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最終話「好きという気持ち」1
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合同演劇発表会から数日後、稗田知枝は久々に樋坂家に訪問しに来ていた。
水原光と水原舞は用事があるようで、一人訪れた知枝は昼食の準備をする永弥音唯花のお手伝いをすることになった。
台所で二人が料理をする一方、リビングの方ではソファーに座った樋坂真奈と樋坂浩二が対戦アクションゲームで熱戦を繰り広げていた。
「おにぃ!! ミサイルばっかりズルいのですよ!! オトコならせーせーどーどーと向かってこいなのですよ!!」
「勝てばいいんだよ、勝てばっ!!」
遠距離攻撃で翻弄する浩二の攻撃手段に真奈はプンプンと不満げに不平を漏らすが、浩二は上機嫌に真奈の操作する自機を追い詰めていく。
「うー!! また負けた~~!! 次はマナが勝つのです!!」
何度負けても再戦を求める真奈に浩二は快く応えて、次の対戦が間髪入れずに始まる。
「浩二君は優しいんですね」
知枝は二人が大きな声を出しながらゲームに熱中する姿を見ながら隣に立つ唯花に言った。
「そう見える?」
唯花にとってはいつも通りの見慣れた光景であったが、知枝には仲睦まじい様子に見えた。唯花から見ればもうちょっと手を抜いたり、実力に差の出ないようなゲームを選んだ方がいいのではと日頃思っていた。
「私はずっと周りが大人ばかりの環境の中で育ってきたので、小さい子と遊んであげるような機会もなかったですから」
「そういうことって自分で環境を選ぶのは難しいから、苦労は人それぞれよね。浩二が特別というわけではないのよ、きっと。みんな、各々の事情がある中でこれまで生きて来たと思うから」
「そうですね、ずっと変わらず二人が仲良くしているのはいい関係だと思います。
家族を大切にするのは、お互いを思いやる気持ちがあってこそですから」
「そうね、私は平凡な家庭で育ったから、ちょっと反抗期でもやって刺激的なことがあった方が面白いかもって思ったけど、二人を見ていると、そんなこと言うのは贅沢なことだってわかったから」
唯花は自分が恵まれていると自覚していた。
アルバイトにしてもアイドル活動にしても両親ともに反対されたことがなかった。
年頃の自分にそれだけの自由を許してくれるのは、ちゃんと信頼してくれている証拠なのだと感謝しなければならないと思っている。
自由であるからこそ、後悔しないよう自分で考えて何をどうすべきか導き出して行動する。
未熟な内は難しいけど、そうして人は成長していくのだろうと唯花は考えている。
会話をしながらも手際よく野菜を包丁で切っていきボウルの中に入れていく唯花。
知枝は野菜を洗いながら、エプロン姿の唯花のことを羨ましく思ってみていた。
それは、話しの中で不自由ない家庭で育ったということではなく、自分よりも身長が高くてスタイルが良いことで、エプロン姿も実によく似合っていることだった。
(やっぱり唯花さんのような家庭的な女性の方がいいのかな……)
料理をそつなくこなす唯花のことを見ていると知枝はついそんなことを考えてしまう。
特段、モテたいという欲があるわけでもないが、知枝には唯花が魅力的な女性に見えて羨望の眼差しで見ていた。
「それじゃあ、そろそろ野菜炒めていこっか」
そんな知枝の心情も露知らず野菜を切り終えた唯花は、次の段階に進もうと知枝に話しかけた。
「私はどうすればいいですか?」
全く料理が出来ないという訳でないが、唯花と比べれば手際よく料理できない料理初心者である知枝は唯花に聞いた。
チキンカレーを料理するとは聞いてはいたが、調理の進行自体は唯花に任せっきりだった。
「じゃあ、冷蔵庫から鶏肉を出しておいてもらえる?」
「はい、わかりました」
知枝は大人しく唯花の指示に従い、冷蔵庫から骨付きの鶏肉を見つけて取り出して台所に置く。見るからに食べ応えがありそうで、「浩二君や真奈ちゃんも喜んでくれるだろう」と知枝は思った。
鼻歌を時々口ずさみながら、涼しげな様子で油をひいて野菜を炒めていく唯花の姿を横目に見る。
「(……唯花さんは、やっぱり浩二君のことを)」
何度となく反芻してきたことが、頭の中で邪推のように流れる。
最近はつい余計な事ばかり考えてしまう、何でこんなことを不安に思うのだろう。
知枝は自分の心の変化に自分でもよく分からない状況にあった。
水原光と水原舞は用事があるようで、一人訪れた知枝は昼食の準備をする永弥音唯花のお手伝いをすることになった。
台所で二人が料理をする一方、リビングの方ではソファーに座った樋坂真奈と樋坂浩二が対戦アクションゲームで熱戦を繰り広げていた。
「おにぃ!! ミサイルばっかりズルいのですよ!! オトコならせーせーどーどーと向かってこいなのですよ!!」
「勝てばいいんだよ、勝てばっ!!」
遠距離攻撃で翻弄する浩二の攻撃手段に真奈はプンプンと不満げに不平を漏らすが、浩二は上機嫌に真奈の操作する自機を追い詰めていく。
「うー!! また負けた~~!! 次はマナが勝つのです!!」
何度負けても再戦を求める真奈に浩二は快く応えて、次の対戦が間髪入れずに始まる。
「浩二君は優しいんですね」
知枝は二人が大きな声を出しながらゲームに熱中する姿を見ながら隣に立つ唯花に言った。
「そう見える?」
唯花にとってはいつも通りの見慣れた光景であったが、知枝には仲睦まじい様子に見えた。唯花から見ればもうちょっと手を抜いたり、実力に差の出ないようなゲームを選んだ方がいいのではと日頃思っていた。
「私はずっと周りが大人ばかりの環境の中で育ってきたので、小さい子と遊んであげるような機会もなかったですから」
「そういうことって自分で環境を選ぶのは難しいから、苦労は人それぞれよね。浩二が特別というわけではないのよ、きっと。みんな、各々の事情がある中でこれまで生きて来たと思うから」
「そうですね、ずっと変わらず二人が仲良くしているのはいい関係だと思います。
家族を大切にするのは、お互いを思いやる気持ちがあってこそですから」
「そうね、私は平凡な家庭で育ったから、ちょっと反抗期でもやって刺激的なことがあった方が面白いかもって思ったけど、二人を見ていると、そんなこと言うのは贅沢なことだってわかったから」
唯花は自分が恵まれていると自覚していた。
アルバイトにしてもアイドル活動にしても両親ともに反対されたことがなかった。
年頃の自分にそれだけの自由を許してくれるのは、ちゃんと信頼してくれている証拠なのだと感謝しなければならないと思っている。
自由であるからこそ、後悔しないよう自分で考えて何をどうすべきか導き出して行動する。
未熟な内は難しいけど、そうして人は成長していくのだろうと唯花は考えている。
会話をしながらも手際よく野菜を包丁で切っていきボウルの中に入れていく唯花。
知枝は野菜を洗いながら、エプロン姿の唯花のことを羨ましく思ってみていた。
それは、話しの中で不自由ない家庭で育ったということではなく、自分よりも身長が高くてスタイルが良いことで、エプロン姿も実によく似合っていることだった。
(やっぱり唯花さんのような家庭的な女性の方がいいのかな……)
料理をそつなくこなす唯花のことを見ていると知枝はついそんなことを考えてしまう。
特段、モテたいという欲があるわけでもないが、知枝には唯花が魅力的な女性に見えて羨望の眼差しで見ていた。
「それじゃあ、そろそろ野菜炒めていこっか」
そんな知枝の心情も露知らず野菜を切り終えた唯花は、次の段階に進もうと知枝に話しかけた。
「私はどうすればいいですか?」
全く料理が出来ないという訳でないが、唯花と比べれば手際よく料理できない料理初心者である知枝は唯花に聞いた。
チキンカレーを料理するとは聞いてはいたが、調理の進行自体は唯花に任せっきりだった。
「じゃあ、冷蔵庫から鶏肉を出しておいてもらえる?」
「はい、わかりました」
知枝は大人しく唯花の指示に従い、冷蔵庫から骨付きの鶏肉を見つけて取り出して台所に置く。見るからに食べ応えがありそうで、「浩二君や真奈ちゃんも喜んでくれるだろう」と知枝は思った。
鼻歌を時々口ずさみながら、涼しげな様子で油をひいて野菜を炒めていく唯花の姿を横目に見る。
「(……唯花さんは、やっぱり浩二君のことを)」
何度となく反芻してきたことが、頭の中で邪推のように流れる。
最近はつい余計な事ばかり考えてしまう、何でこんなことを不安に思うのだろう。
知枝は自分の心の変化に自分でもよく分からない状況にあった。
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