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第十一章 先へ、なう
280話 VSスカルティラノなう
しおりを挟む冬子は刀を、ピアはナイフを構えてスカルティラノに走っていく。その後ろからベルライズがズシンズシンとついてきた。
ありがたいし、味方だと分かっているが――どう見ても魔物なベルライズが後ろからついてくるのは結構怖い。
『グオオオオギャオアァァァオオオオオオン!』
咆哮と同時に上体を起こし、地面をぶっ叩くスカルティラノ。ビリビリと空間が揺れ、衝撃で冬子の体が浮きそうになる。
「行きます!」
ドッ! 地面を蹴り、跳躍するピア。ベルライズを足場にしてさらに高度を上げた。
落下する速度を加えた突きがスカルティラノの脳天に直撃する。彼女の全体重を賭けた一撃は、しかし一切のヒビを入れることなくはじき返されてしまった。
転んでもただでは起きないピアは腕に蜘蛛糸を巻き付ける。そこにリューの炎が合わさり、右腕の関節がメラメラと燃え出した。
「ナイスだ! はぁぁぁ! 『刀剣乱舞』! 『|刃逐ノ勢(はちくのいきおい)』!」
ヴン……と刀に蒼いオーラが。踏み込み、スカルティラノの足に――十字斬、突きの三連撃を殆ど同時に叩き込む。
キキキン! と金属と金属がぶつかり合うような音が響く。しかし傷一つつかない。本当に硬い、刀を新調してなかったらマズかったかもしれない。
……何故、刀とぶつかり合って金属音が鳴るのか。不思議に思ったが、今はそれどころじゃない。頭を切り替えて敵を睨む。
『グオオオオオオオオオン!』
薙ぎ払われる爪――しかしベルライズがそれを受け止める。そのまま三本の腕でスカルティラノをパンチするが、スカルティラノの膂力はすさまじい。むしろベルライズを押し返してしまった。
舌打ちを一つ。しかし冬子はベルライズが攻撃を受け止めている間に、さらに連撃を重ねていく。
「うおおおおお! 『|刃逐ノ勢(はちくのいきおい)』! 『|刃逐ノ勢(はちくのいきおい)』!」
ギギギン! ギギギン!
まったく同じところを攻撃するが……やはり傷が一つもついていない。しかしこれはあくまで布石。
|刃逐ノ勢(はちくのいきおい)は三連続攻撃。それを三発撃ったということは――
「合計九連撃! 次で十発目! 『刀剣乱舞』のバフが最大だ! 喰らえ!」
――スカルティラノの振り下ろしを躱すためにサイドステップ。ベルライズが放った六本腕パンチ、リューの炎爆弾と絡みつく炎でスカルティラノはバランスを崩した。
『グオオオオオオオオオ!?』
超速で背後に回り、バランスを崩して背中から倒れこもうとしているスカルティラノの下に回り込む。
スカルティラノの倒れこむ勢いをプラスして――冬子の最大火力を叩き込む!
「『昇竜煌刃』! プラス、スコルパイダーインパクトォォォォォォォ!」
ギュガッッッッッッッッッッッッッッッッ!!!!
煌く蒼い竜が、黄色い三日月の刃を咥えてスカルティラノの背面に突き刺さる。『刀剣乱舞』のバフが乗った冬子の最大の一撃は、尋常じゃない轟音と、眩い光を放ってスカルティラノを吹き飛ばした。
「流石トーコ!」
キレイな弧を描いて吹っ飛ぶスカルティラノだが――
「……くっ」
――ジンジンと、手が痺れる。浅い、どころじゃない。刃が通っていない、傷ひとつ付いてないのが分かる。
なんという硬さ――まるで鋼鉄だ。
「私の最大火力をあんなにあっさり受け止められると……流石に凹むな」
空中で二度ほど回転して着地するスカルティラノ。怒っているのか、無意味に地面をドスドスと叩いている。
「当てどころがマズかったのかもな」
背中は、生物で一番防御力が高いと言う。筋肉が多く、重要臓器から遠いから。まぁ、あの化け物に筋肉や臓器があるのかは知らないが。
生物として弱いのは、関節や口腔内。弱点に攻撃すればまた違った結果が得られるだろう。
まだ諦めるような時間でも、慌てるような時間でも無い――長く息を吐いて、再びスカルティラノを睨みつけた。
「ピア! 全身に攻撃して、どこか柔らかいところが無いか探すぞ!」
「承知しましたが……トーコ、体力は大丈夫ですか?」
「ああ。攻撃の瞬間とか、防御の瞬間とかに集中して魂をオンオフするようにしている。前よりは少し長く戦えるはずだ」
「であればいいのですが……無理しないよう、って、アレは!」
ザァァァァァァァアァァァァァァァ!
津波――そう表現するしかないような、真っ青な氷が空に地面を作り出した。ベルライズを連れ、美沙がその波を滑ってスカルティラノに近づいていっているでは無いか。
「美沙!」
「交代……少し、休んで、て……!」
美沙はスケート靴のようなブレードをブーツから出して、それで滑っているらしい。氷の刃を周囲に生み出し、スカルティラノに向かった雨あられのように撃ち出した。
「あんな真似して魔力がもつのか……!?」
「ヨホホ、ちょっと怪しいデスね」
リューが背後から現れ、体力回復薬を冬子に渡してくれる。ぐびっと喉に流し込むが、やはりえぐみが凄まじい。
「ほんと、この味さえどうにかなれば……って言ってる場合じゃないな。美沙を援護だ!」
「そうデスね! 唸れ! 『縛炎蛇焔』!」
リューの放った魔法は腕に絡みついていた炎をさらに広げ、右腕を縛り付ける。スカルティラノは熱さからか、ブンブンと腕を振り回して大暴れしだした。
『グオオオ! グオオァァァァ!』
地面に何度も叩きつけ、魔法を振り払おうとするスカルティラノ。だがその様子はダメージを受けているというよりは、鬱陶しい虫を払うような仕草だ。
「普通、腕が燃えたら少しくらい動きが鈍るモノなんデスけどね……! 硬いっていうか、防御力が異様に高いデス!」
「でも隙は出来た……! 今、の……うちに……! 『アイスブレード』!」
ドドドドドドドドド……!
三百六十度、どこもかしこも氷の刃を当てる美沙だが、やはり攻撃が通った様子は無い。スカルティラノは鬱陶しかったのか、パンチを当ててくるベルライズを振り払って、美沙の足場を破壊しようと跳躍した!
「ミサ! 跳んでください!」
「うーっ……! もうっ!」
『グオオオオオオオオオ!』
ガシャァァン……と弾ける氷の波だが、美沙も負けていない。地面から氷柱を作り出してその上にヒーロー着地。同時にピッとリューが燃やしていた方の腕に杖を向ける。
「『霜の力よ! 氷結者の美沙が命令する! この世の理に背き、世界を止める氷結を! フリージングアットモーメント』!」
キラキラ……とダイヤモンドダストが漂う。同時にスカルティラノの右腕が凍り、その動きを封じ込めた。
よし――と思ったのもつかの間、腕を振り上げ、凍った個所を地面にぶつけるスカルティラノ。グシャアアアン! と氷が砕け、そのまま怒りに満ちた瞳で爪を構えた。
「ベルライズ!」
ガギン! とスカルティラノの攻撃を受け止めるベルライズ。
「美沙、大丈夫か!」
氷柱の上にいる美沙に叫ぶと、彼女はこちらを見ずにコクリと頷いた。一先ずダメージは無いらしい。
「ヨホホ! 『大いなる恵みの力よ、魔法使いリリリュリーが命令する、この世の理に背き、我が眼前の敵を貫き焦がす、轟炎の牡牛を! ブレイズ・ブル・ストライク』!」
ギュイン……!
リューの杖から炎の雄牛が現れた。それは意思を持っているかのように空に吠え、右腕に向かって突進していく。
「行けデス!」
回転しながらスカルティラノの腕に激突。ジュワァァァァアアアアア! と空気が灼ける音と共に、スカルティラノの右腕が赤熱する。
効いたか――と思う間も無い。間髪入れずに美沙がベルライズを操ってぶん殴った。
『グオオオオオオオオオン!?!?!?!?!』
今度こそ、吹っ飛ぶスカルティラノ。すかさず杖を構える美沙。冬子もこの機会を逃さぬようにスカルティラノに向かって駆けだす。
そして――赤熱した右腕を見て、ふと先ほどの剣で斬りつけた時の音を思い出す。もしかしてと思った冬子は、美沙の方を振り返った。
「美沙! あの赤くなってるところを凍らせろ!」
「……? ああ、そういう……なるほど、ね。……『霜の力よ! 氷結者の美沙が命令する! この世の理に背き、世界を止める氷結を! フリージングアットモーメント』!」
キラキラ……とダイヤモンドダストと共に、再び右腕が凍り付くスカルティラノ。またも腕を地面に叩きつけて強引に振りほどこうとするが――ベルライズがまたぶん殴る。あの魔法、今回一番活躍してるな。。
「ピア! あの破裂させるアレだ! 右腕に頼む!」
「承知しましたが――ああいえ! イケそうです!」
蜘蛛糸をスカルティラノの頭部に巻き付け、某巨人を駆逐する人みたいにスカルティラノへ接近していくピア。
「せいっ!」
ピアとスカルティラノが交錯し、右腕の一部が欠けた。さっきまでかすり傷一つつかなかったスカルティラノの腕に、ダメージを与えた!
「狙い通り『獅子魂獣』! そして――スコルパイダーインパクトッ!!!」
スカルティラノが傷つけられた右腕に困惑している隙に、冬子の刀から三日月状の衝撃波が飛び出る。とんでもない威力のそれは、先ほどピアがダメージを与えたところに激突する。
ズガァァァァンッ!!!!
地響きが起きるほどの轟音。今度こそ、手応えありだ。
『グゴォォォォォォォオオオオオオオオオン!』
ぶっ飛ぶスカルティラノ。その右腕は今にも千切れそうになっている――見事、冬子たちの連携攻撃で大ダメージを与えることに成功した。
スカルティラノは警戒レベルを上げたのだろう、がらんどうの眼孔でこちらを睨みつけてくる。
『グオオオン!』
千切れそうになった腕を引きずり、空に吠えるスカルティラノ。冬子たちを睨みつけながら、ジリジリと後ずさりしていく。
逃げるのではなく、態勢を整えたいのだろう。敵に隙を与えるのは怖いが――逆に言えば、こちらが態勢を立て直す隙でもある。
一つ息を吐いてから、冬子は皆の元へ駆け寄った。
「狙い通りだ!」
ガッツポーズしながらそう言うと、ピアもリューも嬉しそうにしながらも……少し、腑に落ちない様子だ。
「やりましたね。ただ……さっきまで微塵も攻撃が通らなかったのに、私とトーコの攻撃だけ通りましたね。何故でしょうか」
「理由は簡単だ。スカルティラノには斬撃や刺突への耐性は高い。衝撃にもな。しかし……リューの魔法を食らってから赤熱していただろう。つまり、ちゃんと熱は通してるってことが分かる。そして――けほっ」
咽た。そこで喉が砂漠のようにカラッカラに渇いていることに気づく。アイテムボックスから水筒を取り出し、ぐいーっと飲み干す。集中して気づいていなかったが、だいぶ消耗しているようだ。
「皆も今のうちに飲んでおいてくれ。次のアタックで決めるぞ」
頷く皆。冬子はスカルティラノの方を見るが、まだ動きは無い。しかしゴーレムドラゴンの時と違って再生している様子は無さそうだ。
「トーコちゃん、そして――の後はなんデスか?」
「え? あ、ああ。そう、そして恐らく――」
「――スカルティラノの……体が、金属」
美沙が冬子の言葉を引き継ぎ、そう答える。
「まぁ、別に……大体の、モノは……熱して、冷やせば脆く、なる……んだけど……ふふ、まぁ、結果が全て、だよね……」
ちょっとはにかむように笑う美沙。
「まぁ、そういうことだ。だからリューの魔法で熱されたところに、美沙の魔法を撃ってもらったんだ。おかげで大分脆くなってた」
実際、全のっけの最大火力は通用しなかったのに、ただのスコルパイダーインパクトで腕が破壊出来たのだ。脆くなっているというのは間違い無いだろう。
「でも、透明な金属ってあるデス?」
脆くなったのは別の可能性もあるんじゃないか、と言いたいのだろうか。とはいえ、他に要因も考えづらい。
だが――
「透明な金属なら、つい最近見たばかりだろう。ほら」
――そう言いながら、ピアが調達してきた羅針盤を見せる。謎の透明な金属に包まれているそれを。
「あっ……」
「これと同じ成分かどうかは知らない。しかし結果、あの腕を壊せた! だから……今度は全身を熱して、全身を冷やす。それを繰り返して、今度こそどてっ腹をぶち抜くぞ!」
冬子がそう宣言すると、ピアもリューも美沙も力強く頷いてくれる。方針――というか目標は決まった。後はそれをどうやって為すかだ。
「美沙、全身にフリージングアットモーメントは出来るか」
頷く美沙。あとは熱する方だ。
「リューは?」
「ヨホホ……全身くまなく、となるとミサちゃんのような便利な魔法は無いデス。ジワジワと……それこそ何分かかけていいなら満遍なく出来るデスが」
満遍なくする必要は無い。要するに戦闘不能に出来ればいいのだから。
「なら、腹部だけだ」
「それならさっきの奴を二発も叩き込めばイケるデス」
「よし」
本当は勿論、顔がいいのだが……スカルティラノも全力でガードするだろう。何より、頭が取れたからと言って動かなくなる保証はない。
肉体を粉々にするのがベスト……な、気がする。
「じゃあ行くぞ! 美沙、ベルライズでスカルティラノの攻撃を受け止めてくれ。複雑な攻撃をする必要は無い、攻撃を止めるだけでいい。ピア、二人で翻弄しつつ大技の準備だ」
頷くピアと美沙。
「リュー、四発詠唱待機するのにどれくらいかかる?」
「……二分、デスね。そして待機していられるのは一分デス」
「上等! 美沙、フリージングアットモーメントは連発出来るか?」
「……五、連発……まで、なら」
「ヨホホ……キョースケさんも大概デスけど、ミサちゃんも十二分に凄いデスね」
明らかにAランク程度ならあっさり殺せそうな魔法を連発出来るんだから、リューの畏怖というか苦笑もよく分かる。
「リュー、美沙、リュー、美沙の順番で――っと、襲って来たな! リュー、合図を頼む!」
「了解デス!」
『グオオオオオオオオオン!!!』
そろそろ作戦タイムもお終いか。スカルティラノは雄叫びを上げながらこちらへ突っ込んできた。
ビリビリと空間を振動させる雄叫びの後……さらに、一回りスカルティラノの身体がデカくなる。ただ今回は――
「顎……と、いうか顔がデカくなったな。うおっ!」
迫るスカルティラノを、咄嗟に跳躍して躱すが――ガオン! と、地面がスカルティラノの咬みつき攻撃で抉られた。もしあの場所にそのままいたら……。
ゾッと背筋が凍る。しかもスカルティラノは空中にいる冬子にもう一度噛みつき攻撃を放ってきた。
「クソッ!」
咄嗟にスコルパイダーインパクトを発射して、そのエネルギーでその場所から飛びずさる。地面に着地するも、猛攻は終わらない。二度、三度と噛みつき攻撃で地面を抉ってくる。
「ステップで避け切れない……! ぐぁっ!」
地面が抉られる衝撃で吹き飛ばされる。二度、三度転がってから立ち上がるが、すぐに咬みつきが降ってくる。
爪の攻撃は振り下ろされるもの――つまり点の攻撃だったので、跳躍じゃなくステップで躱すことができた。しかし今の咬みつき攻撃は面への攻撃。範囲が桁違い過ぎてなかなか躱せない。
やむなく、反撃も考えず走り出す。跳べば躱せない。ならば走るしかない。
「こっちだ化け物!」
『グオオオオオオオオオン!!!』
吠えるスカルティラノ。その視線が完全に冬子に集中したところで――横からベルライズがぶん殴った。
しかし、今度はスカルティラノがビクともしない。それどころか、頭突きでベルライズを吹っ飛ばし、咬みつきで腕を一本もいでしまった!
「あっ……も、う……!」
倒れこむベルライズ。マズい――アレがやられたら、敵の攻撃を冬子が正面から受けねばならなくなる。
しかも爪と違い、咬みつきだ。剣で止められるだろうか。
『グガオオオオオオオオガアアァァァァァアァァァオオオオオン!』
跳躍し、スカルティラノがベルライズのお腹に全体重をかけた蹴りを叩き込む。ドグシャァァァン! と派手な音を立ててベルライズの腹が砕けてしまった。
「美沙!」
「ご、めん……十秒、で、立て直す……!」
再び魔力を練る美沙。冬子はベルライズの残骸の上で勝ち誇っているスカルティラノに斬りかかった。
「ピア! 行くぞ!」
「ええ! ――『雷刺』!」
転移と同時にスカルティラノの目にナイフを突き立てるピア。やはり効かないが――そこに冬子も『飛竜一閃』をぶちかます。
同時攻撃でも、小動もしないスカルティラノ。しかし、ヘイトはこちらへ向いたようだ。近くにいる冬子を食いちぎらんと大きく顎を開け――
『……ッ……ッ!?!?!』
――られない。蜘蛛糸がスカルティラノの顎を縛っている。
「顎は構造上、開く時には力が入りませんからね!」
「でかし――なっ!?」
喜んだのもつかの間。関節から先が千切れそうになっていた右腕を、スカルティラノは左腕で千切り、武器のようにして振り回してきた。
「くっ……!」
完全に想定外の攻撃。冬子もピアも空中だ、避けられない。咄嗟にピアも冬子も全身に魂を纏い、衝撃に備える。
ズンッッッッッッッッッ!!!!
芯まで響く、重たい一撃。踏ん張りがきかない分、とんでもないスピードで飛ばされてしまう。
「ぐはぁっ!」
「きゃぁっ!」
ズガン! ズガン!
壁に叩きつけられ、一瞬意識を失う。しかし、あまりの痛みにすぐに目が覚めてしまった。
「あ、ぐ……」
意識はある、でも、動けない。
ぼやける視界、焼けるような痛み、息が吸えない。
痛い、痛い、痛い。
「……ピ、ア……」
「とー……こ……?」
叩きつけられた壁から、落ちる。受け身は取れない。
浮遊感。
地面が迫る。
どう、すれば。
応援ありがとうございます!
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