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第十章 それぞれの始まりなう

239話 りたーんシリウスなう

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 翌日。一昨日の激闘が嘘のように穏やかな朝だった。

「……晴れてるなぁ」

 俺以外のメンツは全員いない。どうも俺が一番遅く起きたらしい。時計を見ると八時半だ。仕事がある日ならもうクエストがほとんど持っていかれてる時間だね。
 取りあえず朝ご飯を――と思って部屋を出ると、ばったり天川と出くわした。

「やぁ、天川。何か用?」

「いや、昨日呼心を部屋まで連れて行ってくれてありがとう。その礼と……その、奢ると約束していた焼肉屋なんだが」

「ああ、ダメになってたか」

「……言いにくいことをハッキリと言うな。……幸い、店主は無事らしい」

「不幸中の幸いだね。じゃ、お店をまたやれるようになってからかな」

 王都に来る度、何か事件が起きるから……今度こそ何も無くお上りさんが出来るといいな。

「その時は改めて王都を案内するよ。ゆっくりな」

「ん、それは嬉しいかな」

 頷き、一つ伸びをする。

「それならもう出た方がいいかもしれないね。これ以上いると、復興の手伝いをさせられそうだし」

 これでもシリウスの認定式を控える身だ。予定が入っている以上、この街にこれ以上拘束されるわけにもいかない。

「そうか。連絡は志村経由でいいか?」

 志村経由か。
 ……ケータイ無いの不便だし、そろそろ天川たちともケータイで繋がってもいいだろうか。空美との契約もあるし。

「……そうだね。志村とちょっと話しておくよ」

「ああ、頼む。じゃあ俺は呼心たちと朝ご飯を食べてくる」

 颯爽と去っていく天川。さっきのことを言うためだけに俺のところまで来ていたのか。律儀な奴だ。
 俺は活力煙を咥え、冬子の部屋の方へ向かう。
 今日の朝ご飯は何だろう。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 お昼になる前に王都から抜け出そう、ということで――冬子の部屋でトランプに興じていた皆を連れてアンタレスに戻ってきていた。

「シリウスのギルドに戻るように、だったんじゃないですかー?」

「言われてたけど、ぶっちゃけしんどいから一日休んでからでもいいでしょ」

 なんせずっと働きっぱなしだったのだから。しかも認定のみ行う……とは言っていたけど、まず間違いなく『腕試し』イベントは発生する。絶対に発生する。

「こんな状態でSランカーに絡まれたら流石に俺もぶっ倒れる」

「確かジャックさんだったか?」

 ジャック・ニューマン。俺が嘗て戦ったスターヴの師匠で、SランクAG。俺が認定式で天覧試合みたいなことをやる予定だった相手。

「どう見ても強いよ、アレ。技量だけ競うならまず勝てない」

「ヨホホ。まあSランクAGデスからね。弱いわけが無いデス」

 俺が今まで出会ってきたSランクAGたちからして、とんでもない能力を持っているのは当然だろう。

「というか、美沙もこの家に住むんだな」

「もちろん!」

 冬子と新井が後ろの方でそんなやり取りをしている。この家は無駄に広い――合宿所って言われたら信じてしまうレベルだ――から、部屋は余っている。
 彼女が嫌じゃなければ同じチーム、同じ家に住んでいてもいいだろう。

「タローの部屋は既に綺麗にしてるけど……別の部屋の方がいいかな」

 二階に各々の個室があるわけだけど……

「キアラの隣が開いてたっけ」

「え。京助君の部屋の隣がいい」

「そこは私で埋まっている。他を当たれ、美沙」

「じゃあ向かい」

「そこはわたしですね。マスターの第一の従者としてそこは譲れません」

 ちなみに俺の部屋は角部屋なので、隣は一つしかない。

「じゃあせめてはす向かい!」

「そこは私デスね。いやもうその、部屋の引っ越しは面倒なので折れていただきたいのデスが……」

 ちょっと困り顔のシュリー。俺も苦笑しつつ、活力煙を咥えた。

「はいキョウ君、リビングで吸わないー。ちなみにトーコさんの隣は私ですー。リューさんの隣がキアラさんですねー」

「……京助君から一番遠くなるじゃないですか! 抗議します!」

「新参なのにここまで主張するのはある意味大物かもしれぬのぅ」

 キアラすら少し引いている。新井は何か吹っ切れたのか、色々と性格変わってしまった気がする。昔の押しの弱い新井を返して。

「じゃあせめてクジ引きで決めましょう。月に一回部屋替えする感じで」

「席替えじゃないんだから。席一つ変えるだけでも鬱陶しいのに、部屋ごと変えるとかめんどくさすぎるよ」

「そうですねー。トーコさんの部屋を片付けるところからスタートしますしー」

「そんなに今は散らかってません!」

 マリルと冬子がそんなやり取りをしているが、新井はまだ納得いかないのかズイッと俺に近寄ってきた。

「じゃ、じゃあ。京助君が……み、美沙、って……その、今度から、呼んでくれるなら……その部屋で我慢する」

「ん、それくらいでいいなら」

「や、約束だよ! 言ったね、言質取ったからね!」

 言質て。
 俺が頷くと、新井――否、美沙はパァッと笑顔になる。

「上手いですね、アライさん。マスターは放っておくと下の名前で呼んだりしませんからね」

「そうですねー。アライさん」

「良かったデスね、アライさん」

「良かったな、新井」

「な、なんでいきなり皆距離が出来るんですか!? さっきまで美沙って呼んでくれてましたよね!? ……あ、でもそれなら京助君だけが美沙呼びになって特別感が……っ!」

「新井、部屋に案内するよ」

「京助君まで裏切った!?」

 裏切ってない。乗っただけ。
 俺はくくく、と口内で笑みを噛み殺してから肩をすくめる。

「さ、明日はまたシリウスだ。さっさと新井……っと、美沙の家具から何から揃えてしまおう。取りあえずベッドと机とクローゼットがあればいいよね」

「一階のクローゼットの話は……また今度でいいか。京助、美沙の買い物には私が付き添うよ。アンタレスの案内もついでにしておく」

「え、京助君と一緒がいい」

「そう言うと思ったからだ。ほら、行くぞ」

 ズルズルと美沙を引っ張っていく冬子。彼女に任せれば安心だろう――って。

「冬子、お金!」

「美沙に出させる!」

「そういうわけにいかないでしょ。それなりの物を買ってあげて」

 俺は冬子に大金貨が十枚ほど入った袋を投げる。彼女はしぶしぶそれを受け取ると、アイテムボックスにしまった。

「じゃあ行ってくる」

「行ってらっしゃい。んじゃ、久々の我が家だし……掃除しよっか」

 冬子たちを見送り、マリル、リャン、シュリー、キアラの方を向く。

「そうデスね。埃とか溜まっているでしょうデスし」

「では私はこちらから。マスターは先に自室と……ミサさんの部屋(予定)のお掃除をお願いします。それが終わったら二階の廊下を」

「はいはい。キアラはせめて自分の部屋くらい掃除しといて」

「終わったら寝ておくぞ」

 相変わらずマイペースなキアラを見送り、俺は肩をすくめる。

「さ、お掃除お掃除……って、マリルは?」

 何故か我が家の家事担当が見えない。
 ……もしかして冬子たちについていったかな。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


「この家って基本的に京助君が一人で養ってるの?」

 家から出て歩きつつ、冬子ちゃんにそんな質問をする。当然のように大金貨十枚――日本円にして十万円くらいをポンと出す京助君に少し驚いたからだ。

「……そうだな、その説明もしておくか。あの家で完全に京助が養っているのはキアラさんだけだ。ダメ亭主のように毎月お小遣いをせびっているよ」

 お酒を飲んで京助君にお金をせびるキアラさん……想像に難くない。

「ピアとマリルさんは、形式上は京助の奴隷だ。だからイメージは雇用関係に近い。毎月決まったお給料と三食昼寝付きって感じだな」

 何と羨ましい。
京助君のお嫁さんになれなかったら京助君のところに就職するのがいいかもしれない。玉の輿の可能性も残るし。

「美沙の扱いは私とリューさんと同じだ。チームメイトで同居人。だから金銭的なものはそこに合わせてもらうことになる」

「あ、うん。具体的には?」

「金額については応相談だが、基本的に毎月の家賃と食費を京助に払う感じだ」

 実家暮らしの社会人みたいだ。

「その考えで概ね間違いない。後の稼ぎは自分のお小遣いにしていいし、今回みたいに大きな買い物の場合は京助に相談すれば出してもらえる」

「財布は全部一緒かと思ってた」

「……あくまでまだチームメイトだからな。チームとして働いた場合はその報酬は山分けだが、京助は個人的に稼いでる額が私たちとは桁が一つ違うからな……」

 冬子ちゃんもAランクAGのはずだが、それでもなお京助君の方が稼いでいるらしい。

「まあ結婚しちゃえばお財布一緒になるし、今から全部一緒でもいいんだけど」

「マリルさんが言っていたが、その考えは危険らしいぞ。『結婚するんだから』って台詞で財産を全部共有するととんでもないことになるんだそうな」

「京助君は不誠実なことしないと思う」

「私もそう思うが、まだ結婚してないのだからお金関連はしっかり分けた方がいい」

 まだ、というところを強調する冬子ちゃん。
 美沙は一つため息をつき、彼女の腕にしがみついた。

「わ、私にそういう趣味は無いぞ美沙」

「私にも無いよ。だって京助君がタイプだし」

 そう言ってから、冬子ちゃんの腕に体重をかける。

「ねぇ、ホントに京助君に告白しないの? 私はしたよ?」

 チラリと彼女の顔を見ると、物凄い神妙な表情になっていた。何とも言えない表情、怒っているわけでも悲しんでいるわけでも無いのだろうが、あまりプラスイメージのある表情じゃないことは確かだ。

「どうすればいいんだろうな」

「告白すればいいじゃん。真摯に対応してくれるよ。ほらほら、早く告っちゃお。私見とくから、もうL〇NEで言っちゃおうよ」

「そんなもんあるか! っていうか面白半分で告白させるタイプの女子か!」

 女子高生って割とこんなものだと思う。本来ならば18歳、もう高校三年生だが。

「……京助も言っていたが、そんなキャラだったか?」

「なんか吹っ切れちゃって。もう一回告ってるし、恋愛の駆け引きが得意なわけじゃないし……もうおっぱいで誘惑するしかないかなって」

 ぽよぽよと自分の胸を持ち上げながら言うと、冬子ちゃんがジトッと羨まし気にこちらの胸を睨みつけた。参ったか。

「私にはまだ成長期が来てないだけだ……」

「成長期来る前に私が京助君を貰うから安心して別の男の人を見つけてね」

 語尾に星マークがついているイメージで話すと、冬子ちゃんはぐわしっと美沙の胸を鷲掴みにした。

「ちょっ……」

「この駄肉を寄越せ!」

「だ、駄肉じゃない! 駄肉じゃないから離して!」

「駄肉だこんなもの! ふんっ、京助は身が引き締まったタイプの女が好きなんだ! お前みたいに全身だらしない緩み切った身体の女など……!」

 そう言って美沙のお腹や二の腕まわりをわしゃわしゃとまさぐる冬子ちゃん。くすぐったくて思わず身をよじらせる。

「ちょっ……と、冬子ちゃん止めて!」

「うるさい……そんなに胸が大きい方がいいのか!」

「トーコさん、道端でセクハラは厳禁ですよー」

「うるさい! ってマリルさん」

「やっと追いつきましたー」

 マリルさんのおかげで束縛から解放される。バッと距離を取ると、呆れた表情のマリルさんが冬子ちゃんに買い物バックを渡していた。

「冷蔵庫の中身空っぽなんでお買い物もお願いしますー」

「冷蔵庫なんてあるんだ」

 お城の調理場には確かにあったが、あれって家庭用があるほど普及していたのか。

「氷の魔法を使える人間がいるんだ。食材を冷やすくらい出来るだろう」

 それもそうか。

「そうそう、ミサさん。別に自分がキョウ君を誘惑するのはいいんですけどー」

 マリルさんはこちらへずいっと近づくと、美沙の手をギュッと握った。

「それは、ちょっと危ない兆候ですよー。キョウ君は頼り甲斐がありますから、依存しちゃいそうですけど……自制は大切です」

 ニッコリと笑うマリルさん。眼には優しさと気遣い、そして……何やら、暖かなものが宿っている。

「……私は彼に依存なんて」

 思わず否定すると、マリルさんは少し困ったように笑った。

「自覚症状は無いものですよー。特にその年齢じゃ。トーコさんだって際どいですからねー」

「わ、私は京助に依存なんてしてません」

「はい、今はそうだと思いますよー。でも、キョウ君がいない生活想像出来ますか? キョウ君がいつまでも私たちを養ってくれると思っていませんかー?」

 うっと言葉に詰まる冬子ちゃん。

「キョウ君だって人間ですからねー。ある時、一時の感情に任せて全てを投げ出してしまうかもしれません。今だって、実質的に家族六人養ってるみたいなもんですからねー。自覚が無いだけで、いつかプレッシャーに負けちゃうかもしれないですしー」

 家族六人、と言われると途端に凄まじいように感じる。美沙の家は四人家族で、いわゆる自営業というか……まあそういう家だった。
 そのせいで後継ぎである弟ばかり構われていたのだが、それは置いておく。
 大事なことは、たった(?)四人で生活するのにも両親はひいひい言っていたということだ。

「キョウ君はあまり辛いとか悲しいとかを表に出さないですからねー。まだ若いですし、精神的に折れる時があるかもしれないんですよー。そういう時にちゃんと支えられるのは私たちだけですからねー」

 だから、とマリルさんは握った私の手を離す。

「私たちの役目は、キョウ君に辛いことがあった時に支えてあげられるだけの強さを持つことですー。彼に頼ることはいいですけど、依存はしちゃいけません」

「……依存しないって、どうすればいいんですか」

「精神的に自立することですねー。いや私もあんまり人のこと言えないですけどー。私が気を付けてることは三つですねー」

 マリルさんは指を一本立て、にへーっと笑う。なんだか緩い笑顔だ。

「一つは『この人も自分も、お互いがいなくても生きていける』って意識を持つことですねー。いや今の私は物理的にキョウ君がいないと生きていけないんですが」

 照れたように笑いながら、二本目の指を立てるマリルさん。

「二つ目が『友達を作る』ことですねー。まあこの家で過ごしていれば問題ないんですが、念のため外にも友人がいるといいと思いますよー」

 外に友人、と言われてもこの世界に知り合いなどほとんどいないのだ。それはなかなかにしんどい。

「まあ価値観を広げるためにもアンタレスでお友達を作ればいいと思いますよー。そしてじゃあ最後に三つ目」

 三本目の指を立てるマリルさん。

「自分の価値を自分で認めてあげることです。誰かと比べて貴方がいるんじゃなくて、貴方は貴方として独立していることを常に意識することです」

「それ出来てるんですか、マリルさん」

「大人ですからね!」

 冬子ちゃんからの問いにドヤ顔で答えるマリルさん。自分の価値を認めること――と言われても、どうすればいいのやら。

「取りあえずミサさんはちょっと危うそうだったので助言しておきましたー。バックの中に食材のメモ入れてますからー、お昼ご飯までには帰ってきてくださいねー」

「分かりました」

 そう言って来た道を戻っていくマリルさん。その後ろ姿を見ながら、冬子ちゃんに問いかける。

「ねぇ、マリルさんっていくつ?」

「詳しくは聞いてないが、確か24歳かな」

「……私らより6つも上なんだ。ってことは京助君とも6つ違うんだよね」

「まあ、そうだな」

 ということはつまり……。

「社会人が男子高校生に手を出そうとしている図……?」

「こ、こっちの世界じゃ京助も私たちも社会人だから滅多なことを言うんじゃない!」

 いやだとしても、美沙たちの年齢からすると遠く離れた年齢差のように感じる。

「ピアさんはおいくつ? リューさんは?」

「二人とも私たちより年上だ。年齢順はキアラさん、マリルさん、ピア、リューさん、私たちだ」

 冬子ちゃんが年上のピアさんを何故呼び捨てにしているのだろう、ということが疑問ではあるものの……概ね、それぞれの立ち位置を察する。

「それにしてもお店まで遠いね……なんでこんな離れたところに京助君家を買ったの?」

「貰いものなんだ。……そうだな、その話もしておくか……ついでに塔から出た後に何があったかについても話しておこう」

 家を貰えるとは、SランクAGは自分が思っているよりもすさまじいのかもしれない。冬子から美沙の知らない京助君の話を聞きつつ、どんな部屋にしようかと考えを巡らせるのえあった。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


「さて、それじゃあ出発しようか。テンポよくいかないといつまでもシリウスに着かないからね」

「メタいぞ京助」

 美沙が『私の部屋に京助君の写真を置くの!』と言って暴れたこと以外は特に問題なく引っ越しも終わり、翌朝。

「冬子が『写真のようなものはある』って言うから」

「面目ない」

「まあまあ。そんなこと言わずに。京助君の写真も手に入ったし」

 ホクホク顔の美沙。彼女も異世界人なのだから馬力があるということを忘れるべきじゃなかった、まさかベッドに押し付けられて写真を撮られるとは。

「でもシリウスなんて初めて行くなー」

「家にいてもいいんですよー? 巨乳眼鏡は二人もいりませんしー」

「何言ってるんですか。私の方が戦闘力ありますもの」

 何故か火花を散らすマリルと美沙。どうしたものか。

「ほれ行くぞ」

 キアラがそう言うと同時に、視界が切り替わる。あっという間に俺たちが二日前泊まったシリウスの宿だ。

「本来ならもう三日くらい泊まるはずだったしね。色々あって」

「凄い高級ホテルだねー……」

 ポカーンとした口調の美沙。言われてみれば、かなり高級ホテルか。
 俺は活力煙を咥え、窓を開ける。

「じゃ、俺はシリウスのギルドに行ってくるから。えーと……マリル、一緒に来てくれる?」

「はいー」

 マリルの手を取って窓の縁に足をかける。後ろでは美沙が首をかしげて、冬子に話しかけている。

「なんでマリルさんだけ?」

「マリルさんはああ見えて元々ギルドの職員だったんだ。それも結構有能な」

「トーコさん、一言余計ですよー。キョウ君、放っておくとえらい安い値段で色々引き受けちゃうんで大変なんですよー?」

 そんなこと言われても相場が分からないから仕方がない。どうせ安定した収入はオルランドから入ってくるし。

「その考え方が良くないんですよー。実力者のある人が報酬に無頓着だと、他の人が困るんです」

「ヨホホ、取り敢えず行ってきてはどうデスか? 認定のみと言っても色々手続きはあるんでしょうデスし」

「そうだね」

 俺はマリルを抱え、窓から落下していく。

「じゃ、ケータイで連絡するから~~~……」

 ドップラー効果で皆に言いつつ、俺は風を身に纏った。
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