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第十二話「想いの先へ」1
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(はぁ……、一日、考えてはみたものの、やっぱり話してみるしかないか)
浩二は授業の間も考えてはみたが、これといった解決策が浮かぶことはなく、何とか話し合って出たとこ勝負で説得してみるしかないと考えていた。
昨日の一件を踏まえて、放課後になって舞の姿を探した。
多くの生徒が下校していく中で舞の姿を探そうとするが、なかなか見つけられない。
「もう、帰っちまったかな……」
諦めようとしたその時、教室から先生と共に出てきた舞の姿を見かけた。どうやら先生に連れだされて別のところに行くようだ、もう放課後だというのに何の用事なのだろうか。
浩二は話しかけたくなる気持ちをぐっと堪えて、こっそりと後をつけることにした。
真剣な雰囲気を纏ったまま二人は職員室に入っていく。
(どうしようか……、いや、待つしかないか)
ピリピリとした緊張感でいっぱいだった浩二は、ここで変えるわけにもいかず舞が出てくるのを待つことにした。
(……しかし、何の呼び出しだろう。昨日の事と関係あるなんてこと、ないよな)
教師に連れて行かれるという不穏な状況。
心配しても仕方のないことだが、気になってしまう浩二。
舞と何を話せばいいのか、簡単に答えの出る問題ではないが、浩二は昨日、二人を見送った後に達也と唯花と話したことを思い出しながら作戦を考えることにした。
*
「騒動の原因が舞だなんて、また厄介かもな」
浩二はどうしたものかと考え込んだ。
「また、余計なお節介を焼くつもりか」
達也がいつものように口を開いた。
「放ってはおけないだろ」
「舞、最近頑張りすぎて、気が立ってるのかも」
浩二が解決策を考える中、舞のことをよく知る唯花が口を挟んだ。
「だが、向こうの家族内の事情だ、そう軽々しく口出しする問題ではないことだぞ」
「でも、このままって訳にもいかないはずだ」
「そうだね、力になってあげられるといいけど」
まだ状況を少しだけ知ることができたに過ぎないだけに、現状ですぐに解決策までは見えてこなかった。
「舞が留年したのって、やっぱり家族のためか?」
浩二が踏み込んで発言する。
ずっとファミリアでの様子を見てきた唯花はどこまで話せばいいのか迷ったが、舞が陰で頑張っていたことを話すことにした。
「うん、早く仕事を覚えようとして、随分自分を酷使していたから。店長はあんまり、無頓着ってわけじゃないけど、人のすることに指図はしない人だから、積極的に手伝ってくれているのを快く受けいれていたと思う」
「でも、学園は卒業するまでちゃんと通うんだよな? 今日も来てたわけだし」
「そう、思いたいけど、舞もあんまり周りが見えていないのかも」
あまり煮え切らない会話が続いて、答えが出そうにはなかった。
「いいよ、私の方で舞から話は聞いておくから。あんまり深刻にならないで」
「こういうのは、女同士の方がぶつからなくていいさ」
達也は唯花に同調して言った。
唯花は前向きに舞と接して解決に繋げようとしている。
浩二は、自分にも何か出来ることがないかと考えながら、一晩を過ごしたのだった。
*
(結局出たとこ勝負か……、でも、舞には気づかせてやらねぇと)
浩二はなんとか意思を固めて、舞が出てくるのを待った。
15分ほど待つと職員室のドアが開いて舞が出てきた。
「先輩……、どうしたんですか? まさか、あたしの事を待ってたんですか?」
「そうだよ」
「珍しいこともあったもんですね。でも、今はちょっと気が立ってるので近づかない方がいいですよ? 先輩といえども、堪えられなくて噛みついちゃうかも」
舞はあまり元気のない苦笑いを浮かべながら、浩二とは一定の距離を保った。
その様子は特別疲れている様子もないのだが、先生からお説教を受けたであろうことは想像できた。
(留年してれば仕方ないことだが……)
しかし、浩二には舞の心境が読めるわけではないので、どう接するべきなのかは見えてこなかった。
「なんだ、月1の日か?」
「はぁ……、相変わらず先輩はデリカシーの欠片もないですね。原因は全然違うことです。確かに、一応その日ですけど」
最後は小声になって、周りの目を気にしながら、付け加えて言った
「合ってたのかよ!」
「大声出さないでください!! もう……、行きますよ、付いてきたいなら勝手にしてください」
そう言った舞は恥ずかし気に速足になって先に歩いていく。
浩二は舞に放されないように、遅れて付いて行った。
校門を出て、そのまま二人並んで歩いていく。浩二はタイミングを計って話そうと様子を伺った。
「あたし、このままファミリアまで行きますけど、いいですか?」
「ああ」
舞の言葉に浩二は返事をして、そのまま付いて行く。
確かに舞は機嫌がいいとは言えず、なかなか話を切り出せない、そうこうしているうちに舞の方から口を開いた。
「いいですよ、話してくれて。そのためにわざわざ待ってたんでしょう? 先輩って変な人ですね」
「変な人は余計だよ」
「変な人ですよ、あたしなんて相手にしたってなにもいいことないですよ。って、もしかして、身体が目当てですか? そういうお誘いは時々ありますけど、ホントにノーサンキューなので」
「勝手に話を進めるな、お前に欲情なんてしねぇよ」
「それは、凄く失礼ですね」
「お前はどっちに話を転ばせたいんだよ……」
思い付きで言葉を繰り出してくる舞に浩二は呆れ顔だった。
いつもの調子ではあるが、時折そうではない一面も見せるので、会話を続けるのは複雑な心境だった。
「あんまり期待させちゃダメってことですよ、女の子はみんな乙女なんですから」
「本当かよ……」
「他の子は知らないですけどね」
「だからどっちだよ」
意味のないような問答を繰り返しながら、無言になることのないまま時は流れていく。
真剣な話をするために来たはずなのに、気付けば振り回されている気がする。浩二にはよく舞の心境は分からなかった。
「なぁ、俺のクラスに昨日、転校生が来たんだ」
「そうですか、それは良かったですね」
「あぁ、それが小柄で頭もよくて可愛くてだな」
「そうですか、それは良かったですね」
「聞けよ」
「聞いてますよ」
浩二が知枝の事を出した途端、感情的になって刺々しい態度へと変貌した舞。知枝と舞の確執を浩二はようやく実感のあるものとして感じ取った。
「そいつ、稗田さんは、お前と光と三つ子の姉弟なんだってな。初耳だったよ、今まで双子だって聞かされてたからな」
「そうですね、言ってなかったですから」
「どうしてだ?」
浩二の問い詰めるような言葉に舞の気持ちにヒビが入っていく。
それでも舞は自分の中から湧き出て来る憤りを言葉にした。
「―――それはもちろん、会う事なんてないと思ってましたから、それは光だって同じことのはずです」
「光は、あいつはずっと会える日を願っていたぞ、ただ、会える保証がないから言うのを今まで控えていただけで」
「同じですよ、いないと思った方が、ずっと楽じゃないですか? 今更三つ子だなんて言われたって、信じる方が辛いです」
これは根深い確執だなと、浩二はこの時強く感じた。
「一緒に喜んでやれなかったのか? 光と。せっかく生き別れの姉弟がいるって分かったのに」
「それは、無理ですよ。当然のことです、稗田家の人間なんですから」
「どうしてそこまで」
ただ三人が仲良くなれたらという自然な願望を持つ浩二は納得できなかった。
「先輩は知らないかもしれないですけど、稗田家はあたしと光の事を捨てたんですよ。信用なんて出来るわけないんですよ。
どうせ、また裏切られて、あたし達の両親が苦労をするだけなんです。それならいっそ、関わらない方がいいじゃないですか!」
「そんなの大人達の問題だろ、今更、そんなことで振り回されてどうするんだよ! 稗田さんは二人と会えるのをずっと楽しみに生きてきたんだから」
「あの女に洗脳でもされましたか? あの人の目的も何も先輩は知らないのに信用するなんて、思い上がりですよ。騙されないでください、先輩も、あの人に関わるといつか後悔しますよ」
舞の突き放すような言葉に浩二は言い返せなくなった。舞から見える稗田知枝という存在、それは浩二たちとはかけ離れているということだけは分かった。
どちらの言葉が真実で信用すればよいのか、実際のところ浩二にもそれは分からなかった。
「すみません、もう、行きますね、仕事の時間に間に合わなくなるので」
そう言って舞は話しを打ち切って、気づけば立ち止まっていたところから、また速足で歩きだした。
浩二は舞とは長い付き合いですぐに解決策は見えてくると、軽く見ていた。
だが、その願望が打ち崩された今の浩二にはこれ以上、舞を追いかけられるような心理状態ではなくなっていた。
舞が視界から消えていくのを、ただ黙っていて見ていることしか、浩二にはできなかった。
浩二は授業の間も考えてはみたが、これといった解決策が浮かぶことはなく、何とか話し合って出たとこ勝負で説得してみるしかないと考えていた。
昨日の一件を踏まえて、放課後になって舞の姿を探した。
多くの生徒が下校していく中で舞の姿を探そうとするが、なかなか見つけられない。
「もう、帰っちまったかな……」
諦めようとしたその時、教室から先生と共に出てきた舞の姿を見かけた。どうやら先生に連れだされて別のところに行くようだ、もう放課後だというのに何の用事なのだろうか。
浩二は話しかけたくなる気持ちをぐっと堪えて、こっそりと後をつけることにした。
真剣な雰囲気を纏ったまま二人は職員室に入っていく。
(どうしようか……、いや、待つしかないか)
ピリピリとした緊張感でいっぱいだった浩二は、ここで変えるわけにもいかず舞が出てくるのを待つことにした。
(……しかし、何の呼び出しだろう。昨日の事と関係あるなんてこと、ないよな)
教師に連れて行かれるという不穏な状況。
心配しても仕方のないことだが、気になってしまう浩二。
舞と何を話せばいいのか、簡単に答えの出る問題ではないが、浩二は昨日、二人を見送った後に達也と唯花と話したことを思い出しながら作戦を考えることにした。
*
「騒動の原因が舞だなんて、また厄介かもな」
浩二はどうしたものかと考え込んだ。
「また、余計なお節介を焼くつもりか」
達也がいつものように口を開いた。
「放ってはおけないだろ」
「舞、最近頑張りすぎて、気が立ってるのかも」
浩二が解決策を考える中、舞のことをよく知る唯花が口を挟んだ。
「だが、向こうの家族内の事情だ、そう軽々しく口出しする問題ではないことだぞ」
「でも、このままって訳にもいかないはずだ」
「そうだね、力になってあげられるといいけど」
まだ状況を少しだけ知ることができたに過ぎないだけに、現状ですぐに解決策までは見えてこなかった。
「舞が留年したのって、やっぱり家族のためか?」
浩二が踏み込んで発言する。
ずっとファミリアでの様子を見てきた唯花はどこまで話せばいいのか迷ったが、舞が陰で頑張っていたことを話すことにした。
「うん、早く仕事を覚えようとして、随分自分を酷使していたから。店長はあんまり、無頓着ってわけじゃないけど、人のすることに指図はしない人だから、積極的に手伝ってくれているのを快く受けいれていたと思う」
「でも、学園は卒業するまでちゃんと通うんだよな? 今日も来てたわけだし」
「そう、思いたいけど、舞もあんまり周りが見えていないのかも」
あまり煮え切らない会話が続いて、答えが出そうにはなかった。
「いいよ、私の方で舞から話は聞いておくから。あんまり深刻にならないで」
「こういうのは、女同士の方がぶつからなくていいさ」
達也は唯花に同調して言った。
唯花は前向きに舞と接して解決に繋げようとしている。
浩二は、自分にも何か出来ることがないかと考えながら、一晩を過ごしたのだった。
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(結局出たとこ勝負か……、でも、舞には気づかせてやらねぇと)
浩二はなんとか意思を固めて、舞が出てくるのを待った。
15分ほど待つと職員室のドアが開いて舞が出てきた。
「先輩……、どうしたんですか? まさか、あたしの事を待ってたんですか?」
「そうだよ」
「珍しいこともあったもんですね。でも、今はちょっと気が立ってるので近づかない方がいいですよ? 先輩といえども、堪えられなくて噛みついちゃうかも」
舞はあまり元気のない苦笑いを浮かべながら、浩二とは一定の距離を保った。
その様子は特別疲れている様子もないのだが、先生からお説教を受けたであろうことは想像できた。
(留年してれば仕方ないことだが……)
しかし、浩二には舞の心境が読めるわけではないので、どう接するべきなのかは見えてこなかった。
「なんだ、月1の日か?」
「はぁ……、相変わらず先輩はデリカシーの欠片もないですね。原因は全然違うことです。確かに、一応その日ですけど」
最後は小声になって、周りの目を気にしながら、付け加えて言った
「合ってたのかよ!」
「大声出さないでください!! もう……、行きますよ、付いてきたいなら勝手にしてください」
そう言った舞は恥ずかし気に速足になって先に歩いていく。
浩二は舞に放されないように、遅れて付いて行った。
校門を出て、そのまま二人並んで歩いていく。浩二はタイミングを計って話そうと様子を伺った。
「あたし、このままファミリアまで行きますけど、いいですか?」
「ああ」
舞の言葉に浩二は返事をして、そのまま付いて行く。
確かに舞は機嫌がいいとは言えず、なかなか話を切り出せない、そうこうしているうちに舞の方から口を開いた。
「いいですよ、話してくれて。そのためにわざわざ待ってたんでしょう? 先輩って変な人ですね」
「変な人は余計だよ」
「変な人ですよ、あたしなんて相手にしたってなにもいいことないですよ。って、もしかして、身体が目当てですか? そういうお誘いは時々ありますけど、ホントにノーサンキューなので」
「勝手に話を進めるな、お前に欲情なんてしねぇよ」
「それは、凄く失礼ですね」
「お前はどっちに話を転ばせたいんだよ……」
思い付きで言葉を繰り出してくる舞に浩二は呆れ顔だった。
いつもの調子ではあるが、時折そうではない一面も見せるので、会話を続けるのは複雑な心境だった。
「あんまり期待させちゃダメってことですよ、女の子はみんな乙女なんですから」
「本当かよ……」
「他の子は知らないですけどね」
「だからどっちだよ」
意味のないような問答を繰り返しながら、無言になることのないまま時は流れていく。
真剣な話をするために来たはずなのに、気付けば振り回されている気がする。浩二にはよく舞の心境は分からなかった。
「なぁ、俺のクラスに昨日、転校生が来たんだ」
「そうですか、それは良かったですね」
「あぁ、それが小柄で頭もよくて可愛くてだな」
「そうですか、それは良かったですね」
「聞けよ」
「聞いてますよ」
浩二が知枝の事を出した途端、感情的になって刺々しい態度へと変貌した舞。知枝と舞の確執を浩二はようやく実感のあるものとして感じ取った。
「そいつ、稗田さんは、お前と光と三つ子の姉弟なんだってな。初耳だったよ、今まで双子だって聞かされてたからな」
「そうですね、言ってなかったですから」
「どうしてだ?」
浩二の問い詰めるような言葉に舞の気持ちにヒビが入っていく。
それでも舞は自分の中から湧き出て来る憤りを言葉にした。
「―――それはもちろん、会う事なんてないと思ってましたから、それは光だって同じことのはずです」
「光は、あいつはずっと会える日を願っていたぞ、ただ、会える保証がないから言うのを今まで控えていただけで」
「同じですよ、いないと思った方が、ずっと楽じゃないですか? 今更三つ子だなんて言われたって、信じる方が辛いです」
これは根深い確執だなと、浩二はこの時強く感じた。
「一緒に喜んでやれなかったのか? 光と。せっかく生き別れの姉弟がいるって分かったのに」
「それは、無理ですよ。当然のことです、稗田家の人間なんですから」
「どうしてそこまで」
ただ三人が仲良くなれたらという自然な願望を持つ浩二は納得できなかった。
「先輩は知らないかもしれないですけど、稗田家はあたしと光の事を捨てたんですよ。信用なんて出来るわけないんですよ。
どうせ、また裏切られて、あたし達の両親が苦労をするだけなんです。それならいっそ、関わらない方がいいじゃないですか!」
「そんなの大人達の問題だろ、今更、そんなことで振り回されてどうするんだよ! 稗田さんは二人と会えるのをずっと楽しみに生きてきたんだから」
「あの女に洗脳でもされましたか? あの人の目的も何も先輩は知らないのに信用するなんて、思い上がりですよ。騙されないでください、先輩も、あの人に関わるといつか後悔しますよ」
舞の突き放すような言葉に浩二は言い返せなくなった。舞から見える稗田知枝という存在、それは浩二たちとはかけ離れているということだけは分かった。
どちらの言葉が真実で信用すればよいのか、実際のところ浩二にもそれは分からなかった。
「すみません、もう、行きますね、仕事の時間に間に合わなくなるので」
そう言って舞は話しを打ち切って、気づけば立ち止まっていたところから、また速足で歩きだした。
浩二は舞とは長い付き合いですぐに解決策は見えてくると、軽く見ていた。
だが、その願望が打ち崩された今の浩二にはこれ以上、舞を追いかけられるような心理状態ではなくなっていた。
舞が視界から消えていくのを、ただ黙っていて見ていることしか、浩二にはできなかった。
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