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章間なう⑫

鏖と論破と剣

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天川編 3話

「……殿下。発言してもよろしいでしょうか」

「そこまで硬くならないで欲しいんだけど」

 苦笑するブリリアントと、硬い表情のラノールさん。どうぞ、とブリリアントが促し、彼女は一つ礼をする。

「アキラを要所の守りにつかせたり、この前の動乱の際に前線に送り出すことには賛成いたします。しかし、こちらから魔族を殺しに行くのは賛成しかねます」

「理由を聞こうかな」

 笑顔を見せるブリリアント。さっきの雰囲気は霧散し、朗らかな笑顔を浮かべている。

「ありがとうございます。……アキラは、王都動乱で確かに成長しました。しかし、魔族をこちらから殺しに行くというシチュエーションは……心理的な負担はどれほどか測りかねます」

「そうだね。大義があれど、自ら殺しに行くということは辛いだろう」

 頷くブリリアント。それを見て、天川は少しだけ首を傾げた。

「俺たちも奴隷狩りを殺しに行ったりしましたし、今更では無いですか?」

「違う」

 強い口調で否定するラノールさん。

「この指令は『魔族は例外なく殺せ』という意味だ。そいつが何をしていようか――仮に魔族を裏切り、人族のために村人を保護していたりしようが例外なくという意味だ」

  そう言って、ラノールさんは天川を睨む。

「アキラ、泣きながら命乞いをする者も、望まず戦っている者も全て平等に、例外なく殺すということだぞ。優しいお前にそれが出来るか?」

「――――ッ」

  天川は言葉を失う。
  王都動乱で、たしかに天川は人を斬った。生まれて初めて、自らの意思で人を殺した。  彼らを殺さねば、人が死ぬ――という大義名分があったことは否定しない。否定しないが、しかし自分の意思で殺したのだ。  だが、ラノールさんの言葉には……また違った重みを感じる。  例外なく、という言葉に。

「さすが、ラノール君。実際問題、彼らは奴隷の首輪すら解除する個体がいるからね。殺す以外に確実な方法は今のところ、無い」

  笑顔で、簡単に「殺す」と言うブリリアント。その言葉は――どうにも、軽くて無機質だ。  文字に書かれた「死」という印象。 

「俺は……」 

 言葉に詰まる。今まで、悪さをしていない魔族と出会ったことがない。
 そして、思い返すのは塔で戦った魔族……ヒルディ。彼女の手に落ちた自分が悪いとはいえ、殺せなかったせいで被害が拡大するところだった。
 たった一言「妹がいるの」という命乞いで。

「難しく考えないでいいよ。対話せずに殺せばいいだけなんだから。相手の話を聞かなければいいんだから」

 ブリリアントはそう言って無機質な眼で天川を見据える。スッと口が三日月形に開いた。それが――微笑みの形であることに気づくのに、数秒の猶予が必要だった。

「アキラ君。嫌かい?」

 さっきまでは、明るく人の好さそうな笑みだったブリリアント。だというのに今は、もう話が通用する相手に見えない。

(……俺は)

 問われ、少しだけ天川は逡巡する。城から出て、この力を皆のために役立てるチャンスだ。だが、ここで是と言っていいものなのか。
 ジッとこちらを見るブリリアント。天川はその目を見て――息を吸い込んだ。

「……俺は、誰かを泣かせる奴が許せません。皆の涙を止めて笑顔にするためなら、この剣を振るうことに躊躇いは無いです。だから……自分が、誰かを泣かせる側にはなりたくありません」

 言い切る。ブリリアントは表情を変えぬまま、口を開いた。

「じゃあ、どうする?」

 泣きながら命乞いをする者も、望まず戦っている者も全て平等に。
 仮に子どもの魔族が現れたらどうするのか?
 仮に改心した魔族がいたらどうするのか?

 泣きながら命乞いをする者は、実は油断させて洗脳しようとするかもしれない。
 望まず戦っている者も、結局は命令に逆らえずこちらを殺しに来るかもしれない。
 子どもの魔族も、そう見えるだけかもしれない。
 改心した魔族も、改心したフリかもしれない。

(殺さなくちゃいけない理由は――いくらでも、出てくるんだな)

 その一方で。

(……殺したくない理由も、いくらでも出てくる)

 ――天川明綺羅は、どうするのか?
 どう、したいのか?

「敵対している魔族だけ、倒したいです」

 同じことを繰り返してしまう天川。それを聞いたブリリアントも、やはり同じような表情で同じように繰り返した。

「君の主張は理解した。でも、ボクは魔族が危険だと思っている。意識がある限り、油断出来ない種族だと。だから、国内にいる魔族は鏖にした方が良いと思う」

「俺は……戦ったからわかります。あいつらは、怖い。でも、だからって……危険じゃない相手を殺すのは、嫌です」

 直接戦ったブリーダだけじゃない。まるで犬が玩具で遊ぶように、なんとも思わず人を殺す魔族たち。
 彼らは、恐ろしいと思う。
 でも、だからって――天川明綺羅は、思考を止めたくない。

「危険じゃない基準をどう具体的に決める?」

 嫌な質問だ。
 天川がグッと言葉に詰まると、ブリリアントは首を振った。

「言いたくはないけど、友好的な魔族は例が無い。常に他国を狙っているのが魔族だ」

 そう言って、少しだけ声のトーンを落とすブリリアント。

「それでも君は、嫌だと?」

 間髪入れずに頷く。
 戦った結果、相手を殺すことをもう躊躇うことは無い。相手が非道なら、それを咎めるのは笑顔を守る結果になるだろう。
 でも。
 笑顔が失われるようなことを、最初から目的とするわけにはいかない。
 天川明綺羅が、天川明綺羅でいるために。

「……そうか、残念だ。うーん、結構しんどいというか……それだと、困るんだけど。でも、君が嫌がるなら仕方ないなぁ……じゃあ、条件を付けようと思うんだけど、いいかな」

 条件。
 天川がゴクッと生唾を呑んだところで――呼心がスッと手を挙げた。

「あのー、ちょっと話していいですか?」

「いいよ?」

 さっきまでの美術品のような表情を消して、人間味のある笑みに戻るブリリアント。それでも、堂々とした雰囲気は――本当に、王子なのだと感じさせられる。
 人の上に立つ男。それがよく分かる。
 そんな彼に呼心は、なんの躊躇いもなく口を開いた。

「なんでブリリアント王子が条件を出すんですか? そっちは頼みごとをしている立場ですよね」

 ……………………。
 ………………。

「あの、呼心?」

「お、おいココロ!」

 ラノールさんが呼心を止めようとしたか、立ち上がる。しかしそれをまるっきり無視して、呼心はまくしたてる。

「取引しに来たって言ってましたよね。でも、そっちが出す報酬って『異世界人の保護』だけですか? それなのに、明綺羅君にガンガン魔族を殺せ、それもマシーンのように? あの、私たちのこと舐めてません?」

 口振りに、若干の怒りと憎しみがこもっている。

「怒るよ、そりゃ。なんで明綺羅君に圧をかけてるのか分からないもん。確かに、異世界人の保護をしてくれることは嬉しい。嬉しいけど……だからって、全部殺せって無茶じゃん! なんかこう……無理でしょそんなの! めっちゃ広いよ、この国!」

 言われてみれば、そもそも全部殺せって……国の広さを考慮してなかった。確かに、この国は広い。
 そんな呼心の剣幕に押されたか、ブリリアントがちょっと変な表情になって手を挙げる。

「保護って、十分な条件じゃない?」

「不十分です。私たちが勇者派を作ることに異論は無いんですよね。なら、最終的に他の皆の保護なんて、自力で出来るようになりますよ」

 それは、どうだろうか。彼らが城を離れたくないことが拗れている理由の最大のポイントなのだから。
 しかし呼心は、それについては一切触れずに言葉を続ける。

「貴族は確かに貴方の言うことを聞くんでしょうけど、AGや商会ならば、権力に屈さない人なんていくらでもいそうですし。そして、私たちは一切権力の言うことを聞かなそうなAGに心当たりがあります」

 そう言った呼心は、むんと腕を組んだ。

「明綺羅君に人を殺させまくるくらいなら、清田君に頭を下げた方がマシです。彼のことは好きか嫌いかで言えば、最近は若干嫌いに傾いてますけど……でも、明綺羅君のことを守るためなら、いくらでも頭を下げます」

 どう見ても他人に頭を下げるように見えない態度で、ブリリアントを睨みつける呼心。ブリリアントは彼女のその態度を見て、ニヤッと笑みを作った。

「キヨタって……あの『流星』だよね」

「はい。たぶんこの世界で一番、真っ当な取引が通じない人です。気に入るか気に入らないか、以外の基準が存在しません。そして、たぶん『魔族というだけで皆殺し』は、清田君は気に入らないと思います」

 呼心は清田とそんなに交流があるわけではないが――それでも、清田の奥さんたちとはよく電話している。彼の人となりは、それなりに把握しているのだろう。
 そして、彼の好き嫌いに関しては天川も同意見だ。

「……ティアーの入れ知恵?」

「わたくしの入れ知恵なら、あのキヨタという男に頭を下げるなんて選択肢は出ませんわ」

 そういえば、彼女と清田は相性が悪かった。

「強気だね」

「明綺羅君がいなかったら、この街は滅んでたかもしれないのに、よく条件なんて出せるなって思います。むしろ頭を下げて泣きながら感謝してもいいはずです」

 かなりズケズケ言う呼心。最後のセリフは不敬罪になるんじゃなかろうか。
 そんな彼女を見て――ブリリアントは、いきなり笑い出した。

「あっはっはっはっは! ティアー! 君の言った通りだったね!」

「わたくしも――カインドお兄様も止めたじゃありませんか」

 ティアー王女がそう言った瞬間、カインドがぬっと彼の中から出てくる。

「そもそも、お前が言い出したんだろう。『流星』が勇者の側についたら、交渉が成り立たなくなるから、それを彼らに思い出させないようにしたい、と。脅せばこうなる」

「んー、いやいや。この程度の交渉事はティアーがいなくても彼らだけでこなしてくれないと、いつの間にか勇者派が乗っ取られる――ってこともあるかもしれないからね。試しただけだよ、うん」

 パァン! と自分の頬を張るブリリアント。ギョッとしていると、ブリリアントは机を叩いて立ち上がった。

「い、痛いなカインド! なにするのさ!」

「そういう試すような真似をやめろと言っているんだ!」

 かなりの怒気を含んだカインドの声。ブリリアントは数秒、立ったまま天井を見上げて……大きなため息をついた。

「わ、分かったよ、カインド。はぁー、まったく、生意気な弟だ」

「出来の悪い兄を持つと苦労するんだ」

 ……あの二人って、一応兄弟関係なんだ。

「ブリリアント王子が言ってることって、情報が拡散しないように少数精鋭で、国内に魔族の被害が出る前に、魔族を倒して食い止めて欲しいってことですよね」

 呼心が確認するように問うと、こくんと頷いた。

「概ね、そうだね。まぁそこは苛烈に行かず、妥協しよう」

 妥協、という言葉を使うブリリアント。その上で、笑みを浮かべた。

「既に被害を出した魔族であれば、無条件に殺して欲しいけど……そこの判断は君たちに委ねる。ただ、国内に野放しにすることは認められない。それは、絶対だ」 

 野放し、という部分には強い意志を感じる。
 為政者として、譲れない部分なのだろう。

「……送り返す、もしくは捕虜にする場合のコストを援助して貰えませんか。いずれは、勇者派で賄います」

「んー……体面の問題があるから、コストを表立って援助することは出来ないね。表立って、は。どうにかしよう」

 表立っては、という所を強調するブリリアント。
 ただし、と彼は言葉を続けた。

「全員殺さず、ってのは勘弁して欲しい。魔族側にも極力バレないように行動して欲しいからね。だからよほどのことが無い限りは、殺さない場合は捕虜という形にして欲しい」

「明綺羅君、どう?」

 話を振られて、天川は少しだけ考える。

「子どもや非戦闘員でも……ですか?」

「うーん……大人は、原則捕虜でお願いしたいかな」

 そこまで言ったブリリアントは、笑みを浮かべる。

「他には?」 

 今は特に思いつかない。呼心も少し考えたうえで……「思いついたら加えてもいいですか?」と濁した。

「いいだろう。それじゃあ――魔族は鏖にではなく、ケースバイケースで対応する。ただし、絶対に野放しにはしない。殺さない場合は、極力捕虜とする。それでいいかい?」

 ブリリアントのセリフに、天川達は頷く。それを見た彼も、満足したように頷いて、扉の方を見た。
 ガチャ。
 そこに現れたのは、騎士団派の筆頭にして、国防の分野に強い影響力を持つマイギル家の当主。
 オーモーネル大臣だ。

「大臣が……何故、ここに?」

「ボクが呼んだ。君を魔族の討伐に向かわせるにあたって――彼から、少しだけお願いをされたからね」

「殿下。私の越権である願いをお聞き入れいただき、深く感謝いたします」

 大きく頭を下げるオーモーネル大臣。ブリリアントはそんな彼に笑みを見せてから、ラノールさんに視線を向けた。

「この作戦の成功率を高めるためには、最高の戦力を投入する必要がある。だから――ラノール・エッジウッド。君に騎士団の一員として――アキラ君と共に戦いに行って欲しい」

 ラノールさんが目を見開く。

「それがオーモーネル君の望みの一つでもあってね。君の方から説明してくれるかな、オーモーネル君」 

「はっ」

 スッと一礼したオーモーネル大臣は、コホンと咳払いする。

「以前も言った通り、この国を守るのは騎士団だ。それは十年後も、二十年後も変わらない。今、ポッと出た強者に縋るのはおかしい話だ」 

 そしてジロリと眼光を鋭くして、天川を睨みつけた。

「勇者だから、貴様だから私は批判しているのではない。過去から現在、そして未来に渡って民を守り続ける組織が大切で――民には、そのことに安心感を持って欲しいだけだ」

 安心感。
 彼の言葉に――自嘲が感じられるのは何故だろうか。

「ラノール団長。君はこの国最高の騎士だ。歴代の騎士団長と比べても、君より強い者がどれだけいるか。……少なくとも、歴代最弱と言われた、私の父とは比べ物にならないだろう」 

 だが、と言葉を切るオーモーネル大臣。

「敵の強化があまりにも急過ぎた。百年後もこの国を守れる騎士団を、すぐにでも再構築せねばならない。それでも、今奴らの軍勢に対抗出来る術は無い。 だからこそまずは、少しでも民を守るために――騎士団の最高戦力として、魔族の殲滅に力を入れて欲しい」 

 民を守るために。オーモーネル大臣が強調して言うそのセリフ。彼にとって譲れないものであるということが伝わってくる。

「だからこそ、騎士である君が――この国を守って欲しい。そう思って、私は陛下に願わせていただいた」 

「し、しかし……私がいなくて、誰が団長をやるのですか?」

 ラノールさんは困惑したように口を開く。誰よりも強い彼女だからこそ、軍の最高戦力として騎士団長の座にいるのだ。
 しかしオーモーネル大臣は少しだけ口の端を吊り上げる。それが笑みであることに、一瞬気づけなかった。

「それは今から決めるが、どうにかなる。だから安心して、君の愛する男の傍にいてやれ」

「…………………………………………は?」

 いきなり話が飛んだことで、ラノールさんが間の抜けた声を出した。ぽかんと口を開けて、さっきまで握っていた拳は行き場をなくしてゆらゆらしている。

「私は、民が騎士団によって守られているということを実感してもらえるならそれでいい。今までと違って倒すべき敵も目的も明確だからな。私の出す条件を呑むならば、邪魔する必要は無いという結論だ」

「い、いえそうではなく」 

「愛する、の方か? 君もいい加減身を固めたまえ。エッジウッド家の跡継ぎが生まれない方が問題だ。あと、君が誰を好きかなんて城中の全員が知っている」

「な、な、な……っ!」

「…………………………待て。君はもしかして、隠しているつもり……だった、のか? いや、冗談だろう? まさかそんなはず……あ、いや。コホン」

 ラノールさんの表情を見て何か察したのか、オーモーネル大臣は咳払いをすると天川の方を振り向いた。

「後は頼んだぞ」

「ちょっと待ってください。決め顔でそんなこと言われましても!?」

「安心しろ。……実績さえ積めば、何人妻を娶ろうと誰も文句は言わん」

「そういうこと言っているんじゃなくて!?」

 あれだけ敵対的だったはずなのに――天川達の邪魔をすることに拘っていたのではないのか。
 唐突なキャラ変更に天川が混乱していると、ティアー王女がパンパンと手を打った。 

「それで、オーモーネル大臣。条件とは?」

「ああ、そうだったな。私が殿下に請託したことは 二つだ。魔族退治は、勇者だけの功績ではなく騎士団と勇者の功績とすること。そして、先の王都動乱で回収した新造神器の一つを、騎士団の管理下に置くことだ」

 騎士団と勇者の功績とするために、ラノールさんを帯同させて欲しいと言ったのだろう。
 そして新造神器は――

「確か、二本とも志村に解析を頼んでいるんじゃありませんでしたか」

「あ、ああ。一本、彼に贈呈する形でな」

「だが、騎士団であるラノールが鹵獲したものだ。よって、騎士団の管理下に置くことは当然だろう」

 断言するオーモーネル大臣。依頼を反故にしているが、それはいいんだろうか。
 しかし、ブリリアントの方もそれには賛成のようだ。

「とはいえ、普通に言ってもダメだろうしね。その辺の交渉はボクに任せてほしい」

 自信ありげに笑うブリリアント。彼の笑みには、なんとも底知れぬ恐ろしさを感じる。

「それに、新造神器があれば仮にAランクでもSランク並みの力が使えるのだろう? であれば、団長に選任するときの戦闘力の基準がグッと下がる。是非とも、うちで使えるようにしたい」

 オーモーネル大臣はそう言って目に炎を燃やす。野心の炎なのだろうが、権力欲はあまり感じない。本当に、国のためを想っていることが伝わってくる。
 少なくとも、騎士団派の筆頭である彼は。

「だからラノール・エッジウッド。もう少ししたら、新しい騎士団を設置しようと思う。そこの団長として、アキラ君を助けてあげて欲しい」 

「……はい。かしこまりました」

 王子様に言われては何も反論できないのか、それとも城中の人に自分の意中の人がバレていたことにショックを受けたのか、憔悴した感じで頷くラノールさん。
 ……今夜は、彼女のことを慰めてあげよう。

「……あ、あの、明綺羅君。私、全然状況が読めないんですけど……外に出れるってことでいいんですか?」

 桔梗が後ろから問うてくるので、天川はこくんと頷く。

「たぶん。それも、ラノールさんもしっかりついてきてくれるみたいだ」

「わぁ、頼もしいですね」

「実際問題、私たちって戦い始めて一年の子どもだしね。……それに敵国の工作員を駆逐しろって、正気の沙汰じゃないよね」 

 呼心がげんなりした表情で吐き捨てる。言われてみれば、ラノールさんがいなかったらアンダー十八で旅をすることになっていたのか。

「まぁ、ライバルが増えることも問題だけど。いやお妾さんは三人までOKって言ったけど、これ三人どころじゃ無さそうだし……」

 ぽつっと呟く呼心。そんな彼女を見て、天川はふと清田の顔を思い出す。

(……あいつも、女の子たちのこんな顔を見て、ハーレムを作ろうと決心したのかもな)

 ブリリアントは立ち上がると、うんと背伸びをした。

「他のメンツは、別途話し合おう。それでメンタルやられたら、女の子に癒してもらうか、カインドの治療を受けるかすれば問題ないでしょ」

「メンタルケアが前提の旅ですか……」

「そりゃね。さて、こちらからの要求は以上だ。次はシムラって子と取り次いで貰った後にでも。オーモーネル大臣、行こうか」 

「はっ」

 そう言ってブリリアントは、コーヒーを一気に飲み干す。軽くストレッチして、オーモーネル大臣と共に部屋から出ていってしまった。
 なんだか、大変なことになってきたぞ。
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