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章間なう⑧

餅つきと恋バナと剣

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「そういえば明日から新年か」

 天川は本から顔を上げてそう呟く。
 この国の新年のお祝いなどはよく分かっていないが、縁起物だ。クラスメイト達と新年を祝うのも一興だろう。
 そう考えた天川は本を閉じ、呼心たちの部屋へ――

「おっすで御座る、天川殿。唐突で御座るが餅つきを手伝って欲しいで御座る」

 ――行こう、としたところで志村が窓から入ってきた。
 今さら志村が窓から入ってこようが天井から降りてこようが驚かないが、流石に餅つきは唐突過ぎる。

「あー……いや別に構わないんだが、どうした?」

「マール姫に頼まれたんで御座るよ。『せっかくだしミリオ達のオショーガツとやらを体験したいんですの!』と言われてしまえば拙者も断れないで御座るからなぁ」

「だから餅つきか……」

 しかし確かに、餅つきほど新年らしい行事もあるまい。
 ティアー王女に聞いたところによると、この国では年始に『何かを百度鳴らす』のが決まりらしい。『サンクトゥティヌス』というんだとか。意味は「主神様へのお礼」だそうで、前年のお礼、そして今年もよろしくという思いを兼ねてお祈りするんだそうだ。
 これを七日までに行っておき、七日目に初詣に行く。それが新年の行事で他には何もやることは無いんだとか。
 ということは、餅つきをしても特に悪いことは無いだろう。

「いいぞ、ついでに皆も誘おう。こういうのは人数が多い方が楽しい」

「了解で御座る。どうせ男手は必要だったで御座るからな。それじゃあさっさともち米……に似た穀物を水に浸すのと、あと杵と臼を作るで御座るよ」

 まさかのそこからか。
 確かにそれなら男手は必要だろう。

「じゃあ外の庭で待ってるで御座るよ」

「ああ」

 ヒラリ、と窓から出て行く志村に苦笑しつつ、今度こそ部屋を出た。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 女性陣にもち米(らしき穀物)の準備は任せ、男性陣は杵と臼を作る運びになった。城のすぐそばの林の木を少量であれば切ってもいいという許可を得たので、まずはそこからだ。

「いやそこからって……おかしいでしょ」

「何がだ? 難波」

「いやそのだな、天川。木を切って削って臼って……一日二日で出来るものじゃないだろ? まして工具もねぇんだし」

 難波の言い分ももっともだ。
 現在、天川、難波、井川、志村と異世界人が四人いるのだが……全員、常人に比べれば規格外のスペックを持っているとはいえそこは人間。重機も技術も無いのに杵や臼など作れるのだろうか。
 ちなみに阿辺はかったるいと言って部屋から出てこなかった。

「というわけで言い出しっぺの志村、どうするんだ?」

 井川が志村に話を振ると、彼はこんこんと木を叩く。

「どうも何も、お主らの剣でパパパッとやって終わりっ! とはいかないんで御座るか?」

「いやいや、志村よぉ……。それはいくらなんでも無茶ってもんだぜ」

「オレも同感だな。切るだけならいいが……あの形にするのは骨だろう」

 難波も井川も苦い顔だ。
 しかし志村は「ふっふっふ。仕方ないなぁの〇太くんは」と不敵な笑みを浮かべると、懐に手を入れた。

「てってれー。電動ドリルー」

 微塵も似ていないモノマネを披露しながら、志村がアイテムボックスからハンドガンのようなものを取り出す。

「おー、凄い……が、動くのか?」

「もちろーん、で御座るよ。ほら」

 スイッチを入れるとブィィィン……とドリルが回転する。それを手近な木に突き立てると、かなりの勢いで削れていく。

「おっ、すっげぇ。それなら余裕で出来そうだな」

 難波はかなりテンションを上げて志村から電動ドリルをひったくると、テキトーに回転させだした。
 井川もちょっと楽しそうに難波の持つ電動ドリルを眺める。

「余裕かどうかは分からんが、目途は立つか」

「というかいつ用意したんだそんなもの」

 天川が問うと、志村は何てことないように「まー、普段からマール姫の頼みで色々と作っているで御座るからなぁ。DIYってやつで御座るよ」と言って他にも色々な道具を取り出した。チェーンソー、電動やすり、釘打ち機まである。もはやDIYというよりは大工のような品ぞろえだ。

「じゃあ臼はいいとして……杵はどうするんだ?」

「お主らの拳で良いで御座ろう?」

「熱すぎるわ」

 白鷺がいたら恐らく好んでやっただろうが、生憎ここにいる人間は拳を鍛えてはいない。しかし臼に比べれば簡単に作れるだろう。

「じゃあ取りあえず天川、テキトーな大きさに斬るで御座るよ」

「分かった」

 ズバッ!
 天川の剣が閃き、四つの切り株を生み出した。ラノールさんとの修行の成果か、どれもこれも綺麗に並行に斬ることが出来た。
 難波たちが拍手する中、ついでに大まかに内部もくり抜いてしまう。

「さすがは勇者で御座るな。見事な剣捌きで御座る。恐らく世界広しと言えどここまで臼をくり抜くのが上手い勇者はそうそういないで御座る」

「……そもそも勇者って臼をくり抜いたりするのか?」

「言わないでくれ、難波。俺もそれは疑問に思ってるから……」

 わざわざ口に出されると少し凹む。というかそもそも天川の持っている剣は神器だ。ヘリアラスから託された文字通り神の武器だ。
 それを使ってやることが臼作り……。

(いや、考えるのはよそう)

 天川は無心になって取りあえず簡単に形を整えると、志村が全員に電動やすりを渡す。

「これでゴリゴリ削って形を整えるで御座る」

「「「はーい」」」

 というわけで、三人で削り始める。
 最初の方はこの異世界では物珍しい電動工具で作業することにテンションが上がっていたが、流石にダレてくる。
 いやダレてくるというか……。

「なんつーか、なんで俺らは年末に男四人でこんな地味な作業をしてるんだ……?」

「この後、紙やすりで表面をつるつるにする作業もあるで御座るよ」

 志村がニヤニヤとしながら紙やすりを取り出す。それを見た難波が雄たけびを上げて倒れこんでしまった。

「鬼だな、志村。……ところでちょっと真奈美が恋しいから一旦休憩してもいいか?」

「井川、お前付き合ってるのバレてから隠さなくなったな……。まあ休憩は構わないが」

 というわけで一旦休憩という運びになった。
 皆水筒からお茶を飲みつつ、のんびりと話をする。

「そもそもあいつが恥ずかしがるから隠してただけだしな」

「……そういえば井川、お前の部屋から夜中苦しそうな声が聞こえてくるけどアレなんなんだー?」

「お前、付き合ってる男女が同じ部屋にいるんだぞ。何があるかなんか分かるだろ」

 あっさりと言ってのける井川に、訊いた難波の方が逆にちょっと顔を赤らめた。……っていうか、難波案外ピュアだな。
 井川はゴリゴリと削りながら、くるりと天川の方を振り向く。

「お前こそ、空美とはどうなんだ?」

 お茶を吹きそうになるのを慌てて押しとどめる。

「お、お前何を言って――」

「あ、俺も聞きたい聞きたい!」

 難波まで食いついてきた。
 二対一は旗色が悪い。天川は一つ咳払いして工具を持つ。

「お、俺のそれはいいだろう。それより休憩を終わりにしてまず先に臼を――」

「言わないと電動やすり無しで磨かせるで御座るよ」

 まさかの志村まで参戦。
 天川は一つため息をついて――

「っていうか、天川殿は空美殿だけではないで御座ろう? ティアー王女やラノール殿、確か追花殿もお主のハーレムメンバーで御座るからな」

「は、ハーレムってなんだ! っていうか、別に皆俺のことが好きなわけでは……その……し、志村! お前だってマール姫とよろしくやってるんじゃないのか! しかも新しくロリを仕入れて! このロリコンが!」

「せ、拙者はロリコンでは御座らん! っていうか仕入れるってなんで御座るか仕入れるって! シャンは元々お前たちが連れてきただろ!」

 情勢が悪くなったので逆ギレすると、流石に志村も素に戻ったのか、口調がいつもの御座る口調じゃなくなった。

「うっわ、マジかこのロリコンまでハーレム作ってるのか……」

 その場でがっくりと肩を落とす難波。
 井川はそっと彼に近づき、その肩に手を置く。

「難波、気にするな」

「井川……」

 井川が珍しく難波を慰めている。

「ハーレムじゃなくて純愛もいいものだぞ? オレと真奈美みたいにな」

「はー、リア充どもウゼェ!」
 前言撤回。トドメを刺しただけだ。

「俺だけじゃねえか彼女いないの!」

 舌打ち混じりに難波が叫ぶが、天川は呼心と付き合っているわけではない。
 勘違いが流布されても困るのできちんと訂正しておくとしよう。

「いやだから俺は呼心とは付き合ってるわけじゃ……」

「先週、空美殿の手作り弁当食べてたで御座るな」

「天川ー!?」

 どうやら味方はいないらしい。

「志村! なんでバラすんだ! お、お前こそマール姫と毎日のようにピクニックに行ってるだろう!」

「いや別にピクニックくらいいいで御座ろう?」

「だが志村、オレは聞いたんだが……なんでもマール姫から求婚されたらしいじゃないか」

 せめてもの反撃と思ってそう言うと、難波が目を輝かせて食いつく。

「求婚!? え、なにお前玉の輿までいくの!?」

「いや……それは……その……い、井川殿こそ! 拙者知ってるで御座るよ! 毎夜毎夜シーツを汚すもんだから城のメイドさんから文句言われてること!」

「な、何故それを……っ! し、仕方ないだろ!? その、アレをすると……色々と、だな……」

「うわー、不潔ー」

「難波は黙ってろ! っていうか難波お前も! なんか城下の花屋さんの娘さんにちょっかいかけてるらしいじゃないか! 確か……お前より年下の、セシルさんとかいう!」

 ここにきて難波に水が向いた。
 天川も志村もその情報は初耳だったので、ここぞとばかりに反撃する。

「おっ、井川殿。それどこ情報で御座るか? 拙者も知らないんで御座るが。っていうか年下で御座るか、へー、そういう趣味が」

「井川、ナイス情報だ。ほら難波、キリキリ吐け」

 三人でニヤニヤとした顔を難波に近づけると……難波は気まずそうに皆から目を逸らした。

「……セシルさんな、今度……結婚するんだって」

 シン。
 ほんの数秒前の喧騒が嘘だったかのように静まり返る。難波の持つ電動やすりだけが元気に音を立てているが、それが逆に静けさを際立たせている。

「ちなみに相手は?」

「Bランク冒険者の……確かディファインとかいう奴だったかな。爽やかな好青年って感じだった。ケッ、忌々しい」

「忌々しいは草」

「志村、煽るな。……まあ、なんだ。その……他にもいい人はいるから……」

「ハーレム作ってるやつに言われたくねぇよ! ちくしょー……いい感じだと思ってたのになー」

「まあまあ、で御座るよ。そもそも死ぬか生きるかみたいな生活してるんで御座るから、一般人とお付き合いなんてしない方がいいで御座るよ。ここにいる連中は拙者を除いて|逸般人(にんげんやめにんげん)で御座るからな」

「一番人間を止めてるレベルの技量を持つ奴が何か言いだしたぞ」

「拙者は普通のスペックで御座るよ」

「っていうか相手のBランクAGも似たようなもんだろそれ……。くそっ、俺もAGになったらすぐにBランクくらいなれるっていうのに……」

 確かに難波はこの中では単体で強いという方ではない。どちらかというとサポート寄りの『職スキル』の構成だからだ。
 ……が、流石にBランク魔物であれば単体で倒す実力くらいあるだろう。というか、一対一ならAランク魔物にだって負けないはずだ。

「まあしょげるな。オレだって真奈美以外には好かれてない」

「……でもお前だけじゃん、この中で正式に彼女いるの。しかも童貞じゃないんだろお前、天川も志村も童貞なのに」

「ど、ど、ど、童貞ちゃうわ!」

「懐かしいな、空〇アワー」

 志村の発言に井川がツッコム。空耳〇ワーとはなんだろうか。
 難波はがっくりと肩を落とすと、懐から何か袋のようなものを取り出した。

「なんだそれは」

「んー、ユラシルさん……セシルさんのお姉さんと会った時にな。俺がセシルさんのこと好きなの知ってたから、結婚報告聞いた時に慰めにってくれたんだよ」

 そう言って中身を取り出すと……クッキー、のようだ。美味しそうではあるが、少しだけ香りがキツイ。

「なんでも薬師っていうか薬剤師っていうか、そんな感じの仕事してるらしくてな。それの応用で作ったクッキーらしい」

 薬剤師の応用から何故クッキーが。
 怪しい薬でも入ってるんじゃないかと思うが、本人が満足そうなので問題あるまい。

「なんだ、妹にフラれたから今度は姉か?」

 井川がややゲスな顔をして難波にそう言うと、難波は少し気まずげにそっぽを向く。

「……今度、食事行こうって誘われた」

「「「うわー……」」」

 天川、志村、井川の声が揃う。
 難波は流石に気まずかったのか顔をやや赤くしながら、クッキーを齧る。

「いーいーだーろー、別に。俺はお前らと違って『生涯たった一人しか愛さない!』みたいな契りを立ててるわけじゃねえんだ。思いが通じ合わなければ次の人だよ」

 割とドライな難波。その辺はもっと浪漫というか追い求める物だとばかり思っていたが。
 そんな天川の視線に気づいたか、難波はポリポリと頬を掻く。

「ま、アレだ。俺もそろそろ十八だからな。いつまでも夢見てはいないってことよ流石に。転がってるチャンスは有効活用しないとな」

 昔ヤンチャしていたヤンキーが落ち着いた後のようなセリフを吐く難波。それはどちらかというと女遊びをしていた人間が言うセリフではなかろうか。

「それでそのユラシルさんは美人なのか?」

「井川、案外食いつくな」

「でも拙者も割と気になるで御座るよ」

 この世界には写真というシステムは(基本的に)ないので、この手の話になった時は語り手の主観に全てが委ねられる。そしてここでどれだけ上手く他の人に羨ましがられる程その人の容姿を良く言えるかどうかが若者の間で流行りなんだとか。
 難波は少しだけ考えると、指折りいくつか特徴を上げていく。

「髪は……ショートだな。なんだけど前髪とかはちょっと長めで綺麗なピンでとめてるんだ。振り向いた時のうなじと、屈んだ時に垂れる髪を耳にかける仕草が超綺麗で、超色っぽいんだ。綺麗なトパーズみたいな綺麗な髪の色でさ、その、笑うとすっげぇ綺麗なんだよ。そう、アレ! こう……綺麗な、向日葵みたいな」

 下手か!
 何回綺麗って言うんだ!
 花屋の娘さんなんだから例えは花で統一しろ!
 ……というツッコミを入れないくらいには天川たちにも慈悲の心はあるので、ニヨニヨとした顔のまま難波の話を聞く。

「目元は……なんかふわふわしてるっていうか、ちょっと猫っぽい感じでさ。だけど笑うと凄い綺麗で、こう……こっちの心があったかくなるんだよ。ホント、綺麗な口もとしてて研究の時だけ眼鏡かけてるっぽいんだけど、それがまた綺麗で似合ってるんだよ」

「ボキャ貧か」

「綺麗って何回言うんで御座る」

「というかベタ惚れじゃないか……いくら失恋してすぐとはいえ切り替え早過ぎないか?」

 流石にこれ以上は我慢できなかった。井川も志村も天川も真顔になり難波に突っ込む。
 難波は顔を真っ赤にすると「うるせー!」と剣を抜き放った。

「お、お前らなぁ……! べ、別にベタ惚れじゃねえよ。客観的な意見だ客観的な」

 取りあえず剣を仕舞え、難波。
 志村が難波の背後を取り、剣を握ってから手首を逆方向に返した。難波は「ほへ?」とか間の抜けた声を出しながらその場にコロンと転がる。

「客観的な、とかよくそんな難しい言葉を知ってたな。偉いぞ難波」

 難波に手を貸しながら井川が笑う。

「井川……お前どんだけ俺のこと舐めてるんだよ」

「井川殿が舐めるのは木原殿の胸で御座ろう」

「誰が上手い事を言えと。オレはそんなに胸フェチじゃないぞ、言っておくが」

「……今のは上手いのか?」

 というか女性陣に聞かれていたらセクハラだのなんだの言われていそうだ。
 志村が難波に剣を返し、各々の作業に取りあえず戻る。

「はーあ……彼女欲しい」

 作業を始めて数秒でまた難波が話し出す。今度は作業を止めずに、だが。

「ユラシルさんとかいうのと上手くいきそうなやつが何か言ってるで御座る。どう思うで御座るか、彼女持ちのリア充の方々。主にアプローチの仕方とかアドバイスしてあげるで御座るよ」

「だから俺に彼女はいない。……が、向こうから食事に誘われてるならそのうちいい感じになるんじゃないか?」

「オレも真奈美とは幼馴染だったからな。いつの間にかそうなってただけで何かアプローチをかけたわけでは……」

 天川と井川の意見を聞いた難波と志村が揃ってため息をつく。

「これだからリア充、いやリア獣は……ケッ! で御座る」

「そういうのってモテるやつが言うセリフだよな。ちくしょー、イケメンに生まれたかったぜ」

「いや別にイケメンというわけでは……っていうか、なんで言い直したんだ?」

「黙るで御座るよ芸能界からスカウト受けた前科持ち!」

「それ前科なのか?」

 くだらない会話をしながら臼を作る。

(……男同士のくだらない会話もいいもんだな)

 つい、口もとが緩むのも仕方が無いだろう。
 友人との他愛ない会話というのは……天川たちにとっては得難いものなのだから。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


「というわけでマール、シャン、これがお餅で御座るよ。どうで御座るか? 味は」

「美味しいですの! みょーんって伸びて最高ですの!」

「お餅つきも楽しかったですね。来年も是非やってみたいです」


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「真奈美、美味いか?」

「うん、ありがとう伸也! ……まさか異世界でお汁粉を食べれるなんて思っても無かった」

「お汁粉風、だけどな。オレは砂糖醤油が好きだが……醤油が無いからな、せめて黄な粉があればな」


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「美味いな。これなら夜中まで臼を作った甲斐があったというものだ」

「杵は間に合わなくて拳だったのは笑ったけどね、明綺羅君」

「その……て、手は大丈夫ですか? まさか覚えたての熱攻撃への耐性を授ける魔法をこんなことに使うなんて……」

「アキラ様! 噛み切れませんわ! 凄く伸びますわ!」

「ん……美味いな。今度実家で母上たちにも振舞うか」

「ん~……アタシはもっと甘い方が好きねぇ。アキラぁ、そのお砂糖とってぇ?」


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「その……ゆ、ユラシルさん。こ、これ俺の仲間たちと作った……ん、す、けど。お、お裾分けっていうか、その……えっ。貰う? マジすか、あざっす! あ、いやいや……お礼なんてそんな。大丈夫ッスよ! それより今度行くお店なんすけど……俺、スーツなんて持ってないんで出来れば別のお店がいいっていうか……え、今から買いに? いや確かに金はありますけど……お礼? いや、それは申し訳ないッスよ! って、ちょっ、ユラシルさん、ユラシルさーん!」
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