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第二章 募集

②-3

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「さっきも言った通り、初めての依頼は先輩と受けた方が良い。……オレがいい案件を見繕ってやるから、一緒にいかないか?」

 ニコッと口元に笑みを浮かべるサージですが、目が笑っていません。むしろなんだか、危険な雰囲気を醸し出しています。
 ラミルはそこに違和感を覚えましたが、首を振ってから再度頭を下げました。カバンの中に、手を伸ばしながら。

「ごめんなさい、ぼくは依頼を積極的に受けたいわけじゃ無いんです。それに組んでいる女の子もいますし」

 そう言ってまだカウンターの方でもたもたしているタニアの方を見るラミル。それを見た瞬間、サージはフッと目の笑みを消しました。
 そしてペロッと舌なめずりします。

「別の目的のために冒険者に成る必要があっただけで。ここまで案内してくださってありがとうございます。では、失礼しますね」

 今度こそ離れようとしましたが、サージは手を離そうとしません。むしろ余計に力を込めてラミルを引き寄せようとします。

「いやいやいや、おいおいおい。……じゃあせめて、オレから受けた初心者講習分くらいは代金を払ってもらわねえとなぁ」

 はぁはぁと何故かサージの息が荒くなりました。目が血走り、笑みらしきものを浮かべていた顔は狂気のような物が浮かんでいます。
 ラミルの肩に置いた手に、更に力を込めてサージは睨みつけてきました。

「お前が悪いんだ……オレはまだ来たばっかりの町だから我慢してたってのによ……さぁ、選べ。オレと一緒に依頼に行くか、このままオレの泊まる宿に行って代金を払うかよぉ」

 さらに息を荒くし、ラミルの背に手を回して……徐々に下にさげてきます。ラミルは少しだけ思考した後、鏡を取り出しました。

「えーっと、お代なんですよね? 今この場でお金を払うだけじゃダメですか?」

「はぁ……はぁ……それじゃあよ、捕まっちまうだろ……オレもお前も」

 冒険者同士の金品のやり取りは特に禁止されていません。それどころか、情報を貰ったらお酒を奢るなど相手に対価を支払うのは当然です。
 ラミルはお礼だけで行こうとしたことで怒らせたのか……と思っていましたが、『捕まる』というのは変な話です。
 流石に怪しいと思ったラミルは、いつものふにゃーっとしたのんびりした笑みではなく『貴族として』の笑みを浮かべてから、サージの顎に指を当てました。

「さっきの一瞬でぼくの名刺を見て実行に移そうとしたんでしょうけど、計画が稚拙ですよ」

「……計画?」

 サージが『何を言っているんだ』という顔になった瞬間、ラミルは鏡を彼に向けました。

「鏡よ鏡、鏡さん。彼の性格を反転させてください」

 ぴかぁっ!
 ラミルが呪文を唱えた瞬間、鏡が眩い光を放ちます。その光に照らされたサージは咄嗟に顔を覆い、地面にうずくまりました。

「ちょっ、ラミル大丈夫!?」

 ラミルが鏡を使ったことに気づいたタニアが、受付での作業を放り投げて駆けつけてきます。そしてラミルの前に立ち、弓矢を取り出しました。
 彼女が二人の間に入るとほぼ同時、サージが何事も無かったように立ち上がります。
 タニアは自分たちよりも二回りは大きい男にじろりと睨まれ、怯みそうになりましたが……なんと、サージはラミルたちに興味を失ったようにくるっと振り返ってしまいました。

「もうぼくらは行ってもいいですか?」

 ラミルが煽るでもなくサージに声をかけると、彼はこちらに少しだけ視線を向けてから大きくため息をつきます。

「あ? オレはガキには興味ねぇんだ。今から熟女娼館に行って楽しむんだから、絡んでくるんじゃねえ」

 そしてラミルたちが手に持っている新品の名刺を見て、軽く笑みを浮かべました。ぶっきらぼうで、どうでも良さそうな笑みを。

「ルーキー、頑張れよ」

「応援ありがとうございます」

 ラミルはペコっと頭を下げ――貴族スマイルから、いつものふにゃっとしたのんびりスマイルに戻りました。
 そして額に滲んでいた汗を拭い、肩をすくめます。

「まさかこんな白昼堂々攫おうとしてくるなんて、ビックリしちゃったよ」

「攫うって……アンタのこと分かった上で?」

 信じられない、という顔になるタニア。ラミルも苦笑して、彼女に同意します。

「領主の息子だからお金を持ってるだろうと思ったのか、それとも政敵に売ろうと思ったのか。どうあれ、まさかこの町でする人がいるとは思わなかったよ。油断しちゃだめだね」

 タニアは体をぶるっと震わせました。もしラミルが攫われていたら――そう思うだけで、タニアのかいた汗が全て冷汗に変わってしまいます。

「良かったわ、無事で」

「こればっかりは慣れないよ、何度されてもね。――って、あれ? しーちゃんは?」

 二人でホッとしていると、子パッカがそこにいないことに気づきました。タニアもてっきり自分に付いてきている物だと思っていたため、驚いて辺りを見渡します。

「えっ、えっ、ど、どうしよう!」

「大丈夫、たぶん酒場の中からは出てないよ。ぼくも鏡に訊いてみる」

 ラミルは冷静に言って、タニアの手を取ります。タニアはラミルと手を繋いだことで少し落ち着き、彼と一緒にキョロキョロと周りに視線をやりました。
 ラミルはすぐに鏡を取り出し、子パッカの居場所を探ろうとして――酒場の端っこの方、人気の少ない席の所から「きゅいー」と言う声が聞こえてきました。
 トイレの近くのようで、掃除用具などが置いてあり少し薄暗い場所です。

「しーちゃん、かくれんぼ?」

「あんまり遠くまで行っちゃ駄目じゃない」

 取り敢えず室内にいたことが分かってホッとした二人は、ゆっくりとそちらへ近づきます。角を曲がり、奥を見ると――

「きゅい! きゅい!」

「ふへ、ふへへ……可愛い、可愛い……」

 ――真っ赤な全身鎧を着た騎士が、子パッカを膝の上に乗せてこつんと拳と拳を当てていました。

「「一体何が!?」」

「ひゃあっ!? ご、ごめんなさいごめんなさい見ないでください!」

 随分と可愛らしい声で驚く、真っ赤な騎士さん。
 ――おや、もしかしてラミルたちは探し人を見つけれられたのでしょうか?

                         ③へつづく
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