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最終話「14少女漂流記」6
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階段を上がり、再び旧校舎へと戻ってきた私と紀子さんだったが、結果として理科室に向かい顕微鏡で調べてみたが文字は全て、文字化けして読むことが出来なかった。
意図的にこうした可能性は高いが、なかなか真相に辿り着けないのでモヤモヤとした気持ちが残った。
「パソコンで解読したら読めるかもしれないわね」
「意図的にこうしたのなら可能性はありますね、私の方で詳しく調べてみます。お借りしていいですか?」
ここまで苦労して捜索を続け、夜遅くまで奔走した反動で心身共に疲弊していた私は、考えた末、持ち帰ることにした。
「どうぞ、お譲りしますので。今やそれは姉の遺品の一つです、知枝さんが持つべきでしょう」
「ありがとうございます、解読出来たら伝えますね」
快く承諾してくれる紀子さん。
私たちはここで話し終えると、この場で解散することにした。
私にはこの手記を解読するという宿題が残った。
一体この手記に何が書かれているのだろうか。序文からしても只事ではない真実が書かれていることは間違いない。私の知らない30年前の災厄の記録、祖母が伝えようとしても伝えられなかったこと。
――――もし、祖母がもう少し生きていれば。
あの序文を読んで、そのことを一番に考えた。
祖母は生前、いずれ自分の口で話すつもりだったのか。本当のところは分からないが、先ほど序文を読んでみて、これはいざという時のために保険として残していたもののように私には思えた。
「おばあちゃんってば……、随分大変な宿題を残されたものですね、私には荷が重いです」
託された戦利品を鞄に仕舞い、私は雨の止んだ校舎の外で一人苦笑しながら呟いた。二度と会うことの出来ない遠い場所に逝ってしまった祖母だが、今になって、私は思わぬ形で傍にいるような感覚を覚えた。
私の知っていること、知らないこと、魔法使いである私は多くの教えを得て、もう自分の中では普通の人では到底辿り着けない領域まで来ているつもりだった。
でも、まだ知らないこと、知らなければならないことが沢山ある。
だからだろうか、いくら連絡をこちらからしても”父が会ってくれない”のは。
ずっと、プリミエール経由でしか父の現在を知るすべがない日々が続いている。
私が隠された真実に辿り着くことで、会わなければならない必然に到達する。
もしかしたら、その時が父と再会する時で、ずっと前から私のことを待っているのかもしれない。
知らなければならないこと、真相に辿り着くための長い道のり。
そのことに途方もない想いを抱くと同時に、それらが人類が重ねてきた歴史の奥深さであると思えば、この探求は、人の業の深さを知る壮大な娯楽だと考えることも出来た。
だが、娯楽と思うには、あまりに過酷な未来が待っていることを想像すると、とても楽観的になれるものでもなかった。
「アリスの信託を受けて、魔女の力を祖母から継承して、一人後継者に選ばれ稗田家の人間として育てられ、今この凛翔学園を訪れて、私はこれからどこに向かっていくんだろう……」
先にある未来がまだはっきりとは見えない。それは当たり前のことかもしれないが、不安がずっと身体に染みついて離れない。
だが、これまでの日々が無駄ではなかったと思えるように、私は解読を進め、自分の生きる意味を探すことにした。
「14少女漂流記……、14人の少女と14日間の戦争……、おばあちゃんは、この街で一体何を見てきたの?」
私は月が輝く夜空を見上げて一人呟いた。
*
それから私は、プリミエールの手も借りて解読を続け、14少女漂流記という祖母の残した手記は地下書庫に隠された端末で映像アーカイブを鑑賞できる、全8巻に分かれた30年前に発生した厄災の記録であることを知った。
残りの手記は厄災に関係した人物に一冊ずつ託されていたようで、私はそれを追っていくこととなった。
そして、厄災の時に一体何があったのか、一冊ごとにその真相に近づいていき、続巻が手に入るのを待ちわびながら手記が新たに開かれるごとに、驚かされることとなった。
14少女漂流記という祖母が残した厄災の記録。それは壮大な人類の生き様を描いたもので、原因不明の災厄の中で人々が生き残る大変さを際限なく描き切ったものだった。
毎夜繰り返される死の連鎖
助けを求める人の願いに導かれるように、戦場へと向かう少女たち
見えない敵と、幾度となく続けられた死闘
原因究明に奔走する大人達
逃げることの叶わない監獄
一人、また一人と力尽きていく魔法使いとして覚醒を果たした少女達
終わりの見えない絶望を抱えたまま、世界から孤立し、分断された街で悲劇は幾度も繰り返された。
私は全8巻に及ぶこの手記を通じて、この世界に隠された真実を知っていくことになる。
*
NEXT EPISODE
EPISODE2 ”震災のピアニスト”
&
EPISODE0 ”14少女漂流記”
COMING SOON……
意図的にこうした可能性は高いが、なかなか真相に辿り着けないのでモヤモヤとした気持ちが残った。
「パソコンで解読したら読めるかもしれないわね」
「意図的にこうしたのなら可能性はありますね、私の方で詳しく調べてみます。お借りしていいですか?」
ここまで苦労して捜索を続け、夜遅くまで奔走した反動で心身共に疲弊していた私は、考えた末、持ち帰ることにした。
「どうぞ、お譲りしますので。今やそれは姉の遺品の一つです、知枝さんが持つべきでしょう」
「ありがとうございます、解読出来たら伝えますね」
快く承諾してくれる紀子さん。
私たちはここで話し終えると、この場で解散することにした。
私にはこの手記を解読するという宿題が残った。
一体この手記に何が書かれているのだろうか。序文からしても只事ではない真実が書かれていることは間違いない。私の知らない30年前の災厄の記録、祖母が伝えようとしても伝えられなかったこと。
――――もし、祖母がもう少し生きていれば。
あの序文を読んで、そのことを一番に考えた。
祖母は生前、いずれ自分の口で話すつもりだったのか。本当のところは分からないが、先ほど序文を読んでみて、これはいざという時のために保険として残していたもののように私には思えた。
「おばあちゃんってば……、随分大変な宿題を残されたものですね、私には荷が重いです」
託された戦利品を鞄に仕舞い、私は雨の止んだ校舎の外で一人苦笑しながら呟いた。二度と会うことの出来ない遠い場所に逝ってしまった祖母だが、今になって、私は思わぬ形で傍にいるような感覚を覚えた。
私の知っていること、知らないこと、魔法使いである私は多くの教えを得て、もう自分の中では普通の人では到底辿り着けない領域まで来ているつもりだった。
でも、まだ知らないこと、知らなければならないことが沢山ある。
だからだろうか、いくら連絡をこちらからしても”父が会ってくれない”のは。
ずっと、プリミエール経由でしか父の現在を知るすべがない日々が続いている。
私が隠された真実に辿り着くことで、会わなければならない必然に到達する。
もしかしたら、その時が父と再会する時で、ずっと前から私のことを待っているのかもしれない。
知らなければならないこと、真相に辿り着くための長い道のり。
そのことに途方もない想いを抱くと同時に、それらが人類が重ねてきた歴史の奥深さであると思えば、この探求は、人の業の深さを知る壮大な娯楽だと考えることも出来た。
だが、娯楽と思うには、あまりに過酷な未来が待っていることを想像すると、とても楽観的になれるものでもなかった。
「アリスの信託を受けて、魔女の力を祖母から継承して、一人後継者に選ばれ稗田家の人間として育てられ、今この凛翔学園を訪れて、私はこれからどこに向かっていくんだろう……」
先にある未来がまだはっきりとは見えない。それは当たり前のことかもしれないが、不安がずっと身体に染みついて離れない。
だが、これまでの日々が無駄ではなかったと思えるように、私は解読を進め、自分の生きる意味を探すことにした。
「14少女漂流記……、14人の少女と14日間の戦争……、おばあちゃんは、この街で一体何を見てきたの?」
私は月が輝く夜空を見上げて一人呟いた。
*
それから私は、プリミエールの手も借りて解読を続け、14少女漂流記という祖母の残した手記は地下書庫に隠された端末で映像アーカイブを鑑賞できる、全8巻に分かれた30年前に発生した厄災の記録であることを知った。
残りの手記は厄災に関係した人物に一冊ずつ託されていたようで、私はそれを追っていくこととなった。
そして、厄災の時に一体何があったのか、一冊ごとにその真相に近づいていき、続巻が手に入るのを待ちわびながら手記が新たに開かれるごとに、驚かされることとなった。
14少女漂流記という祖母が残した厄災の記録。それは壮大な人類の生き様を描いたもので、原因不明の災厄の中で人々が生き残る大変さを際限なく描き切ったものだった。
毎夜繰り返される死の連鎖
助けを求める人の願いに導かれるように、戦場へと向かう少女たち
見えない敵と、幾度となく続けられた死闘
原因究明に奔走する大人達
逃げることの叶わない監獄
一人、また一人と力尽きていく魔法使いとして覚醒を果たした少女達
終わりの見えない絶望を抱えたまま、世界から孤立し、分断された街で悲劇は幾度も繰り返された。
私は全8巻に及ぶこの手記を通じて、この世界に隠された真実を知っていくことになる。
*
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