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第六章 修行の時なう

138話 連携の拳

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 第三陣まで叩き伏せ、ぜぇぜぇと肩で息をしながらその場にへたり込む。

「あー……やっと終わった」

「魔力がすっからかんだ。肉体労働は嫌だってのに。ぼくは基本的には後衛から前衛に指示しておくくらいがちょうどいいんだよ」

 加藤がぼやき、魔力薬を呷った。
 白鷺はその様子を見ながらぼんやりと拳を握ったり開いたりする。

「なぁ、加藤」

「どうしたの、白鷺?」

「いや……」

 やっぱしんどいな、とそう言いかけて止める。
 この程度で音を上げていたら到底あいつらに追いつけやしない。そう思うと弱音を吐くのすら躊躇われる。
 だから代わりにこういうのだ。

「楽勝だな! 試練の間!」

「……ははっ、相変わらず君はバカだね、大バカだ。だから童貞なんだよ」

「んだと!? ってか、童貞は今関係ねえだろ!」

 いつもの軽口を叩きながら、加藤がその場にゴロンと寝転ぶ。日本にいた時なら考えられないと思う、地べたで寝るなんて。

「……ごめん、ちょっと寝るね」

「おう。着替えなくていいのか?」

「どうせ外だし……」

 もう声が眠そうだ。だいぶ張りつめていたのだろう。
 それを察し、他に何も言わず時間のみ訊く。

「……五時間でいいか?」

「微妙……。まあ……取りあえ、ず、そのくらいで……起こし、て……」

「はいよ」

 白鷺と違って加藤は魔法使い。体力よりも魔力の方が回復しづらいらしい。そして塔の内部は魔力に満ちていたようだが……試練の間は魔力が回復しづらいってデネブの塔で言っていた。
 恐らくそのせいで加藤も「分からない」と言ったのだろう。
 ストレッチをしてクールダウンを始める。加藤が起きたら見張りを交代で白鷺が休む。その時に体がちゃんと「休もう」としていないとしっかり休めないからだ。

「あとは本でも読んで待ってるか」

 一通りのストレッチを終え、衣服を着替える。汗で濡れた服を着ていると体温が下がりやすくなる。休むためには乾いた服がいいだろう。
 こういった衣服を全て持ち運べるのだから、アイテムボックスというのは便利だ。
 野営でこうして着替えたりするのはリスクが高いことは重々承知している。着替えの途中で魔物に襲われる可能性があるからだ。まして本を読むなんてもってのほかだろう。
 しかし白鷺たちはきっちり着替えていた。体を冷やすのも良くないが、何よりも『常在戦場』と思っているからだ。
 もちろん警戒はする。周囲に気を配る。しかしだからと言って自分たちが普段行っていることはやめない。
 どんなタイミングだろうと喧嘩を売られればそれを買い、勝つ。それが短期間で強くなるために白鷺たちがやっている修行の一つだ。
 飯の時も、トイレの時も、本を読む時も、もちろん着替える時も。常に周囲に気を巡らせる、そのために外だろうと中だろうとご飯もトイレも着替えも、稀に風呂も。全てしっかりやる。

「だっていうのに……即寝ってことは、相当消耗したんだろうな」

 現に自分も弱音が出そうなくらいには消耗している。体に傷がついているとかではなく、精神が摩耗しているのだ。
 相手がいくらあまり強くなくても魔物は魔物。殺しにかかってくる。現代日本でぬくぬくと過ごしていればそうそう出会うことのない経験だ。
 ボクサーとして曲がりなりにもリングに上がって殺意のやり取りをしていた自分がこれほど精神を消耗しているのだから、普通に日本人をやっていた加藤の消耗はどれほどか。
 それでもなお、軽口を叩いて完璧なフォローをしてくる加藤は……。

「風邪ひかないといいけど……って、風邪くらいならコイツの魔法で治せるんだったか」

 魔法とは便利なものだ。
 そう思いながら、白鷺は周囲に気を配りながら本に目を落とした。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 きっかり五時間後、加藤は目を覚ました。
 悪くはない目覚めだが、体の節々が痛む。魔力は大分戻っているから戦えないことは無いだろう。

「……見張り交代するよ」

 白鷺に声をかけると本から顔をあげた。相変わらず彼は魔物の生態が書かれている本が好きなようだ。

「おう」

「ってか、着替えないで寝たから気持悪い……。どうせ汚れるってわかってるけど着替えて体拭こうかな……」

「はは、お前が着替えないで寝るんだからよっぽど疲れたな」

「……ぼくだって億劫になる時くらいあるよ。それより、何時間?」

「二……いや、三時間でいい。魔力はどうだ?」

「八割。三時間寝るっていうなら残りの二割も休んでるうちに回復すると思う」

「おーけー」

 マットを敷いて、その上でゴロンと寝転がる白鷺。そういえば自分は地べたに寝転がったんだったか。そりゃ体の節々が痛むか。

「ああ、くそっ……」

 幼い頃からなんでも器用に出来た。だけど、だからこそ一番になれたことなんて無かった。
 二番手、それが自分のいるポジション。

「だから、たまに眩しく見えるよ」

 愚直に一番を目指すその姿が。
 最強を目指すその様が。

「なんてね。ぼくも魔法書でも読んで待つか。……いや、その前に着替えだな」

 服を着替え、体をぬれタオルで拭く。この程度の水を出すならそんなに大した魔力は使わなくて済む。
 あらかた身辺のメンテナンスを終え、さっぱりした加藤は地面に座布団を敷き、アイテムボックスから魔法書を取り出す。王城の図書室にあったモノを数冊パク……もとい借りてきたものの一つだ。
 大賢者の『職』になってから使える魔法が大幅に増えた。
 だが、その分強力な魔法はあまり使えない。火も、氷も、水も、全て専門の魔法師には敵わない。『スローダウンワールド』くらいだ。
 だからこそ手札を増やすことが重要になる。どうも大賢者は各分野の大魔法は使えない代わり、覚えられない分野の魔法は無いようだから。

「んー……速度、攻撃、この辺は覚えてる魔法の下位互換かな。ああ、これは筋力か。いいじゃん、筋力増加」

 呪文と効果説明を読み、その魔法を唱えてみる。

「『始原の力よ。大賢者の聡が命令する。この世の理に背き、あらゆる物を打ち砕く筋力を。オーガ・マッスル』」

 自分自身にかけると、確かに筋力が強化された感覚がある。それも足し算ではなく掛け算。今加藤が使っている他の魔法と同じだ。

(魔法の効果的に……これは『詠唱短縮』の『職スキル』だけじゃなくて『詠唱破棄』で使えそうだね)

 筋力強化、攻撃力強化など種類の違うバフを使うと、かけられた側の能力は乗算で上がる。さらに、同じ種類のバフの中でも先に加算バフを使い、後から乗算バフを使うことでステータスを飛躍的に伸ばすことが出来る。
 例えば、元々の能力が五十の人間に三倍の能力になるバフをかけた後に十五加算するバフをかけると百六十五にしかならない。しかし先に十五加算するバフをかけた後に三倍の能力になるバフをかけると百九十五になる。差し引き三十もの差だ。
 これをさらに攻撃、筋力、身体能力強化、などなど全ての種類で行うと最終的にはとんでもない差になる。パッシブのバフも重要なので装備品はかなり厳選した。魔道具でも強化している。
 そういうバフの順番や、効果も計算に入れながらサポートせねばならないのだ。

「ホントに手間がかかるよ」

 これほどの手間をかけてやっとAランク魔物を蹴散らすパワーを得ることができるというのに、白鷺は暢気なものだ。
 口の端を歪め、さらに魔法書を読む。出来ないことが出来るようになるのは楽しい。

「この魔法は……ああ、テレパシーって感じか。単語しか送れないみたいだけど便利だ。……魔法はいいな」

 木の枝を咥え、齧りながら独り言ちる。

「学校の勉強と違って――出来るからって誰かから嫉まれることも無いしね」

 妬み、嫉み、僻み。そんなのが無いから心地いいのかもしれない。彼の背中を守るのは。
 なんて思いながら――魔法書に没頭していった。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


「さて……じゃあ次の扉に入るか」

「その言い回しなんか変じゃない? まあいいか。準備は大丈夫?」

「おう。まあ次もあんな魔物ラッシュだと勘弁してほしいって感じだな」

「確かに、疲れるもんね」

 首を鳴らし、白鷺は拳を手のひらに打ち付ける。

(……よし、気合いもバッチリ)

 今なら充分、拳に気合を乗せてぶん殴ることが出来るだろう。
 そんなことを思いながら扉から向こうの部屋に入る。

「……なんだ、これ」

「スピーカー……かな? 現代風じゃなくてレトロな感じがするけど」

 蓄音機とかについているトランペットの先のようなアレ。それがずらりと何十……いや、何百と周囲の壁から生えている。
 そして後ろの扉がギギギ……と音を立てて閉じる。

「魔物の気配は……」

「今のところ、無し。まあさっきはワラワラと湧いてきたからすぐ出てくるんじゃない?」

 加藤がそんなことを言いながら結界を張る。奇襲に対する備えだろう、どんな敵が出てきてもいいように全属性に対して耐性のある結界を張ったようだ。
 周囲へ警戒しつつ、ガードを上げる。さてどこから魔物は来る――?


 ギィィィィィィィィィィィィィイイイイイィィィィンンンンッッッッッ!!!!!


「ッ!?」

「ッ、あ、ぐ……っ!?」

 突如――まるで黒板をひっかいたような音が物理的な衝撃をもって白鷺に襲いかかってきた。
 たまらず耳を塞ぎ、膝をつこうとしたところで……地面から、魔物が現れる。それはまさに魔神といった風体で、こんな状態でどうにかなりそうな敵では無かった。

「(加藤! バフを――)」

 そう叫ぼうとして気づく。
 加藤も何か言っているということに。そしてそれが全く聞こえないということに。

(――――ッ!?)

 試練の間。
 その試練が牙を剥いてきた。
 ゴクリと唾を飲み込み、改めて敵を観察する。
 角が三本生えており、筋骨隆々の赤鬼のような上半身で氷の棍棒を持っている。そして下半身は馬……いや、六本脚の馬のようになっている。
 ケンタウロス、の亜種のような感じだろうか。大きさは見上げるほどで、加藤のバフも無しに突破できるとは思えない。

(ケンタウロスオーガ……で、いいか。取りあえず)

「――――――――――ッッッッッッ!!」

 雄たけびをあげているのだろう、しかしそれすら聞こえない程の怪音。
 そして唐突に氷が降り注いできた。ケンタウロスオーガが出したものだろう。
 それらは結界に全て阻まれるが、そのままケンタウロスオーガは手に持った棍棒を振り上げ突っ込んでくる。
 加藤がどちらに避けるか確認しようと一瞬彼に目線を送った瞬間、加藤の目が見開かれた。
 何故――という思いは目線を前に戻した瞬間すぐに氷解する。氷の棍棒が唐突に巨大化していたのだ。
 咄嗟に加藤を突き飛ばし、自分もその場から横っ飛びで回避する。ボクサーらしからぬ回避ではあるが、相手が怪獣では仕方が無い。
 さらに追撃の棍棒を躱し、懐にもぐりこみ――気合いを入れたパンチを馬部分のボディにぶちかます。
 しかしあまりに分厚い筋肉のためか、まるで巨大タイヤを殴ったかのような感触が返ってくる。

(こいつは……まず、っとぉ!)

 棍棒を持っていない方の手に氷を纏わせたケンタウロスオーガのパンチを横にステップして回避する。

(顎が遠いな……どうにか顔を下げさせないと……)

 なんて考えていると、またも巨大化した棍棒が襲いかかってきたので緊急回避する。避けたモノの棍棒から氷の礫が飛んできて全身を打ち付けられる。

(くそっ……どうすりゃいいんだ)

 いったん離れ、耳を塞ぐ。数秒間の攻防の間だけで吐きそうになっている。それほど『音』というのはキツいのか。
 耳を塞いだところで音が遮断できるわけではないのだが、やらないよりはマシだ。
 白鷺を加藤に相談しようとして……止める。お互いの声が聞こえない以上、相談することすらできない。
 加藤はこの音で参っているだろう。ならば一人でこの状況をどうにかするしかない。
 さてどうすべきか――

「――――――ッ!!!」

 ――雄たけびをあげ突っ込んでくるケンタウロスオーガ。それを迎え撃つためにガードを上げて構えると、後ろにいる加藤ごとやるつもりなのか棍棒で薙ぎ払ってきた。
 一瞬避けようとするが、それをやめ踏ん張る。後ろにいる加藤がこの攻撃を避けれるかどうかわからないからだ。
 ガギン……っ! と鈍い音が骨に伝わる。
 それでも踏ん張り、押し返そうとするがそれは叶わずミシリと嫌な音が骨から聞こえてくる。

「ガッ……」

 ズキリ、と腕が痛む。この痛み方は折れているかもしれない。
 ゾワリと背筋に冷たい物が這ったような感覚が奔る。久しく忘れていたこの感覚。死ぬかもしれないという恐怖――

(う……っ!)

 周囲は怪音、目の前には筋骨隆々な化け物。
 味方との連携はとれず、一人でやるしかない。
 勝てるの、か――

『童貞』

「(うるせぇ! って、え?)」

 突如、頭の中に加藤の声が。
 そのことに困惑していると、さらにその声は続く。

『バカ、突っ込め』

 呆れたような声の加藤。

『殴れ』

 そう言われてハッとなる。

(俺は何をしていた?)

 グチャグチャ考えて、肝心なことを忘れていた。

(俺の仕事は殴ること、相手をぶっ飛ばすこと。それ以外のフォローは全部セコンドのこいつがやってくれるんだ!)

 人間は誰しも一人じゃ最強になれない。
 かの有名なマイク・タイソンだって、才能はあっただろうがやはりカス・ダマトに出会い、彼から指導されたことで世界チャンピオンになったんだ。
 それと同じように、自分一人じゃ最強になんかなれっこない。

(くだらねぇ、焦りすぎだぜ俺は)

 白鷺は一つ、目を閉じる。
 今、やらねばならないことはたった一つ。

(加藤を信じて、俺は思いっきり相手をぶん殴ること――)

 最良のフォローが来るはずだ。だってそれが相棒なのだから。
 首を振り、目を開けて前を見る。
 眼前には巨大な棍棒を振り上げる化け物。
 だけど、もう何も怖くない。
 一人じゃないのだから――!!

「ッラァああああああああああああ!!!」

 叫ぶ、己を鼓舞するために。
 振り下ろされた棍棒を躱し、それに乗って跳躍する。

「ッラァ!!」

 刹那、体が軽くなる。いつものバフに咥え、さらに別のバフも乗ったようだ。
 気合を充分に籠めた拳は金色の輝きを放ち、ケンタウロスオーガの顔面に突き刺さる。
 ゴッッッッ!!! とケンタウロスオーガの一撃に勝るとも劣らない衝撃が空間を走り、ケンタウロスオーガは後方へ吹き飛ばされる。

「――――――――ッッ!」

 何かを叫んでいるようだが聞こえやしない。
 地面に着地し、さらに前傾姿勢になって追撃を試みる。
 気合を腕だけでなく足にも籠め、さらに『瞬即』も発動させて加速する。

「――――――――ッッッ!!!」

 雨あられと――否、嵐のように人間大もある氷塊が飛んでくるが、その全てを無視してケンタウロスオーガまで突っ走る。

「〇〇〇、〇〇」

 後ろから呪文の気配。次の瞬間全ての氷塊は一瞬で蒸発していた。
 さらに踏み込み、振り下ろされた棍棒に対して体を屈めた状態から――打ち上げるようにスクリュー気味の左フックを放つ。

「『職スキル』――『スクリューガゼルパンチ』!!」

 ゴッゴゴォォォォォォォンッッッッッ!!!
 尋常じゃない衝撃と共に、棍棒が真ん中からへし折れる。
 ケンタウロスオーガの目が驚愕に見開かれるが、それを無視してもう一歩踏み込み馬部分の腹に右フックを叩きこむ。
 ミシリ、と右手から嫌な音が鳴るが関係ない。骨の一本くらい、後で治せばいい話。激痛なんて我慢すればいいだけだ。

「―――――――――!?!?」

 横にズレたケンタウロスオーガ。さらに気合いを籠め、拳を振るうが流石にガードされる。
 しかしそんなのは関係ない。
 ガードごとぶち壊す勢いでさらに左、右とコンビネーションを決める。
 そこで体がぶれたのと同時にケンタウロスオーガの動きが鈍くなる。『スローダウンワールド』だ。

「ッラァ!」

 ゴン、ゴン! と連撃の拳で壁に叩きつけ、さらに加藤の放った氷塊でケンタウロスオーガは逃げ道を封じられる。
 さらに加藤が氷塊で土台を作ってくれたおかげで、顔まで近くなる。ここなら全ての拳を急所に叩き込むことが出来る――
 白鷺は『拳々轟々』を発動。無限の連打の全てに気合いを籠めて叩き込む。

「ッラララララララララララララアアアアアアアア!!!!」

 ズドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド!!!!!
 壁に叩きつけているので、逃げ場はもうない。
 これなら死ぬまで殴り続けられる――!!

「――――――――!!!」

「何言ってるかわかんねぇけどよ……」

 右フック、左ボディ、右ストレート、左アッパー、右ボディアッパー、左ボディアッパー、右ストレート、左フック、右ボディ、ジャブ、右ストレート、ワンツー、ワンツー!
 一発ごとに死ぬほどの痛みが走るが、それすら無視して殴り続ける!

「そろそろ、死んでろ!!」

 ビキィッ! っと致命的な音が鳴り右腕から力が抜けたので、仕方なく右足を前に出してスタンスを変えてサウスポーにスイッチ。無事な左腕で左ストレートを放つ。

「ッラァ!!」

 一層の気合を込めてぶん殴り――ケンタウロスオーガは壁に完全にめり込んだ。
 そして気配がしたので左にステップして躱すと、加藤の方から飛んできた巨大な炎の槍がケンタウロスオーガを貫き……魔魂石を破壊したらしく、体が溶けてしまった。
 討伐部位であろう大きな蹄鉄のみ残り、そして奇怪な音が止む。

「……まだ耳がガンガンするな」

 白鷺がそう呟いた時、体が緑色に光り……全身の痛みが癒えた。どうも耳も治ったらしく音も普通に聞こえる。

「サンキュー、加藤」

「世話が焼けるね、君は。難しいこと考えるのはぼくの役目。何も考えずに殴るのが君の役目」

 そう言いながら飲み物を投げ渡してくる加藤。

「適材適所。バカはバカなりに動いてよ」

「……そうだな」

 ニッと笑うと、加藤は少し意外そうな顔になる。
 しかしすぐにいつもの厭味ったらしい顔に戻り、肩をすくめた。

「バカには皮肉も通じない」

「るせー」

 ギ、ギ、ギギギー……。
 目の前の扉が――試練の間の最後の扉が開く。
 髪の毛が逆立つような感覚。
 扉の向こうにいることが分かる。

「……最終決戦、だな」

「何言ってるの。スタートライン、でしょ?」

 向こうに、いる。
 最強クラスの存在が。
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