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第九章 王都救援なう

204話 VSホップリィなう

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「やれやれ」

 水の槍を数十本出して敵の水の刃を相殺する。ついでに生み出した火球の流星群で辺り一面薙ぎ払おうとするが――

「甘いわね!」

 地面から飛び出した鋭く尖った岩がぶつかり、その弾けた岩がこちらへ雨あられのように飛来してくる。
 ――炎と岩がぶつかると、燃やしきれずに拡散攻撃みたいになっちゃうのか。面倒な。

「雨アメ降れフレ……母さんや、ってね」

 風の結界でそれらを弾き、そのまま後方に飛んで水流のレーザーを撃ち出す。ホップリィはガリガリと頭を掻くと防御の結界を張らずそれに干渉することで逸らした。
 防御に魔法を回さなかった分、即座に魔法が飛んでくる――氷の礫、速度のみを重視した軽いそれが俺の周囲を凍らせていく。
 俺は咄嗟に水弾で撃ち落とそうとするが、水が凍らされてしまい防ぎきれない。

「足場が凍らされるのはマズい。ヨハネス!」

『アイヨォ!』

 防御をヨハネスに任せ、地面を焼いて氷を溶かし――そのまま溶岩として侵食していく。
 向こうが土魔法の熟練であるのは理解しているが、炎の練度なら俺も負けてない。コントロールを奪われる前に土地の全てを塗り替えてみせる。
 俺の生み出したスライムたちはゴーレムの足をとり、圧し潰していく……ホップリィが少し苦い顔をしているところからして、この戦いは俺の勝ちらしい。

「ハァッ!」

「……なかなかやるわ、ね!」

 ホップリィは薄く笑みを浮かべると肉体を風に変えて空を飛ぶ。雷の杖を持っているゴーレムも同時に飛びあがるため俺の地面侵食が意味をなさなくなる。

「今度は空中戦――ってことは、土地の取り合いは俺の勝ちかな」

「別にやり合ってもいいけど、お互いそんなに意味はないでしょう?」

「――まあね」

 お互い飛べる以上、土地の取り合いはそのままゴーレムVSスライムの戦いの勝敗にしか影響していなかった。
 しかし俺のスライムと向こうのゴーレムの戦いはこちらの勝ちだったから向こうは戦法を切り替えたんだろう。

「それ!」

 鋭い岩と氷が風によって加速してくる――非常にシンプル且つ強力な攻撃。岩は水で相殺しなくてはならず氷は炎で相殺しなくてはならない。

「風の結界で雑に防御したい!」

『カカカッ! ソレデモイイゼ? コントロール奪われて貫かれてもイイナラナァ!』

 だよね。
 俺は瞬時に岩と氷を見分け撃ち落としていく。全て俺に向かって飛んできてくれるせいで軌道を見分けるのは簡単だね。

(……向こうの雷が飛んでこないのが不自然だね)

 俺の純水結界で防がれると分かっているからか、それとも何か別の理由があるのか――

「って」

 ――ホップリィが巨大な魔力を膨らませていることに気づき、思考を打ち切る。これほどの魔力で魔法を編ませてはいけない。

「そんな大技を作れる隙を与えるとでも?」

「あら、隙は作るものでしょ?」

 炎、水の弾丸を適当に散らして面を制圧するように攻撃し――

「……ふふ、あはははははははは!!!!」

 ――ズガン!
 地面が、いや空間が揺れた。
 なんだ? そう思う暇は無かった。目の前が光り、俺の出した魔法全てがかき消されてしまう。
 ノータイムでそんなことが出来るのは、あの杖しかない。

「――ヨハネス!」

『ッカカカ!』

 純水の結界を張り、追撃に備える――が、雷は来ない。
 脳内で警鐘が響く。嫌な予感が全身を駆け巡る。
 なんで俺は、こんなに致命的な隙を晒した――

「そぉれ!」

 振り下ろされるのは巨人の腕。今の隙に生み出された三十メートル級のゴーレム。
 当然そんな大質量を水の結界だけでは防ぐことはできず、俺は咄嗟に槍でガードする。防ぎきれず地面に叩きつけられそうになるが――何とか、水のクッションで衝撃に耐えきった。

「く、そ……」

『カカカッ! キョースケ、来るゼ!』

「分かって、る!」

 俺は即座にその場から離脱。直後に振り下ろされる腕だが、デカい分遅い。油断していなければ当たらない。
 振り下ろされる拳を躱しながら、俺は魔力を練る。練った魔力で水の拘束を――

「甘いわ、甘いわ甘いわ!」

 ズガン! ノータイムで撃ち出された雷が俺の拘束を吹っ飛ばす。純水結界じゃないと雷は防げないのに、それじゃパワー不足でゴーレムの攻撃を防げない。

「あの偽神器が鬱陶しいね」

『カカカッ! ヤッパ溜め無しでアレは凄いナァ』

 そう、あの偽神器の何がマズいかというと溜めが無いことだ。どんな巨大な雷球だろうと思うがまま、ノータイムで連打してくる。
 隙の探り合いをするのが魔法師の戦い、なのに向こうは溜め無しで大技だ。最初からこちらに不利がつく戦い――ハッキリ言って、ただの蹂躙だ。
 俺は舌打ちして再び飛び上がる。純水結界を纏うことで取りあえず雷だけは防ぎ、ゴーレムの一撃は受けず回避。
 これで何とかダメージを受けない、だがそれだけ。こちらは防戦一方で敵の邪魔をすることが出来ないから、向こうは魔法を使い放題。
 仕方ない――俺は水のタワーを作り上げ、そこにヨハネスをぶん投げる。

『チョッ……テメェーーーーー!! キョースケェェェェェ! テメェ、阿呆カァ!』

「ごめん、小言は後で聞く!」

 クン、雷撃が曲がりヨハネスの方へ。良かった、避雷針は機能するみたいだ。
 心の中でほっとするのもつかの間、ゴーレムの拳が振り下ろされるが着地した俺は左右にステップして回避する。
 ホップリィが再び雷撃を放つが、地面にいる俺に当たるよりも先に避雷針に吸い込まれていく。

『アガガガガ! キョースケェェェ! テメェ、マジで覚えテロォ!?』

「痛くないでしょ別に槍が本体ってわけじゃないんだから!」

「何をごちゃごちゃと!」

 振り下ろされるのはゴーレムの拳だけじゃない。水の刃や氷の槍、岩弾に雷球、それらが風で加速して流星群のように降ってくる。

「クソッ……!」

 全身から炎を噴き出してそれらが俺に当たる前に燃やし尽くす。燃え尽きない岩は水の鞭で破壊し、雷球は無理矢理回避。雷撃と違い雷球は速度が遅いから見てから回避出来るのが救いだ。

『キョースケ! 当たッチマエボケェ!』

 水の塔の上でヨハネスがギャーギャー言っているが、これしか無いので諦めて欲しい。
 俺は水の鞭を地面からはやし、上空から降ってくる攻撃をただひたすら打ち落とす。もうことこうなれば魔法師同士の戦いというよりも決戦兵器VS決戦兵器って感じだ。

「あの偽神器を、積極的に使うようになってから戦況が変化したね」

 ホップリィは降りてくる気配はない。まあ安全圏から爆撃するだけで俺を追い詰められるんだから正しいやり方なんだろうけど。

「これを――防げるかしらっ!」

 そう叫んだホップリィが出したのは象よりも大きい雷球。雷撃より遅いとはいえ他にも降ってきている現状、純水結界じゃ防ぎきれまい。
 俺は舌打ちをして大き目の水球を。そしてそれを炎で包みこむ。

「は?」

「――水素爆発……だっけ?」

 カッ! 閃光が辺りを包む。視界が白に染まった。あまりにも大きすぎて耳がおかしくなる程の爆音、そして衝撃波。俺は全力で五重の結界を張って何とか耐えようとするが――ダメなので更に何個も何個も結界を張り直すことでどうにか耐える。
 水が電気と反応し高温にさらされることで起きる爆発……だったか、温水先生に会う機会があれば聞いておこう。
 何はともあれ尋常ならざる破壊の嵐が吹き荒れ、俺の立てた避雷針塔も消し飛んだ。ヨハネスはどこに行ったかな。

「これで生きてたらもう打つ手は……」

 無し、そう言いかけて。俺はビリビリとした殺気を感じ取った。
 俺は魔力を『視』る眼に切り替えて周囲を探ると――

「今のは……死ぬかと思ったわ。空気ごと燃やされるとシルフの身体でも耐えきれないのね」

「そのまま死んでりゃ良かったのに」

 ――十メートル。魔法師同士の対決でなくとも目と鼻の先と言える距離にホップリィが。
 息を呑む。マズい、全身が泡立つ、脳が沸騰しそうなほど回転する。視界以外のありとあらゆるセンサーが「死」を俺に伝える。

「あの避雷針も無いし……あったとしても、同じ目線で放てばどうなるのかしらね」

 ダメだ。

「『ストームエンチャント――」

 俺の周囲に風が集まる。同時に空間全ての風が俺にあらゆる情報を伝えてくれる。ヨハネスの助けがなければモノの数秒で魔力切れになってしまう俺の強化形態。
 でも、やらねば死ぬ。

「死になさい!」

 魔力が膨れ上がる。
 コンマ数秒のうちに射出準備が整ったのだろう。十メートル先で一つの魔法が組みあがる。
 対して俺は手を開いた。
 放たれる――同時に俺もその場を蹴り、一直線に背後へ。
 風に教えてもらう必要もない、俺の命はあとコンマ数秒で散る。
 でも、『死』よりも俺の方が速い。
 掴む、踏ん張る。呪文を唱える時間は無い、だから心の中で。

(行くぞ相棒)

 あと0.1秒。

(アイヨォ)

(――ハイスピード』)

 俺の右手が振り抜かれた。

「――ッ!」

 パァン。
 そんな乾いた音が響く。
 雷が後方へ逃げていく――やれやれ、立花道雪にでもなった気分だ。雷斬りなんて初めてやったよ。

「……ふぅ」

 次の瞬間、俺はホップリィの背後へ。
 目で追えるはずも無い、彼女の身体を横一文字に切り裂いた。

「へ……い、あ、キャァァァァッァ!?!?!」

 混乱か、困惑か。どちらか分からない声を上げたホップリィは即座に空へと飛びあがったのだろう、魔力が上方へ逃げていく。
 流石に視界が悪い状態でこれ以上加速するわけにもいかず通常の『ストームエンチャント』に戻し、同じように空へ飛びあがる。

「なに、なんなの、なんのなのよ!!!」

 狂ったように様々な魔法を俺に向かって放つが、意味は無い。纏った暴風がそれら全てを圧し潰してしまう。
 そこでようやく俺は視界が戻ってきた。やれやれ、魔力を『視』ればある程度戦えるとはいえ少しホッとするね。

「やれやれ、アレでも生きてるんだから魔族ってのも恐ろしいね」

『オイオイ、オレ様とシテハ平然と裏切っタ相棒が気にナルゼェ?』

「ごめんって」

 戻った視界で彼女を見ると、右腕だけ巨大化させて身の丈以上の杖を握っていた。まずはアレを潰したいかな。
 バチッ、目が合う。同時にホップリィから雷が飛んでくるが――

「なに、それ……」

 ――斬!
 真っ二つにぶった切られた雷が俺の後方に抜ける。普通の槍で、普通の人間じゃこんなこと出来ないだろう。
 でもこの槍は神器。
 そして俺は……魔法に干渉出来る技術である『魂』を使うことが出来る。
 どれだけ速かろうと、真っ直ぐしか飛ばない雷を斬ることなんてわけはない。
 ……もっとも、連打されていたら流石に捌き切れないだろうけど。唖然とした表情で固まっているホップリィはそれが分かってないみたいだね。

「……あーあ」

 俺は苦笑いして首を振る。

「流石に凄い。俺の|負け(・・)だね。……もっとイケる気がしてたんだけどダメだった」

 風が渦を巻く。こうなった俺の風のコントロールは、いくらシルフでも奪えない。
 この風は――既に俺の身体の一部なのだから。

「ふ、ふ……ふざけるなァ!」

 光る、と同時に槍を振るう。
 正確に心臓を狙われた雷は再び真っ二つにされて後方へ。

「狙いは正確だね。確実に俺に当たる軌道、それも急所を確実に撃ち抜いてる」

「……何をごちゃごちゃと!」

 雷は通用しないと思ったか、今度は岩、水、氷の砲弾を三百六十度全方位から俺に撃ち出してきた。どれもこれも狙いが本当に正確だ。
 俺は躱そうと空を駆けるが、どれもこれも正確に追尾してくる。

「無駄よ! 全ての攻撃は貴方を地の果てまで追い詰める! どこまで躱そうとこの結界内、逃げ場なんて無いのよ!」

「みたいだね。……だから、こうしよう」

 向かってくるそれらを全て槍で打ち落としていく。どれもこれも雷に比べれば遅い、余裕を持って丁寧に破壊していくことが出来る。
 ホップリィは今度こそ大きく目を見開くと、ガリガリと頭を掻いて何百という闇の弾丸を撃ち出してきた。初めて使う闇魔術だ。

「――なんだ、五属性じゃなくて六属性じゃん」

 俺は軽く笑うと更に速度を上げる。撃ち出された黒い塊は魂を纏った槍で斬り飛ばし、風で霧散させた。
 それと同時に左手に集めた魔力を解き放つ。

「結界内で良かった」

 轟!
 暴力の風と書いて暴風。圧倒的な質量すら吹き飛ばすそれは竜巻となって周囲一帯を消し飛ばしてしまった。

「これ、外でやったら王都が無くなってるね」

「なんで……なんでなんでなんで当たらない!? なんで、なんでなんでなんでなんで!」

 錯乱したように頭に指を立てるホップリィ。俺はそんな彼女に向かって風の砲弾をいくつも撃ち出す。
 彼女はそれのコントロールを奪おうとして――背後に現れた俺に気づけず石突で叩き落された。

「ガハッ……え、え……なんで、なんであたしの身体に傷が!? なんで……」

 空中で制御を取り戻すホップリィだが、混乱で何をすることも出来ていない。俺は槍に魂を纏わせた状態で彼女の肩口を突き刺す。

「いやぁぁぁぁ! 痛い、なんで、痛いの!?」

 咄嗟にホップリィは闇で俺の身体を拘束しようとするが、風で吹き飛ばして消し去る。
 ならばとばかりに今度はノータイムで黒い弾丸を撃ち出してくるが――左手の風で逸らしつつ、彼女に語り掛ける。

「最初、俺は魔法で君を叩き潰すつもりだった。練習も兼ねて……っていうのもあるけど、単純に相手の土俵で負けるっていうのが悔しかった」

 岩の防壁を作りその中に閉じこもろうとするが、甘い。それは昔前領主とった時に見たね。石突きに魂を纏わせ、ストームエンチャントのスピードに任せて思いっきり連打。
 オラオラオラァ! ……と叫びたいところだが、それ以上に言いたいことがあるのでホップリィに語り掛ける。

「だってその程度から逃げてちゃ――世界最強に挑める気がしないから。全部真正面から戦い抜きたかった」

 ホップリィが今度は氷のゴーレムや風の刃を生み出すが、文字通り『苦し紛れ』な攻撃が俺に届くはずもない。俺の纏った風に全てかき消される。
 しかしその一瞬の隙をついて地面に逃げるホップリィ。俺は加速して回り込み、降りてこようとしたホップリィの喉に槍を突き刺す。

「ひぃぁっ!?」

 どこから出してるのか分からない声を出しながら腕で間一髪弾くホップリィ。……いや、今のは適当に振り回した手が当たっただけって感じだね。

(……膂力は魔物のそれか)

『カカカッ、仕方ネェ切り替えロ』

 目の前にいるホップリィ、その上を跳躍して背後に回り込み『ブレイズエンチャント』に切り替える。
 俺の姿が眼前から消えたからか首を左右に振るホップリィ。だからそんなことしてる暇は無いというのに――

「それ!」

 轟々々々々々々々々々々々々々々々々々々々々々々々々!!!!!!!!!!!
 特大の火球が進行方向の物全てを消し飛ばす。風になって上手く逃れたホップリィだが……その手に握られていないものがある。

「あ……あ、アタシの、『雷鳴の帝』が……!」

「久々に『ファングランス』なんて使ったよ」

 魂を纏った槍で腕を切り裂き、その隙をついて槍から牙を出して遠くのものを掴む『ファングランス』で杖を奪った。これでもう、雷は連打出来ない。

「なんで……なんで、なんでなんでなんでなんで! なんで五属性所持者クインタブルヘッドのあたしが、三属性所持者トリプルヘッドでしかない三叉トライデントに負けるの!?」

 意味が分からない、という表情で叫ぶホップリィ。『ストームエンチャント』に切り替えた俺は一瞬で彼女に近づくと、その首を刎ねた。
 斬!

「……なんで、っていうならシンプルだ。君は魔法師として俺を上回っていたけど、『戦う者』としては俺の方が強かった。それだけ」

 彼女の首が飛ぶと同時に肉体が空気に溶けて消えてしまう。まるで魔物そのもの――と言いたいところだが、シルフと合体していたのならそうなるのも当然か。
 首は討伐部位なのか消え去りはしていないが――死ねば何とやら、弔いも兼ねて燃やしておこう。
 俺は彼女から奪った偽神器――『雷鳴の帝』って呼んでいたか――をアイテムボックスに仕舞い、着地する。
 それと同時に空間にヒビが入り、割れた。
 パキィィィィン……ガラスが飛び散るように黒い破片が俺の視界を埋め尽くし……気づけば、俺は空に放り出されていた。
 くるりと一回転して風で肉体を制御。そのまま地面に降りたつ。

「ふぅ、あー……クソ、悔しいな」

 最後まで魔法師として戦うつもりだった。舐めプのつもりでも無ければ、縛りプレイのつもりもない。
 ただ、覇王とは必ず肉弾戦になる。小細工なんて出来ない、そんな暇を与えてはくれない相手。世界最強クラスとやり合うんだ、自分の苦手な分野から逃げているようじゃ勝てるはずも無い。
 そもそも、最初から槍使いとして戦っていれば……彼女程の実力者だ。対応されていた可能性は高い。『槍』が意識の外にいってくれたからこれほどあっさり勝てたのだろう。
 俺は活力煙を咥え、火を点ける。

「……でも、ダメだった、か。強かったね」

「負けたのか? ……それにしては魔力を感じないが」

 俺の独り言に入ってくる声が。振り向くとそこにはラノールが立っていた。ひゅるりと吹いた風が活力煙の煙と彼女の髪をたなびかせる。

「早いね」

「貴方もな。……やれやれ、噂の最年少Sランカーの戦闘を見れると思ったんだが」

 噂の、って。
 俺は苦笑いして首を振る。

「大したことはしてないよ、殺せたけど勝てなかった」

「作戦目標を達成したのならそれは勝利だろう」

「……まあ、ね」

 肺一杯に煙を吸い込み、輪っかにして吐き出す。

「一服する? それとも街に戻る?」

「では一本いただこう」

 ラノールが咥えた活力煙に、マッチで火を点ける。彼女は慣れた手つきでそれを受け取ると、長く煙を吐いた。

「貴方こそ街へ戻らなくていいのか?」

「皆、そんなに柔じゃない。それに……」

 俺は浮かぶ残り二つの結界を眺める。

「万が一、の時に狩れないのは困るからね」

 志村はまだいい。
 でもギギギ――ブリーダはここで仕留めておきたい。

「アキラは大丈夫だ。私がしっかり指導したからな」

「だと、いいけど」

 紫煙が空に溶ける。
 さっさと出てきてくれないかな、冬子たちを助けに行きたいんだから。
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