146 / 157
最終話「好きという気持ち」2
しおりを挟む
「唯花さんは、どうしてそこまで浩二君と真奈ちゃんに家族のように接することが出来るんですか?」
特別な環境で育ち、家族と接する機会が乏しかった知枝は質問した。
深層心理の中での興味は唯花が浩二や真奈をことをどう思っているのか、その本音の部分を知りたかったが、直球でそれを聞ける知枝ではなかった。
「どうして? 幼馴染なんだから、これくらい普通かなって思ってるけど、それじゃあ不足かな?」
唯花は知枝の問いに答えながら沸騰し始めた大きな鍋に炒めた野菜と鶏肉を投入し、慣れた手つきで次の段階に移行し、軽くオタマでかき混ぜていく。
無意識に生じた警戒心の表れか、唯花は知枝が浩二のことを“浩二君”と呼んでいるのを聞いて二人の関係が変わり始めている事、そして知枝が浩二のことを意識し始めていることを強く感じていた。
「すみまん、図々しい質問をしてしまって。唯花さんが優しいのは分かるんです。でも、それだけじゃ、ちょっとしっくりこなくて、失礼なことを言ってしまってすみません」
知枝は自分の中に芽生え始めている嫉妬心に気付かないまま、唯花の気持ちに無意識に踏み入っていく。
用意した具材がほとんど鍋の中に吸い込まれ煮込まれていく中、二人は会話を続けていく。
順調に調理は続き、まな板を洗う知枝とアクを抜きながら鍋をかき混ぜていく唯花、その頭の中には恋のライバル同士であるかのように、互いに今リビングで真奈と遊ぶ浩二のことが浮かび上がっているのだった。
「そうだね……、一つ理由を上げるとすれば、浩二はね、両親の葬儀の時に泣かなかったんだって。まだ小さかった真奈ちゃんを膝に抱えていたから。
妹のことを自分がこれからは守らないとって、そう思って、ぐっと泣くのを我慢していたんだろうって。
だからね、思ったの、私は自分に出来る精一杯で二人の力になってあげようって。
両親のいなくなってしまった二人が、幸せになれるように。
私はその時、まだ入院していて、傍にいてあげられなかったから。
浩二にばかり辛い思いをさせたくなかったの」
―――知枝は思った。唯花さんの言葉は本物だろう、はっきりとした口調でそれを思い出として言える唯花さんの気持ちは本物なんだと。
葬儀の場に知枝は一緒にいたけれど、知枝はこの時、そんなこと考えもしなかった。
祖母の代わりに参列しただけで、遠い親戚のことで今後関わり合いになることはないと思い、残された二人を見て可哀想だなと思ったくらいだった……。
あまりに大きな差を見せつけられた知枝は複雑な心境になった。
今、こうして二人と関わることになっていることを不思議な巡り合わせだと感じていた。
偶然にしてはあまりに出来過ぎてる。
知枝はこれを数奇な巡り合わせの中にあるのかもしれないとさえ思った。
「ありがとうございます。唯花さんの気持ちはよくわかりました」
知枝は少しでも唯花のことを知り、打ち解けられた気持ちになって感謝の言葉を伝えた。
でも、唯花だけが二人と特別な関係にあると知枝は思いたくはなかった。
だから、自分が葬儀に参列していたことを唯花に告げることにした。
特別な環境で育ち、家族と接する機会が乏しかった知枝は質問した。
深層心理の中での興味は唯花が浩二や真奈をことをどう思っているのか、その本音の部分を知りたかったが、直球でそれを聞ける知枝ではなかった。
「どうして? 幼馴染なんだから、これくらい普通かなって思ってるけど、それじゃあ不足かな?」
唯花は知枝の問いに答えながら沸騰し始めた大きな鍋に炒めた野菜と鶏肉を投入し、慣れた手つきで次の段階に移行し、軽くオタマでかき混ぜていく。
無意識に生じた警戒心の表れか、唯花は知枝が浩二のことを“浩二君”と呼んでいるのを聞いて二人の関係が変わり始めている事、そして知枝が浩二のことを意識し始めていることを強く感じていた。
「すみまん、図々しい質問をしてしまって。唯花さんが優しいのは分かるんです。でも、それだけじゃ、ちょっとしっくりこなくて、失礼なことを言ってしまってすみません」
知枝は自分の中に芽生え始めている嫉妬心に気付かないまま、唯花の気持ちに無意識に踏み入っていく。
用意した具材がほとんど鍋の中に吸い込まれ煮込まれていく中、二人は会話を続けていく。
順調に調理は続き、まな板を洗う知枝とアクを抜きながら鍋をかき混ぜていく唯花、その頭の中には恋のライバル同士であるかのように、互いに今リビングで真奈と遊ぶ浩二のことが浮かび上がっているのだった。
「そうだね……、一つ理由を上げるとすれば、浩二はね、両親の葬儀の時に泣かなかったんだって。まだ小さかった真奈ちゃんを膝に抱えていたから。
妹のことを自分がこれからは守らないとって、そう思って、ぐっと泣くのを我慢していたんだろうって。
だからね、思ったの、私は自分に出来る精一杯で二人の力になってあげようって。
両親のいなくなってしまった二人が、幸せになれるように。
私はその時、まだ入院していて、傍にいてあげられなかったから。
浩二にばかり辛い思いをさせたくなかったの」
―――知枝は思った。唯花さんの言葉は本物だろう、はっきりとした口調でそれを思い出として言える唯花さんの気持ちは本物なんだと。
葬儀の場に知枝は一緒にいたけれど、知枝はこの時、そんなこと考えもしなかった。
祖母の代わりに参列しただけで、遠い親戚のことで今後関わり合いになることはないと思い、残された二人を見て可哀想だなと思ったくらいだった……。
あまりに大きな差を見せつけられた知枝は複雑な心境になった。
今、こうして二人と関わることになっていることを不思議な巡り合わせだと感じていた。
偶然にしてはあまりに出来過ぎてる。
知枝はこれを数奇な巡り合わせの中にあるのかもしれないとさえ思った。
「ありがとうございます。唯花さんの気持ちはよくわかりました」
知枝は少しでも唯花のことを知り、打ち解けられた気持ちになって感謝の言葉を伝えた。
でも、唯花だけが二人と特別な関係にあると知枝は思いたくはなかった。
だから、自分が葬儀に参列していたことを唯花に告げることにした。
0
お気に入りに追加
3
あなたにおすすめの小説
片翼天使の序奏曲 ~その手の向こうに、君の声
さくら/黒桜
ライト文芸
楽器マニアで「演奏してみた」曲を作るのが好きな少年、相羽勝行。
転入早々、金髪にピアス姿の派手なピアノ少年に出くわす。友だちになりたくて近づくも「友だちなんていらねえ、欲しいのは金だ」と言われて勝行は……。
「じゃあ買うよ、いくら?」
ド貧乏の訳ありヤンキー少年と、転校生のお金持ち優等生。
真逆の二人が共通の趣味・音楽を通じて運命の出会いを果たす。
これはシリーズの主人公・光と勝行が初めて出会い、ロックバンド「WINGS」を結成するまでの物語。中学生編です。
※勝行視点が基本ですが、たまに光視点(光side)が入ります。
※シリーズ本編もあります。作品一覧からどうぞ
飛べない少年と窓辺の歌姫
紫音
ライト文芸
児童養護施設で育った男子高校生・烏丸翔は、悪友に誘われるがまま動画配信のために危険な度胸試しを繰り返していた。下手をすればいつ死んでもおかしくないという危機感を覚える中、不注意から足を負傷した彼は入院先の病院で一人の少女と出会う。病に冒され、自らの死期を悟りながらも自分らしさを貫く少女の生き様に、烏丸は惹かれていく。
フレンドコード▼陰キャなゲーマーだけど、リア充したい
さくら/黒桜
ライト文芸
高校デビューしたら趣味のあう友人を作りたい。ところが新型ウイルス騒ぎで新生活をぶち壊しにされた、拗らせ陰キャのゲームオタク・圭太。
念願かなってゲーム友だちはできたものの、通学電車でしか会わず、名前もクラスも知らない。
なぜかクラスで一番の人気者・滝沢が絡んできたり、取り巻きにねたまれたり、ネッ友の女子に気に入られたり。この世界は理不尽だらけ。
乗り切るために必要なのは――本物の「フレンド」。
令和のマスク社会で生きる高校生たちの、フィルターがかった友情と恋。
※別サイトにある同タイトル作とは展開が異なる改稿版です。
※恋愛話は異性愛・同性愛ごちゃまぜ。青春ラブコメ風味。
※表紙をまんが同人誌版に変更しました。ついでにタイトルも同人誌とあわせました!
言の葉縛り
紀乃鈴
ライト文芸
言葉を失った「ぼく」と幼馴染の遥。
小学六年生の二人はいつも通り千代崎賢人――通称おじさんの家で遊んだ後、帰路に就く。
そこで二人は少女が誘拐される現場を目撃する。
報告するも大人たちの頼りにならない対応に、二人は自分たちでこの事件を追いかけようと決心する。
【完結】幼馴染に婚約破棄されたので、別の人と結婚することにしました
鹿乃目めの
恋愛
セヴィリエ伯爵令嬢クララは、幼馴染であるノランサス伯爵子息アランと婚約していたが、アランの女遊びに悩まされてきた。
ある日、アランの浮気相手から「アランは私と結婚したいと言っている」と言われ、アランからの手紙を渡される。そこには婚約を破棄すると書かれていた。
失意のクララは、国一番の変わり者と言われているドラヴァレン辺境伯ロイドからの求婚を受けることにした。
主人公が本当の愛を手に入れる話。
独自設定のファンタジーです。実際の歴史や常識とは異なります。
さくっと読める短編です。
※完結しました。ありがとうございました。
閲覧・いいね・お気に入り・感想などありがとうございます。
(次作執筆に集中するため、現在感想の受付は停止しております。感想を下さった方々、ありがとうございました)
特殊装甲隊 ダグフェロン 『特殊な部隊』始まる!
橋本 直
ライト文芸
青年は出会いを通じて真の『男』へと成長する
『特殊な部隊』への配属を運命づけられた青年の驚きと葛藤の物語
登場人物
気弱で胃弱で大柄左利きの主人公 愛銃:グロックG44
見た目と年齢が一致しない『ずるい大人の代表』の隊長 愛銃:VZ52
『偉大なる中佐殿』と呼ばれるかっこかわいい『体育会系無敵幼女』 愛銃:PSMピストル
明らかに主人公を『支配』しようとする邪悪な『女王様』な女サイボーグ 愛銃:スプリングフィールドXDM40
『パチンコ依存症』な美しい小隊長 愛銃:アストラM903【モーゼルM712のスペイン製コピー】
でかい糸目の『女芸人』の艦長 愛銃:H&K P7M13
『伝説の馬鹿なヤンキー』の整備班長 愛する武器:釘バット
理系脳の多趣味で気弱な若者が、どう考えても罠としか思えない課程を経てパイロットをさせられた。
そんな彼の配属されたのは司法局と呼ばれる武装警察風味の『特殊な部隊』だった
しかも、そこにこれまで配属になった5人の先輩はすべて一週間で尻尾を撒いて逃げ帰ったという
そんな『濃い』部隊で主人公は生き延びることができるか?
SFドタバタコメディーアクション
【完結】私を虐げる姉が今の婚約者はいらないと押し付けてきましたが、とても優しい殿方で幸せです 〜それはそれとして、家族に復讐はします〜
ゆうき@初書籍化作品発売中
恋愛
侯爵家の令嬢であるシエルは、愛人との間に生まれたせいで、父や義母、異母姉妹から酷い仕打ちをされる生活を送っていた。
そんなシエルには婚約者がいた。まるで本物の兄のように仲良くしていたが、ある日突然彼は亡くなってしまった。
悲しみに暮れるシエル。そこに姉のアイシャがやってきて、とんでもない発言をした。
「ワタクシ、とある殿方と真実の愛に目覚めましたの。だから、今ワタクシが婚約している殿方との結婚を、あなたに代わりに受けさせてあげますわ」
こうしてシエルは、必死の抗議も虚しく、身勝手な理由で、新しい婚約者の元に向かうこととなった……横暴で散々虐げてきた家族に、復讐を誓いながら。
新しい婚約者は、社交界でとても恐れられている相手。うまくやっていけるのかと不安に思っていたが、なぜかとても溺愛されはじめて……!?
⭐︎全三十九話、すでに完結まで予約投稿済みです。11/12 HOTランキング一位ありがとうございます!⭐︎
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる