魔法使いと繋がる世界EP2~震災のピアニスト~

shiori

文字の大きさ
上 下
128 / 157

第二十四話「死地を駆け抜けて」2

しおりを挟む
「あらあら、もう終わってしまいましたかっ!」

 
 そこに空気を読まない陽気なテンションでさらに登場したのは金色の髪を優雅に揺らすプリミエールだった。
 騒々しいのがようやく収まったと思えた中、唐突に現れたプリミエール。
 どういう訳か、今日は西洋風な気分なのかメイド服を着用してツインテールに髪を結んでいた。

「プリミエール!! もう遅いわよ!!」

 いつもタイミングが悪いと知枝は心の中で憤慨した。
 本来拘束されていた自分を助けに来てくれる予定だったプリミエールが来たことで安堵した知枝は緊張から抜け出し、ようやくいつもの調子で名前を呼んだ。

「スナイパーを先に撃退していましたので、遅れてしまいましたー!」

 照れ隠しするような軽い口調で言い放ち、物騒なことを言ってのけるプリミエール。外見に似合わず戦闘力は高く、ボディーガードとしても優秀な人材であることで知られている。
 呆れてしまうほどに非常識だが、それは過去の記憶から知枝にとっては慣れてしまっていることだった。

「もう、あなたってば……」
「ふふふっ、お嬢様、ご無事で何よりです!」

 自慢気な様子で意気揚々と言葉を繋いで、平然と明るい笑顔で言うプリミエール。その変わらない姿に、これまでどれだけ自分がプリミエールに頼ってきたか改めて気付かされ、瞳の奥から涙が滲んでしまった。


「ふっ、少しはいつもの様子に戻ったか……。そろそろ調子が戻ってもらわなければ、演技にも響くからな。この騒ぎの収拾もついたのだから、早々にここから引き上げて、会場に急いでくれるか? パートナーのいない演劇に立つほど、俺も暇ではないのでな」


 研二は不愛想にいつものキザな言い回しで知枝に会場へ急ぐように言った。
 そんな研二の癇に障る言葉に知枝は頭に血が上り、研二の方に鋭い視線を移した。


「―――でも、舞が撃たれてケガしてるままなのよ!!!」


 知枝は確かに今すぐにでも会場まで行って舞台に立ちたかったが、目の前で血を流し苦しむ舞の事を放っていくことは出来なかった。

 そんな知枝の言葉を聞いて、安心させるために舞は力を込めて身体を起こした。


「知枝、あたしの事はいいから、今は舞台に立って!」


 心配する知枝の様子を見て、舞は歯を食いしばって必死に痛みに耐えながら知枝を見て訴えかけた。

「でも!! 舞を置いていけないよ!! 私のせいで、こんな怪我をしてるのにっっ!!」

 舞の様子はあまりに悲痛で、必死に激痛を堪えているのが分かる知枝には、この状況で立ち去るのは酷な選択だった。

 だが、舞にだって貫きたい強い想いはある。こんな形で知枝のこれまでの頑張りを無駄にさせる舞ではなかった。


「違うわ、あたしがここまで来ることを選んだのよ。

 光や知枝が一緒の舞台に立って、演劇ができることがあたしの一番の願いだから。

 だから聞いて、あたしのことは気にせず知枝は舞台に立って。そして最後までやり遂げて! 

 今日という大切な日は二度はないの……、今日まで練習してきたことが無駄にならないように、精一杯やり遂げて!! 

 それがあたしの一番の望みだから……っっ!!!」


 それは家族として共に今日まで過ごしてきたからこそ出た言葉だった。
 舞は知枝が欠かすことなく頑張る姿を毎日見てきた。一度しかないかもしれない今日の舞台に立つこと、それはもう知枝だけの願いではない、それを舞は心を込めて伝えたかった。

「お嬢様、どうぞここはわてぃしにお任せください。
 言葉通り、舞様の想いに応えることが、お嬢様の今すべきことです。
 お嬢様が舞台に立てるように、舞様の介抱はわてぃしが丁重にしっかりさせていただきます。
 だから、ここは迷わずにわてぃしにお任せして、御心のままに行ってください。
 皆様が、お嬢様の到着を待っていますですよ」

 再会したばかりの姉弟の絆に心打たれたプリミエールにすでに迷いはなかった。
 部外者であったプリミエールまでも、この中止されるかもしれない危機に瀕した舞台演劇を応援する気持ちでいっぱいだった。

「プリミエール……」

 プリミエールの言葉が染み渡り、決意を固めた知枝はしっかりと頷いて、瞳に輝きを取り戻した。

 こうしてそれぞれの想いが一つの願いへと繋がっていき、会場へと向かう意思は確かなものに変わった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

”小説”震災のピアニスト

shiori
恋愛
これは想い合う二人が再会を果たし、ピアノコンクールの舞台を目指し立ち上がっていく、この世界でただ一つの愛の物語です (作品紹介) ピアニスト×震災×ラブロマンス ”全てはあの日から始まったのだ。彼女の奏でるパッヘルベルのカノンの音色に引き寄せられるように出会った、あの日から” 高校生の若きピアニストである”佐藤隆之介”(さとうりゅうのすけ)と”四方晶子”(しほうあきこ)の二人を中心に描かれる切なくも繊細なラブストーリーです! 二人に巻き起こる”出会い”と”再会”と”別離” 震災の後遺症で声の出せなくなった四方晶子を支えようする佐藤隆之介 再会を経て、交流を深める二人は、ピアノコンクールの舞台へと向かっていく 一つ一つのエピソードに想いを込めた、小説として生まれ変わった”震災のピアニスト”の世界をお楽しみください! *本作品は魔法使いと繋がる世界にて、劇中劇として紡がれた脚本を基に小説として大幅に加筆した形で再構成した現代小説です。 表紙イラスト:mia様

今日はパンティー日和♡

ピュア
ライト文芸
いろんなシュチュエーションのパンチラやパンモロが楽しめる短編集✨ おまけではパンティー評論家となった世界線の崇道鳴志(*聖女戦士ピュアレディーに登場するキャラ)による、今日のパンティーのコーナーもあるよ💕

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

日給二万円の週末魔法少女 ~夏木聖那と三人の少女~

海獺屋ぼの
ライト文芸
ある日、女子校に通う夏木聖那は『魔法少女募集』という奇妙な求人広告を見つけた。 そして彼女はその求人の日当二万円という金額に目がくらんで週末限定の『魔法少女』をすることを決意する。 そんな普通の女子高生が魔法少女のアルバイトを通して大人へと成長していく物語。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

処理中です...