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最終話「好きという気持ち」2

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「唯花さんは、どうしてそこまで浩二君と真奈ちゃんに家族のように接することが出来るんですか?」

 特別な環境で育ち、家族と接する機会が乏しかった知枝は質問した。
 深層心理の中での興味は唯花が浩二や真奈をことをどう思っているのか、その本音の部分を知りたかったが、直球でそれを聞ける知枝ではなかった。

「どうして? 幼馴染なんだから、これくらい普通かなって思ってるけど、それじゃあ不足かな?」

 唯花は知枝の問いに答えながら沸騰し始めた大きな鍋に炒めた野菜と鶏肉を投入し、慣れた手つきで次の段階に移行し、軽くオタマでかき混ぜていく。

 無意識に生じた警戒心の表れか、唯花は知枝が浩二のことを“浩二君”と呼んでいるのを聞いて二人の関係が変わり始めている事、そして


「すみまん、図々しい質問をしてしまって。唯花さんが優しいのは分かるんです。でも、それだけじゃ、ちょっとしっくりこなくて、失礼なことを言ってしまってすみません」


 知枝は自分の中に芽生え始めている嫉妬心に気付かないまま、唯花の気持ちに無意識に踏み入っていく。

 用意した具材がほとんど鍋の中に吸い込まれ煮込まれていく中、二人は会話を続けていく。
 順調に調理は続き、まな板を洗う知枝とアクを抜きながら鍋をかき混ぜていく唯花、その頭の中には恋のライバル同士であるかのように、互いに今リビングで真奈と遊ぶ浩二のことが浮かび上がっているのだった。


「そうだね……、一つ理由を上げるとすれば、浩二はね、両親の葬儀の時に泣かなかったんだって。まだ小さかった真奈ちゃんを膝に抱えていたから。
 妹のことを自分がこれからは守らないとって、そう思って、ぐっと泣くのを我慢していたんだろうって。

 だからね、思ったの、私は自分に出来る精一杯で二人の力になってあげようって。

 両親のいなくなってしまった二人が、幸せになれるように。
 
 私はその時、まだ入院していて、傍にいてあげられなかったから。
 浩二にばかり辛い思いをさせたくなかったの」

 
 ―――知枝は思った。唯花さんの言葉は本物だろう、はっきりとした口調でそれを思い出として言える唯花さんの気持ちは本物なんだと。


 葬儀の場に知枝は一緒にいたけれど、知枝はこの時、そんなこと考えもしなかった。

 祖母の代わりに参列しただけで、遠い親戚のことで今後関わり合いになることはないと思い、残された二人を見て可哀想だなと思ったくらいだった……。

 あまりに大きな差を見せつけられた知枝は複雑な心境になった。
 今、こうして二人と関わることになっていることを不思議な巡り合わせだと感じていた。

 偶然にしてはあまりに出来過ぎてる。
 知枝はこれを数奇な巡り合わせの中にあるのかもしれないとさえ思った。


「ありがとうございます。唯花さんの気持ちはよくわかりました」


 知枝は少しでも唯花のことを知り、打ち解けられた気持ちになって感謝の言葉を伝えた。
 でも、唯花だけが二人と特別な関係にあると知枝は思いたくはなかった。

 だから、自分が葬儀に参列していたことを唯花に告げることにした。
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