 真っ赤でオレンジ色の炎があしらわれた鎧。ヘルメットはライオンの鬣をオールバックにしたような形になっている。

「なるほど、いい着心地ですね」

「それは良かった」 

 隣で鎧を着終えたシムラさんを見ると、彼は落ち着いた様子で武器を構えた。

「行け」

「い、一応この場の指揮官はおれなんですけどね」

 シムラさんの短い指示に、苦笑を返し――剣を握り、態勢を低くして走り出した。

『『ゴアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!』』

 バチバチバチバチバチバチ!!!
 雷撃が真っすぐこちらに飛んでくる。しかしそれは、シロークに着弾する前にかき消えた。シムラさんの放った攻撃だ。
 頼もしい、部下に欲しいくらいだ――そう思いながら、さらに身を低くしてツインヘッドドラゴンとの距離を詰める。

『『ゴアアアアア!』』

 バサッ!
 翼を広げて離陸するツインヘッドドラゴン。いったん退く気だろうが、そうはさせない。足から炎を噴射し、空へ飛びあがる。


『『ゴアッ!?』』

 まさか自分以外にも飛べる者がいると思っていなかったのか、驚愕するツインヘッドドラゴン。シロークは剣に炎を灯らせる。
 ――ツインヘッドドラゴンの、十倍ほどの大きさの炎を。

「『新造神器』とは凄いですね。こんな一撃をあっさり放てるのですから」

「オレが強化してやったからだ」

 不満げなシムラさんの声が聞こえてくる。そんな彼に苦笑しながら――シロークは『職スキル』も乗せて剣を振り下ろした。

『『ゴアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!』』

 バチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチ!
 空中に咲く、稲妻の花。目を灼くような光量だが――それを無視して、シロークはさらに力を籠める。
 炎を纏った刃が――力強く、ツインヘッドドラゴンを切り裂いていく。 
 ズバァァァァァァァァァァァァァァッァアン!
 ボオオオオオオオオオオオオオ!!
 空中で炎上し、真っ二つになるツインヘッドドラゴン。

「――これは凄いですね」

 着るだけで、こんなにあっさりと敵を倒せた。
 シロークが着地して剣を眺めていると、シムラさんが歩いてやってきた。

「お疲れ、着心地はどうだ?」

「そうですね。強い武器を使った方が、効率的です。ただ……着るだけでこの強さですか。おれが剣に費やしてきた時間は、なんだったんでしょうね」

 軽い口調で、やや自嘲気味に言うと――鎧を脱いだシムラさんは、少しだけ嬉しそうに笑った。

「着ただけで強くなった、か。これ以上ない賛辞だが――すぐに分かる。着ただけで強くなれるような、都合のいいスーツなんてこの世に存在しないってな」

 意味深なことを言って、去っていくシムラさん。
 何はともあれ、これで王城前の魔族は、完全制圧だ。
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