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最終話「好きという気持ち」3
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「実は私、ご両親の葬儀に参列していまして、浩二君と真奈ちゃんの姿を見ていたんです。
その日は祖母が出席する予定だったんですが、すでに病を患っているところでしたので祖母は来られなくて、私が代わりに出席したんです」
知枝は浩二に話したことを唯花にも話した。
知枝にとっては祖母のことの方が心配で気になっていたため出来る限り入院中の祖母の傍にいたかったが、祖母の強い要望であったために葬儀に出席することを断ることが出来なかった。
自分が祖母の代わりなどまだ早いと思っていた上に、病を患っている時に傍にいられないのも哀しかった。
知枝自身も祖母の死期が近いことを徐々に感じ取っていたから、本当のところはそれが気がかりで葬儀に参列することは非常に辛い頼まれごとだった。
「そう、稗田さんにも色々あったのね。
確かにニュースにもなってたから、思い出したわ、稗田さんのお婆様のこと。
もしかして、噂には聞いていたけど、あの火災事故が原因、きっかけだったのかしら?」
知枝の祖母、稗田黒江は市長や県知事にもなった大物政治家でもあったため、唯花も報道を通じてある程度の知識は元々あった。
黒江自身が政治の世界に入るきっかけは厄災の生き残りとして、厄災後の復興計画を早期に進めるためであり、多くの人が支持してくれたこともあったことで、国側もやむ負えない形で大きく舵を切って、円滑に復興を進めるきっかけともなった。
知事や市長となり、黒江自身や稗田家やその関係機関に権力が集中していき、彼女の政治的手腕があって早期の復興が為されたという評価はメディアの中でも一般的なものとして認識されていて、凛翔学園の理事を務める中での悲報は、大きな報道となった。
「そうですね、香港の劇場での大きな火災事故、多くの被害者を出した4年前の惨事に私の祖母、稗田黒江もその場にいました。
私が無事を知った時は安堵したものですが、病院で面会できた時はすでにかなり衰弱している様子で容体は良くないとすぐに分かりました。
しばらく安静にしていれば良くなるとお医者さんはおっしゃってはいましたが、ご存じの通り、そうはいかず、実際には良くなるどころか悪くなる一方で、火災事故の犠牲者に続く形でそのまま生涯を終えました」
唯花は気の毒そうな表情で、知枝の話を聞いた。
父が主導して知枝のいない中、手続きを進めたことで、知枝自身は祖母を看取ることも遺体を確認することも出来なかったことは知枝にとって人に言えない後悔である。
このことだけではなかったが、知枝の中でこの件も含めて父と上手に和解できないままでいる。
だが、いずれ真剣に向き合わなければならないことは知枝自身が勘として予見していた。
「そう、同じように稗田さんもお婆様を亡くして苦労してきたのね。
私も、実はあの火災事故の現場にいたのだけど、私だけ助かってしまって、複雑な気持ちなのよね」
淡々と過去にあったことを話す知枝に対して、その話しの流れに乗るように唯花も過去の記憶を思い出しながらそれに続いた。
「唯花さんもあの火災事故の被害者なんですか?
あの場で何があったのか、詳しいことは私も存じ上げていないのですが、大変でしたでしょう……?
驚きました、無事で何よりです……」
知枝にとっては驚くことばかりだった。
偶然にしては出来すぎているほど“4年前の火災事故”に関連した人と出会っている。
本当にこれは偶然なのか、知枝は信じられない気持ちだった。
(事故といっても不審な点は多いから、あまり触れたくない事だったけど、改めて調べる必要があるかな……)
祖母との永遠の別れにも繋がる火災事故であったので、感傷的になってしまい、ずっと本格的な調査に踏み込めないでいた。
報道されている通りの火災事故とはなかなか断定できない要因があると知枝は前々から考えていた。
何かしらの目的を持ったテロリストの犯行という可能性だって否定できない。それに知枝は祖母の容体も普通ではなかったと考えていた。
火災事故で亡くなるなら焼死体となるのが自然だが、祖母がそれほどの火傷をおった形跡はなく、魔法使い特有の魔力の過剰消費によるものだと知枝は考えていた。
知枝の脳内で生気を失った亡くなる前の祖母の姿が浮かびあがる。
(私を置いて逝ってしまった祖母、それが事故ではなく、人為的に引き起こされたことなら、私はそれを解明したい……、どれだけ時が経っていたとしても……)
人知れず知枝の中で強い意思が芽生えた。
その日は祖母が出席する予定だったんですが、すでに病を患っているところでしたので祖母は来られなくて、私が代わりに出席したんです」
知枝は浩二に話したことを唯花にも話した。
知枝にとっては祖母のことの方が心配で気になっていたため出来る限り入院中の祖母の傍にいたかったが、祖母の強い要望であったために葬儀に出席することを断ることが出来なかった。
自分が祖母の代わりなどまだ早いと思っていた上に、病を患っている時に傍にいられないのも哀しかった。
知枝自身も祖母の死期が近いことを徐々に感じ取っていたから、本当のところはそれが気がかりで葬儀に参列することは非常に辛い頼まれごとだった。
「そう、稗田さんにも色々あったのね。
確かにニュースにもなってたから、思い出したわ、稗田さんのお婆様のこと。
もしかして、噂には聞いていたけど、あの火災事故が原因、きっかけだったのかしら?」
知枝の祖母、稗田黒江は市長や県知事にもなった大物政治家でもあったため、唯花も報道を通じてある程度の知識は元々あった。
黒江自身が政治の世界に入るきっかけは厄災の生き残りとして、厄災後の復興計画を早期に進めるためであり、多くの人が支持してくれたこともあったことで、国側もやむ負えない形で大きく舵を切って、円滑に復興を進めるきっかけともなった。
知事や市長となり、黒江自身や稗田家やその関係機関に権力が集中していき、彼女の政治的手腕があって早期の復興が為されたという評価はメディアの中でも一般的なものとして認識されていて、凛翔学園の理事を務める中での悲報は、大きな報道となった。
「そうですね、香港の劇場での大きな火災事故、多くの被害者を出した4年前の惨事に私の祖母、稗田黒江もその場にいました。
私が無事を知った時は安堵したものですが、病院で面会できた時はすでにかなり衰弱している様子で容体は良くないとすぐに分かりました。
しばらく安静にしていれば良くなるとお医者さんはおっしゃってはいましたが、ご存じの通り、そうはいかず、実際には良くなるどころか悪くなる一方で、火災事故の犠牲者に続く形でそのまま生涯を終えました」
唯花は気の毒そうな表情で、知枝の話を聞いた。
父が主導して知枝のいない中、手続きを進めたことで、知枝自身は祖母を看取ることも遺体を確認することも出来なかったことは知枝にとって人に言えない後悔である。
このことだけではなかったが、知枝の中でこの件も含めて父と上手に和解できないままでいる。
だが、いずれ真剣に向き合わなければならないことは知枝自身が勘として予見していた。
「そう、同じように稗田さんもお婆様を亡くして苦労してきたのね。
私も、実はあの火災事故の現場にいたのだけど、私だけ助かってしまって、複雑な気持ちなのよね」
淡々と過去にあったことを話す知枝に対して、その話しの流れに乗るように唯花も過去の記憶を思い出しながらそれに続いた。
「唯花さんもあの火災事故の被害者なんですか?
あの場で何があったのか、詳しいことは私も存じ上げていないのですが、大変でしたでしょう……?
驚きました、無事で何よりです……」
知枝にとっては驚くことばかりだった。
偶然にしては出来すぎているほど“4年前の火災事故”に関連した人と出会っている。
本当にこれは偶然なのか、知枝は信じられない気持ちだった。
(事故といっても不審な点は多いから、あまり触れたくない事だったけど、改めて調べる必要があるかな……)
祖母との永遠の別れにも繋がる火災事故であったので、感傷的になってしまい、ずっと本格的な調査に踏み込めないでいた。
報道されている通りの火災事故とはなかなか断定できない要因があると知枝は前々から考えていた。
何かしらの目的を持ったテロリストの犯行という可能性だって否定できない。それに知枝は祖母の容体も普通ではなかったと考えていた。
火災事故で亡くなるなら焼死体となるのが自然だが、祖母がそれほどの火傷をおった形跡はなく、魔法使い特有の魔力の過剰消費によるものだと知枝は考えていた。
知枝の脳内で生気を失った亡くなる前の祖母の姿が浮かびあがる。
(私を置いて逝ってしまった祖母、それが事故ではなく、人為的に引き起こされたことなら、私はそれを解明したい……、どれだけ時が経っていたとしても……)
人知れず知枝の中で強い意思が芽生えた。
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