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章間なう⑪

番外編 王様ゲーム? なう 前編

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*季節外れで申し訳ない*



「あけましておめでとうございます」

「「「「「「おめでとうございます」」」」」」

 新年。
 今年は旅行とか無しでまったりしようという話だったので、俺たちは何日か分の食料を買い込んで、自宅でのんびりしていた。

「去年は色々あったけど、今年もよろしく。というわけで、かんぱーい」

「「「「「「かんぱーい」」」」」」

 かちん、と小さなグラスをつける。こちらの世界には御屠蘇は無いので、代わりにそれっぽい米から作られたお酒を用意した。
 くいっとグラスを傾けると、灼けるような熱さが喉を通る。この感覚は果実酒やワイン系統では味わえない、独特なものだね。というか、度数低いのにしたはずなのに結構アルコールを感じるなこれ。
 サリルと飲んだ焼酎も美味しかったけど、単体で飲むならこっちの方が好きだな。

「そういえば、ティアールのところの使いの人が来るのっていつだっけ」

「明後日じゃありませんでしたー? まぁ、商会の人はこの時期大変そうですねー。挨拶に行ったり、そもそも書き入れ時らしいですし」

 どの世界も社会人は大変だ。いや俺も学生じゃない以上社会人なんだろうけどさ。 

「ごはん、美味しい」

 皆でまったりとテーブルを囲む。本当はこたつが良かったんだけど、あっちだと料理を置ききれないからね。

「そういえばキョウ君、なんかさっき商店街でくじ引きしてませんでした?」

 ご飯を食べながら、ふとマリルがそんなことを言う。そういえば、そんなのもあったね。

「ちょっと待ってて、取って来るよ」

 どの世界でもお正月というのはおめでたいもので、商店街も大分盛り上がっていた。お正月フェア的なものの一環で、福引を引いたのだ。
 俺は一旦席を立ち、自室に置いておいた福引の景品を取りに行く。

「おー、なんというか、大きな袋デスねー」

 白いニーハイソックスを履いた足を投げ出してだらーんと椅子に座るシュリーが、にへーっと笑いながら目を輝かせる。今日は珍しく、ロングスカートじゃなくて膝丈スカートなんだよね。

「えーと、中は……洗剤と、小麦粉……んで、これなんだろう」

 吸い寄せられそうになった目を何とか福引袋に戻し、中身を確認する。商店街の福引なので大したものは期待していなかったけど……一個だけ、何か分からないものが入っていた。
 十本の数字が書かれた棒と、変わった形のコマ。これが一つの小袋に入っている。何となく、テーブルゲームの道具っぽいけど……。

「マリル、これ何か知ってる?」

 餅をみょーんとしているマリルに訊いてみると、彼女は少しだけパッと顔を明るくした。

「あー、懐かしいですねー。飲み屋でよくやりましたよー」

「飲み屋?」

 テーブルゲームと飲み屋が繋がらなくて俺が頭にクエスチョンマークを浮かべていると、マリルが苦笑しながらコマと棒を取った。

「これはクイーンルーレットって言うんですよー」

「初めて聞く名前だな。ゲームか何かなのか?」

「そうですよー」

 マリルはそう言いながら、小袋の中身をテーブルに取り出す。

「簡単なゲームなんですよー。飲み屋とかだけじゃなくても、友人同士でやるとなかなか面白いんですよねー。まず、棒をこうやって引いて、番号を隠しますー」

 そう言って棒を抜き取り、手で隠すマリル。今度はコマをもつと、ヒュッと指で回した。クルクルと回り、こてんとコマが倒れ、軸に書かれていた矢印がマリルの方に向いた。

「こんな風にコマの矢印が向いた人が『クイーン』になって、命令を出すんですよー。『○番が○番に〇〇をする』っていう風に。それを繰り返して行って、命令を完遂出来なかったり、もしくはやりたくなくてリタイアした人が罰ゲームって感じですねー」

「あれ、それだとクイーンは自分の番号が分からなくない?」

 美沙の問いに、ニヤッと笑うマリル。

「それがこのゲームのミソなんですよー。自分が命令を受ける側になるかもしれないし、そうでないかもしれない。そうなると、命令の内容もおのずと考えなくちゃならなくなるんですよねー」

 なるほど……つまり王様が巻き込まれる可能性がある『王様ゲーム』ってことか。命令そのもので盛り上がってもいいし、罰ゲームを考慮してゲームとして真剣にやってもそこそこ楽しそうだ。
 真面目にゲームをするなら、自分にダメージは無いけど周囲の人にダメージがあるような命令をしておいて、他の人のリタイアを誘うって感じなのかな。

「罰ゲームは……飲み屋とかなら一気飲みとか、友達同士でやるなら筋トレさせたりとかでしたねー。くじはその場で作れますし、クイーンを決める方法もコマじゃなくてもいいので、どこでも手軽に何人でも出来るゲームなんですよー」

 ああ、確かにクイーン自体はじゃんけんで決めてもいいわけだしね。恐らく各地にローカルルールが大量に出来てるであろうゲームだな。

「人族はクイーンルーレットと言うのですね。我々はキングスマンダイスと呼んでいました」

 リャンがコマを見ながらそんなことを言う。単純なルールだし、人族だけじゃなくて獣人族も同じゲームがあるのか。

「コマの代わりにダイスを使ったの?」

「ええ。とはいえ、キングを決める方法なんて何でもよかったんですが」

「私たちで言うなら王様ゲームか」

「アレよりもゲームとして勝ち負けがある点で、こっちの方がちょっと面白そうだね」

 美沙がそう言いながら、コマを回す。またマリルの方で止まり、矢印が彼女の方を向いた。

「じゃ、せっかくだしやろっか! 罰ゲーム付きで!」

「言うと思った。でも俺は良いよ」

 自分も罰ゲームを受ける可能性がある以上、無茶な命令は出来ない。彼女らとやっても俺が大慌てするような展開にはならないだろう。

「いいですねー、じゃあ物置部屋にある割れたお皿をゴミ捨て場まで出しに行く罰ゲームにしましょうかー」

 しれっと地味に嫌な罰ゲームを提案するマリル。そういえば大掃除の時に出たごみ、まだ捨ててないって言ってたもんね。
 ゴミ捨て場はここから地味に遠い、五分くらいするところにある。物置部屋は寒いし、割れた皿もそれなりの数あった。
 うん、やりたくはないね。

「この寒い中、外に出るんですか……」

「ヨホホ、地味に嫌な罰ゲームを選びますデスねぇ……」

 寒さに強そうな獣人族の二人が頬を引きつらせる。……獣人族って言っても、別にモフモフしてるわけじゃないから寒さに強いってわけじゃないのか。
 俺はそんなことを思いつつ、棒を入れるために箸立てを持ってくる。

「これで準備良し」

 王様ゲームっていうのは、王様が絶対の安全圏から命令出来るが故に戦略性も無く、ただただ盛り上がるための宴会ゲームにしかならない。
 しかし自分も被害者になる可能性があるこのゲームならば、変な命令を出すことは出来ず絶妙なラインを迫られる。全員が素面なら、駆け引きも楽しめるだろう。
 俺はそう思いながら箸立てを真ん中に置き、そこに棒を七本突っ込んだ。

「キアラもやるでしょ?」

「妾はお主らがやっているのを見ておる。そっちの方が面白そうぢゃしのぅ」

 ぐびぐびとお酒を飲みながらこたつスペースに移動するキアラ。相変わらずののん兵衛だが、この手のゲームに参加しないのは珍しい。

「そ。皆はどうする?」

 俺は七番の棒を抜いて皆に問うが、やる気満々でテーブルに着いている。お正月に皆でアナログゲームをするのも乙なものだよね。

「じゃあ、最初は雰囲気を掴むために私がクイーンをやりますねー。さっきコマの矢印もこっちを向きましたしー。じゃ、皆さん棒を引いてくださいー」

  ちゃら、と箸立てをこちらに向けてくるマリル。俺は棒を引き――つい番号を見そうになって、慌てて手で隠した。

「キョウ君、今番号見ませんでしたー?」

「ギリギリセーフ。見てないよ」

「そうですかー。それじゃあ、ルールをもう少し詳しく説明しますねー。命令は『〇番が、○番に〇〇をする』っていう形だけですー。○番が○〇をする、だけじゃダメですねー。あくまで、誰かが誰かに何かをする、されるって形式ですー」

 なるほど。その辺は飲み会ゲームの延長線上にあるって感じがするね。見てるだけの人がなるべく少なくなるようにという配慮だろう。

「ちなみに『する』方のリタイアは認められないですー。あくまで『される』側にだけリタイアは認められますー」

 まぁ、これは際どい命令をする側が断ってたらゲームとしてつまらないから出来たルールなのかな。

「される側もする側も何人でも構いませんが―、する、されるの形式は守ってくださいー。あと、物理的に不可能な命令も禁止ですー。例えば、千メートルの高さから落とすとかー」

「出来るけど?」

「今、私は人間の基準で喋ってますのでー」

 しれっと人間の基準から外されてしまった。
 マリルはその後も細々とした説明を行い(棒を引く順番とか、コマの止まった位置が微妙だった時の判断とか)、いよいよゲームスタートとあいなった。

「じゃ、そんな感じですねー。じゃあ番号を伏せたまま命令いきますよー。まずはそうですねー……四番が三番の腰を揉む! ってのはどうでしょうかー。最初ですしー、やりやすいお題でー」

 腰を揉む、か。
 それはマッサージ的な感じと考えていいんだろうか。なるほど確かにあまり性的じゃないし、する側もされる側もいきなりリタイアしそうになく、雰囲気は感じられるいいお題なんじゃなかろうか。
 俺はそう思いながら、自分の番号を確認し――

「…………四番」

「あ、マスターが四番ですか」

 ――なんで一発目から引くかな俺は。
 苦笑しつつ、少し嬉しそうなリャンと目を合わせる。そうか、腰を揉むのか……。
 俺は少しだけ考えてから、ちょいちょいと彼女に手招きする。

「え? マスター?」

「せっかくだしマッサージしてあげるよ。おいで」

 リャンはぱぁっと頬を綻ばせ、ぐるっと冬子たちの方を振り向いた。ふふんとちょっとドヤ顔も添えて。

「………………皆さん、お先に」

「ちょっ、キョウ君!? ちょっとこう、ムニッとすればいいんですよ!?」

「そ、そうだぞ京助! 別にそんなサービスする必要なんて無いだろう!」

「京助君! それなら私の肩揉んでよ! 胸が重くてこってこって仕方がな――ずごっく!」

 横から冬子にぶん殴られる美沙。あいつらいっつもイチャイチャしてるな。
 頬を赤らめ、しゃなりしゃなりと歩いてきたリャンは……ころん、と妙に艶めかしくソファにうつ伏せに寝転んだ。 
 いつ見ても綺麗なブロンドヘア、そこからひょっこり伸びる可愛いケモミミ。バランスの取れたスタイル、ヒップラインからすらっと伸びる長い足。何というか、この中で一番『スタイルが良い』って言葉がしっくりくるよね。

「マスター。……お願いします」

「はーい」

 俺はゆっくりと腰に手を当てる。こっているような感じはしないけれど、少し筋肉が張っているかもしれない。大みそかにかけて、大掃除とか結構やったしね。
 親指に力を入れて、ギュッと指圧。弾力がある筋肉を包む無駄の無い脂肪に、俺の指が沈み込んだ。

「んっ」

 ピクッ、と耳を微かに動かすリャン。

「ぁっ、んぅっ、ぁんっ」

 俺が指に力を入れる度、切なそうな吐息を洩らす。…………ただ普通にマッサージしているだけなんだから、そんな変な声を出さないで欲しい。

「ひぅ、んっ……あんっ、あ、マスター。もう少し下の方も……」

 うっとりと、潤んだ目でこちらを向くリャン。心なしか、吐息がだんだん艶めかしくなっていっているような……。

「あんっ、ぅん、あっ、いぅ……んっ」

「あ、痛かった?」

 ビクッと体を跳ねさせたリャンに問うと、彼女はフルフルと首を振ってからしなを作った。

「いえ、大丈夫ですので、もう少し強くお願いしてもよろしいですか?」

 頬を赤らめた彼女の表情を見て、俺の心臓がドクッと跳ねる。俺は一回深呼吸して、もう一度指に力を込めた。

「こんな感じ?」 

 そう言って少し力を籠めると、彼女が着ている服のせいで指が滑ってしまった。それに気づいたリャンが、少しだけ微笑むと自分の服に手をかけ――

「マスター、出来れば直接――」

「いやどこまでやるつもりなんだ!?」

「ピアちゃんの番は終わり、終わり!」

「うう……なんでただ腰を揉むだけでこんないい雰囲気になってるんですかー! ピアちゃんは、取り敢えずソファから立ってくださいー! 次のゲームやりますよー!」

 三人がソファに雪崩れ込み、リャンが潰される。確かに、一個の罰ゲームに時間を使い過ぎただろうか。
 俺は自分の分の棒を箸立てに戻し、自分の席に着く。

「ほら、もっとテンポよく行くよ! はい、京助君引いて!」

「はーい」

 というわけで二回戦。今度はちゃんとコマを回そうということでリャンが回し(命令を受けた人が次のコマを回すらしい)、その先が冬子に向けて止まった。

「む、私か。……ふむそうだな」

 冬子はチラッとリャンとシュリーを見てから……ニヤッと少し悪戯っぽい笑みを浮かべた。

「そういえば、獣人族は耳を触られるのはまだしも揉まれるのはこそばゆいどころじゃないとか」

 バッ、と自分のケモミミを隠すリャンとシュリー。そういえば、触ったりモフったりは許されるけど、揉んだら威嚇されたことあったっけ。
 モフると揉むの違いが俺には分からなかったけど。

「このゲームは、特定の人に刺さる罰ゲームをするのが定石のはず! というわけで、二番が六番の耳を揉む!」

 高らかに宣言する冬子。まさか二回連続ということも無いだろうと思いつつ、俺は自分の数字をチェックし……

「あらー、トーコちゃん、残念でしたねー。六番ですー」

「むっ……。くっ、残念。人族じゃ関係無いか……二番は誰だ?」

 俺はもう一度、数字をチェックする。
 …………。

「冬子、俺の目が変になったみたい。二って書いてあるように見えるんだ」

「えっ、きょ、キョウ君ですか」

 声をやや裏返すマリル。恥ずかしさと嬉しさが入り混じったような、珍妙な笑いを浮かべている。
 そういえば、人の耳を触ったりするってあんまり無いな……。 

「さっきは時間かかっちゃったし、さっさと済まそうか」

「そ、そうですねー」

 俺はマリルの背後に回り、彼女の耳を揉もうと手を伸ばしたところで――サッ、とマリルが自分の手でうなじを隠した。

「あ、あのキョウ君……その、最近、ちょっとバタバタしてて、あの……」

「へ?」

「あ、あんまり見ないでくださいね、うなじ……」

 顔を赤くし、照れたように笑うマリル。やや半開きの口が、いつもは割と大人っぽいマリルにしては妙に子どもらしくて――

「あ、えっと、うん」

 ――俺は、彼女から目を逸らし、優しく耳を掴んだ。むにゅん、と柔らかいような硬いような変な感覚を覚え、そのままムニムニと耳を揉む。
 数秒、そうしたところで手を離す。マリルは何故か耳を真っ赤にしており、亀みたいに首をすくめていた。
 俺は一歩離れようとしたところで、ついマリルのうなじが目に入る。なんで恥ずかしがっていたのか分からないけど、ボブカットの間から見えるうなじはすらっとしており、妙にセクシーで……

「あ、ほくろ」

「~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~!?!!?! きょ、キョウ君!? ちょっ、どこ見てるんですか!?」

「えっ?」

 うなじと肩の境界くらいに、小さめのほくろを見つけたのでつい口に出すと……さっきまでとは比にならない程顔を真っ赤にしたマリルが、俺の胸板をぽかぽかと叩いてきた。

「キョウ君! じょ、女性に対して言ってはならないことを言いましたね!」

「な、なんでさ」

「なんででもです! あー、もう! なんで私だけこんな罰ゲームみたいな、こんな……うう……! 次、次行きますよ!」

 バン! とマリルが机をたたいて棒を回収する。なんというか、まさかほくろの位置を指摘しただけで怒られると思ってなかった。

(まだまだ女性について分からないことが多いねぇ)


 というわけで、後編に続く。
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