ぼくと神獣様が本当の友達になるまで~鏡よ鏡、鏡さん。ぼくらはこの旅を無事に終えられますか?~

逢神天景

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第三章 月白色の鍾乳洞

①-3

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 さらに歩くこと、半日。もう日が落ちた頃、やっとラミルたちはホワイトバレーに辿り着きました。
 しかし道中はほぼ魔物や猛獣に会うことも無く進めたので、体力的にはかなり順調に進んできています。
 ホワイトバレーは文字通り、谷底に白く靄がかかっているため……視界が非常に悪いことで有名です。
 昼間でも慣れてない人間が下りることは難しいですし、夜なら猶の事。

「じゃあ、今日はここで休もうか。明日の朝、日の出と共に谷を降りよう」

「それは構わないけど、晩御飯はどうする? 保存食にする?」

 当たり前ですが、森の中にはレストランも食堂もありません。そしてダンジョンアタックともなれば、補給が出来ないため……食料は基本的に保存食を用意します。
 塩漬けの肉や、カッチカチの黒パン(というか甘くないクッキー)、ピクルスなどです。

「わたしが何かテキトーにとって来ましょうか? 夜なので、誰もいませんし」

 そう言いながら剣に手をかけるカスターニエ。しかしラミルは彼女の提案に首を振ります。

「今日の所はやめときましょう。食料があるなら、リスクの少ない食料を食べた方が良いですから」

 冒険中に獲って食べるというのは、決して悪いコトではありません。むしろそれを楽しみにしている冒険者もいますし、ラミルたちも昨日はネズオークを食べましたから。
 しかし、やはりどうしてもリスクを伴います。明日はダンジョンアタックだというのに、未知の寄生虫などのリスクを抱えるわけにはいきません。

「それに、冒険の目的は美味しいムーンライトコーラですから。ほら、美味しい物ばっかりだと感動も薄れますし」

「きゅいきゅい」

 子パッカは頷くと、さっそくタニアから塩漬け肉を受けとりました。そしていきなりガブッとかぶりつきます。
 そして……涙目になって、ラミルに抱き着きました。

「きゅい~……」

 ベロを出して首を振る子パッカ。そして塩漬け肉をそっとタニアに返します。そんな彼の頭を、ラミルはやれやれと思いながら撫でました。

「まぁ、塩漬け肉だからねぇ……。美味しいかって言うと、微妙なラインだよね」

「しっかり調理すれば普通に美味しいんだけど、そのまま食べるモンじゃあないねぇ」

 ヴィルヤージュはそう言いながら、黒パンをかじります。グラーノ領の小麦は質が良いということもあり、こちらは泣くほどマズくは無いです。
 ないですが、まぁ美味しくもありません。

「調理するのも面倒だ。さっさと焚き木を集めて、火を焚こう。魔物はさておき、獣はそれで寄ってこない」

「魔物は魔物除けの香ですか?」

 立ち上がって焚き木を集めながらそう言うと、ヴィルヤージュは少しだけ考えるような仕草をする。

「この辺の魔物はそこそこ強力で、魔物除けは効かないのもいるしねぇ。見張りを立てて、三交代でちゃんと警戒する方が良いだろう」

 三交代……と言っても、ラミルたちは四人と一体です。どうあがいてもソロが一人出来てしまいます。
 夜中に一人で見張り――となると、少しラミルやタニアには荷が重たいです。一人でずっと緊張しているのは思っている以上に消耗しますし、何より万が一寝てしまいでもしたら大変です。
 ラミルとタニアの顔が曇ったのを見て、ヴィルヤージュは笑いました。

「心配しなくても、あたしが一人で見張りはするよ。夜にゃ強いし、エルフは退屈には慣れてるからねぇ」

 煙管を咥え、ぷかっと煙を吐き出すヴィルヤージュ。彼女は「ただし」と首を振り、夜空を見上げました。

「朝が弱いから、最初に見張りをさせてくれないかい? 纏まって寝たいんだ」

 なるほど、とラミルは頷きました。見張りの順番――つまりどのタイミングで寝るかという所にも、ちゃんと適性があるのです。

「分かりました。――タニアちゃん、カスターニエさん。二人はどのタイミングが良い?」

「わたしはどっちかっていうと……その、分割でも良いので……早起きする見張りじゃないと嬉しいです」

「アタシは早起きには慣れてるけど、正直、外で長時間寝れる気がしないから分割が良いわ」

「じゃあ二人は二番目だね。しーちゃん、ぼくらは早起きだけどいいかい?」

「きゅい!」

 グッとサムズアップをする子パッカ。ラミルもサムズアップを向けてから、こつんと拳をぶつけます。

「じゃあ、その順番で見張りをしましょう。魔物が来たら急いで皆を起こして、逃げます」

 ラミルが言うと、全員納得の表情になります。カスターニエだけは表情が見えませんが、頷いているので大丈夫でしょう。
 後はさっさと火をたくだけです。皆はさっさと焚き木を集め、ヴィルヤージュが火をつけてくれました。

「さぁて、火は着いた。晩御飯も食べたし、後は寝るだけさね」

「じゃあ、麻のマットを敷きますね」

 カスターニエがふぁさっと麻のマットを敷き……同時に、手のひらサイズまで小さく折りたたまれていた紙を取り出します。
 それを彼女がぺりぺりと開くと人間一人を覆える程度の大きさまで広がりました。

「カスターニエさん、なんですかそれは」

「これは野営するときはよく使われる、ヒラアルーミーの翅を加工したサバイバルシートです。体温を反射して体を温めてくれるので、嵩張らないのに体が冷えないんですよ」

「ちなみに、それ反対側に使うと日光を反射してくれて涼しくもなるらしいわ。店員さんが絶対あった方が良いって言ってたけど……そんなに温かいのかしら」

 カスターニエとタニアが解説してくれます。試しにラミルがふぁさっと自分の身体にかけてみると……説明通り、だんだんとシートの中が暖かくなってきました。

「これ良いですねー、結構温かいです。……宿で寝る時もこれで良いかも」

「いやアンタ、そういう時はちゃんと布団使いなさい」

 ラミルはサバイバルシートにくるまり、麻のマットの上でコロコロと転がります。寝心地は最悪ですが、これだけ温かいとすぐに寝てしまいそうです。
 子パッカもラミルの真似をして転がっていると……タニアが靴を脱いだ脚で二人を止めました。

「遊んでないで寝なさい!」

「はーい」

「きゅい」

 というわけでタニアとカスターニエもその横に並び(カスターニエは完全に足ははみ出ていますが)、サバイバルシートを被って寝る準備に入ります。

「……って、カエちゃん……甲冑のまま寝るの……?」

「頭は流石に外しますよ? それにこうじゃないと、万が一の時に動けませんから」

 そう言ってかぽっと兜を外すカスターニエ。そして途端に恥ずかしそうに顔を真っ赤にしました。
 そしてさっとサバイバルシートを頭まで被ってしまいます。まさに頭隠して尻隠さずですね。

「その、えっと、つ、次の順番が来たら起こしてください」

「あいよ。ほら、タニアもさっさと寝な? 坊やと神獣様はもう夢の中だよ」

「えっ、はやっ!」

 気づけば、ラミルと子パッカはぐるぐる巻き状態で眠ってしまっていました。ヴィルヤージュはその辺の木の根元に座り、脚を組んでのんびりと煙管をふかしています。
 月明かりに照らされながら煙管を咥えるエルフ――非常に絵になる光景で、タニアは思わず見惚れてしまいました。

「……ヴィルヤージュさん、綺麗ですね」

 思わずそう言うと、ヴィルヤージュはクスクスと笑いながら煙を吐き出しました。

「ふふ、こんなお婆ちゃんに心からそれを言えるなんて……アンタは見る目があるねぇ。外面だけじゃなく、中身を見れるのは良い女の証拠だ」

 やっぱりヴィルヤージュは、自分の外見は年老いた物だと認識している様子です。でもタニアはそれが誤解だと指摘せず、笑みを返します。
 中身を見たって、きっとヴィルヤージュは美しいに違いない……とこの二日間の付き合いだけで、タニアは思い始めているからです。

「あの……ヴィルヤージュさん。一つ訊いても良いですか?」

「なんだい?」

 そんな彼女に、タニアは出会った時から心の片隅に抱えていた疑問をぶつけてみます。

「エルフって確か……森の中で、一生を終えるくらい閉鎖的な種族なんですよね。どうして……こうして、旅に出てらっしゃるんですか?」

 タニアの言葉に、少しだけ目を見開くヴィルヤージュ。
 しかしすぐにいつも通りの余裕の笑みを浮かべると……タニアの目をまっすぐ見返しました。

「くだらない理由さ。好きな男に素直になれなくて、愛していた家族に見栄を張りたくて、大好きだった人たちに心配されたく無くて。気づけばこんな所にいたんだ」

 そう言った彼女は、ゆっくりと目を閉じます。その瞬間、バサバサバサバサ! と一斉に周囲から鳥が飛び立ちました。
 タニアがそれに驚いて思わず身を起こすと……ゆらり、と彼女の雰囲気が変わりました。タニア達『人間』とはまるで違う――そう、まさに自然そのもののような雰囲気に。
 そのことにタニアが動揺していると……ヴィルヤージュの吐いた煙が大きな手のような形をとり、ゆっくりとタニアの頭を撫でました。

「アンタはせめて、好きな男には素直になるんだよ」

「……えっと、はい」

 何が起きているのか分からないままタニアが頷くと、ヴィルヤージュはゆっくりと目を開けました。
 するとどうでしょう、彼女の雰囲気は元に戻り……周囲のざわめきも落ち着きます。
 タニアがホッと息を吐くと、ヴィルヤージュはクスクスと悪戯っぽい笑みを浮かべました。

「アンタらには、あたしの秘密を全部話す日が来なければいいんだけどねぇ。さて、改めて寝るんだよ。明日は早いんだから」

「……はい」

 頷いて、タニアはサバイバルシートに潜り込みます。
 さっきの光景は一体なんだったんだろう――と疑問を抱えながら。
 でも不思議と嫌な感じはしなかったな? と、心の中で安堵を抱えながら。

                                     ②へつづく
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